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レブロン

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「明日、フィルリーネとイムレスが魔導訓練を行う。その時に周囲を注視しておけ。妙な輩がいれば確認を」

 ルヴィアーレの言葉に集まった者たちは、頭を垂れてその命令を聞いた。
 フィルリーネ王女がイムレスと魔導訓練をするのに、ここまで大きな会場で、しかもこれほど大勢の観客が集まるとは、露ほども思わなかったが。

 イムレスの放出した魔導を避けたフィルリーネは、時間をかけずに魔法陣を描き上げ、氷柱の刃でイムレスを攻撃した。

 素早い動きをしながら正確な魔法陣を作り上げるのは、王直属の魔導士レベルである。イムレスがそれを行うことに何の疑問も持たないが、フィルリーネがそれを当たり前に行うのを目の当たりにして、観客に来ていた者たちと同じく口を開いたまま唖然としてその様を見ていた。

 王を捕らえるのにフィルリーネ王女自身が戦ったのは知っている。ルヴィアーレ様と共に王女の戦いに加わったが、魔導士のように戦うのだと驚いた。
 手加減をしていたわけではないだろうが、大技などは使わず、確実に一人一人を倒していく。
 あれでよく魔導がないなどとごまかしていたものだと感嘆したが、今の戦いはそれを凌ぐほどの攻撃力だった。

 結界側に炎が飛び散ると、わっと歓声が上がる。イムレスはそれを軽々避けて、フィルリーネに躊躇せず稲光の攻撃を与えた。しかしフィルリーネは当たり前のように水の壁を作ると、稲光で放電した水をイムレスへ飛ばす。

 激しい攻防に驚愕に目を見開いている者と、当たり前に歓声を上げている者とで、フィルリーネの仲間なのかそうでないのかが分かりやすかった。

「すごいな…」
 つい感嘆の声を上げると、隣でイアーナが困惑しているような驚愕しているような、信じられないものを見たような表情を浮かべ、口を大きく開け戦いを眺めていた。

 頭の処理が追いつかないのだろう。フィルリーネがあそこまで魔導を使用した戦いに長けているとは、誰も想像していない。
 ルヴィアーレも知っているはずだが、ルヴィアーレですらフィルリーネを射るように目で追った。

 ルヴィアーレ様も複雑そうだな。馬鹿で高飛車な王女と思っていたら、ここまで別人だったと誰が想定しただろう。

 周囲にいる者たちの中に眉を顰めている者がいないか目線だけで確認する。王騎士団のアシュタルと同じく、視線だけで周囲を鋭く見回す者たちがいた。
 誰がどんな表情をしてこの戦いを見ているのか、当然調べているわけなのだ。

 これはただの公開演技ではない。敵を牽制しつつ観衆の反応を確認するためのものだ。

 フィルリーネが素早い動きで前転し攻撃を避けると、両手のひらに描かれた魔法陣が発動した。
 吹き出した水が波を押し寄せるようにイムレスを狙う。大量の水に舞台の周囲にいた者たちが悲鳴を上げた。ざばーんと波打った水は結界から出ることはなかったが、一気に押し寄せた水を見て腰を抜かす。

 広い舞台に流れた水をイムレスは防御している。しかし、フィルリーネはさらに魔法陣を描くとその水を凍らせた。流れていた水は氷になり、氷河が崩れるようにイムレスを襲う。

 何と言う戦いなのか。これほどの実力なのか?

 最初の歓声はなくなり、今はフィルリーネとイムレスの戦いに声を失った。愕然とした表情を見せる者は少なくない。魔導院の魔導士たちですら、二の句が告げぬほど驚愕していた。

「あの魔法陣は」
 ルヴィアーレが呟いた瞬間、フィルリーネから火球が飛ばされ、結界側にいたイムレスへ繰り出された。

 ドオオォンと大仰な音が爆風と共に耳に届く。
 何故爆風が結界を通り越して届くのか。そう考える前に、魔導によって作られた結界が崩れていくのが見えた。

 悲鳴を上げながら近くにいた者たちが逃げ始める。火球の飛び火がマントに当たり炎に巻かれそうになった者が、突如水びたしになった。

「ごめんなさい。大丈夫?」
 炎がフィルリーネによって鎮火された。炎に包まれたと思ったら水をかけられた騎士が、呆然とフィルリーネの言葉にかくかく頷く。

「君、もう少し考えて攻撃しなさいよ」
「結界壊れるとは思いませんよ。あなたたち、怪我はない!?」

 飄々と、フィルリーネとイムレスは言いながら攻撃を止めた。結界を張っていた魔導士たちが地面に寝転がっている。魔導の反撃を受けたようなものだ。魔導士たちは当てられた魔導により反動で吹き飛ばされた。

 観衆たちは唖然とその様を見つめた。結界を張っていた魔導士は一人ではない。大きな舞台なため十人以上が配備されていた。それらが協力して張った魔導防御を弾けさせるほどの攻撃力である。

「魔導量が少ないなんて、誰が言ったんだ」
「魔導力もその辺の魔導士の比じゃないじゃないか」

 口々に言う者たちは驚きに顔色を変えている。それと違い誇らしげにフィルリーネを見遣る者たちはフィルリーネに傅く者たちだ。

「あれほどの力でも、まだ余裕がありそうですが」
 サラディカも驚きを表情にのせていたが、ルヴィアーレは口を閉じたまま、ただフィルリーネを見つめていただけだった。

 想定していたのだろうか。あの力であればルヴィアーレ様にも匹敵するかもしれない。ルヴィアーレ様より強力な魔導力だとは思わないが…。

 しかし、あれほどの力を目の当たりにすると、背筋が寒くなってくる。
 フィルリーネとイムレスはこれ以上戦えないと、転がった魔導士に怪我はないかを確認した。

 魔導院院長との対決は互角で終わりだ。周囲の惜しみない拍手に、フィルリーネは満面の笑顔を見せた。
 殺人的な攻撃を見せた人とは思えない、嫣然たる笑みと秀麗な姿に周囲がフィルリーネに目を奪われた。

 さすがに眉目秀麗と言われた王女だ。隣にいたイアーナですら顔を赤らめる。
 ついルヴィアーレを見遣れば、フィルリーネをじっと見つめていた。

 心奪われる。とはいかなそうだな。
 あれほどの魔導力を見せられて、むしろ刺激されたのではないだろうか。

 周囲の惚けを感じながら、そうではない者たちに視線を伸ばす。舞台から背を向ける者の顔を覚えて、騎士の一人がそれを追うのを確認する。

 不機嫌な顔をしている奴らは数人いるな。
 それを見ている者もいる。それらは王女の手の者だろう。

「腕を上げたね」
「速さをもう少し上げたいんですけれどね」

 あまり疲れた顔をしていない二人は、戦い方について話し始めた。観衆たちは戦いは終えたのだと散らばり始める。ルヴィアーレの手の者含め何人かがその跡を追った。

 不穏だと思われる者の確認だ。これだけの騒ぎで様子を見に来た王派も多かったようである。
 これも作戦のうち。フィルリーネの魔導量に不安を覚えていた者も、魔導量の少なさを盾に王の代理として動くことを非難する者も黙らせることができるだろう。

 もちろん一筋縄では行かないだろうが。

 フィルリーネとイムレスの戦いは城中で噂された。その噂の早さや、あっという間である。その噂が城だけでなく街の者たちにまで回っていると言うのだから、皆この話に当分釘付けだろう。
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