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事件2
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「爆破事件があったそうだな」
「西門の城壁付近とその近くの街の中でね」
ルヴィアーレは執務室に入り込むなり人払いをした。引き籠もり部屋に二人で入るよりましだと言われて、一応納得しているが、イアーナはうるさいことだろう。
扉の外でアシュタルと睨めっこしていそうで、何だか気が重い。アシュタルとの会話はあれ以降進んでおらず、どう返答するかはまだ迷い中である。
「西門にいた精霊たちは何も見ていないって言ってたわよ」
エレディナが姿を表して、ぷかぷかと浮きながら寝転がった。
人が見ていなくても精霊が何か見ているかもしれない。そんな淡い期待を持ってエレディナに尋ねるようお願いしていたが、精霊たちから情報はなかったようだ。
「騒ぎにするには人気の少ない場所だと聞いたが?」
「そうなのよね。だから混乱を招きたかったわけではなく、他に目的があることも念頭に調べてもらってるわ」
「旧友も訪れたらしいな」
どこで聞いたやら。ルヴィアーレはタウリュネについて耳にしたようだ。
「この時期で城まで来たのならば、何かあったのだろう?」
今はまだ忙しくしているフィルリーネが、楽しく友人とお茶をする時間などあるはずがない。だとしたら問題が起きたと推測してくる。
タウリュネが訪問してきたことを、どこから知り得たやらだ。ほとんど中央政務官室や執務室で過ごしているので、居場所を確認しやすいのだろうが、油断できない。
「ワックボリヌの娘が私に仕返しをしたくて、こっちのスケジュールを聞きたがっていたらしいわ。覚えてるでしょ。あなたに色目使うロデリアナよ」
「執念深そうだな」
「あなたに執着してるけどね」
「私の知ったことではない」
ごもっともであるが、その矛先がこちらなのは納得いかない。
「それで、何か対処を?」
「今のところ何かあるわけでもないからね。監視と調査を増やしてるだけ。ロデリアナよりワックボリヌの関係者の方が危険だわ」
「何か動きが?」
ないわけではないが、ワックボリヌ周囲だけではないので、肩を竦めるだけにしておく。
「カサダリアへ行く予定なのだろう? 警備を連れて行ったらどうだ?」
「王女の仕事とは別だもの。警備を連れて行く移動じゃないわ」
聖堂で子供たちを預かる計画が進み、カサダリアに行く予定があるのだが、それにフィルリーネとして行くことはできない。忙しい中滞在時間を長くつくることはできないが、フィリィが中心になって行う事業の一つなので、フィリィが行かないわけにはいかなかった。
ぱっと行ってぱっと帰ってくる予定である。警備は必要ない。
「カサダリアにはアシュタルを連れていけ」
その名前を聞いてつい動きを止める。アシュタルはルヴィアーレにも同じことを言ったのだろうか。
「本人から言われたか?」
「な、何をよ」
「アシュタルは連れて行け。こちらへの威嚇も強くなっているからな」
「アシュタルの態度が攻撃的なのは否めないわ」
それはこちらも理解していることである。そろそろ注意しようとは思っていたわけだが。
「君がまともに守らせないからだろう。君はエレディナと動くことが当たり前になりすぎている。グングナルドの街中では警備を連れるのは難しいだろうが、カサダリアであれば構わないだろう。アシュタルは連れて行け」
グングナルドの警備騎士はアシュタルの顔を知っている。カサダリアではさほど知っている者は多くない。カサダリアで一緒に歩いても気付かれないだろう。
「王都を出るのだから連れて行くに越したことはない。警備を許したのだから、納得のいく扱いをしろ」
ルヴィアーレはアシュタルの気持ちを理解しているように言ってくる。ぴしゃりと言われてフィルリーネは口籠った。
「問題があるか?」
「別にないけど」
「だが、その気にならないのだろう」
警備を付けなければならない。王の代理としているのだからそれは当然だ。しかし、フィリィの仕事に警備は付かない。だからそれこそ問題ないと思うのだが、ルヴィアーレは違うとはっきり否定する。
「君は王女であっても、その内その立場から離れるなら警備など必要ないと考えている。だが、警備に付く者たちは今の君を守る必要がある。彼らの考えを無下にするならば、初めから警備などおくな」
警備を命じておきながら守らせない。アシュタルが不満を感じるのは当然だ。
そんなことをはっきり言われ、反論しようにも言葉が出てこなかった。
話ってそのことだったのかな。近況を確認するついでだったのか、アシュタルについてが主要話だったのか、ルヴィアーレの話はそこまでで、他の話題はなかった。
ただ、自分がおかしな表情でもしていたのか、去り際に近寄って人の頬をつねっていったのだが。
わざわざ何でつねるかな。ふっと笑んで踵を返す。いや、嫌味な顔して部屋出てったわ。
「フィリィ様、考え事をされて歩かれると、危ないですよ」
「大丈夫よ。ちゃんと見てる。それより、様付けしないの」
アシュタルは困ったように頭をかいて、気を付けます。と先に進む。
アシュタルはフィルリーネの背後を一定の距離を開けてぴったりと付けてきていたが、人混みの中掻き分けるように進もうとしたら、今度は前を歩くと道も知らないのに先導を始めた。
王女が人にぶつかりながら進むのが気に食わなかったようだ。アシュタルの背中を追うと言う、滅多にない機会を得てしまった。
結局、カサダリアにはアシュタルを連れることにした。
今回の爆破事件もあり、カサダリアでも同様な事件が起きないとは限らないため、一人での訪問にガルネーゼがフィルリーネの外出に待ったを掛けたからである。
正確には護衛もつけずうろつくことを、ガルネーゼ以外の他の者たちが渋ったからなのだが。
警備はアシュタルだけではない。他の護衛もいるし、城を留守にするとなれば、ある程度の者たちには知らせる必要があった。
前のように引き籠もることが許される立場ではなくなったからだ。
その中にハブテルとエシーロムを入れたのは、何かあった際にフィルリーネを尋ねる可能性があるためだ。二人を騙すのは得策ではない。
前々より一人で出歩いて学びの場所を作る計画を進めていたと伝えれば、エシーロムもハブテルも揃って驚いた顔をしてくれたが。
反王派をまとめてこられたのはイムレスとガルネーゼの力があった。それを念頭にすれば王女が一人であちこちうろついているとは想像が付かないらしい。
エレディナにより転移できることも考えていなかったのだろう。転移してもせめて城内。街を越えて別の場所に移動しているとは、全く予想していなかったようだ。
城には結界もあるしね。精霊がその結界に引っ掛からないとは、知るわけないんだし。
そして一人で出ると言えば、猛反対を受けたわけである。エレディナがいると言っても聞いてくれなかったのだ。アシュタルの名を出して、何とか許可を得た。
そのアシュタルは、王女警備がどうしても抜けない。
「アシュタル、そんな風にいかにも警備で前歩いてますって感じにしなくていいから」
「え、すみません。しかしこう人が多いと」
「あと敬語もやめなさいって言ってるでしょう。今日のあなたは私の協力者。ガルネーゼの部下の部下の下っ端部下。私がむしろ敬語話す方!」
「わ、分かっています!」
分かってないよ。ルヴィアーレはいかにも貴族のおぼっちゃまだったが、アシュタルはいかにも護衛してますが滲み出ている。
「気楽に歩いて。そんなぴしぴし歩かないでいいから。普段街うろつく時もそんな感じなの? お酒飲んでへろへろして歩いてよ」
「無理言わないでください。酒を飲んでもそんなふらついたりしません。街にも出ませんから」
アシュタルは若くして王騎士団に入られる実力を持っているだけでなく、そもそもの身分が高い。それを考えれば酒を飲んでも街でふらつくわけがないのだ。
王女の周囲にいる者たちに、街でぶらぶら歩けと言っても無理があった。
「じゃあ、ほら。練習しよう。もっと気楽に歩くの」
「フィ、ルリ、フィリィ!?」
アシュタルの袖を引っ張って横並びになると、アシュタルが上擦った声を上げた。ぎりぎりフィリィと呼んだことは許してやろう。
「一緒に歩いてるのに前歩くわけないでしょ。横並びよ」
「いえ、それは。あの」
何をもごもごと。俯いたり他所見たり忙しなくして、頬を赤らめた。
サラディカと街を歩いた時、彼は横並びを気にもしなかったが、アシュタルは気になるらしい。
警備としてついてきたのに、横並びになるとは思わなかったようだ。本人、後ろから、それこそ離れてつ付いてくるつもりだったのだろう。しかし、アシュタルは身長もあり体格もしっかりしているので、ルヴィアーレ同様目立つのである。隠れて警備は難しい。
「西門の城壁付近とその近くの街の中でね」
ルヴィアーレは執務室に入り込むなり人払いをした。引き籠もり部屋に二人で入るよりましだと言われて、一応納得しているが、イアーナはうるさいことだろう。
扉の外でアシュタルと睨めっこしていそうで、何だか気が重い。アシュタルとの会話はあれ以降進んでおらず、どう返答するかはまだ迷い中である。
「西門にいた精霊たちは何も見ていないって言ってたわよ」
エレディナが姿を表して、ぷかぷかと浮きながら寝転がった。
人が見ていなくても精霊が何か見ているかもしれない。そんな淡い期待を持ってエレディナに尋ねるようお願いしていたが、精霊たちから情報はなかったようだ。
「騒ぎにするには人気の少ない場所だと聞いたが?」
「そうなのよね。だから混乱を招きたかったわけではなく、他に目的があることも念頭に調べてもらってるわ」
「旧友も訪れたらしいな」
どこで聞いたやら。ルヴィアーレはタウリュネについて耳にしたようだ。
「この時期で城まで来たのならば、何かあったのだろう?」
今はまだ忙しくしているフィルリーネが、楽しく友人とお茶をする時間などあるはずがない。だとしたら問題が起きたと推測してくる。
タウリュネが訪問してきたことを、どこから知り得たやらだ。ほとんど中央政務官室や執務室で過ごしているので、居場所を確認しやすいのだろうが、油断できない。
「ワックボリヌの娘が私に仕返しをしたくて、こっちのスケジュールを聞きたがっていたらしいわ。覚えてるでしょ。あなたに色目使うロデリアナよ」
「執念深そうだな」
「あなたに執着してるけどね」
「私の知ったことではない」
ごもっともであるが、その矛先がこちらなのは納得いかない。
「それで、何か対処を?」
「今のところ何かあるわけでもないからね。監視と調査を増やしてるだけ。ロデリアナよりワックボリヌの関係者の方が危険だわ」
「何か動きが?」
ないわけではないが、ワックボリヌ周囲だけではないので、肩を竦めるだけにしておく。
「カサダリアへ行く予定なのだろう? 警備を連れて行ったらどうだ?」
「王女の仕事とは別だもの。警備を連れて行く移動じゃないわ」
聖堂で子供たちを預かる計画が進み、カサダリアに行く予定があるのだが、それにフィルリーネとして行くことはできない。忙しい中滞在時間を長くつくることはできないが、フィリィが中心になって行う事業の一つなので、フィリィが行かないわけにはいかなかった。
ぱっと行ってぱっと帰ってくる予定である。警備は必要ない。
「カサダリアにはアシュタルを連れていけ」
その名前を聞いてつい動きを止める。アシュタルはルヴィアーレにも同じことを言ったのだろうか。
「本人から言われたか?」
「な、何をよ」
「アシュタルは連れて行け。こちらへの威嚇も強くなっているからな」
「アシュタルの態度が攻撃的なのは否めないわ」
それはこちらも理解していることである。そろそろ注意しようとは思っていたわけだが。
「君がまともに守らせないからだろう。君はエレディナと動くことが当たり前になりすぎている。グングナルドの街中では警備を連れるのは難しいだろうが、カサダリアであれば構わないだろう。アシュタルは連れて行け」
グングナルドの警備騎士はアシュタルの顔を知っている。カサダリアではさほど知っている者は多くない。カサダリアで一緒に歩いても気付かれないだろう。
「王都を出るのだから連れて行くに越したことはない。警備を許したのだから、納得のいく扱いをしろ」
ルヴィアーレはアシュタルの気持ちを理解しているように言ってくる。ぴしゃりと言われてフィルリーネは口籠った。
「問題があるか?」
「別にないけど」
「だが、その気にならないのだろう」
警備を付けなければならない。王の代理としているのだからそれは当然だ。しかし、フィリィの仕事に警備は付かない。だからそれこそ問題ないと思うのだが、ルヴィアーレは違うとはっきり否定する。
「君は王女であっても、その内その立場から離れるなら警備など必要ないと考えている。だが、警備に付く者たちは今の君を守る必要がある。彼らの考えを無下にするならば、初めから警備などおくな」
警備を命じておきながら守らせない。アシュタルが不満を感じるのは当然だ。
そんなことをはっきり言われ、反論しようにも言葉が出てこなかった。
話ってそのことだったのかな。近況を確認するついでだったのか、アシュタルについてが主要話だったのか、ルヴィアーレの話はそこまでで、他の話題はなかった。
ただ、自分がおかしな表情でもしていたのか、去り際に近寄って人の頬をつねっていったのだが。
わざわざ何でつねるかな。ふっと笑んで踵を返す。いや、嫌味な顔して部屋出てったわ。
「フィリィ様、考え事をされて歩かれると、危ないですよ」
「大丈夫よ。ちゃんと見てる。それより、様付けしないの」
アシュタルは困ったように頭をかいて、気を付けます。と先に進む。
アシュタルはフィルリーネの背後を一定の距離を開けてぴったりと付けてきていたが、人混みの中掻き分けるように進もうとしたら、今度は前を歩くと道も知らないのに先導を始めた。
王女が人にぶつかりながら進むのが気に食わなかったようだ。アシュタルの背中を追うと言う、滅多にない機会を得てしまった。
結局、カサダリアにはアシュタルを連れることにした。
今回の爆破事件もあり、カサダリアでも同様な事件が起きないとは限らないため、一人での訪問にガルネーゼがフィルリーネの外出に待ったを掛けたからである。
正確には護衛もつけずうろつくことを、ガルネーゼ以外の他の者たちが渋ったからなのだが。
警備はアシュタルだけではない。他の護衛もいるし、城を留守にするとなれば、ある程度の者たちには知らせる必要があった。
前のように引き籠もることが許される立場ではなくなったからだ。
その中にハブテルとエシーロムを入れたのは、何かあった際にフィルリーネを尋ねる可能性があるためだ。二人を騙すのは得策ではない。
前々より一人で出歩いて学びの場所を作る計画を進めていたと伝えれば、エシーロムもハブテルも揃って驚いた顔をしてくれたが。
反王派をまとめてこられたのはイムレスとガルネーゼの力があった。それを念頭にすれば王女が一人であちこちうろついているとは想像が付かないらしい。
エレディナにより転移できることも考えていなかったのだろう。転移してもせめて城内。街を越えて別の場所に移動しているとは、全く予想していなかったようだ。
城には結界もあるしね。精霊がその結界に引っ掛からないとは、知るわけないんだし。
そして一人で出ると言えば、猛反対を受けたわけである。エレディナがいると言っても聞いてくれなかったのだ。アシュタルの名を出して、何とか許可を得た。
そのアシュタルは、王女警備がどうしても抜けない。
「アシュタル、そんな風にいかにも警備で前歩いてますって感じにしなくていいから」
「え、すみません。しかしこう人が多いと」
「あと敬語もやめなさいって言ってるでしょう。今日のあなたは私の協力者。ガルネーゼの部下の部下の下っ端部下。私がむしろ敬語話す方!」
「わ、分かっています!」
分かってないよ。ルヴィアーレはいかにも貴族のおぼっちゃまだったが、アシュタルはいかにも護衛してますが滲み出ている。
「気楽に歩いて。そんなぴしぴし歩かないでいいから。普段街うろつく時もそんな感じなの? お酒飲んでへろへろして歩いてよ」
「無理言わないでください。酒を飲んでもそんなふらついたりしません。街にも出ませんから」
アシュタルは若くして王騎士団に入られる実力を持っているだけでなく、そもそもの身分が高い。それを考えれば酒を飲んでも街でふらつくわけがないのだ。
王女の周囲にいる者たちに、街でぶらぶら歩けと言っても無理があった。
「じゃあ、ほら。練習しよう。もっと気楽に歩くの」
「フィ、ルリ、フィリィ!?」
アシュタルの袖を引っ張って横並びになると、アシュタルが上擦った声を上げた。ぎりぎりフィリィと呼んだことは許してやろう。
「一緒に歩いてるのに前歩くわけないでしょ。横並びよ」
「いえ、それは。あの」
何をもごもごと。俯いたり他所見たり忙しなくして、頬を赤らめた。
サラディカと街を歩いた時、彼は横並びを気にもしなかったが、アシュタルは気になるらしい。
警備としてついてきたのに、横並びになるとは思わなかったようだ。本人、後ろから、それこそ離れてつ付いてくるつもりだったのだろう。しかし、アシュタルは身長もあり体格もしっかりしているので、ルヴィアーレ同様目立つのである。隠れて警備は難しい。
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