202 / 316
対戦
しおりを挟む
部屋中が精霊だらけになり、光の多さに目をしぱしぱさせていたのはミュライレンとコニアサスだけではない。サラディカやイアーナたちも驚きに周囲を見回していた。
ルヴィアーレの騎士たちの魔導が高いことは分かっている。アシュタルもあれだけの精霊の瞬きを見たのは初めてだったのか、驚愕の表情をしてみせた。
ルヴィアーレと自分の魔導の高さを競う場ではないのだが、ルヴィアーレとしては意図して行ってほしいわけである。
そう言うわけで、なぜかこうなった。
「フィルリーネ様がイムレス様と魔導戦とは、本当なのか?」
「簡単な手合わせだろう? 魔導がほとんどないと言っていて、どうやって戦うんだ?」
「観客多いよな。みんなさぼってるんじゃ?」
模擬戦を行う魔導専用の建物の中で、魔導院の職員や騎士たちが集まりぼそぼそと話をしている。
ほんとだよ。何でこんなに観衆多いかな。
騎士たちの訓練所の一角に魔導戦専用の建物がある。屋根のない競技場のような建物で魔導の戦いを行う時には魔導が扱える騎士や職員が結界を張り、攻撃で放出された魔導が建物から出ないようにする。
いつもよりその人数が多いのはイムレスが戦うとあってだろうが、結界が張れるように中央の舞台から離れてぐるりと観客席があり、そこになぜか騎士や魔導院職員以外の者たちが集まっていた。
誰だ。こんな大ごとにしたの。イムレス様か?
「随分人が集まっているんじゃないの。君の力が見たいのだろうね」
イムレスが隣で柔らかに笑っているが、格好がいつもの黒のローブ姿ではない。やる気満々な格好と言って良いだろうか。マントは羽織らず珍しく身体にぴったりとした衣装を着ていた。
いつもだらだらな服しか着ていないので気付きにくいが、魔導士とは思えないほど筋肉がしっかりした体躯をしている。魔導も長けているが剣も扱う人だ。魔導院で筋力など使わないくせに、鍛え続けた身体を持っている。
イムレスと手合わせするのはとても久し振りだが、本気で戦われてどこまで相手ができるかこちらは緊張気味である。
そんな心理状況など知りもしない、全く関係ない侍女や貴族の令嬢たちが黄色い声を上げた。
イムレスの黒の上着は膝丈で襟元の刺繍が美しいが、装飾品の類は一切つけていない。普段も装飾品をつける人ではないが、簡素でも身体の線が分かる衣装はそう見ない。
だからだろうか、観客に女性たちが多い気がする。いや、女子ばっかなのよ。
「女子人気がひどいですね」
「ひどいって、どう言う意味なの?」
ひどいはひどいである。イムレスの女子人気がここまでとは。
イムレスと会う時は周囲に人がいないか、フィルリーネを恐れる者たちしかいないので、イムレスに色目を使う女性たちは見たことない。
それでも人気があるのは知っていたが、こんなに多いとは思わなかった。
「何で公開練習なんですかね」
「ルヴィアーレ様の提案ではないの?」
「それがなぜこんなに人が見に来てるかって話です」
「さあ。してやられたのではないの?」
にこにこ言う辺り、ルヴィアーレの提案に色塗ったのこの人じゃなかろうか。ルヴィアーレからすれば、ああいうのを何度か行った方がいい。くらいの提案だったのに。
「噂をすれば、ルヴィアーレ様だよ」
自分は全く戦う気がないと、長いマントと足元が隠れる衣装をまとった男がこちらに近付いて来る。少々面食らった顔をしているので、この観客のことは今知ったようだ。
「大ごとになっているな」
ルヴィアーレが同じことを言って、少々呆れ顔をした。主に観客席にいる女性たちに目が向いている。
そもそもルヴィアーレは、フィルリーネの能力についてもう少し宣伝した方がいいと提案してきただけだった。
城の修復、騎士たちによる魔獣の討伐、オゼの研究、多くの政務。その関わりがある者たちに理解があればフィルリーネの能力に気付くだろう。しかし、他の者たちはどう理解させるのか。
ルヴィアーレの言いたいことは分かっている。古老たちや領主たちに口頭だけでやり込めたわけではない。フィルリーネの周囲にいる者たちはフィルリーネが何をしているのか分かっても、彼らには届かない。この城にいない貴族たちにも、平民にもだ。
『存在価値を示せ』
ルヴィアーレがフィルリーネを立てる気ならばラータニアとしてグングナルドを奪う気ではない。そしてフィルリーネの存在を確立させるには、フィルリーネにとっても必要なことだった。
自分の能力を表に出すのはまだ早いと思っていたが。
魔導量はあまりなく、精霊の声も聞こえない。クーデターもガルネーゼとイムレスの主導だと勘違いしている王派たちの襲撃は、隠れたところで一通り行われた。
お飾りだと思われているフィルリーネを邪魔に思う者たちは、フィルリーネの周囲ががら空きだと思っていただろう。コニアサスを後継者とするには若すぎるため、念の為フィルリーネを代理に上げただけだと思っていれば、フィルリーネの周囲に多くの警備を割くと考えていないからだ。
そして警備の目を掻い潜れば、フィルリーネは戦いに不向き。簡単に暗殺できると考える。
その効果はあり、暗殺者たちは現れアシュタルたち王騎士団に一掃された。現在は首謀者を調べているところである。
おかげで最近刺客が現れなくなった。警備が機能しフィルリーネを守っていることが知れたのだろう。そこを掻い潜ってフィルリーネに直接攻撃を行うような輩は出てきていない。
そうであれば大っぴらに魔導や剣の訓練をしていいと思ったわけだが。
「想定外に人が多いのよ」
「私ではないぞ。君の部下だろう」
ルヴィアーレのちらりと見た先がにこやか顔のイムレスだが、私も同じ意見だよ。
「良いのではないのか。まだ捕まっていない輩どもに牽制になる」
「ルヴィアーレ様の言う通りだと思うよ。これ以上接触して来る気がないなら、警備以上に君の力があると示しておいて損はない。暗殺者ばかりに感けてばかりで本来説得させる者たちを蔑ろにしすぎてもいけないからね」
そろそろ暗殺者たちは、フィルリーネの周辺がガラ空きに見えながら厳しく取り締まられていることに気付いただろう。暗殺は難しく実行が不可能に近いと理解したはずだ。
警備が緩いと思わせる必要も無くなってきた。
そうであればフィルリーネが武に弱いと言う印象をここで覆しても問題ない。そして、フィルリーネが魔導量の高い王族だと知らしめる必要が出てくるのだ。
精霊の声も聞こえない王族の一人と思われるのは、あの男だけで十分だった。
「君が心配しているのはあの三人のことだろう」
「まあね」
ルヴィアーレの言葉にイムレスも眉をピクリと動かす。心配の種はまだ外にいて、それらが見付かるまでは自分を餌にしたかったわけだが。
「彼らを捕らえるまで君が無能だと思わせておくのは、周囲をまとめるつもりであれば難しいかな」
「私もそう思うぞ。全く足取りが掴めないのだろう?」
残念ながら、行方の知れない三人は姿を消したまま。
魔導院院長ニーガラッツ。それから警備騎士団第一部隊隊長サファウェイ。イニテュレ出身のイカラジャを罠に嵌めようとした魔導士モルダウン。その三人のことである。
王派との戦いでサファウェイの姿は城になく、ビスブレッドの砦で死体を探したが、そこにサファウェイもモルダウンもいなかった。
仲間の警備騎士たちは城かビスブレッドの砦に振り分けていたので、街中を探したのは戦いの後だ。その間に逃げられたのだろうが、王派と分かっておりかつ今回の戦いに関わっている中で逃げられたのはその三人だった。
他の隠れた王派は理由なく捕らえられない。しかしその三人は捕らえる理由があって逃げられている。しかも城のことを良く分かっている三人だけあって、警戒はしておかなければならない。
ニーガラッツはもちろんだが、魔導士のモルダウンが厄介だと、イムレスからため息混じりに話を聞いた。モルダウンはフィルリーネのように顔を変える魔導が使え、他人に成りすまして城の中にいてもおかしくないのだと。
ニーガラッツもその方法は知っているだろうが、彼は歳をとっており歩き方が老人のそれだ。顔が変えられても歩き方までは変えられない。
モルダウンがフィルリーネ暗殺を行うこともあり得るのだ。
そしてニーガラッツは精霊を捕らえて加工する技術を持っている。それにモルダウンも関われれば、精霊を捕らえることも考えられた。
「長期戦になるだろうね。ニーガラッツが企めばサファウェイとモルダウンが君を狙ってもおかしくない。けれど、それが終えるまで君が精霊を扱えないほど魔導量が少ないと、誤解させたままでも良くない」
だからこれだけの観客を集めたのだろう。騎士団の訓練所なのになぜか侍女や文官の貴族たちも集まっている。集まりすぎなんだが?
「君の無様な姿を見たがっている者たちもいるのだろう」
無様とか、言い方よ。
ルヴィアーレは真面目な顔をして言っているので、嫌味ではないのである。しかし、イアーナが嬉しそうな顔をするので、さすがに殴りたくなるわけだが、ここは我慢だ。
無様にならない可能性は低いとは言えないが、嘲笑されるほど魔導力は低くない。イムレスと手合わせするのは子供の頃以来だが、それよりはずっと戦いに慣れてきたつもりだ。
「結界は魔導院の者が行うのか?」
「そのはずだけれど?」
普段訓練の水準に合わせて結界を張る者たちの人数が決まる。魔導が強すぎて結界から飛びだした攻撃が建物を壊してはいけない。イムレスが戦うのだからそれなりの者たちが当たるだろう。
「いつもよりは強化させるよ。私とフィルリーネ様が戦えば、ただでは済まないからね」
「破壊し尽くしそうだな」
「人を凶暴みたいに言わないで」
「凶暴だろう?」
ふっと笑うその笑顔が珍しい。そう思ったら周囲の女子たちの黄色い声が響いた。
ルヴィアーレも人気があるのを忘れていた。ルヴィアーレはその声を無視し背を向けると舞台から離れていく。
黄色い声にも何とも表情が変わらないのだから、全く可愛げがない。
「髪を結んだ姿が良いと言う話だよ。君が悪いのではないの?」
「悪いって何ですか」
「婚約者の人気を上げてどうするの」
「髪結んだくらいで、何で人気が上がるのか教えてください」
本当に教えてほしいよ。何か変わりましたかね?
「他の女性の話を聞いてみたらどうなの」
「絶対やです」
聞いても理解できないこと間違いない。顔が良く見えるようになっただけではないか。だからいいのか? 理解できない。
「その点を、君は学んだ方が良いと思うけれどもね」
その点って何だろうか。イムレスは含んで笑ってくるが、学ぶ必要性はないと思われる。
「さあ、では始めようか」
イムレスとの久しぶりの対戦である。
ルヴィアーレの騎士たちの魔導が高いことは分かっている。アシュタルもあれだけの精霊の瞬きを見たのは初めてだったのか、驚愕の表情をしてみせた。
ルヴィアーレと自分の魔導の高さを競う場ではないのだが、ルヴィアーレとしては意図して行ってほしいわけである。
そう言うわけで、なぜかこうなった。
「フィルリーネ様がイムレス様と魔導戦とは、本当なのか?」
「簡単な手合わせだろう? 魔導がほとんどないと言っていて、どうやって戦うんだ?」
「観客多いよな。みんなさぼってるんじゃ?」
模擬戦を行う魔導専用の建物の中で、魔導院の職員や騎士たちが集まりぼそぼそと話をしている。
ほんとだよ。何でこんなに観衆多いかな。
騎士たちの訓練所の一角に魔導戦専用の建物がある。屋根のない競技場のような建物で魔導の戦いを行う時には魔導が扱える騎士や職員が結界を張り、攻撃で放出された魔導が建物から出ないようにする。
いつもよりその人数が多いのはイムレスが戦うとあってだろうが、結界が張れるように中央の舞台から離れてぐるりと観客席があり、そこになぜか騎士や魔導院職員以外の者たちが集まっていた。
誰だ。こんな大ごとにしたの。イムレス様か?
「随分人が集まっているんじゃないの。君の力が見たいのだろうね」
イムレスが隣で柔らかに笑っているが、格好がいつもの黒のローブ姿ではない。やる気満々な格好と言って良いだろうか。マントは羽織らず珍しく身体にぴったりとした衣装を着ていた。
いつもだらだらな服しか着ていないので気付きにくいが、魔導士とは思えないほど筋肉がしっかりした体躯をしている。魔導も長けているが剣も扱う人だ。魔導院で筋力など使わないくせに、鍛え続けた身体を持っている。
イムレスと手合わせするのはとても久し振りだが、本気で戦われてどこまで相手ができるかこちらは緊張気味である。
そんな心理状況など知りもしない、全く関係ない侍女や貴族の令嬢たちが黄色い声を上げた。
イムレスの黒の上着は膝丈で襟元の刺繍が美しいが、装飾品の類は一切つけていない。普段も装飾品をつける人ではないが、簡素でも身体の線が分かる衣装はそう見ない。
だからだろうか、観客に女性たちが多い気がする。いや、女子ばっかなのよ。
「女子人気がひどいですね」
「ひどいって、どう言う意味なの?」
ひどいはひどいである。イムレスの女子人気がここまでとは。
イムレスと会う時は周囲に人がいないか、フィルリーネを恐れる者たちしかいないので、イムレスに色目を使う女性たちは見たことない。
それでも人気があるのは知っていたが、こんなに多いとは思わなかった。
「何で公開練習なんですかね」
「ルヴィアーレ様の提案ではないの?」
「それがなぜこんなに人が見に来てるかって話です」
「さあ。してやられたのではないの?」
にこにこ言う辺り、ルヴィアーレの提案に色塗ったのこの人じゃなかろうか。ルヴィアーレからすれば、ああいうのを何度か行った方がいい。くらいの提案だったのに。
「噂をすれば、ルヴィアーレ様だよ」
自分は全く戦う気がないと、長いマントと足元が隠れる衣装をまとった男がこちらに近付いて来る。少々面食らった顔をしているので、この観客のことは今知ったようだ。
「大ごとになっているな」
ルヴィアーレが同じことを言って、少々呆れ顔をした。主に観客席にいる女性たちに目が向いている。
そもそもルヴィアーレは、フィルリーネの能力についてもう少し宣伝した方がいいと提案してきただけだった。
城の修復、騎士たちによる魔獣の討伐、オゼの研究、多くの政務。その関わりがある者たちに理解があればフィルリーネの能力に気付くだろう。しかし、他の者たちはどう理解させるのか。
ルヴィアーレの言いたいことは分かっている。古老たちや領主たちに口頭だけでやり込めたわけではない。フィルリーネの周囲にいる者たちはフィルリーネが何をしているのか分かっても、彼らには届かない。この城にいない貴族たちにも、平民にもだ。
『存在価値を示せ』
ルヴィアーレがフィルリーネを立てる気ならばラータニアとしてグングナルドを奪う気ではない。そしてフィルリーネの存在を確立させるには、フィルリーネにとっても必要なことだった。
自分の能力を表に出すのはまだ早いと思っていたが。
魔導量はあまりなく、精霊の声も聞こえない。クーデターもガルネーゼとイムレスの主導だと勘違いしている王派たちの襲撃は、隠れたところで一通り行われた。
お飾りだと思われているフィルリーネを邪魔に思う者たちは、フィルリーネの周囲ががら空きだと思っていただろう。コニアサスを後継者とするには若すぎるため、念の為フィルリーネを代理に上げただけだと思っていれば、フィルリーネの周囲に多くの警備を割くと考えていないからだ。
そして警備の目を掻い潜れば、フィルリーネは戦いに不向き。簡単に暗殺できると考える。
その効果はあり、暗殺者たちは現れアシュタルたち王騎士団に一掃された。現在は首謀者を調べているところである。
おかげで最近刺客が現れなくなった。警備が機能しフィルリーネを守っていることが知れたのだろう。そこを掻い潜ってフィルリーネに直接攻撃を行うような輩は出てきていない。
そうであれば大っぴらに魔導や剣の訓練をしていいと思ったわけだが。
「想定外に人が多いのよ」
「私ではないぞ。君の部下だろう」
ルヴィアーレのちらりと見た先がにこやか顔のイムレスだが、私も同じ意見だよ。
「良いのではないのか。まだ捕まっていない輩どもに牽制になる」
「ルヴィアーレ様の言う通りだと思うよ。これ以上接触して来る気がないなら、警備以上に君の力があると示しておいて損はない。暗殺者ばかりに感けてばかりで本来説得させる者たちを蔑ろにしすぎてもいけないからね」
そろそろ暗殺者たちは、フィルリーネの周辺がガラ空きに見えながら厳しく取り締まられていることに気付いただろう。暗殺は難しく実行が不可能に近いと理解したはずだ。
警備が緩いと思わせる必要も無くなってきた。
そうであればフィルリーネが武に弱いと言う印象をここで覆しても問題ない。そして、フィルリーネが魔導量の高い王族だと知らしめる必要が出てくるのだ。
精霊の声も聞こえない王族の一人と思われるのは、あの男だけで十分だった。
「君が心配しているのはあの三人のことだろう」
「まあね」
ルヴィアーレの言葉にイムレスも眉をピクリと動かす。心配の種はまだ外にいて、それらが見付かるまでは自分を餌にしたかったわけだが。
「彼らを捕らえるまで君が無能だと思わせておくのは、周囲をまとめるつもりであれば難しいかな」
「私もそう思うぞ。全く足取りが掴めないのだろう?」
残念ながら、行方の知れない三人は姿を消したまま。
魔導院院長ニーガラッツ。それから警備騎士団第一部隊隊長サファウェイ。イニテュレ出身のイカラジャを罠に嵌めようとした魔導士モルダウン。その三人のことである。
王派との戦いでサファウェイの姿は城になく、ビスブレッドの砦で死体を探したが、そこにサファウェイもモルダウンもいなかった。
仲間の警備騎士たちは城かビスブレッドの砦に振り分けていたので、街中を探したのは戦いの後だ。その間に逃げられたのだろうが、王派と分かっておりかつ今回の戦いに関わっている中で逃げられたのはその三人だった。
他の隠れた王派は理由なく捕らえられない。しかしその三人は捕らえる理由があって逃げられている。しかも城のことを良く分かっている三人だけあって、警戒はしておかなければならない。
ニーガラッツはもちろんだが、魔導士のモルダウンが厄介だと、イムレスからため息混じりに話を聞いた。モルダウンはフィルリーネのように顔を変える魔導が使え、他人に成りすまして城の中にいてもおかしくないのだと。
ニーガラッツもその方法は知っているだろうが、彼は歳をとっており歩き方が老人のそれだ。顔が変えられても歩き方までは変えられない。
モルダウンがフィルリーネ暗殺を行うこともあり得るのだ。
そしてニーガラッツは精霊を捕らえて加工する技術を持っている。それにモルダウンも関われれば、精霊を捕らえることも考えられた。
「長期戦になるだろうね。ニーガラッツが企めばサファウェイとモルダウンが君を狙ってもおかしくない。けれど、それが終えるまで君が精霊を扱えないほど魔導量が少ないと、誤解させたままでも良くない」
だからこれだけの観客を集めたのだろう。騎士団の訓練所なのになぜか侍女や文官の貴族たちも集まっている。集まりすぎなんだが?
「君の無様な姿を見たがっている者たちもいるのだろう」
無様とか、言い方よ。
ルヴィアーレは真面目な顔をして言っているので、嫌味ではないのである。しかし、イアーナが嬉しそうな顔をするので、さすがに殴りたくなるわけだが、ここは我慢だ。
無様にならない可能性は低いとは言えないが、嘲笑されるほど魔導力は低くない。イムレスと手合わせするのは子供の頃以来だが、それよりはずっと戦いに慣れてきたつもりだ。
「結界は魔導院の者が行うのか?」
「そのはずだけれど?」
普段訓練の水準に合わせて結界を張る者たちの人数が決まる。魔導が強すぎて結界から飛びだした攻撃が建物を壊してはいけない。イムレスが戦うのだからそれなりの者たちが当たるだろう。
「いつもよりは強化させるよ。私とフィルリーネ様が戦えば、ただでは済まないからね」
「破壊し尽くしそうだな」
「人を凶暴みたいに言わないで」
「凶暴だろう?」
ふっと笑うその笑顔が珍しい。そう思ったら周囲の女子たちの黄色い声が響いた。
ルヴィアーレも人気があるのを忘れていた。ルヴィアーレはその声を無視し背を向けると舞台から離れていく。
黄色い声にも何とも表情が変わらないのだから、全く可愛げがない。
「髪を結んだ姿が良いと言う話だよ。君が悪いのではないの?」
「悪いって何ですか」
「婚約者の人気を上げてどうするの」
「髪結んだくらいで、何で人気が上がるのか教えてください」
本当に教えてほしいよ。何か変わりましたかね?
「他の女性の話を聞いてみたらどうなの」
「絶対やです」
聞いても理解できないこと間違いない。顔が良く見えるようになっただけではないか。だからいいのか? 理解できない。
「その点を、君は学んだ方が良いと思うけれどもね」
その点って何だろうか。イムレスは含んで笑ってくるが、学ぶ必要性はないと思われる。
「さあ、では始めようか」
イムレスとの久しぶりの対戦である。
15
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる