高飛車フィルリーネ王女、職人を目指す。

MIRICO

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来訪2

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「姫さん、遺跡の魔鉱石、冬の館と同じだったよ。高濃度の魔鉱石が埋まってた」

 のっけからヘライーヌが目をキラキラさせて報告してくる。目の中はキラキラでも、相変わらずクマだらけの血色の悪い顔をしていた。

「最初に見付けた方の遺跡より、後で見付けた遺跡の方が先に作られてた。最初に見付けた遺跡は後から作ったみたい」
「調査した者たちからは、身分の低い者たちが使用していたか、魔導の力を受けすぎないよう、影響の低い祭壇を作ったのではないかと言う意見だったよ」
 イムレスが捕捉する。ただ魔導院の調査隊が祭壇で魔導を奪われることはなかったそうだ。

「後で見付けた祭壇でも、フィルリーネ様なら魔導を奪われたのだろうね。精霊の書に書かれた内容を鑑みれば」
 イムレスは意味ありげに言ってくれるが、それが喜ばしいことなのか何とも言えない。王族にしか反応しない可能性もあるだろう。

 ルヴィアーレにも試してもらいたいところだが、今はマリオンネから調べに来られても面倒なので、魔導を与えるような真似をしたくないと言うのが正直なところだ。
 ヘライーヌは魔導が奪われる様を見たいようで、何度も祭壇で試したらしいが。

「精霊の書に書かれた地図が曖昧だったけれど、この国に四箇所あのような遺跡があるのは間違いないでしょう」
 イムレスは断言してくれる。

 遺跡はマリオンネの女王が国を担う王を選定する前から大地にあったもの。マリオンネの影響がない時代にあった、古く歴史のある建物。
 新しい発見に喜びたいところだが、マリオンネが関わるとそうはいかない。

「しばらくは、内々の話で。魔導院の調査人数は控えめに、信頼ある者だけね?」
「そのようにしてますよ。調査内容に関して口にはできません」

 そうはっきりと言えるのは、禁句の魔法陣を魔導院の調査隊に与えているからだ。関わりのない者に口頭や筆記で説明ができない、軽い呪いの魔導を掛けている。
 えげつない魔法陣を作ったのは、そこにいるイムレスだ。解除の方法は彼や自分くらいしか知らない。

 普段の魔導院にそんな理不尽な魔導は与えないのだが、今回はそれほど繊細な話と言うことだ。
 調査内容に目を通して、フィルリーネはルヴィアーレにそれを渡す。他国の人間に渡すのも問題なのだが、浮島のあるラータニアの王族から見て、どんな考えを持つかは気になるところだ。

「冬の館と同じにしては、洞窟が大きめだな」
「ダリュンベリの地下の方が大きいわよ。あっちは下に広いけれど。ヘライーヌが連れていったんでしょ」

 ヘライーヌは横を向いて口を尖らした。こっそりルヴィアーレをダリュンベリの遺跡に連れて行ったことは後で聞いた。ついでに狭間の魔法陣を張っていたことも聞いている。
 今はそれも消してある。魔導院から個人的に転移できるなどと、よくやってくれたものだと呆れしかない。

「ダリュンベリの地下にもあんな魔導の塊どこかにあるのかなー」
「あそこには祭壇はないけれど、不思議な模様の壁は似ているものね」

 ほとんど行ったことがないのでうろ覚えだが、壁面の模様の雰囲気は似ている。ただあちらは禁書でも置いていたかのような厳重な場所で、広い書庫であるだけだ。
 実際、今では使われない強力な攻撃の魔法陣とか載ってたわけだしね。書庫と思うのが当然だ。

「遺跡同士が繋がっていなかったのを考えれば、別の入り口があるのかもしれないよ」
 イムレスは四箇所ある遺跡全てに魔鉱石の埋まった天井があると考えているようだ。魔導が溜まるほどの魔鉱石が埋まっているならば、冬の館の洞窟で行われた選定が、四箇所あることになるのだが。

 それも考えているのだろうか。その昔、マリオンネに女王がいない頃、王を選ぶための選定場所が四箇所あった。
 考えたくないなあ。今はそんなこと考えてる余裕なんてないよ。

「ダリュンベリの遺跡は再調査する必要はないわ。カサダリアの遺跡は調査を続け、周囲の警戒を怠らないように。関係者以外に気付かれぬよう、引き続き魔導で場所を隠しておくこと。問題は遺跡だけではないのよ」
「えー、姫さん。もっと遺跡調べようよ。ダリュンベリも他の遺跡あるかもよ」
「今はカサダリアの遺跡に集中してくれる。イムレス様の部屋から直通作ってもいいから」
「ほんと!? イムレス様! 狭間の魔法陣作っていいって!」

 その方が大人しく調査してくれる気がする。心置きなくそこに集中してもらいたい。ダリュンベリの遺跡は後回しにしてほしい。オルデバルトがいるダリュンベリ付近でヘライーヌがうろつくのはどうにも不安なのだ。

 イムレスは笑顔ながら無言で非難の目を向けてくるが、知らんぷりを決め込む。ヘライーヌには遺跡に集中してもらった方がいい。
 イムレスの部屋ではなくとも、安全な部屋を出入り口として行ってもらえれば良いのだ。イムレスの部屋が一番安全だと思うけどね。

「入り口だけれど、壁に遮られていて、そう言ったものは見受けられなかったよ。転移の魔法陣に似た魔法陣の跡があったから、出入り口はそこではないかなと」

 大まかな図を見る限り、通った直線の回廊に繋がる道はなく、その直線の回廊の左右に小部屋がいくつかあっただけだった。
 その小部屋には壁から迫り出した椅子のようなものがあるだけで、他に目立ったところはなく、待合室のような場所だったのではないかと想定された。

「多くの人が集まる場所だったのかもしれないね」
「順番に魔導を収めに行ったみたいに見えるわね」
「そうなると、選定とはまた違った意味合いになると思うが?」

 調査書を読んでいたルヴィアーレが疑問を投げかけてくる。冬の館で王の選定として魔導を奪われたのならば、話が違ってくるのだ。
「この遺跡も、ダリュンベリの遺跡も、人工的で無機質な空間だったけれど、場所ごとに意味は違う可能性もあるわね」

 むしろそうであって欲しい。そんなにたくさん選定場所などいらないと思う。せめて魔獣を退けるために祈っていたとか、そのくらいの場所にしておいてほしい。
 そう考えていることを分かって欲しいのだが、ヘライーヌがつまらなそうに口を挟む。

「冬の館もカサダリアも、同じ魔導の蠢き方だったよ。魔導は吸われなかったから分かんないけど、姫さんがやったら吸われたんなら、同じ作りになってるよ。見た感じでは魔導の塊はうにょうにょしてるように見えるけど、調べると中は同じ方向に動いてた」

 エレディナを使いぎりぎりまで近付いて調査をしていた者の言葉だ。蠢く魔導の中に流れがあり、それは天井から出たり入ったりしていたそうだ。

「天井の中に埋まってる魔鉱石が流れを作るようにしてるんじゃないかな。掘ってみれば分かるよ」
 それは許可できない。遺跡を壊す云々は置いておいても、あの魔鉱石の魔導の量が天井を壊した時にどう動くか分からなかった。
 高濃度の魔導が弾けるように放出されれば、地下に大穴が空いてもおかしくない。

「吸われた魔導は天井に流れるだけなのか。地上から放出されることはないのか?」
 ルヴィアーレは放出された魔導がどこに運ばれるか気になったようだ。魔導を奪われ魔導の塊に混ざるだけかと思っていたが、魔導の塊に流れがあるのならば、魔鉱石の方へ流れた可能性もある。

「大量の魔導が天に向けて発せられるならば、それは王の選定として相応しいだろうけれど」
 イムレスは茶化すように言うが、実際遺跡のある地上には木々しかなく、それが魔導によって破壊された形跡はなかった。魔導が放出されれば大穴が開いてもおかしくないのだ。

「大量に放出されず、大地に染みるように流れたのならば、それほどの影響はないだろうけれどね。むしろ大地の栄養となる」
「精霊の力のようにですか?」
「魔鉱石は精霊の副産物だ。魔鉱石を通して流れた魔導が薄ければ、大地に影響はないだろう?」
「広範囲に放出させるような位置に、あらかじめ埋められていたと言うことになるが?」
「古来の遺跡です。何とも言えないでしょう」

 イムレスの答えにルヴィアーレが疑問を呈したが、マリオンネのない時代のことは未だ証明されていない。破壊されないような計算がされているのかもしれないと言われて、ルヴィアーレは否定もできずに口を閉じた。

「逆に言えば、破壊されない程度に放出されている可能性もありますけれどね」
 当時マリオンネがないとすれば、王の選定とやらはどのように行われていたのか。魔導を吸われてその魔導が周囲に放出されていれば、地上にいる者たちに判断ができたのだろうか。

「色々疑問ね。その辺りも調べられるの?」
「精霊の書には選定って書いてあるけど、それがどうやってとかは書いてないよ。他に資料があるんじゃないの?」

 ヘライーヌがつまらなそうに足をぶらぶらさせて言った。そう言ったことにはあまり興味はなく、自分の目で理解できることに集中したいようだ。
 もう帰って調べに行ってもいい? とイムレスに問う。

 遺跡については引き続き調べてもらうことにして、ヘライーヌには退出を許す。
 遺跡の話も聞きたかったわけだが、自分たちは遺跡のためにあの場所に行ったのではない。

「それで、沼が枯れた件については分かりました?」
「エレディナの話だと、山際に精霊が少なくなっているようだから、川に流れる水や大地に影響が起きた可能性が否めないね」
 イムレスはカサダリアの地図を出す。その地図には部分的に斜線が引かれているところがあった。

「沼付近だけでなく、最近木々が枯れている場所も記した地図だよ」
「随分あるな…」
 ルヴィアーレが口を挟んだ。記された沼地は特に広めに斜線が引いてあったが、他にもちらほら見受けられる。

「精霊が減っている証拠と言ってはあれだけれど、この枯れた部分には魔獣が増えているそうだよ」
 精霊が減れば魔獣が増える。それは分かっているが顕著に出過ぎてうんざりする。そしてその増える速度が速い。

「魔獣は地下に住むことが多いけれど、精霊が地上にいないことをいいことに、表に出やすくなっているのかもしれないね」
「女王がさっさとまともに統治してくれないと、増え続けそうですね」

 アンリカーダが新しい女王になっても精霊は減っていく。精霊が原因で川が枯れるとなれば、王族の力を使い精霊を呼び込むしか手はない。
 ルヴィアーレは無言になって地図を睨んだ。ラータニアでは考えられないだろうが、これがグングナルドの現実である。

「魔獣を避けるために、また特別な魔鉱石を作りましょうか。これだけ枯れた場所が増えたならば魔獣の増え方も加速度的になるでしょう」
「臨時的な方法だけれど、魔獣の増加は避けたいのは事実だよ」
「だが川の枯渇はどうにもならないだろう」
 ルヴィアーレの言葉はもっともだが、その場合行うのは一つだと彼は知っているはずだ。

「またその場所に行って祈る気か?」
「今はそれしかないもの」

 ルヴィアーレはあの祈り方について反論したいのだろう。しかし、ここグングナルドでは精霊に祈りを上げる儀式は年に一度しかない。
 それを行ったとして、今現状影響を受けている限定的な位置に合わせるのも難しいのだ。

「その時には、私も行く」
 ルヴィアーレは唸りながらもそう提案した。そんな絞り出すように言うくらいならいらないんだけど。

 しかし、手伝ってくれるならばありがたい。思い出さないようにしていたが、ルヴィアーレは精霊に婚姻を許された者である。
 つまりグングナルドの王族として使えるのだ。これは気にせず手伝ってもらおう。

 そう思っている時、扉にノックの音が鳴り響いた。
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