人生ひっそり長生きが目標です 〜異世界人てバレたら処刑? バレずにスローライフする!〜

MIRICO

文字の大きさ
上 下
10 / 123
第一章

4 森 

しおりを挟む
「おお、綺麗な川~」
 森の中。木漏れ日がきらきらと反射する、透明な水の美しい川が流れていた。

 思ったより水量のある小川で、岩場の下は色がエメラルドグリーンだ。浅いところには魚が何匹も泳いでいるのが見える。
 使徒の言う通り、森を歩くと川に突き当たった。少し歩く程度ではなかったため、探すのに結構時間がかかった。間違いなくあったので、使徒への文句は言わなかったことにする。

 帰り道で迷子になっては困る。途中途中に木の枝を丸めたり、草と枝を結んだりと、戻るための印は付けてきた。時計がないのでどれくらい歩いたかわからないが、体が温かくなるくらいは歩いた。
 森の途切れたところに流れている川だが、川を跨いですぐに木々が茂り、森が広がっている。岩場にもたれるように垂れ下がった木の枝を隠れ蓑にして、魚たちが固まって身を隠していた。

「丸見えなんだよなあ。丸見えってことは、あっちからも丸見えだよねえ」
 玲那は少し離れたところに荷物を置き、木の枝で作った釣具に餌を付ける。枝は森に入る前に、丁度良い長さの枝を、家にあったなたで切ったものだ。釣り糸はツル草の草を取って、ツルだけにしたもの。そして、餌は、木の根元を掘って見付けた、何かの幼虫である。何匹か見付けて持ってきた。

 幼虫くらいは手にできるので、気にせず掘ってきた。おかげで手が土で汚れてしまった。軍手が欲しい。
 魚が釣れたら入れるためのカゴを持ち、ついでに薪を拾っていたので、既に荷物がある。

「よいしょっと。さてさて、こんな餌で釣れるかなあ」
 釣り。そんなアクティブなスポーツ? やったことなどありません。
 外に出れば風邪を引き、授業のプールを見学していただけで肺炎になったことのある危険な水辺に、子供の頃以降、近付いたことがない。
 だが、人にはやらなければならないことがある。

「ふ。今日のお魚釣れるまで、お食事できません」
 とういうわけで、釣りの開始である。

 ちなみに、網などはない。釣れたらバレないように確保する必要がある。背負ってきたカゴですくう気だ。
 浮きがないため、よく見ていなければならず、玲那はじっとその水面を見つめる。なんと言っても、針がついていない。しっかり飲み込んでもらいたい。

 川の流れは思ったより早く、ツルに結んだ虫が流れて、すぐにツルがピンと張った。
 使徒は魚が取れると言っていたのだから、取れるはずだ。
 そう思ったが、ツルが短すぎて、良いポイントまで届かないのか、魚が近付いてこない。

「ツルかあ。さっきのツル草、この辺にあるかな」
 紐代わりにも使えるので、見付けたら集めておいた方がいいだろう。なんなら、根から取って植えて増やしてもいい。
 森が誰の土地なのか知らないが、森で狩猟を行っていいと言うのだし、家の側の森に草を植えても平気だろうか。そう思いたい。

 それと、気になるのが、薪だった。
 昼の気候は暖かく、夜になると少しだけ涼しくなり、朝はひんやりしていた。
 最初、暖かな空気が春を思わせたが、もしかしたら、今は秋の可能性があるのだ。夜や朝の気温の下がり方がやけに冷えていたのと、森の木々の葉っぱの色が、若干色褪せているのがあるのに気付いた。

 もし、冬に向かっているのならば、しかも、豪雪地帯であれば、薪が大量にいるかもしれない。
 家をぐるりと一周したところ、倉庫の裏手に薪置き場があったのだが、薪の残りが少なかったことと、薪置き場の棚が結構な場所を取っていたため、かなり不安が高まったのである。

「細い枝とかでも、拾って持って帰った方がいいよね。倉庫に斧はあったけど、刃がぼろぼろだったから、木を切り落とすのは、ちょっと大変そう」
 おばあさんが住んでいたのならば、斧を使わなくなって放置されていたのだろう。蜘蛛の巣も張って、長く使っていないようだった。石を研ぐ道具が必要だ。

「それとも、どっかで整えてもらうのかなあ」
 独り言をと呟きながら、ツル草を探しながら歩き回って、ついでに棒などもカゴに入れる。途中赤い実や木の実を見付けて、それも拾って歩いた。なにかに使えるかもしれないし、食べられるかもしれないので、草木や実があれば、採って歩いた。大きなうちわのような葉っぱやら、手のひらサイズの葉っぱも集める。何に使うかは言うまい。

「こんなものかな。これくらい長ければ、大丈夫でしょ」
 川の流れは耳に届いているので、川からそこまで離れていない。先ほどの場所に戻ろうと踵を返すと、森の奥で何かが動いたように見えた。

「人?」
 草木の影になっていたが、気のせいだろうか。茂っている草や木の葉の隙間を、何かが移動したように見えた。
 森の奥は危険だと聞いたが、川までは大丈夫だと言っていた。人か。それとも、鹿のような大型の草食動物か。わからないが、玲那はそちらを見つめながら、後退りする。

 何がいるかわからない。警戒はした方がいいだろう。
 耳を澄まして、目を凝らし、こちらに来ていないことを確認しながら、先ほどいた場所まで戻る。
「武器とか、持ってた方がいいのかな。熊みたいなのいたら、対応できないだろうけど」

 さすがに熊などの凶暴な獣は、いない方向でお願いしたい。いやしかし、あの使徒だ。川の向こうは危険と言っていたのだから、もしかしたら川の近くもそこそこ危険かもしれない。
 木の枝などを拾っている間、妙な足跡や爪の跡、糞などは見ていないが、大型動物が絶対いないとは言えない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...