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祭壇2
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「これは、どういうことだ」
「私が聞きたいわ」
ルヴィアーレは天井に浮かぶ魔導の塊を見つめ、その動きを目に捉えていた。
狭い通路の祭壇にフィルリーネと魔導を流せば、通路の壁面や地面に引かれていた線に魔導が流れ、転移の魔法陣が浮かんだ。
それが一瞬で自分たちを通り、気付いたら別の空間に移動させられていたのだ。
広い空間。しかし先ほどと同じ遺跡の中と思われる。ただ不思議なのは、水に浸された部屋の中だったと言うことだ。
「あの先が、本物の祭壇よ」
自分たちが立っているのは長方形の石の上。その周囲は水で浸されている。その水の深さは分からない。真っ暗で底が見えているのか見えていないのか分からないからだ。
天井近くには魔導の塊が見える。冬の館の祭壇と同じように、魔導の塊が蠢いていた。
魔導を流すであろう祭壇は今自分たちが立つ長方形の先にあった。そこだけ大きな四角形になり、祭壇が置いてある。
祭壇には楕円形の模様が描かれていた。流れるようなゆらめきの線だ。水のような不思議な模様である。
「何か意味があるのかしらね。水を祀っているみたいに見えるけれど」
「冬の館はこんな手の凝った場所ではなかったが」
「そうなんだよね。ここはやけに手が凝ってると思わない?」
「宝石でも置いてあったか?」
「分からないわ。ただニーガラッツはここに気付いて、何かをしようとしたのかもしれない。ただ、この祭壇に入られるのは、恐らく私とあなただけだったってことは言っておくわ」
「どういう意味だ?」
「魔導を流してもアシュタルやヘライーヌはここに入られなかったってことよ。王族だから入られたのか、それとも別の要因があるのか。ニーガラッツがここに入られなかったと分かるのは、足跡がなかったから」
足下を見てみると確かに足跡が残っている。祭壇と転移させられた場所を往復した跡が残っているが、これは全てフィルリーネの足ほどの大きさだった。フィルリーネがここに初めて来た時には誰の足跡もなかったと言うことだ。
「ニーガラッツはこの場所を知って試しに来たと言うことか」
「その可能性が高いわ。精霊の書の秘密に気付いたのでしょう」
「秘密とは?」
「ヘライーヌが祭壇は四つあるのではと気付いたのよ。その一つがここであることも分かっていた。その内しっかり調べようと思っていたのだけれど、先を越されたわね」
「聞いていないが?」
「話してないもの」
腹は立つがフィルリーネが言う必要はない。カサダリア付近で遺跡が見付かったことは聞いているが、イアーナがいたから耳にしたことだ。本当なら言う気などなかっただろう。
しかし、今回自分にこれを教えたのは、試す必要があったからだ。
フィルリーネだけがこの場所に入られた。アシュタルとヘライーヌは入られなかった。ならば同じ条件を持つ自分はどうなるのか、知りたかったのだ。
自分がフィルリーネと入られた要因が、王族だからか他の要因があるのか。それは分からないが、入られたことは確かである。
「それで、人に試させておいてどうする気だ。あの祭壇に魔導を流すのか?」
「選定される気はないけれど、魔導を流して何が起こるかは見ておきたいわね」
「カサダリアの遺跡でも魔導を流したのか?」
「流したと言うより、奪われたと言った方がいいわ」
冬の館でも同じだった。魔導を流す気などなくとも、あの祭壇に触れただけで魔導を奪われた。だとしたら、ここでも魔導は奪われるだろう。
その時に何が起こるのか、それはまだ分かっていない。
しかし、思い当たることはある。
「やってみる?」
「お望み通りに」
フィルリーネに促されて手のひらを祭壇の上にかざす。フィルリーネは隣で同じように手のひらを広げた。
まるで婚約の儀式のようだ。祭壇にそっと触れると、ぞわりと手の平から魔導が抜けるのを感じた。
フィルリーネはすぐに祭壇から手を離す。フィルリーネの魔導も奪われた。
魔導は石の祭壇の模様を伝うと水の中へと入っていく。底にある模様に魔導が流れ幾つもの線が光って見えた。それが壁に向かい、天井へと上った。
「同じね。消えちゃった」
「あの魔導の塊に混ざったのは見えたが」
天井は四角錐になっている。魔導はその頂点へ吸い込まれたのだろう。あの天井には多くの魔鉱石が埋まっているはずだ。
「さて、何も起こらないわね」
「古き遺跡の選定か。ニーガラッツはこれを確かめたかったと思うか?」
「他の遺跡にも現れているかもね。ここと違って祭壇には触れられるから」
だが、それで何が起こるのか、ニーガラッツは分かっているのだろうか。
どちらにしても、この部屋に入られなければ意味はないが。
「ニーガラッツをどうする?」
「捕らえなければならないわね。あの精霊も気になるし。連れ歩いているのならば、何かに悪用するのでしょう」
その精霊について分かっていることはほとんどない。エレディナが精霊たちを移動させるために使ったと言っていただけだ。
洞窟の籠の中にいたと聞いたが、連れて歩く意味は何だろうか。
「魔獣と精霊を混ぜて起きることなど、想像付かないな」
「精霊を形として見ることのできないニーガラッツが、形を成すものとしてあの精霊を作り上げて、ペットみたいに連れ歩いて、どんな能力を使わせるのかってところね」
王族でない者は精霊の姿を見ることはできない。その存在を感じ視界に入れることができても、どんな形を成しているのかははっきり見えないと言う。
その姿が目に見て取れる。そしてその能力ははっきりしない。不気味な存在だが、王族と同じく目に取れる精霊を手懐けているとすれば、ニーガラッツが祭壇を回る理由はある。
「王族と同じ力を欲しがっているならば、選定にも参加したがるか…?」
「考え方が前王と同じならば、そうでしょうね。前王は魔導量が少なく選定が行えない。ニーガラッツは自分の魔導量に自信があるでしょう。けれど、選定の遺跡ができたのはマリオンネができる前の話と聞いている。マリオンネを蔑ろにしてこの世界の頂点にでも立つ気?」
フィルリーネは鼻で笑うように口にする。頭上の魔導の塊を見上げると、蠢きながらそうだと言っているかのように機械音が耳に届いた。
「精霊の書の解読はまだ終えぬのか、確認してくれ」
「承知しました。本日の、遺跡に関わりが?」
サラディカに問われて口を閉じる。サラディカは察して頭を下げると寝所を出ていった。
地下の遺跡から出るとサラディカたち護衛の者は安堵の表情を見せた。出入り口が勝手に閉ざされて外で待たされたためかなり警戒していたようだ。
フィルリーネが何かをするとは思っていないだろうが、アシュタルですら緊張した面持ちを見せていたのだから、イアーナなどは特に不安を抱えただろう。
しかし、選定の件は広く口外するべきではない。
現状のマリオンネはアンリカーダ派が勢いを増している。前女王であれば選定の場所を祈りの地として祀る程度で保管するかもしれないが、アンリカーダがそうだとは限らない。
フィルリーネが自分だけに試させたのは当然のことだろう。
「はあ。ここに来てから問題ばかり起きる…」
つい呟いてベッドに座り込む。
精霊の書は前にイムレスに借りた後、写しをラータニアに秘密裏に送った。半分ほどの解読は行われその結果を得られたようだが、自分の手元に全てが送られることはない。
しかし、重要なことについてのみ連絡は届いた。
選定は間違いない。マリオンネの女王が空城に住まう前に行われていたと言うのは、精霊の書に書かれていたことである。
ただ、それをどう行うかはまだ解読されていなかった。おそらくグングナルドでも同じだろう。そうでなければフィルリーネが自分をあの選定の場所に連れたりはしない。
精霊の書にそれについての記述がないのか、それとも暗号のようになっているのかは分からないが、それをアンリカーダに気付かれることだけは避けなければならない。
「エレディナ」
呼んだ声に時間を掛けずふわりと現れた水色の髪の少女は、当たり前のように空に浮きながら腕や足を組んで自分を見下ろした。
「私に聞いても話すことなんてないわよ」
何を言うでもないのに、エレディナは先に断りを入れてきた。呼ばれて来ただけなのに何の用か想像がついているのは、こちらがどこまで気付いているのか理解しているからだろう。
「私をあの場に連れようと言ったのはフィルリーネだろう。止めようとは思わなかったのか?」
「あの子だけが行うよりましでしょ」
「なるほど」
エレディナこそどこまで理解しているのか。ただ、エレディナがフィルリーネに黙っていることは多そうだ。
人型の精霊なのだから、マリオンネに詳しいのは当然だが、護る相手に全てを話しているわけではないらしい。
「フィルリーネには話さぬのか?」
「あの子は大切な子なのよ。私から何かを伝えることはできない」
人型の精霊はマリオンネで生まれ住まうのが基本である。地上に降りて特定の人間に付くことは稀だ。
なのに王族二人に付いてこの国に留まっている。
その理由は分からない。本来ならばあり得ないと言っていいことを、エレディナは行っているのだ。
それを言うならばヨシュアもだが。
「…フィルリーネには何があるのだ? 叔父のこともそうだが」
「私はハルディオラに頼まれただけよ。残されたあの子を護ること。ハルディオラにとってあの子は大切なの。大切な人の子供だからね」
「フィルリーネの母親か…」
話に出ることはない、フィルリーネの母親。フィルリーネ本人も叔父以外に興味はなさそうだった。
叔父のハルディオラに何があるとは聞いたことがない。エレディナとヨシュアがその叔父に付く理由も分からなかった。
ただハルディオラのためにフィルリーネを護るならば、遺跡の祭壇をこれ以上探さない方が良いことは分かっているだろう。
「マリオンネに祭壇を気付かれれば面倒になるぞ」
「それを言われてもね。あの子が勝手に見つけたり見つかったりするのよ。それで止められると思うの? 行くって言ったらあの子は聞かないのよ。いつも一人でやってきたから」
それもそうだと肩を竦める。駄目だと言っても勝手に動いて解決しようとするだろう。だが、そうだとしても危険が伴う。今のマリオンネは前のマリオンネとは違う。選定については関わらない方が良い。
「ニーガラッツが遺跡の祭壇の意味に気付いているのならば、先に遺跡の場所を調べるべきと言いたいが、関わらぬ方が安全だ。女王が代わった今、過去の遺物を掘り出すと面倒になる」
「仕方ないでしょ。見つかるんだから」
「お前は全ての場所を知っているのではないのか?」
「知らないわよ。人型の精霊だからって何でも知ってると思わないで」
だが、知っていることは多いはずだ。
「私が聞きたいわ」
ルヴィアーレは天井に浮かぶ魔導の塊を見つめ、その動きを目に捉えていた。
狭い通路の祭壇にフィルリーネと魔導を流せば、通路の壁面や地面に引かれていた線に魔導が流れ、転移の魔法陣が浮かんだ。
それが一瞬で自分たちを通り、気付いたら別の空間に移動させられていたのだ。
広い空間。しかし先ほどと同じ遺跡の中と思われる。ただ不思議なのは、水に浸された部屋の中だったと言うことだ。
「あの先が、本物の祭壇よ」
自分たちが立っているのは長方形の石の上。その周囲は水で浸されている。その水の深さは分からない。真っ暗で底が見えているのか見えていないのか分からないからだ。
天井近くには魔導の塊が見える。冬の館の祭壇と同じように、魔導の塊が蠢いていた。
魔導を流すであろう祭壇は今自分たちが立つ長方形の先にあった。そこだけ大きな四角形になり、祭壇が置いてある。
祭壇には楕円形の模様が描かれていた。流れるようなゆらめきの線だ。水のような不思議な模様である。
「何か意味があるのかしらね。水を祀っているみたいに見えるけれど」
「冬の館はこんな手の凝った場所ではなかったが」
「そうなんだよね。ここはやけに手が凝ってると思わない?」
「宝石でも置いてあったか?」
「分からないわ。ただニーガラッツはここに気付いて、何かをしようとしたのかもしれない。ただ、この祭壇に入られるのは、恐らく私とあなただけだったってことは言っておくわ」
「どういう意味だ?」
「魔導を流してもアシュタルやヘライーヌはここに入られなかったってことよ。王族だから入られたのか、それとも別の要因があるのか。ニーガラッツがここに入られなかったと分かるのは、足跡がなかったから」
足下を見てみると確かに足跡が残っている。祭壇と転移させられた場所を往復した跡が残っているが、これは全てフィルリーネの足ほどの大きさだった。フィルリーネがここに初めて来た時には誰の足跡もなかったと言うことだ。
「ニーガラッツはこの場所を知って試しに来たと言うことか」
「その可能性が高いわ。精霊の書の秘密に気付いたのでしょう」
「秘密とは?」
「ヘライーヌが祭壇は四つあるのではと気付いたのよ。その一つがここであることも分かっていた。その内しっかり調べようと思っていたのだけれど、先を越されたわね」
「聞いていないが?」
「話してないもの」
腹は立つがフィルリーネが言う必要はない。カサダリア付近で遺跡が見付かったことは聞いているが、イアーナがいたから耳にしたことだ。本当なら言う気などなかっただろう。
しかし、今回自分にこれを教えたのは、試す必要があったからだ。
フィルリーネだけがこの場所に入られた。アシュタルとヘライーヌは入られなかった。ならば同じ条件を持つ自分はどうなるのか、知りたかったのだ。
自分がフィルリーネと入られた要因が、王族だからか他の要因があるのか。それは分からないが、入られたことは確かである。
「それで、人に試させておいてどうする気だ。あの祭壇に魔導を流すのか?」
「選定される気はないけれど、魔導を流して何が起こるかは見ておきたいわね」
「カサダリアの遺跡でも魔導を流したのか?」
「流したと言うより、奪われたと言った方がいいわ」
冬の館でも同じだった。魔導を流す気などなくとも、あの祭壇に触れただけで魔導を奪われた。だとしたら、ここでも魔導は奪われるだろう。
その時に何が起こるのか、それはまだ分かっていない。
しかし、思い当たることはある。
「やってみる?」
「お望み通りに」
フィルリーネに促されて手のひらを祭壇の上にかざす。フィルリーネは隣で同じように手のひらを広げた。
まるで婚約の儀式のようだ。祭壇にそっと触れると、ぞわりと手の平から魔導が抜けるのを感じた。
フィルリーネはすぐに祭壇から手を離す。フィルリーネの魔導も奪われた。
魔導は石の祭壇の模様を伝うと水の中へと入っていく。底にある模様に魔導が流れ幾つもの線が光って見えた。それが壁に向かい、天井へと上った。
「同じね。消えちゃった」
「あの魔導の塊に混ざったのは見えたが」
天井は四角錐になっている。魔導はその頂点へ吸い込まれたのだろう。あの天井には多くの魔鉱石が埋まっているはずだ。
「さて、何も起こらないわね」
「古き遺跡の選定か。ニーガラッツはこれを確かめたかったと思うか?」
「他の遺跡にも現れているかもね。ここと違って祭壇には触れられるから」
だが、それで何が起こるのか、ニーガラッツは分かっているのだろうか。
どちらにしても、この部屋に入られなければ意味はないが。
「ニーガラッツをどうする?」
「捕らえなければならないわね。あの精霊も気になるし。連れ歩いているのならば、何かに悪用するのでしょう」
その精霊について分かっていることはほとんどない。エレディナが精霊たちを移動させるために使ったと言っていただけだ。
洞窟の籠の中にいたと聞いたが、連れて歩く意味は何だろうか。
「魔獣と精霊を混ぜて起きることなど、想像付かないな」
「精霊を形として見ることのできないニーガラッツが、形を成すものとしてあの精霊を作り上げて、ペットみたいに連れ歩いて、どんな能力を使わせるのかってところね」
王族でない者は精霊の姿を見ることはできない。その存在を感じ視界に入れることができても、どんな形を成しているのかははっきり見えないと言う。
その姿が目に見て取れる。そしてその能力ははっきりしない。不気味な存在だが、王族と同じく目に取れる精霊を手懐けているとすれば、ニーガラッツが祭壇を回る理由はある。
「王族と同じ力を欲しがっているならば、選定にも参加したがるか…?」
「考え方が前王と同じならば、そうでしょうね。前王は魔導量が少なく選定が行えない。ニーガラッツは自分の魔導量に自信があるでしょう。けれど、選定の遺跡ができたのはマリオンネができる前の話と聞いている。マリオンネを蔑ろにしてこの世界の頂点にでも立つ気?」
フィルリーネは鼻で笑うように口にする。頭上の魔導の塊を見上げると、蠢きながらそうだと言っているかのように機械音が耳に届いた。
「精霊の書の解読はまだ終えぬのか、確認してくれ」
「承知しました。本日の、遺跡に関わりが?」
サラディカに問われて口を閉じる。サラディカは察して頭を下げると寝所を出ていった。
地下の遺跡から出るとサラディカたち護衛の者は安堵の表情を見せた。出入り口が勝手に閉ざされて外で待たされたためかなり警戒していたようだ。
フィルリーネが何かをするとは思っていないだろうが、アシュタルですら緊張した面持ちを見せていたのだから、イアーナなどは特に不安を抱えただろう。
しかし、選定の件は広く口外するべきではない。
現状のマリオンネはアンリカーダ派が勢いを増している。前女王であれば選定の場所を祈りの地として祀る程度で保管するかもしれないが、アンリカーダがそうだとは限らない。
フィルリーネが自分だけに試させたのは当然のことだろう。
「はあ。ここに来てから問題ばかり起きる…」
つい呟いてベッドに座り込む。
精霊の書は前にイムレスに借りた後、写しをラータニアに秘密裏に送った。半分ほどの解読は行われその結果を得られたようだが、自分の手元に全てが送られることはない。
しかし、重要なことについてのみ連絡は届いた。
選定は間違いない。マリオンネの女王が空城に住まう前に行われていたと言うのは、精霊の書に書かれていたことである。
ただ、それをどう行うかはまだ解読されていなかった。おそらくグングナルドでも同じだろう。そうでなければフィルリーネが自分をあの選定の場所に連れたりはしない。
精霊の書にそれについての記述がないのか、それとも暗号のようになっているのかは分からないが、それをアンリカーダに気付かれることだけは避けなければならない。
「エレディナ」
呼んだ声に時間を掛けずふわりと現れた水色の髪の少女は、当たり前のように空に浮きながら腕や足を組んで自分を見下ろした。
「私に聞いても話すことなんてないわよ」
何を言うでもないのに、エレディナは先に断りを入れてきた。呼ばれて来ただけなのに何の用か想像がついているのは、こちらがどこまで気付いているのか理解しているからだろう。
「私をあの場に連れようと言ったのはフィルリーネだろう。止めようとは思わなかったのか?」
「あの子だけが行うよりましでしょ」
「なるほど」
エレディナこそどこまで理解しているのか。ただ、エレディナがフィルリーネに黙っていることは多そうだ。
人型の精霊なのだから、マリオンネに詳しいのは当然だが、護る相手に全てを話しているわけではないらしい。
「フィルリーネには話さぬのか?」
「あの子は大切な子なのよ。私から何かを伝えることはできない」
人型の精霊はマリオンネで生まれ住まうのが基本である。地上に降りて特定の人間に付くことは稀だ。
なのに王族二人に付いてこの国に留まっている。
その理由は分からない。本来ならばあり得ないと言っていいことを、エレディナは行っているのだ。
それを言うならばヨシュアもだが。
「…フィルリーネには何があるのだ? 叔父のこともそうだが」
「私はハルディオラに頼まれただけよ。残されたあの子を護ること。ハルディオラにとってあの子は大切なの。大切な人の子供だからね」
「フィルリーネの母親か…」
話に出ることはない、フィルリーネの母親。フィルリーネ本人も叔父以外に興味はなさそうだった。
叔父のハルディオラに何があるとは聞いたことがない。エレディナとヨシュアがその叔父に付く理由も分からなかった。
ただハルディオラのためにフィルリーネを護るならば、遺跡の祭壇をこれ以上探さない方が良いことは分かっているだろう。
「マリオンネに祭壇を気付かれれば面倒になるぞ」
「それを言われてもね。あの子が勝手に見つけたり見つかったりするのよ。それで止められると思うの? 行くって言ったらあの子は聞かないのよ。いつも一人でやってきたから」
それもそうだと肩を竦める。駄目だと言っても勝手に動いて解決しようとするだろう。だが、そうだとしても危険が伴う。今のマリオンネは前のマリオンネとは違う。選定については関わらない方が良い。
「ニーガラッツが遺跡の祭壇の意味に気付いているのならば、先に遺跡の場所を調べるべきと言いたいが、関わらぬ方が安全だ。女王が代わった今、過去の遺物を掘り出すと面倒になる」
「仕方ないでしょ。見つかるんだから」
「お前は全ての場所を知っているのではないのか?」
「知らないわよ。人型の精霊だからって何でも知ってると思わないで」
だが、知っていることは多いはずだ。
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