人生ひっそり長生きが目標です 〜異世界人てバレたら処刑? バレずにスローライフする!〜

MIRICO

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第一章

5 強制力

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「あれ、今日はこんな時間に、魚を捕っているの?」
 声を掛けてきたのは、オレードだ。いつも二人でいるのか、フェルナンも一緒にいる。フェルナンは前回同様、冷たい視線を送ってきた。どうでもよさそうな顔をして、他所を向く。オレードが玲那に声を掛けたことが不満なようだ。

「朝はお手伝いをしていて、お魚捕りにくる暇がなかったんです」
 午前中、草をむしっていれば、アンナの夫が尋ねてきた。収穫と荷物運びの仕事をしないかと、誘いに来てくれたのだ。

 毎年この時期、皆で穀物の収穫を行うそうだ。穀物を育てている農家があり、皆で手伝い、少量を分けてもらえるそうで、近くに住まう村人が集まるとか。
 なんの穀物か、名前を聞いてもわからなかったが、手伝えば頂けるということで、玲那は二つ返事で了承したわけである。
 そして、畑まで行くと、それが麦のような穀物だったことに、玲那は歓喜した。

 気になったのは、玲那の記憶では麦は夏前に収穫で、それから米の栽培に入ることだ。
 今は初夏なのか。それとも、秋に獲れる麦なのかはわからない。麦のように見えて、違う可能性もある。
 畑はそこまで広いものではなかったが、数人で行うには広いように思えた。なにせ、すべて手作業だったからだ。
 仕事は簡単と聞いていたが、慣れていない玲那には苦労があった。

 そもそも手作業なので、腰を曲げて収穫する必要がある。ナタで刈って、麦の茎で束にした麦を結んでいく。わけだが、あまりに手先が不器用すぎて、刈り取りは断念し、皆が刈り取った麦を運び続けていた。
 腰痛にはならずに済んだが、何度も往復して麦を持ち歩いていたので、腕は痛いし、足は硬い靴のせいで靴擦れになったしで、午前中だけでヘトヘトになってしまった。
 お昼のパンをもらえて、家に戻り、食べたわけだが、あまりに疲れて、一瞬眠ってしまったのだ。

 三日目にして、体力を失っている。
 前に比べたらかなり元気ではあるが、それでも新しい生活に慣れていないせいで、疲労は濃い。
 日のある内に動かなければならないのに、昼寝をしてしまったせいで、今頃魚を釣る羽目になった次第である。
 そして、麦をもらえなかったことが、また微妙に落ち込む。

 収穫してすぐに麦が食べられるわけがなかった。それくらい当然なのに、考えていなかったのだ。
 常識がない。この世界の常識というより、当然のことに意識が薄いことがはっきりした。農業などやったことがないとはいえ、収穫した麦がすぐに食べられるわけではないくらい、知っていたのに。想像力が足りない。

 ただでは起きないのは、余った草をもらえる約束を取り付けたことである。たくさんあるので、好きにもらって良いとのこと。麦草はなにかと重宝する。使い方は色々考えていた。
 今は麦の乾燥待ちで、乾燥後、脱穀するため、その後、麦と草をもらえる予定だ。脱穀なども手伝うことになっている。
 そんなこんなで、疲労もあって、ぼんやりと釣りをしていたのだが。

「この時間、あまり長くいない方がいいよ。そろそろ日が暮れるしね」
 オレードは親切にも、気になって声をかけてくれたようだ。

 この時間。おそらく午後四時くらいだと思われる。
 季節的なものなのか、年中そうなのかはわからないが、日が暮れるのが四時ごろ。朝も日が出るのは遅いので、自ずと活動時間が少なくなる。

 すでに森は暗くなり、玲那もそろそろ帰ろうと思っていたところだが、長くいない方がいいとはどういう意味だろうと、首を傾げる。
 オレードは苦笑いをすると、獣が出るかもしれないよ。と口にした。
 そういえば、使徒は獣が出ると言っていた。

「熊とかいるんですか?」
「くま? それは、なんだかわからないけれど、ラッカが出るよ」

 熊はこちらの言葉ではなかった。言葉が通じないのだ。オレードはよくわからないとスルーしてくれたが、そういった言葉は気を付けないといけないようだ。

「ラッカって、危ないんですか?」
「知らない? 夜になると出てくる、川辺に住む獣だよ。魚を好むんだけれど、凶暴なのは人にも噛み付くから、気を付けないと。皮は硬いけど、焼くとうまいんだよね」
「おいしい、川辺に住む獣ですか」

 それはどんな獣だろうか。ワニ? それは怖い。獣という感じはないが、ワニのような大型爬虫類が飛び出してきたら、それは怖い。怖いでは済まない。
 それとも、川のギャング、ビーバーとかか? それはかわいい。とても愛でたい。

 もしくは、カワウソだろうか。カワウソは可愛い。だが、オオカワウソは凶暴で、ワニすら倒すなどと聞いたことがある。それはかなり怖い。逃げる必要がある。
 そんなものがいるのなら、早めに切り上げた方が良さそうだ。
 まだ魚は一匹しか捕れておらず、それも出汁用だったが、仕方がない。

「ラッカを知らないのか。どこから来たんだ?」
 黙っていたフェルナンが問うてくる。
 どこと言われると困るのだが、遠い国から来ましたと答えると、フェルナンは何度か瞬きをした。

「ああ、そうだな。遠い国から来たら、ラッカは知らないな」
 呟くような声に、オレードも虚ろな顔で頷く。使徒の強制力だ。その場にいた二人が同じように納得させられる。見ていると、なんだか申し訳なってくるのと同時、居た堪れない気持ちになってくる。
 誤魔化しは、側で聞いている人にも有効なのだ。

「あ、じゃあ、私は帰ります。教えてくれて、ありがとうございました」
「気にすることないよ。気を付けて帰ってね」

 温かく見送られて、ついぺこぺこと頭を下げて、逃げるように走り去る。
 走って、足が痛かったのを思い出しつつ、後ろめたさで、痛みを我慢しながら、家まで駆け続けた。
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