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第一章
27−3 調味料
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ガラス瓶は十ドレした。ガラスは高額のようだ。それでも、ガラス瓶に蓋付きはありがたい。お金はできるだけ使わないようにと言いながら、しっかり使ってしまった。生姜は余計だっただろうか。だが、あると肉の匂い消しにもなるし、味付けにもなる。
サフランは高いのでやめた。そこまで自分の料理に使わない。麦が手に入ったので、サフランは使えるが、生姜があるので必要ない。あとは酢か、醤油があれば完璧なのだが。醤油はさすがに売っていなそうだ。
母親が醤油の自作キットを購入して醤油を作ったことがあったが、キットの中にこうじ菌が含まれていた。あれを真似するのは無理だ。大豆はなにかの豆を使えば良いかもしれないが、菌はどうしようもない。昔の人は、どこから菌を得たのだろう。
「う、重い」
さすがに買いすぎたか。だが、まだ樽を買う気だ。樽も背負えば、持って帰れるだろうか。帰り道のアップダウンが憎い。
フェルナンの馬に乗った時は大した距離ではなかったが、鳥を運ぶ時は遠く感じた。朝荷物なしで歩く分には、良い散歩コースくらい思っていたが。
「麦、小麦、塩で約三キログラム。大丈夫よ。米五キロ買ったわけじゃないんだから」
木材も入れれば結構な重さになっているはずだ。考えて、心の中で首を振る。桶は必要なのだ。数日も皮を放置できない。せっかく塩も手に入ったのだから、あの皮をなんとかしたい。リトリトの皮も、まだ加工途中だ。生臭さもあるので、塩に漬けたい。
「あれ、道どっちだっけ?」
行きと帰りでは景色が違うので、道がわからなくなってきた。いくらか坂道になってきて、明らかに違う道に入ったのがわかる。数段の階段が細い路地にあり、上りになっているのだ。周囲の建物が迫ってきそうなほど狭い道。ガラの悪そうな人も見えるので、すぐに迂回する。
この荷物で走れるか。走りにくい石畳を、ガラス瓶が擦れる音を聞きながら走り抜け、木々が植わった大通りまで出た。
後ろから人が追ってきていたが、大通りに出たおかげか、すぐに戻っていく。
「変なのいるんだ。気を付けないと」
大通りに出たはいいが、知らない道だ。石畳は今まで灰色だったが、ところどころに青色が入る。綺麗に飾られているわけではないので、青い石がとれるのだろう。つい地面をいじる。
「チョークになりそうな石だな」
石板でもあれば、この青で文字が書けるだろう。
川では見かけていないが、山際で採れる石なのだろうか。
座り込んで石に触れていたら、道ゆく人が変な人を見る目で玲那を見ていく。さすがに恥ずかしいので立ち上がると、目の前にガロガの腹があった。
「わあっ!」
「なにをやってるんだ。あんた」
「フェルナンさん! こんにちは。お出かけですか?」
聞いて気付く。足元がやけに汚く、疲労した顔をしていた。気のせいかな、お肌の艶も良くない。もしかして、遠くに行くという仕事が終わって帰ってきたのだろうか。
「今日は、荷物を取りにきたのか。その割に、大荷物だな」
問いは無視されて、背負っているトートバッグと木材を見遣る。今日が約束の日だったことを覚えていたようで、ついでに買い物に来たと答えたら、小さくため息をつかれた。
「なんで座り込んでいたんだ」
「石が綺麗だったので、どこで採れる石なのかなって、触ってました」
「はあ……」
大きなため息は、遠慮なく吐かれる。余計なことを聞いたとでも言わんばかりに、フェルナンはそのままガロガの腹を軽く蹴った。
「さっさと帰れ」
「はーい。お疲れ様でーす」
疲労している人を、これ以上疲労させてはならない。元気に返事をして見送ろうとすると、近くで怒鳴り声が聞こえた。
「出ていけ! 二度と来るな!」
「待ってください。それは、最初から私の、」
「うるさい!」
店から出てきた男性が、階段上から女性を押した。女性は足を滑らして、数段下の地面に転げ落ちた。
「大丈夫ですか!?」
玲那が駆け寄れば、店の男は鼻息を出し勢いよく扉を閉めた。
女性を転がしておいて、気にせず扉を閉めるとは、最悪な男である。
「いた……」
「ひどいですね。あんな風に突き落とすなんて。怪我はないですか?」
「だ、だいじょうぶです。あ、も。申し訳ありません。助けていただいて、ありがとうございます!」
顔を上げるなり、女性はびくりと肩を上げた。途端、怯えたように立ち上がり、逃げるように走っていってしまった。
なぜ逃げられたのか。よくわからないまま首を傾げていると、後ろでフェルナンがガロガを足踏みさせた。
「フェルナンさん。このお店、なんですかね」
「装飾品を扱う店だ。いいから、さっさと帰れ」
フェルナンは素っ気なく、ガロガに乗って去っていった。
周りで見ていた者たちも、何事もなかったかのように歩き出す。階段上から女性を突き落とす姿を見ながら、なにも思わないのだろうか。
店らしき重厚さのある扉は、しっかり閉められている。こちらは窓が木の窓で雨戸しかないと思っていたが、ガラス窓だ。雨戸は開いていたため中をのぞけば、たしかに装飾品が並んでいる。先ほどの男が女性に接客をしていた。店は繁盛しているのかわからないが、玲那が今まで通ってきた道にある店に比べれば、高額な品物が売っているように見えた。
「あれ、さっきの人が落としたのかな」
石畳の青の上に、青い紐が落ちている。編み込んである紐で小さな石が付いていた。
先ほどの女性はどこへ行っただろうか。その紐を拾い、玲那は女性を探しはじめた。
サフランは高いのでやめた。そこまで自分の料理に使わない。麦が手に入ったので、サフランは使えるが、生姜があるので必要ない。あとは酢か、醤油があれば完璧なのだが。醤油はさすがに売っていなそうだ。
母親が醤油の自作キットを購入して醤油を作ったことがあったが、キットの中にこうじ菌が含まれていた。あれを真似するのは無理だ。大豆はなにかの豆を使えば良いかもしれないが、菌はどうしようもない。昔の人は、どこから菌を得たのだろう。
「う、重い」
さすがに買いすぎたか。だが、まだ樽を買う気だ。樽も背負えば、持って帰れるだろうか。帰り道のアップダウンが憎い。
フェルナンの馬に乗った時は大した距離ではなかったが、鳥を運ぶ時は遠く感じた。朝荷物なしで歩く分には、良い散歩コースくらい思っていたが。
「麦、小麦、塩で約三キログラム。大丈夫よ。米五キロ買ったわけじゃないんだから」
木材も入れれば結構な重さになっているはずだ。考えて、心の中で首を振る。桶は必要なのだ。数日も皮を放置できない。せっかく塩も手に入ったのだから、あの皮をなんとかしたい。リトリトの皮も、まだ加工途中だ。生臭さもあるので、塩に漬けたい。
「あれ、道どっちだっけ?」
行きと帰りでは景色が違うので、道がわからなくなってきた。いくらか坂道になってきて、明らかに違う道に入ったのがわかる。数段の階段が細い路地にあり、上りになっているのだ。周囲の建物が迫ってきそうなほど狭い道。ガラの悪そうな人も見えるので、すぐに迂回する。
この荷物で走れるか。走りにくい石畳を、ガラス瓶が擦れる音を聞きながら走り抜け、木々が植わった大通りまで出た。
後ろから人が追ってきていたが、大通りに出たおかげか、すぐに戻っていく。
「変なのいるんだ。気を付けないと」
大通りに出たはいいが、知らない道だ。石畳は今まで灰色だったが、ところどころに青色が入る。綺麗に飾られているわけではないので、青い石がとれるのだろう。つい地面をいじる。
「チョークになりそうな石だな」
石板でもあれば、この青で文字が書けるだろう。
川では見かけていないが、山際で採れる石なのだろうか。
座り込んで石に触れていたら、道ゆく人が変な人を見る目で玲那を見ていく。さすがに恥ずかしいので立ち上がると、目の前にガロガの腹があった。
「わあっ!」
「なにをやってるんだ。あんた」
「フェルナンさん! こんにちは。お出かけですか?」
聞いて気付く。足元がやけに汚く、疲労した顔をしていた。気のせいかな、お肌の艶も良くない。もしかして、遠くに行くという仕事が終わって帰ってきたのだろうか。
「今日は、荷物を取りにきたのか。その割に、大荷物だな」
問いは無視されて、背負っているトートバッグと木材を見遣る。今日が約束の日だったことを覚えていたようで、ついでに買い物に来たと答えたら、小さくため息をつかれた。
「なんで座り込んでいたんだ」
「石が綺麗だったので、どこで採れる石なのかなって、触ってました」
「はあ……」
大きなため息は、遠慮なく吐かれる。余計なことを聞いたとでも言わんばかりに、フェルナンはそのままガロガの腹を軽く蹴った。
「さっさと帰れ」
「はーい。お疲れ様でーす」
疲労している人を、これ以上疲労させてはならない。元気に返事をして見送ろうとすると、近くで怒鳴り声が聞こえた。
「出ていけ! 二度と来るな!」
「待ってください。それは、最初から私の、」
「うるさい!」
店から出てきた男性が、階段上から女性を押した。女性は足を滑らして、数段下の地面に転げ落ちた。
「大丈夫ですか!?」
玲那が駆け寄れば、店の男は鼻息を出し勢いよく扉を閉めた。
女性を転がしておいて、気にせず扉を閉めるとは、最悪な男である。
「いた……」
「ひどいですね。あんな風に突き落とすなんて。怪我はないですか?」
「だ、だいじょうぶです。あ、も。申し訳ありません。助けていただいて、ありがとうございます!」
顔を上げるなり、女性はびくりと肩を上げた。途端、怯えたように立ち上がり、逃げるように走っていってしまった。
なぜ逃げられたのか。よくわからないまま首を傾げていると、後ろでフェルナンがガロガを足踏みさせた。
「フェルナンさん。このお店、なんですかね」
「装飾品を扱う店だ。いいから、さっさと帰れ」
フェルナンは素っ気なく、ガロガに乗って去っていった。
周りで見ていた者たちも、何事もなかったかのように歩き出す。階段上から女性を突き落とす姿を見ながら、なにも思わないのだろうか。
店らしき重厚さのある扉は、しっかり閉められている。こちらは窓が木の窓で雨戸しかないと思っていたが、ガラス窓だ。雨戸は開いていたため中をのぞけば、たしかに装飾品が並んでいる。先ほどの男が女性に接客をしていた。店は繁盛しているのかわからないが、玲那が今まで通ってきた道にある店に比べれば、高額な品物が売っているように見えた。
「あれ、さっきの人が落としたのかな」
石畳の青の上に、青い紐が落ちている。編み込んである紐で小さな石が付いていた。
先ほどの女性はどこへ行っただろうか。その紐を拾い、玲那は女性を探しはじめた。
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