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問題2
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「魔獣も増えているのは間違いないな。人口の多い場所での魔獣が増加した所へヨシュアを向かわせたが、あいつ一匹では細かい場所まで探せないだろう」
「騎士団を向かわせた方がいい?」
王投獄により城が落ち着きない状態で、魔獣退治に王都から警備騎士を出す余裕はない。その土地の領の騎士たちに任せたいのだが、王派を捕らえた関係で騎士が減っている領があった。
北の街、冬の館がある領である。
王派の多かった冬の館の騎士はベルロッヒを含め精鋭だ。それの殆どが失われたため、魔獣討伐もままならず魔獣が増え続けている。また、あの土地は隣国キグリアヌンからの侵入を防ぐ役目もあった。騎士が少ないのは問題なのだ。
今はカサダリアより騎士を補充しているが、人数が多いわけではない。カサダリアでもガルネーゼのいない間に王派が城を占拠しようとした戦いがあったため、城の騎士には死亡者や怪我人が多いのだ。
王派は予想通り王都だけでなくカサダリアも掌握しようとしていた。そのため、カサダリアの城の中もまだ落ち着きを取り戻していない。
「冬の館付近はそこまで魔獣は出ていないようだけれどね。冬の館から離れた、領と領の境は多いようだ。あの辺りは山ばかりだから、尚更魔獣が集まってしまうんだろう」
イムレスは冬の館から届いた調査書を見せる。地図に描かれた赤い丸印が魔獣出没場所だ。目視すると数がかなり多いことが分かる。
「領と領を繋ぐ道周囲に出られるのは困るわね…」
「ヨシュアが重点的に狩っているが、減る傾向がないようだな」
ガルネーゼもため息混じりだ。ヨシュアは翼竜になると巨体なので、開けた場所の方が狩りがしやすい。
しかし、領の境は山道で崖も多く、討伐隊を出すにも不向きな場所だった。道が細く戦いにくく、魔獣が隠れやすいため被害が多くなってしまうのだ。
今までこの道に魔獣が出ることはなかった。これも女王が死去した影響だと思うと、頭が痛くなる。
「ラータニアでは魔獣は増えていないのでしょう?」
「その話はまだ入っていないな。グングナルドへの影響が大きいように思える」
ラータニアは精霊の多い土地なので、精霊が女王を悼みマリオンネへ移動していても、魔獣が増加した話はないらしい。
「精霊が逃げている状態が多いからとは言え、こんなに早く影響が出るとは思わなかったね」
イムレスはため息混じりだ。人が使う道などは魔獣は少ないものである。それなのに人気のある方へと魔獣が現れた。女王が死去し精霊がグングナルドから離れているが、思った以上に影響が出ている。
「それで、精霊の儀式について聞きたいのか?」
ルヴィアーレはここに呼ばれた意味を察したと、嘆息した。グングナルドの精霊の儀式はまともに行われていない。大地に影響があってから何を行うのだと、ラータニアの者たちから見れば呆れた話だろう。
しかし、それを言われても困っているのはこちらである。
「精霊に関する催事は前渡した資料にあるだけよ。ラータニアとは違うんでしょ?」
「そもそも精霊に関わる催事が少なすぎるな」
サラディカから前に渡した資料を手に取ると、ぱらぱらめくってそれを戻してくる。
「グングナルドはわざと精霊に関わらないようにしているとしか思えない」
資料はグングナルドで行われてきた催事をまとめてある。前王が行ってきた催事だけでなく、グングナルドの歴史で行われてきた催事だ。
それが元より少ないと言うのである。
「マリオンネより賜った大国の一つでありながら、ラータニアより催事が少ない。おかしな話だ」
「ラータニアが多いと言う可能性はないのでしょうか?」
イムレスは含んで言っただろう。ルヴィアーレが眉をぴくりと上げる。
ラータニアには浮島がある。精霊が住む島とも言われている場所だ。それに関しての催事が多いのではないのか、イムレスはそう言いたいのだろう。
「ラータニア全土で行われる催事だ。特別な場所で催すものはない」
グングナルドの歴代の王が魔導がなく催事を簡略化させてきたわけではないのだから、マリオンネから賜った国同志催事の数が違いすぎるのも謎だ。長い歴史でその催事が国ごとに変わることがあっても、数が大きく減るのは不思議な話である。
「同じ催事でも意味合いが違うこと多いっぽいものね。でもグングナルドの歴史で変化はないから、元々ないのか、それとも相当昔に廃れたかかしらね。大国でも精霊は少ないとされているから」
「だったらキグリアヌンも同じじゃないのか?」
「だからって聞かないわよ」
ガルネーゼに睨みを効かせると、ガルネーゼは肩を竦めた。王失脚によりキグリアヌンがどう出てくるか分からないが、まだ国内が落ち着いていないのにキグリアヌンに連絡などとりたくない。
「あの国は引き続き調査でお願いします」
「それは分かっている。キグリアヌンにいる者には情報を得るようにさせている」
「王と繋がりがあるのならば、何か仕掛けてくる可能性もあるか?」
「今の所、その兆候はありません。キグリアヌンの国王はグングナルド王と懇意ではないのですが、侵略を仄めかすような真似はありません。気になるとしたら、第三王子が王と何をしていたかと言うことですが」
第三王子オルデバルト。王と何かをしていた男。女王の葬儀で儀礼的な挨拶と媚びた態度をしてきたが、王が失脚した現状、どう動いてくるかは分からない。
「女王の葬儀で君に媚びてきた辺り、王と画策していた可能性を感じるがな」
「そうなのよね。だから目論みがあっても、向こうも何かしら頓挫はしていると思いたい」
ルヴィアーレ死後、婿に収まる気だったとか、そう言う不穏な目論みだ。
ただ、ルヴィアーレと婚約破棄後、面倒を言ってきそうで、面倒すぎるわけだが。
「そんなことより精霊よ。魔獣が来ないようにお願いするにしても、その場所で呼んじゃ駄目なんでしょ?」
「当たり前だ。魔導を使い過ぎて倒れるぞ。それだけでなく命にも関わる可能性がある。それで殆ど効果が出なければ無駄骨だ」
ばっさりと言われて何も言えない。前科があるだけに、ガルネーゼの睨みから視線を逸らす。
「もう倒れたからねえ。それに今冬の館まで行っている余裕はないだろう? 精霊の力を借りるにしても、君一人では負担が掛かりすぎるよ。政務も行なって、眠る時間も減っているんじゃないの?」
「そこまでじゃないですけどー」
「お前は前から睡眠時間が足らないんだ。この忙しい時に玩具など作ってないだろうな!?」
そんな脅すように言わなくて良いだろう。ガルネーゼは鼻息荒く言ってくるが、さすがにその余裕はない。なさすぎて、心の支えの癒しに会っていないことを思い出す。
「はああ。街行きたい」
「駄目だぞ!」
「駄目に決まっているだろう」
「駄目だよ」
三人一斉に口にされて、フィルリーネはぷくりと顔を膨らませた。分かっているけれど、愚痴るくらいいいではないか。しばらくずっと玩具は作っていないし、新しい玩具を考える暇すらない。
癒しにも会えず、精神を安定させる玩具作りも行えない。仕方ないとは言え、辛すぎる!
「その顔やめろ」
ガルネーゼが叱咤してくるが、無視しておく。
「精霊に場所を癒してもらい、魔獣を減らしてもらう願いは城で行うものだが、君がその場に直接行って行っていた方法を、魔鉱石を使って行うことはできるぞ」
「何それ?」
ルヴィアーレは呆れ顔をしながら、手のひらを見せるとふわりと魔導を乗せた。
手のひらに集まる暖かな空気はルヴィアーレの魔導である。球体に見える仄かな光は淡い銀色で、時折虹色が混ざった。
「魔導を収縮させて、魔鉱石に魔導を乗せる方法がある。精霊に力を借り、魔鉱石にある魔導へ交じらせる。魔獣は精霊の魔導を避ける性質があるからな。魔鉱石と精霊の魔導が交じると、魔獣は近付くことができない」
「初めて聞いた。そんなことできるの?」
「興味深い術ですね。魔鉱石に精霊の力を追加させるわけですか」
イムレスが食いついた。魔導に関して専門家のイムレスも知らない方法のようだ。
魔鉱石は道具を動かしたりする動力資源に使うことが主だが、魔導を増幅させたり魔法陣などに使える。しかし、魔鉱石に魔導を乗せるなんて聞いたことがない。
それに、魔獣は精霊の魔導は嫌うが、魔鉱石になるとその性質がなくなった。逆に魔鉱石には集る習性がある。そのため魔鉱石で魔獣を退く力はないのだ。
ルヴィアーレは頷くと手のひらに魔導をさらに集めた。球体の大きさは同じだが、魔導が収縮して集まっていくのが分かる。
「魔導を魔鉱石によって増加させる方法と同じだ。ただ、それを放出するのではなく、魔鉱石に閉じ込める。魔鉱石には通常の魔導以上のものが封じられるため、その魔鉱石には大きな力が宿ることになる」
特別な魔鉱石を手に持って魔導を放出すれば、普段の力以上の魔導が放出できる。それとは違い、放出せずに魔鉱石に自分の魔導を封じるのだ。それには精霊の力が必要で、協力がなければ行えない。
ならば、それは王族にしかできない技である。
「えー、面白い。面白い。やる。やろう。それやろう!」
「ただ、魔導を封じられるだけの魔鉱石でなければならない」
「大きさってこと?」
「それもあるが、純正度の高い、混じりのない魔鉱石である必要がある」
精霊が造る魔鉱石。生み出す間に別の物質が入ることが多い。それがなく、かつ魔導の高い魔鉱石が必要だと言う。
「そうでなければ、魔導を注入する間に魔鉱石を壊すことになる」
「それは勿体ない」
「純度が高くなければ、別の魔導に耐えられないと言うことですか…」
イムレスと一緒にフィルリーネは唸ると、お互い目を合わせる。
「純度の高いのなんて、グングナルド、意外にあるけどね」
「壊せないものばかりだよ。壊すとか言わないようにね」
言いませんよ。冬の館にある魔鉱石の洞窟とか、他にも地下にある古い時代の遺跡とか、実は高純度の魔鉱石が埋まっていたりする。それを王もさすがに壊すことはしなかった。マリオンネに関わるような遺跡に、あの男は手を出さないのである。そこは律儀なのだ。
しかし、それを壊すのはフィルリーネもできない。
「あの男が集めた魔鉱石にそう言うのないですかね。ちょっと探してもらっていいですか、イムレス様」
「そう来ると思ったよ。分かった。保管庫を探そう」
イムレスは早速探すと席を立つ。ラータニア襲撃のために王が買い占めた魔鉱石は、イムレス預かりで魔導院に封印されている。量が量なので、厳重に保管してあるのだ。
「魔鉱石があるならば、魔導を溜める方法を君が学ぶ必要があるが、時間はあるのか」
ルヴィアーレは念の為確認をしてきた。政務が忙しく有力者たちに挨拶もできぬ状況であるのは分かっているだろう。そんな暇があるのかと心配してくれるのはありがたいが、やらねばならぬことならやらねばならぬのである。
だが、そこまで確認してくるとなると、その技は難しいのだろうか。
「君であれば、おそらく…」
その先は何だ。ルヴィアーレはそのまま最後まで口にはせず、魔鉱石が見付かれば始めよう。と言葉少なに言った。
「騎士団を向かわせた方がいい?」
王投獄により城が落ち着きない状態で、魔獣退治に王都から警備騎士を出す余裕はない。その土地の領の騎士たちに任せたいのだが、王派を捕らえた関係で騎士が減っている領があった。
北の街、冬の館がある領である。
王派の多かった冬の館の騎士はベルロッヒを含め精鋭だ。それの殆どが失われたため、魔獣討伐もままならず魔獣が増え続けている。また、あの土地は隣国キグリアヌンからの侵入を防ぐ役目もあった。騎士が少ないのは問題なのだ。
今はカサダリアより騎士を補充しているが、人数が多いわけではない。カサダリアでもガルネーゼのいない間に王派が城を占拠しようとした戦いがあったため、城の騎士には死亡者や怪我人が多いのだ。
王派は予想通り王都だけでなくカサダリアも掌握しようとしていた。そのため、カサダリアの城の中もまだ落ち着きを取り戻していない。
「冬の館付近はそこまで魔獣は出ていないようだけれどね。冬の館から離れた、領と領の境は多いようだ。あの辺りは山ばかりだから、尚更魔獣が集まってしまうんだろう」
イムレスは冬の館から届いた調査書を見せる。地図に描かれた赤い丸印が魔獣出没場所だ。目視すると数がかなり多いことが分かる。
「領と領を繋ぐ道周囲に出られるのは困るわね…」
「ヨシュアが重点的に狩っているが、減る傾向がないようだな」
ガルネーゼもため息混じりだ。ヨシュアは翼竜になると巨体なので、開けた場所の方が狩りがしやすい。
しかし、領の境は山道で崖も多く、討伐隊を出すにも不向きな場所だった。道が細く戦いにくく、魔獣が隠れやすいため被害が多くなってしまうのだ。
今までこの道に魔獣が出ることはなかった。これも女王が死去した影響だと思うと、頭が痛くなる。
「ラータニアでは魔獣は増えていないのでしょう?」
「その話はまだ入っていないな。グングナルドへの影響が大きいように思える」
ラータニアは精霊の多い土地なので、精霊が女王を悼みマリオンネへ移動していても、魔獣が増加した話はないらしい。
「精霊が逃げている状態が多いからとは言え、こんなに早く影響が出るとは思わなかったね」
イムレスはため息混じりだ。人が使う道などは魔獣は少ないものである。それなのに人気のある方へと魔獣が現れた。女王が死去し精霊がグングナルドから離れているが、思った以上に影響が出ている。
「それで、精霊の儀式について聞きたいのか?」
ルヴィアーレはここに呼ばれた意味を察したと、嘆息した。グングナルドの精霊の儀式はまともに行われていない。大地に影響があってから何を行うのだと、ラータニアの者たちから見れば呆れた話だろう。
しかし、それを言われても困っているのはこちらである。
「精霊に関する催事は前渡した資料にあるだけよ。ラータニアとは違うんでしょ?」
「そもそも精霊に関わる催事が少なすぎるな」
サラディカから前に渡した資料を手に取ると、ぱらぱらめくってそれを戻してくる。
「グングナルドはわざと精霊に関わらないようにしているとしか思えない」
資料はグングナルドで行われてきた催事をまとめてある。前王が行ってきた催事だけでなく、グングナルドの歴史で行われてきた催事だ。
それが元より少ないと言うのである。
「マリオンネより賜った大国の一つでありながら、ラータニアより催事が少ない。おかしな話だ」
「ラータニアが多いと言う可能性はないのでしょうか?」
イムレスは含んで言っただろう。ルヴィアーレが眉をぴくりと上げる。
ラータニアには浮島がある。精霊が住む島とも言われている場所だ。それに関しての催事が多いのではないのか、イムレスはそう言いたいのだろう。
「ラータニア全土で行われる催事だ。特別な場所で催すものはない」
グングナルドの歴代の王が魔導がなく催事を簡略化させてきたわけではないのだから、マリオンネから賜った国同志催事の数が違いすぎるのも謎だ。長い歴史でその催事が国ごとに変わることがあっても、数が大きく減るのは不思議な話である。
「同じ催事でも意味合いが違うこと多いっぽいものね。でもグングナルドの歴史で変化はないから、元々ないのか、それとも相当昔に廃れたかかしらね。大国でも精霊は少ないとされているから」
「だったらキグリアヌンも同じじゃないのか?」
「だからって聞かないわよ」
ガルネーゼに睨みを効かせると、ガルネーゼは肩を竦めた。王失脚によりキグリアヌンがどう出てくるか分からないが、まだ国内が落ち着いていないのにキグリアヌンに連絡などとりたくない。
「あの国は引き続き調査でお願いします」
「それは分かっている。キグリアヌンにいる者には情報を得るようにさせている」
「王と繋がりがあるのならば、何か仕掛けてくる可能性もあるか?」
「今の所、その兆候はありません。キグリアヌンの国王はグングナルド王と懇意ではないのですが、侵略を仄めかすような真似はありません。気になるとしたら、第三王子が王と何をしていたかと言うことですが」
第三王子オルデバルト。王と何かをしていた男。女王の葬儀で儀礼的な挨拶と媚びた態度をしてきたが、王が失脚した現状、どう動いてくるかは分からない。
「女王の葬儀で君に媚びてきた辺り、王と画策していた可能性を感じるがな」
「そうなのよね。だから目論みがあっても、向こうも何かしら頓挫はしていると思いたい」
ルヴィアーレ死後、婿に収まる気だったとか、そう言う不穏な目論みだ。
ただ、ルヴィアーレと婚約破棄後、面倒を言ってきそうで、面倒すぎるわけだが。
「そんなことより精霊よ。魔獣が来ないようにお願いするにしても、その場所で呼んじゃ駄目なんでしょ?」
「当たり前だ。魔導を使い過ぎて倒れるぞ。それだけでなく命にも関わる可能性がある。それで殆ど効果が出なければ無駄骨だ」
ばっさりと言われて何も言えない。前科があるだけに、ガルネーゼの睨みから視線を逸らす。
「もう倒れたからねえ。それに今冬の館まで行っている余裕はないだろう? 精霊の力を借りるにしても、君一人では負担が掛かりすぎるよ。政務も行なって、眠る時間も減っているんじゃないの?」
「そこまでじゃないですけどー」
「お前は前から睡眠時間が足らないんだ。この忙しい時に玩具など作ってないだろうな!?」
そんな脅すように言わなくて良いだろう。ガルネーゼは鼻息荒く言ってくるが、さすがにその余裕はない。なさすぎて、心の支えの癒しに会っていないことを思い出す。
「はああ。街行きたい」
「駄目だぞ!」
「駄目に決まっているだろう」
「駄目だよ」
三人一斉に口にされて、フィルリーネはぷくりと顔を膨らませた。分かっているけれど、愚痴るくらいいいではないか。しばらくずっと玩具は作っていないし、新しい玩具を考える暇すらない。
癒しにも会えず、精神を安定させる玩具作りも行えない。仕方ないとは言え、辛すぎる!
「その顔やめろ」
ガルネーゼが叱咤してくるが、無視しておく。
「精霊に場所を癒してもらい、魔獣を減らしてもらう願いは城で行うものだが、君がその場に直接行って行っていた方法を、魔鉱石を使って行うことはできるぞ」
「何それ?」
ルヴィアーレは呆れ顔をしながら、手のひらを見せるとふわりと魔導を乗せた。
手のひらに集まる暖かな空気はルヴィアーレの魔導である。球体に見える仄かな光は淡い銀色で、時折虹色が混ざった。
「魔導を収縮させて、魔鉱石に魔導を乗せる方法がある。精霊に力を借り、魔鉱石にある魔導へ交じらせる。魔獣は精霊の魔導を避ける性質があるからな。魔鉱石と精霊の魔導が交じると、魔獣は近付くことができない」
「初めて聞いた。そんなことできるの?」
「興味深い術ですね。魔鉱石に精霊の力を追加させるわけですか」
イムレスが食いついた。魔導に関して専門家のイムレスも知らない方法のようだ。
魔鉱石は道具を動かしたりする動力資源に使うことが主だが、魔導を増幅させたり魔法陣などに使える。しかし、魔鉱石に魔導を乗せるなんて聞いたことがない。
それに、魔獣は精霊の魔導は嫌うが、魔鉱石になるとその性質がなくなった。逆に魔鉱石には集る習性がある。そのため魔鉱石で魔獣を退く力はないのだ。
ルヴィアーレは頷くと手のひらに魔導をさらに集めた。球体の大きさは同じだが、魔導が収縮して集まっていくのが分かる。
「魔導を魔鉱石によって増加させる方法と同じだ。ただ、それを放出するのではなく、魔鉱石に閉じ込める。魔鉱石には通常の魔導以上のものが封じられるため、その魔鉱石には大きな力が宿ることになる」
特別な魔鉱石を手に持って魔導を放出すれば、普段の力以上の魔導が放出できる。それとは違い、放出せずに魔鉱石に自分の魔導を封じるのだ。それには精霊の力が必要で、協力がなければ行えない。
ならば、それは王族にしかできない技である。
「えー、面白い。面白い。やる。やろう。それやろう!」
「ただ、魔導を封じられるだけの魔鉱石でなければならない」
「大きさってこと?」
「それもあるが、純正度の高い、混じりのない魔鉱石である必要がある」
精霊が造る魔鉱石。生み出す間に別の物質が入ることが多い。それがなく、かつ魔導の高い魔鉱石が必要だと言う。
「そうでなければ、魔導を注入する間に魔鉱石を壊すことになる」
「それは勿体ない」
「純度が高くなければ、別の魔導に耐えられないと言うことですか…」
イムレスと一緒にフィルリーネは唸ると、お互い目を合わせる。
「純度の高いのなんて、グングナルド、意外にあるけどね」
「壊せないものばかりだよ。壊すとか言わないようにね」
言いませんよ。冬の館にある魔鉱石の洞窟とか、他にも地下にある古い時代の遺跡とか、実は高純度の魔鉱石が埋まっていたりする。それを王もさすがに壊すことはしなかった。マリオンネに関わるような遺跡に、あの男は手を出さないのである。そこは律儀なのだ。
しかし、それを壊すのはフィルリーネもできない。
「あの男が集めた魔鉱石にそう言うのないですかね。ちょっと探してもらっていいですか、イムレス様」
「そう来ると思ったよ。分かった。保管庫を探そう」
イムレスは早速探すと席を立つ。ラータニア襲撃のために王が買い占めた魔鉱石は、イムレス預かりで魔導院に封印されている。量が量なので、厳重に保管してあるのだ。
「魔鉱石があるならば、魔導を溜める方法を君が学ぶ必要があるが、時間はあるのか」
ルヴィアーレは念の為確認をしてきた。政務が忙しく有力者たちに挨拶もできぬ状況であるのは分かっているだろう。そんな暇があるのかと心配してくれるのはありがたいが、やらねばならぬことならやらねばならぬのである。
だが、そこまで確認してくるとなると、その技は難しいのだろうか。
「君であれば、おそらく…」
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