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「それより、まだ話してないの?」
声が聞こえない程度に距離を空けて待機している部下たちの中で、ムイロエと同じくイアーナの顔が段々歪んできている。ムイロエは明らかに、いつまで何話してんのよ。みたいな不機嫌ぶすくれ顔をしているが、イアーナはどこに力を入れているのか、その内ぶるぶる震え出しそうなほど身体を緊張させていた。
誰と言わなくとも分かるルヴィアーレは、目で見て分かる反応をしてこなかった。イアーナに目線でも動かせば、気付いたイアーナが過剰に反応するからだろう。気付くかは分からないが、首をすくめるように肩に力を入れすぎているイアーナが気付けば、前のめりになって近付いてきそうだ。
「何であんな力入れてるかな。もしもの時動きにくくない? 心の中で、近い、近い。とか言ってんのかしらね」
フィルリーネの言葉にルヴィアーレが咳払いをする。心当たりがあるのか咳で何かをごまかした。
イアーナに注意するのではなかったのだろうか。イアーナは唸り声を上げるのを我慢して、歯を食いしばっているように見える。本当なら歯を剥き出してがうがう吠えたいのだろう。
植物園では席があって机があり対面で話すこともあるが、今は話し声を小さくするために立ったままゆっくりと歩いて話をしている。植物を見て話をしているように見せるためだ。
そのため机を挟んで話している時より距離がとても近い。イアーナはそれが気に食わないらしい。ルヴィアーレが嘘くさく微笑むと、イアーナが口をもごもごぴくぴくさせた。ついでに肩が錨のように上がるのだ。文句を言いたいのと、それ以上近付くなと、体が動きそうなのを何とか我慢しているのである。
微笑み合っているように見えるかもしれないが、会話の内容は全く違うことを教えてやりたい。
「噛み付かんばかりに威嚇してくるのはいいけど、周り見えてなさそ。さっきからレブロンの肘打ち飛んでるけど、痛くないの?」
ルヴィアーレはため息を堪えるように息を吸った。部屋にいれば大きなため息を吐いただろう。
「君の本性を話したところでイアーナは信じない。それどころか疑り深く様子を探るだろう。それは君にとって余計な動きになる」
間違いなくイアーナは高飛車フィルリーネ王女が何の嘘を主人に伝えたのか、大きく疑うだろう。それを態度にありありと出して、果てには口まで出してきそうである。間違いなくやる。
それはこちらにとっても迷惑だ。ルヴィアーレも当然その迷惑をこうむることになる。なれば真実は言わず黙っていた方が得策である。自分でもそうする。
「イアーナは顔に出る。真実はサラディカにしか伝えていない」
それは想定していた。ルヴィアーレならば慎重に事を見守り、話す相手を決めるだろう。サラディカだけかレブロンも巻き込むか。しかし、あってもイアーナだけには話さぬと分かっている。
イアーナの態度はひどいものだ。ここでもう少しお灸を据えたいが、据えるのは自分でなくルヴィアーレである。ついでに部屋の外でも問題がないことを王の手下たちに知らせておきたい。
だからこの行動は嫌がらせではない。間違ってもイアーナをからかいたいわけではない。
「嬉しいわ。ルヴィアーレ様!」
フィルリーネは突然ルヴィアーレに抱きついた。ルヴィアーレがどんな顔をしたのか見えないが、イアーナが大口を開けて目が飛び出しそうなほど顔を歪めたのは良く見えた。
「またこちらでお話ししましょう。ご機嫌よう」
見上げて笑顔を向けた相手は、顔が凍っていた。さすがに想定していなかったようだが、もう抱きついた後である。上機嫌のままルヴィアーレを背にしてイアーナたちの横を通り過ぎた。
イアーナだけでなくムイロエもひどい顔をしていたが、それは見なかったことにしよう。
イアーナきっとルヴィアーレに楯突くんだろうなあ。言いすぎるほど言ってくるだろうから、そこできつく注意するがいいよ。計画があるとか適当に言っておいてほしいものである。イアーナの態度の悪さは最近また目に付くものがある。
なんて、丁度良い逃げ方をしてフィルリーネはうふふと部屋に戻った。気を張り詰める出来事が多いので、心穏やかにしたいのだ。
ここ最近、あまり良く眠れないことがある。まどろむように昔の夢を見た。
叔父ハルディオラが側にいる時、自分は小さな幼い子供だ。叔父が膝を付いてこちらを穏やかに見つめていた。
『お父様は私を見ないの。私が嫌いなのかな?』
『王は忙しくて、色々なことで頭を悩ませているんだよ』
だから気にすることはない。叔父の言葉は慰めで、それが真実でないと子供心に気付いていた。
王が見る自分の姿はただの他人だった。子供を見る目は親からの目ではなく、ただそこにいる置物に等しい。一度目にしてすぐに視線を変える。目が合うことはなく、いたのに気付くだけの、ただの置物だった。
それでも王はマリオンネに訪れる際、自分を連れた。自分だけでなく叔父も同行するが、後で王に嫁いできたミュライレンを連れることはなかった。
マリオンネに訪れるのはグングナルドの状況を伝えるためだ。女王に謁見することは多くなく、会うのはムスタファ・ブレインである。人の住まないミーニリオンと言う浮島に、何度か訪れる機会があった。
物音のしない静かな空間。布の擦れる音すら耳に響く。現れた白のマントを羽織るムスタファ・ブレイン。腕が見えない作りの白の衣装をすっぽりとかぶっているのが印象的だった。
同じ衣装を着た者たちが並べば、子供心にも神聖な雰囲気を感じ取ることができる。
マリオンネは特別だ。それなのに王はよく訪れる。グングナルドの報告はいつも同じで変わりはない。民は健やかに生活をしている。そればかりを口にするのを見上げながら、王を残し叔父と別室で待機した。
王はムスタファ・ブレインと話を続けるが、叔父と自分はその話を待つのだ。待つのが苦痛で許しを経て建物の外へ案内される。草花の咲く美しい壁に囲まれた小さな庭園は建物の飾り程度だったが、時間を過ごすには美しい庭だった。
庭園を抜ける渡り廊下を渡る者はいない。水音とはしゃぐ自分の声しか聞こえない、静かな空間だ。
そこには騎士たちが控えるだけで、他に誰が来るわけでもない。たまに叔父の知り合いが訪れるが長く話すわけでもなかった。けれど一度だけ、長い黒髪を背中に流した少女が渡り廊下を渡った。
『アンリカーダ様だよ。ご挨拶をして』
紅の瞳を持つ現王女の孫アンリカーダ。口元は笑っていたがこちらを見る瞳は鋭く、少女とは思えない存在感に叔父の背に隠れたのを覚えている。
『これはアンリカーダ様』
城の中ではほとんど笑顔を見せない王が、跪いてアンリカーダを敬った。アンリカーダが現れることを知っていたのか、ムスタファ・ブレインと普段来ることのない庭園に足を運んできたのだ。
アンリカーダは口端を上げて王の挨拶を受ける。こちらを気にすることなく渡り廊下を進み、王やムスタファ・ブレインと建物へ入って行った。
『お父様嬉しそう』
『アンリカーダ様とはあまり会えないからね』
『私、あの人怖い』
『次の女王となられる方だよ。とても大人びた方だから』
けれど、女王はあんなにも美しく穏やかな方だった。それを口にすることはなかったけれど、現女王エルヴィアナの拝見を許され二人並ぶ姿を見れば、その雰囲気の違いに明らかな差を感じたのだ。
『アンリカーダ様はお母様がいらっしゃらないんだ』
『私と一緒』
けれど自分には叔父がいる。王がいるとは考えなかったが、祖母である女王がいながら、なぜあそこまでアンリカーダは怒りを抱いているのか疑問に思った。
顔は怒ってはいない。しかし、二人並ぶ姿を見ていて、どうしても怒りを持っているようにしか見えなかったのだ。
そのせいなのか、瞳の色が印象的だったからなのか、アンリカーダは苦手だ。顔の整った美しい人だったが纏う空気が鋭く、そこにいる誰もに冷淡な瞳を向けているように思えた。
『王はまだ戻らない。先に城へ戻ろうか』
雨が降り始めていた夕方。大地は既に濡れて雨音が滴っていた。薄暗い空模様。航空艇の中で雷が遠目に見えたが、城へ戻れば雷鳴が響き渡り始めていた。
側仕えたちが轟く音に耳を塞ぐ中、部屋に籠もり早くに休むふりをしていつも通り勉強をする。叔父と約束した通り、誰にも見られないように一人で秘密裏に。それが当たり前の生活だから。
カサダリアに戻ることなくダリュンベリに留まった叔父が襲われたのは、そのすぐ後のことだった。
王が戻る前に襲撃された。騒ぎになった城の中、精霊たちが一気に悲鳴を上げた。悲嘆に暮れて空気を震わせる。今まで感じたことのない空気の震え。共鳴する嘆きの中に叫び声すら聞こえた。
側仕えに知らされる前に、既に部屋を飛び出していた。
叔父は殺された。突然の死だった。
冷たい雨の中、何故か外に出ていた叔父は、何者かに殺された。魔導も強く、剣の腕もあるはずの叔父が、どうやって殺されたのか、未だ分かってはいない。けれど抵抗することもなく、ただ濡れた石畳の地面に倒れ、血溜まりの中見付けられた。
警備はいた。エレディナはいなかったが、常に叔父を守る警備騎士が付いていた。しかし、その日なぜか叔父は転移魔法陣で外に出て、誰にも知られることなく部屋を抜け出していた。
どうしてそうなったのか。その理由は分からない。けれど、冷たくなった身体は棺に納められ、荼毘に付された時、悲しみに暮れる人々の中、たった一人、緩やかに笑んだ者がいた。
忘れない。あの笑った顔。狂気を孕んだ、殺人者の顔を。
声が聞こえない程度に距離を空けて待機している部下たちの中で、ムイロエと同じくイアーナの顔が段々歪んできている。ムイロエは明らかに、いつまで何話してんのよ。みたいな不機嫌ぶすくれ顔をしているが、イアーナはどこに力を入れているのか、その内ぶるぶる震え出しそうなほど身体を緊張させていた。
誰と言わなくとも分かるルヴィアーレは、目で見て分かる反応をしてこなかった。イアーナに目線でも動かせば、気付いたイアーナが過剰に反応するからだろう。気付くかは分からないが、首をすくめるように肩に力を入れすぎているイアーナが気付けば、前のめりになって近付いてきそうだ。
「何であんな力入れてるかな。もしもの時動きにくくない? 心の中で、近い、近い。とか言ってんのかしらね」
フィルリーネの言葉にルヴィアーレが咳払いをする。心当たりがあるのか咳で何かをごまかした。
イアーナに注意するのではなかったのだろうか。イアーナは唸り声を上げるのを我慢して、歯を食いしばっているように見える。本当なら歯を剥き出してがうがう吠えたいのだろう。
植物園では席があって机があり対面で話すこともあるが、今は話し声を小さくするために立ったままゆっくりと歩いて話をしている。植物を見て話をしているように見せるためだ。
そのため机を挟んで話している時より距離がとても近い。イアーナはそれが気に食わないらしい。ルヴィアーレが嘘くさく微笑むと、イアーナが口をもごもごぴくぴくさせた。ついでに肩が錨のように上がるのだ。文句を言いたいのと、それ以上近付くなと、体が動きそうなのを何とか我慢しているのである。
微笑み合っているように見えるかもしれないが、会話の内容は全く違うことを教えてやりたい。
「噛み付かんばかりに威嚇してくるのはいいけど、周り見えてなさそ。さっきからレブロンの肘打ち飛んでるけど、痛くないの?」
ルヴィアーレはため息を堪えるように息を吸った。部屋にいれば大きなため息を吐いただろう。
「君の本性を話したところでイアーナは信じない。それどころか疑り深く様子を探るだろう。それは君にとって余計な動きになる」
間違いなくイアーナは高飛車フィルリーネ王女が何の嘘を主人に伝えたのか、大きく疑うだろう。それを態度にありありと出して、果てには口まで出してきそうである。間違いなくやる。
それはこちらにとっても迷惑だ。ルヴィアーレも当然その迷惑をこうむることになる。なれば真実は言わず黙っていた方が得策である。自分でもそうする。
「イアーナは顔に出る。真実はサラディカにしか伝えていない」
それは想定していた。ルヴィアーレならば慎重に事を見守り、話す相手を決めるだろう。サラディカだけかレブロンも巻き込むか。しかし、あってもイアーナだけには話さぬと分かっている。
イアーナの態度はひどいものだ。ここでもう少しお灸を据えたいが、据えるのは自分でなくルヴィアーレである。ついでに部屋の外でも問題がないことを王の手下たちに知らせておきたい。
だからこの行動は嫌がらせではない。間違ってもイアーナをからかいたいわけではない。
「嬉しいわ。ルヴィアーレ様!」
フィルリーネは突然ルヴィアーレに抱きついた。ルヴィアーレがどんな顔をしたのか見えないが、イアーナが大口を開けて目が飛び出しそうなほど顔を歪めたのは良く見えた。
「またこちらでお話ししましょう。ご機嫌よう」
見上げて笑顔を向けた相手は、顔が凍っていた。さすがに想定していなかったようだが、もう抱きついた後である。上機嫌のままルヴィアーレを背にしてイアーナたちの横を通り過ぎた。
イアーナだけでなくムイロエもひどい顔をしていたが、それは見なかったことにしよう。
イアーナきっとルヴィアーレに楯突くんだろうなあ。言いすぎるほど言ってくるだろうから、そこできつく注意するがいいよ。計画があるとか適当に言っておいてほしいものである。イアーナの態度の悪さは最近また目に付くものがある。
なんて、丁度良い逃げ方をしてフィルリーネはうふふと部屋に戻った。気を張り詰める出来事が多いので、心穏やかにしたいのだ。
ここ最近、あまり良く眠れないことがある。まどろむように昔の夢を見た。
叔父ハルディオラが側にいる時、自分は小さな幼い子供だ。叔父が膝を付いてこちらを穏やかに見つめていた。
『お父様は私を見ないの。私が嫌いなのかな?』
『王は忙しくて、色々なことで頭を悩ませているんだよ』
だから気にすることはない。叔父の言葉は慰めで、それが真実でないと子供心に気付いていた。
王が見る自分の姿はただの他人だった。子供を見る目は親からの目ではなく、ただそこにいる置物に等しい。一度目にしてすぐに視線を変える。目が合うことはなく、いたのに気付くだけの、ただの置物だった。
それでも王はマリオンネに訪れる際、自分を連れた。自分だけでなく叔父も同行するが、後で王に嫁いできたミュライレンを連れることはなかった。
マリオンネに訪れるのはグングナルドの状況を伝えるためだ。女王に謁見することは多くなく、会うのはムスタファ・ブレインである。人の住まないミーニリオンと言う浮島に、何度か訪れる機会があった。
物音のしない静かな空間。布の擦れる音すら耳に響く。現れた白のマントを羽織るムスタファ・ブレイン。腕が見えない作りの白の衣装をすっぽりとかぶっているのが印象的だった。
同じ衣装を着た者たちが並べば、子供心にも神聖な雰囲気を感じ取ることができる。
マリオンネは特別だ。それなのに王はよく訪れる。グングナルドの報告はいつも同じで変わりはない。民は健やかに生活をしている。そればかりを口にするのを見上げながら、王を残し叔父と別室で待機した。
王はムスタファ・ブレインと話を続けるが、叔父と自分はその話を待つのだ。待つのが苦痛で許しを経て建物の外へ案内される。草花の咲く美しい壁に囲まれた小さな庭園は建物の飾り程度だったが、時間を過ごすには美しい庭だった。
庭園を抜ける渡り廊下を渡る者はいない。水音とはしゃぐ自分の声しか聞こえない、静かな空間だ。
そこには騎士たちが控えるだけで、他に誰が来るわけでもない。たまに叔父の知り合いが訪れるが長く話すわけでもなかった。けれど一度だけ、長い黒髪を背中に流した少女が渡り廊下を渡った。
『アンリカーダ様だよ。ご挨拶をして』
紅の瞳を持つ現王女の孫アンリカーダ。口元は笑っていたがこちらを見る瞳は鋭く、少女とは思えない存在感に叔父の背に隠れたのを覚えている。
『これはアンリカーダ様』
城の中ではほとんど笑顔を見せない王が、跪いてアンリカーダを敬った。アンリカーダが現れることを知っていたのか、ムスタファ・ブレインと普段来ることのない庭園に足を運んできたのだ。
アンリカーダは口端を上げて王の挨拶を受ける。こちらを気にすることなく渡り廊下を進み、王やムスタファ・ブレインと建物へ入って行った。
『お父様嬉しそう』
『アンリカーダ様とはあまり会えないからね』
『私、あの人怖い』
『次の女王となられる方だよ。とても大人びた方だから』
けれど、女王はあんなにも美しく穏やかな方だった。それを口にすることはなかったけれど、現女王エルヴィアナの拝見を許され二人並ぶ姿を見れば、その雰囲気の違いに明らかな差を感じたのだ。
『アンリカーダ様はお母様がいらっしゃらないんだ』
『私と一緒』
けれど自分には叔父がいる。王がいるとは考えなかったが、祖母である女王がいながら、なぜあそこまでアンリカーダは怒りを抱いているのか疑問に思った。
顔は怒ってはいない。しかし、二人並ぶ姿を見ていて、どうしても怒りを持っているようにしか見えなかったのだ。
そのせいなのか、瞳の色が印象的だったからなのか、アンリカーダは苦手だ。顔の整った美しい人だったが纏う空気が鋭く、そこにいる誰もに冷淡な瞳を向けているように思えた。
『王はまだ戻らない。先に城へ戻ろうか』
雨が降り始めていた夕方。大地は既に濡れて雨音が滴っていた。薄暗い空模様。航空艇の中で雷が遠目に見えたが、城へ戻れば雷鳴が響き渡り始めていた。
側仕えたちが轟く音に耳を塞ぐ中、部屋に籠もり早くに休むふりをしていつも通り勉強をする。叔父と約束した通り、誰にも見られないように一人で秘密裏に。それが当たり前の生活だから。
カサダリアに戻ることなくダリュンベリに留まった叔父が襲われたのは、そのすぐ後のことだった。
王が戻る前に襲撃された。騒ぎになった城の中、精霊たちが一気に悲鳴を上げた。悲嘆に暮れて空気を震わせる。今まで感じたことのない空気の震え。共鳴する嘆きの中に叫び声すら聞こえた。
側仕えに知らされる前に、既に部屋を飛び出していた。
叔父は殺された。突然の死だった。
冷たい雨の中、何故か外に出ていた叔父は、何者かに殺された。魔導も強く、剣の腕もあるはずの叔父が、どうやって殺されたのか、未だ分かってはいない。けれど抵抗することもなく、ただ濡れた石畳の地面に倒れ、血溜まりの中見付けられた。
警備はいた。エレディナはいなかったが、常に叔父を守る警備騎士が付いていた。しかし、その日なぜか叔父は転移魔法陣で外に出て、誰にも知られることなく部屋を抜け出していた。
どうしてそうなったのか。その理由は分からない。けれど、冷たくなった身体は棺に納められ、荼毘に付された時、悲しみに暮れる人々の中、たった一人、緩やかに笑んだ者がいた。
忘れない。あの笑った顔。狂気を孕んだ、殺人者の顔を。
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