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3−2 家
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滑車に絡んだ綱を引っ張って、井戸の水を汲む。水がもったいないので、汚れた水は庭に撒いた。
ゴミがなくなるまでそれを繰り返し、綺麗になったところで水瓶を洗う。そうして、やっと水瓶に綺麗な水を入れることができた。
わけだが。
「生で飲めるもんなのかな?」
水質調査なんてものはあるのだろうか。謎だ。しかし、沸騰させるにも火がない。
コップに入れた水をじっと睨む。これでお腹を下したら、干からびて、そのまま死にそうな気がする。
「ええい。脱水症状がなんだ!」
意を決し口に含んだ水は喉を通り、あっという間に胃へと到着する。ぐうぐうなっていたお腹の、ぐうひとつくらいは消してくれるだろう。
「おいしいや。ちょっと甘い感じする。でも、お茶とかないのかなあ。お水でもいいけど、お茶とかないと、飽きちゃうし。でも、ないよね。そんなものはないよ」
一人だと独り言が多くなる。ぶつぶつ呟きながら、棚を開けて色々探してみたが、生活に必要な最低限の物しかない。
「ちょっと、待って?」
ふと、玲那は動きを止めた。気になることがある。
一階はリビングとキッチン。二階は部屋。
ここに足りない場所がある。
「お風呂と、トイレは!?」
廊下の突き当たりには、扉があった。それを勢いよく開けると、倉庫のような部屋になっていた。が、風呂でもなければトイレでもない。ただの倉庫だ。斧や草を入れるような背負えるカゴ、鍬のような道具。いくつかの樽などが置いてあるだけ。
農工具が置いてあるからか、なんだか臭う気がする。
板張りのそこだが、奥はレンガで固められた床があった。壁には小動物用の入口のような、引いて開ける小さな木の扉があり、つまみを引っ張って開ければ、外が見えた。
「う。くさっ」
鼻にツンとする匂いを感じて、玲那はすぐにその小さな扉を閉めた。
「え、もしかして、トイレ。え、トイレなの??」
勢いよくキッチンにある裏口から出れば、小さな扉の前は土の色が違っていた。下水のように泥が乾いており、生えている雑草の種類も違う。変な虫も固まるように集まっている。
これは間違いなく、排泄物を外に出す扉だろう。もしかしなくとも、排泄物を外に放り投げるだけなのだ。
「おお。おおおお。いや、せめてさ、穴、掘るとかしなよ! せめて、和式でいいから、汲み取り式でいいからさ!」
特に斜めになっているでもなく、小さな扉から投げ捨てるとして、その道具はなにで行っていたのだろうか。ちらりと倉庫の中をみて、大きな木べらを見つける。あいつで履くように外に出しているのではなかろうか。
「ふえええ。ティッシュ。ティッシュないよ。お風呂もないよ。え、この木べらで外出して、この樽で水撒いてたのかな? あなたはなにで、お尻を拭いていたの?」
誰もいないが、聞いてみたくなる。古代の人々は、なにで尻を綺麗にしていたのだろう。
堪えられない。拭くものがなければ、どうするというのだ。せめて葉っぱが必要だ。そう、葉っぱだ。
照れている場合ではない。これは、死活問題である。
「よく考えて、私。今後、なにが必要なの? まともな生活を送るには、なにが必要になるの!?」
メモりたいが、メモがない。そもそも紙がない。本なんて物もない。
そういえば、使徒は本を与えると言っていた。持って来てくれるのだろうか。
どちらにしても、紙はない。メモをすることはできない。
そうこうしているうちに、日が傾いてきた。夕方に近付いているようだった。
「いやいや、これで火がなかったら、暗くなってなにも見えなくなっちゃうって。それは勘弁してよ」
初日でそんな真っ暗な夜を過ごしたくはない。暗い上に食事もなく、ひもじさで人生も真っ暗だ。
森の入り口で枝や石を探しては、家に戻って、何度か実験していると、キイイ。と、外から音がした。木を擦ったような音だ。
コツコツと木の靴の足音が聞こえる。それは玄関扉の前で止まって、そうして、ノックの音が聞こえた。
使徒が来たのか。いや、使徒は突然目の前に現れて、玲那を驚かすきらいがある。わざとと思えるほど、目の前に現れるのだ。
だとしたら、一体誰が訪れるというのだろう。
恐る恐る、玲那は鍵を開けた。鍵と言うか、木の欠片を引っ掛けて、押されても開かないようにしている、アナログなものだ。簡単に壊れそうな、ちゃちなものである。外出する時どうするのだろう。などと、関係ないことを考えつつ、そっと扉を開いた。
「あら、女の子だったのね。あなた、ここに住んでいるの?」
内開きの扉を開けば、そこにいたのは、三十代くらいの女性だ。オレンジ色の明るい髪に、茶色の瞳。厚めの半袖のワンピースを着て、薄汚れたエプロンをしている。そのエプロンで、ワンピースの腰を絞っていた。隣には男性がいて、なぜかバットのような棒を持っていた。
女性は驚いた顔をしながら、まじまじと玲那を見つめた。
ゴミがなくなるまでそれを繰り返し、綺麗になったところで水瓶を洗う。そうして、やっと水瓶に綺麗な水を入れることができた。
わけだが。
「生で飲めるもんなのかな?」
水質調査なんてものはあるのだろうか。謎だ。しかし、沸騰させるにも火がない。
コップに入れた水をじっと睨む。これでお腹を下したら、干からびて、そのまま死にそうな気がする。
「ええい。脱水症状がなんだ!」
意を決し口に含んだ水は喉を通り、あっという間に胃へと到着する。ぐうぐうなっていたお腹の、ぐうひとつくらいは消してくれるだろう。
「おいしいや。ちょっと甘い感じする。でも、お茶とかないのかなあ。お水でもいいけど、お茶とかないと、飽きちゃうし。でも、ないよね。そんなものはないよ」
一人だと独り言が多くなる。ぶつぶつ呟きながら、棚を開けて色々探してみたが、生活に必要な最低限の物しかない。
「ちょっと、待って?」
ふと、玲那は動きを止めた。気になることがある。
一階はリビングとキッチン。二階は部屋。
ここに足りない場所がある。
「お風呂と、トイレは!?」
廊下の突き当たりには、扉があった。それを勢いよく開けると、倉庫のような部屋になっていた。が、風呂でもなければトイレでもない。ただの倉庫だ。斧や草を入れるような背負えるカゴ、鍬のような道具。いくつかの樽などが置いてあるだけ。
農工具が置いてあるからか、なんだか臭う気がする。
板張りのそこだが、奥はレンガで固められた床があった。壁には小動物用の入口のような、引いて開ける小さな木の扉があり、つまみを引っ張って開ければ、外が見えた。
「う。くさっ」
鼻にツンとする匂いを感じて、玲那はすぐにその小さな扉を閉めた。
「え、もしかして、トイレ。え、トイレなの??」
勢いよくキッチンにある裏口から出れば、小さな扉の前は土の色が違っていた。下水のように泥が乾いており、生えている雑草の種類も違う。変な虫も固まるように集まっている。
これは間違いなく、排泄物を外に出す扉だろう。もしかしなくとも、排泄物を外に放り投げるだけなのだ。
「おお。おおおお。いや、せめてさ、穴、掘るとかしなよ! せめて、和式でいいから、汲み取り式でいいからさ!」
特に斜めになっているでもなく、小さな扉から投げ捨てるとして、その道具はなにで行っていたのだろうか。ちらりと倉庫の中をみて、大きな木べらを見つける。あいつで履くように外に出しているのではなかろうか。
「ふえええ。ティッシュ。ティッシュないよ。お風呂もないよ。え、この木べらで外出して、この樽で水撒いてたのかな? あなたはなにで、お尻を拭いていたの?」
誰もいないが、聞いてみたくなる。古代の人々は、なにで尻を綺麗にしていたのだろう。
堪えられない。拭くものがなければ、どうするというのだ。せめて葉っぱが必要だ。そう、葉っぱだ。
照れている場合ではない。これは、死活問題である。
「よく考えて、私。今後、なにが必要なの? まともな生活を送るには、なにが必要になるの!?」
メモりたいが、メモがない。そもそも紙がない。本なんて物もない。
そういえば、使徒は本を与えると言っていた。持って来てくれるのだろうか。
どちらにしても、紙はない。メモをすることはできない。
そうこうしているうちに、日が傾いてきた。夕方に近付いているようだった。
「いやいや、これで火がなかったら、暗くなってなにも見えなくなっちゃうって。それは勘弁してよ」
初日でそんな真っ暗な夜を過ごしたくはない。暗い上に食事もなく、ひもじさで人生も真っ暗だ。
森の入り口で枝や石を探しては、家に戻って、何度か実験していると、キイイ。と、外から音がした。木を擦ったような音だ。
コツコツと木の靴の足音が聞こえる。それは玄関扉の前で止まって、そうして、ノックの音が聞こえた。
使徒が来たのか。いや、使徒は突然目の前に現れて、玲那を驚かすきらいがある。わざとと思えるほど、目の前に現れるのだ。
だとしたら、一体誰が訪れるというのだろう。
恐る恐る、玲那は鍵を開けた。鍵と言うか、木の欠片を引っ掛けて、押されても開かないようにしている、アナログなものだ。簡単に壊れそうな、ちゃちなものである。外出する時どうするのだろう。などと、関係ないことを考えつつ、そっと扉を開いた。
「あら、女の子だったのね。あなた、ここに住んでいるの?」
内開きの扉を開けば、そこにいたのは、三十代くらいの女性だ。オレンジ色の明るい髪に、茶色の瞳。厚めの半袖のワンピースを着て、薄汚れたエプロンをしている。そのエプロンで、ワンピースの腰を絞っていた。隣には男性がいて、なぜかバットのような棒を持っていた。
女性は驚いた顔をしながら、まじまじと玲那を見つめた。
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