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第一章
19−2 糧
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「なんか、実。なんだろ。え、これなに?」
木に小さな実ができはじめている。これからもっと大きくなるのだろうか。花がしおれて、その下に小さく実が付いている。果実になりそうな予感がする。
見るのは初めての木だ。あまり背は高くない。濃い緑色の大きめな葉っぱで、手のひらより大きい。枝には鋭い針のような棘がいくつもある。
なんの植物か確認するために、葉っぱとその小さな実の部分を枝から折った。冬が過ぎて食べられる実ができるかもしれない。
「なんだろう。みかんみたいな葉っぱ。全部がもどきの木じゃないからなあ。こっち特有の実かな」
できれば大きな果実になって、食べられますように。保存可能な実がいい。みかん。みかん。レモン。みかん。
「柿渋! 加工品には柿渋使うよね。柿もどきないかな。除菌にも使えるし、染料にも使えるでしょ。防水、防腐、防虫。カバンとカゴに防水加工できるよ!」
柿渋を使い、防水加工が可能になる。また夢が広がる。柿渋の作り方など知らないが。
「葉っぱで作るのかな。柿? 渋柿? 柿渋だから、渋柿?」
実験するしかない。果物が採れる木があれば、端から採って、食べる以外にも使えるか実験した方がいいだろう。植物辞典に小さく、何かに使えるとか書いてあるので、それを見逃さないようにしたい。
「どうせ発酵とかだから、放置するのかな。基本、昔の物って、なんでも発酵だよね。カビとかもそうだし。柿渋はすごい臭いって聞くから、実だな。葉っぱはやるなら塩漬けとかじゃない? 桜餅みたいな」
塩漬けをして、食べられるようにするのだ。塩もほしいことを思い出す。塩漬け肉のおかげで塩分は取れているが、塩漬けをすることも今後出てくるだろう。調味料屋さんを探さなければ。
「あ、お花。なんだろ、菊系? 菊系多いよな。雑草みたいに強いんだろうけど。菊系は薬になりやすいから、掘って丸ごと持って帰ろう。あ、なにあれ、ひまわり?」
森の一画に開けた場所がある。川の側だからだろうか。地盤が低いので、もしかしたら洪水になった時にここまで水が来るのかもしれない。遠目に蛇行した川が見えた。そのせいで木が大きく育たないようだ。集まった物が蓄積し、いろいろな種類の種が溜まったか、花がたくさん咲いている。
「はわわ。色々持って帰ろう。掘って帰ろう。とりあえず全部持って帰ろう」
身長の高い、ひまわりに見えた花は、黄色で菊のような細い花びらをしていた。身長が高い。フェルナンくらいある。
なんでも掘って、なんでも持って帰る。都合の良い草花ならば、どこにでも植える。気にせず森にも植える。森にある植物なのだから、外来種ではない。そこは気にしない。
深く掘って根から採集していると、カサリと音が聞こえた。ナタを手にし、草を分けるために持っていた、先の尖った長い棒も手にする。
カサカサと、草を踏む音が聞こえる。リトリトだ。
玲那は弓矢を持った。動物相手に弓矢を使うなど、人生で経験は一度としてない。けれど、これは生きるためである。
座ったまま、膝を突いて、矢をつがえる。あまり大きな弓ではないので、立膝のままでも引くことはできた。草木の影に隠れたまま、矢を押さえながら弦を引く。
大丈夫だ。何度も練習した。リトリトはこちらに気付いていない。
音が走った。ミャウミャウの鳴き声が、途中でギャンと叫び声に変わる。雄叫びのような鳴き声の後、苦しむ鳴き声がその場に響いた。
仕留めきれなかったことより、苦しんで泣き喚くリトリトの声に、心臓の鼓動が速くなるのを感じる。リトリトは矢が刺さったまま。痛みに悶えて、地面に這いつくばり、足をばたつかせて激しく動く。
当たったのは、体だ。頭には当たらず、背中と腕の間を貫通していた。胸にも当たっていないので、致命的な傷になっていない。激しい鳴き声。遠くでギャアギャアいう鳴き声が轟いてくる。仲間が危険に気付いた。これでは、ここに大群が集まってくる。
急いで止めを刺さなければ。けれど、あまりに暴れて、矢では避けられてしまう。首元をかすり、更に激しい鳴き声を発した。
手が震えてくる。息もしづらい。命を奪うことの罪悪感と、仲間が集まってくることの恐怖で、矢が定められない。
三本目が地面に突き刺さった。リトリトにすら当たらない。周囲から、何かが走ってくる草音が聞こえる。もう、躊躇していられない。
玲那はナタを取り出した。
「わああっ!」
振り下ろした瞬間、木を切るのとは違う、妙な感触がした。弾けるような、弾力があるような。しかし、固く、木のように割ることはできない。その首を断裁することはできず、首から胸を中途半端に叩き付けて、ナタが肉にめり込んだ。
「は。は、はっ」
自分の吐く息だけが聞こえる。カラスのような濁声を発して、集まってきていたリトリトの声が消えた。
目の前のリトリトの鳴き声が止まったからだ。危機を感じて、仲間はもう逃げたのだ。
汗が流れて、ナタを握っていた手に汗がたまった。指先が冷えて、体が痺れてくる。リトリトの肩から血が溢れて、白の毛が染まった。
どれくらいの間、呆然としていたかわからない。涙が頬を流れて地面を濡らした。玲那は無造作に顎を拭った。
大きく息を吐いて、横たわったリトリトから、めり込んだまま取れなかったナタを引いた。そうしてそのまま、首に振り下ろした。
鼻を啜りながら、リトリトの頭を地面に埋めて、土にまみれたリトリトの体を石の上でさばいた。生温かさが、先程まで命があったことを嫌でもわからせてくる。
フェルナンがさばいたように、順にナイフを入れて処理をして、葉で包んで、ツタで縛った。
「大丈夫。次は、ちゃんとできる」
次は苦しませず仕留める。
鼻を啜って、玲那は立ち上がった。
肉は持ち帰り、食べられる分は焼いて、食べられない分は燻製にしよう。塩の残りが少ないので、ハーブ水に付け、水気を拭いて、冷暗所で乾燥させる。燻製チップはハーブの枝を使い、鍋で燃やして、蓋に紐をつけて吊るす。網があればいいが、ないので、吊るして燻すしかない。木の蓋だが、木の蓋に結べばできる。
冷蔵庫がなくても、数日は食べられるはずだ。
「よし。もう、大丈夫」
皮も持って帰って、なめし革にできるか、色々試そう。
木に小さな実ができはじめている。これからもっと大きくなるのだろうか。花がしおれて、その下に小さく実が付いている。果実になりそうな予感がする。
見るのは初めての木だ。あまり背は高くない。濃い緑色の大きめな葉っぱで、手のひらより大きい。枝には鋭い針のような棘がいくつもある。
なんの植物か確認するために、葉っぱとその小さな実の部分を枝から折った。冬が過ぎて食べられる実ができるかもしれない。
「なんだろう。みかんみたいな葉っぱ。全部がもどきの木じゃないからなあ。こっち特有の実かな」
できれば大きな果実になって、食べられますように。保存可能な実がいい。みかん。みかん。レモン。みかん。
「柿渋! 加工品には柿渋使うよね。柿もどきないかな。除菌にも使えるし、染料にも使えるでしょ。防水、防腐、防虫。カバンとカゴに防水加工できるよ!」
柿渋を使い、防水加工が可能になる。また夢が広がる。柿渋の作り方など知らないが。
「葉っぱで作るのかな。柿? 渋柿? 柿渋だから、渋柿?」
実験するしかない。果物が採れる木があれば、端から採って、食べる以外にも使えるか実験した方がいいだろう。植物辞典に小さく、何かに使えるとか書いてあるので、それを見逃さないようにしたい。
「どうせ発酵とかだから、放置するのかな。基本、昔の物って、なんでも発酵だよね。カビとかもそうだし。柿渋はすごい臭いって聞くから、実だな。葉っぱはやるなら塩漬けとかじゃない? 桜餅みたいな」
塩漬けをして、食べられるようにするのだ。塩もほしいことを思い出す。塩漬け肉のおかげで塩分は取れているが、塩漬けをすることも今後出てくるだろう。調味料屋さんを探さなければ。
「あ、お花。なんだろ、菊系? 菊系多いよな。雑草みたいに強いんだろうけど。菊系は薬になりやすいから、掘って丸ごと持って帰ろう。あ、なにあれ、ひまわり?」
森の一画に開けた場所がある。川の側だからだろうか。地盤が低いので、もしかしたら洪水になった時にここまで水が来るのかもしれない。遠目に蛇行した川が見えた。そのせいで木が大きく育たないようだ。集まった物が蓄積し、いろいろな種類の種が溜まったか、花がたくさん咲いている。
「はわわ。色々持って帰ろう。掘って帰ろう。とりあえず全部持って帰ろう」
身長の高い、ひまわりに見えた花は、黄色で菊のような細い花びらをしていた。身長が高い。フェルナンくらいある。
なんでも掘って、なんでも持って帰る。都合の良い草花ならば、どこにでも植える。気にせず森にも植える。森にある植物なのだから、外来種ではない。そこは気にしない。
深く掘って根から採集していると、カサリと音が聞こえた。ナタを手にし、草を分けるために持っていた、先の尖った長い棒も手にする。
カサカサと、草を踏む音が聞こえる。リトリトだ。
玲那は弓矢を持った。動物相手に弓矢を使うなど、人生で経験は一度としてない。けれど、これは生きるためである。
座ったまま、膝を突いて、矢をつがえる。あまり大きな弓ではないので、立膝のままでも引くことはできた。草木の影に隠れたまま、矢を押さえながら弦を引く。
大丈夫だ。何度も練習した。リトリトはこちらに気付いていない。
音が走った。ミャウミャウの鳴き声が、途中でギャンと叫び声に変わる。雄叫びのような鳴き声の後、苦しむ鳴き声がその場に響いた。
仕留めきれなかったことより、苦しんで泣き喚くリトリトの声に、心臓の鼓動が速くなるのを感じる。リトリトは矢が刺さったまま。痛みに悶えて、地面に這いつくばり、足をばたつかせて激しく動く。
当たったのは、体だ。頭には当たらず、背中と腕の間を貫通していた。胸にも当たっていないので、致命的な傷になっていない。激しい鳴き声。遠くでギャアギャアいう鳴き声が轟いてくる。仲間が危険に気付いた。これでは、ここに大群が集まってくる。
急いで止めを刺さなければ。けれど、あまりに暴れて、矢では避けられてしまう。首元をかすり、更に激しい鳴き声を発した。
手が震えてくる。息もしづらい。命を奪うことの罪悪感と、仲間が集まってくることの恐怖で、矢が定められない。
三本目が地面に突き刺さった。リトリトにすら当たらない。周囲から、何かが走ってくる草音が聞こえる。もう、躊躇していられない。
玲那はナタを取り出した。
「わああっ!」
振り下ろした瞬間、木を切るのとは違う、妙な感触がした。弾けるような、弾力があるような。しかし、固く、木のように割ることはできない。その首を断裁することはできず、首から胸を中途半端に叩き付けて、ナタが肉にめり込んだ。
「は。は、はっ」
自分の吐く息だけが聞こえる。カラスのような濁声を発して、集まってきていたリトリトの声が消えた。
目の前のリトリトの鳴き声が止まったからだ。危機を感じて、仲間はもう逃げたのだ。
汗が流れて、ナタを握っていた手に汗がたまった。指先が冷えて、体が痺れてくる。リトリトの肩から血が溢れて、白の毛が染まった。
どれくらいの間、呆然としていたかわからない。涙が頬を流れて地面を濡らした。玲那は無造作に顎を拭った。
大きく息を吐いて、横たわったリトリトから、めり込んだまま取れなかったナタを引いた。そうしてそのまま、首に振り下ろした。
鼻を啜りながら、リトリトの頭を地面に埋めて、土にまみれたリトリトの体を石の上でさばいた。生温かさが、先程まで命があったことを嫌でもわからせてくる。
フェルナンがさばいたように、順にナイフを入れて処理をして、葉で包んで、ツタで縛った。
「大丈夫。次は、ちゃんとできる」
次は苦しませず仕留める。
鼻を啜って、玲那は立ち上がった。
肉は持ち帰り、食べられる分は焼いて、食べられない分は燻製にしよう。塩の残りが少ないので、ハーブ水に付け、水気を拭いて、冷暗所で乾燥させる。燻製チップはハーブの枝を使い、鍋で燃やして、蓋に紐をつけて吊るす。網があればいいが、ないので、吊るして燻すしかない。木の蓋だが、木の蓋に結べばできる。
冷蔵庫がなくても、数日は食べられるはずだ。
「よし。もう、大丈夫」
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