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6 物作り

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「おおん。無理が祟った」
 靴擦れである。

 そもそも靴は木でできている。靴下はない。村人で革のショートブーツを履いている人はいたが、木の靴を履いて作業している人も多かった。やはり慣れだろうか。
 つっかけのようなサンダル仕様だが、材料は、木。脱げやすく、力を入れると指に擦れ、なおさら怪我をするのだ。
 足の指に水脹れができてしまったので、それを沸騰した水で綺麗にする。毎日靴の中は砂が入り、足の裏はひどく汚くなっていた。
 お風呂に入れないので、沸騰したお湯を使い、髪を濡らしたり、体を拭いたり、足をお湯につけて疲れを取ったりしているが、お風呂が恋しい。

「よし、ミントもどきの実で、アロマ湯にしよう!」
 前に取ってきた実は、爽やかな良い香りがあった。触れるとスースーする、ハッカのような刺激があるので、足や髪に使えばすっきりするかもしれない。香りも良いので、リラックス効果があるはずだ。
 これで少しは気分が変わる。

 湯を作り、綺麗に洗った実を入れる。それだけでふんわり香りがした。一緒に煮込むと崩れてしまいそうなので、沸騰してから入れる。濾す布でもあれば刻んで入れるのだが、布がないのでそのままゴロゴロと実を入れるしかない。

「あー、いい香り。いいな、この実。畑に植えて、増やすやつに追加だわ」
 しばらくは森で収穫するが、できれば増やしたい。ミント系は虫除けなどにも使えるはずだ。用途が多くて良い。
 畑の計画も立てる必要があるだろう。
 そして、もう一つ。新しい物を作る計画を立てなければならない。

「靴を作る!」
 獣を見付けて、皮を剥ぐわけではない。まだ動物には会っていないないので、それは後々考える。

 まずは、草履作りだ。麦藁は手に入る。草履の作り方は知らない。が、編み物はできる。ある程度は作れるだろう。編み棒などはないが、要領は同じはずだ。そう思いたい。
 これは簡易的なものである。草履が作れれば、次は、布を作るための糸を手に入れたい。布を革代わりにして、靴を作るのだ。

 植物辞典によると、綿のような植物が自生している。
 綿を糸にする方法は、なんとなくしか知らない。しかし、やらねばならない。

「なんといっても、服がないからなあ」
 玲那は溜め息をつく。

 そう、服がないのだ。いや、服は三着ある。同じ色の同じ形のワンピースが三着。
 これは、この家に住んでいたお婆さんのものではなさそうだった。新品の、玲那の体に合う服だ。
 使徒が用意した。その可能性を考えている。
 だからなのか。

「下着がない!!」
 ダン、と玲那はテーブルを叩きつけた。
 正確には、着ている下着しかない。だ。

 この家に来て、目覚めた時、着ていた下着。それは、ブラジャーのような、肩紐なしチューブトップ。紐で結んで固定するタイプ。と、短パン。短パンというすっきりしたものというより、かぼちゃパンツ。腰と太ももを紐で固定するタイプ。これだけだ。上下一枚ずつのみである。

 そのため、玲那は常に下着を夜洗い、寝る時は別のワンピースを下着なしで着て、朝になって洗っておいた下着を、火で乾かすという真似をしているのだ。手で絞る洗濯物は、夜中干しておいても生乾きのことが多いからである。

 これは、死活問題だ。(二度目)

「下着がないなどと、許されるのか。いや、許されない!」
 そして、そのうち冬が来れば、上着すらない。なにせ今着ているワンピースは、麻のようなざらざらした布で作られた、中袖である。裸足で、そんな格好で、外に出れば、凍えてしまう。厚めの服や、上着、ズボン、靴下。手袋。帽子など。作っておかなければならない。
 ほしい服はたくさんある。

「あと、布団が薄いんだよお。二階、暖房器具ないし、掛け布団薄いの二枚だけだし、生きてけない!」
 そのため、冬までに布団カバーを作り、中に藁を入れるなどした、厚めの布団を作ることが急務なのだ。

「冬がいつくるかわかんないから、急ピッチで作んなきゃだよ!」
 そして、問題はもう一つある。

「歯ブラシがない!」
 再び、バン、とテーブルを叩きつける。

 昨日は鉛筆を削るが如く、木の枝をナイフで削ぎ、楊枝を作った。歯と歯の隙間に入るかと言ったら、入っていなかったが、汚れはなんとか取れたと思う。しかし、不十分だ。
「もし、虫歯になったらどうするの?」
 糸で引っこ抜かなければならないのか。そんなこと、考えたくない。
「嫌すぎる!!」

 これは、死活問題である!(三度目)

「ミントもどきの実をコップに入れた水に浸けて、ミントもどき水作ったけど、うがい薬として効果あるかなあ。飲む気だったけど、消毒に使えないかな。辞典だと、胃に効くって書いてあったし」
 辞典は一巻だけ。このあと続巻がもらえることを期待したい。

 その辞典は軽く見たが、しっかり読んで、どんなものがどんな時に必要なのか、覚えておかなければならなかった。なにもかも、自分で作らなければならない。食料を調達しながら、畑を改良しながら、だ。

「畑は、土作りしなきゃだもんね。肥料、は、だ」
 自分のあれである。あれ。あとは野菜の屑。落ち葉などを集め、腐葉土を作るシステムが必要だろう。
「消毒なしかあ。寄生虫とか気を付けなきゃなあ。生野菜は食べない方がいいか。まあ、葉物ないから、今の所平気だろうけど」
 古のギョウ虫検査が必要になってしまう。ある日突然、お尻から何かが出てきたら、泣く。

「私の知らない、この世界の常識だってあるだろうし。想定外の寄生虫とかいるかもしれないから、よく見たりしないとね。カタツムリみたいなのいたら、寄生虫の宝庫だろうし」
 やることはたくさん。ありすぎてなにからやれば良いのやら。

 とりあず、夕食を作ろう。いつも通り、肉を焼き、芋と玉ねぎを炒めた。それから、ふにょふにょと柔らかい、ニンジンもどき。ニンジンの形をしているが、とても黄色い。炒めて食べれば、甘みのない、薄味のニンジンだったが、ないよりはいい。

「炒め物もいつかは飽きるよね。なにか、食べられるものも増やさないと」
 明日は植物辞典を持って、森の中を歩くことにする。
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