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「あちらは?」
ルヴィアーレは、別のガラスで仕切られた小部屋で、野菜のような植物に水を与えている男性を見遣った。
「食物の研究です。精霊が減っても、何とかする方法はないかと。予算が少ないので、殆ど研究員の趣味ですよ」
イムレスがガラスを叩いて、扉を開けさせる。中から出てきた男は、気後れするように、きょろきょろとイムレスとルヴィアーレを交互に見た。
「オゼと申します。オゼ、フィルリーネ様のご婚約者の、ルヴィアーレ様だよ」
イムレスが紹介すると、オゼは丸くなった背中を仰け反らせるようにして驚いた。そして、すぐに怯えるように、小さくなる。イムレスが研究の説明をするように言うと、どもりながら、あわあわ言った。
「え、ええ、栄養剤の研究と、種の強化をしております。せ、精霊に、祝福されない土地でも、食物が育てられるか、研究していて。イムレス様の、ご協力いただいてて、街の人がしし、食料に困らないような、体制がとれ、とれればと」
「研究は、個々でやっている者が多いのです。指針のある研究もあれば、個人で新しい研究もできるようになっておりますから」
恐縮しすぎているオゼは話し下手のようで、すぐに俯いてしまった。イムレスは軽く笑むと、研究に戻るように言う。
イムレスは説明をしながら、植物園を歩いた。植物園の案内だけで、時間が掛かる。他の研究所へと案内するために、移動式魔法陣を使用して、上の階へ移動した。
移動だけでも距離があるため、歩き続けるのが大変だ。至る所に移動式魔法陣があり、それに乗って移動する者が多い。さすがに腐っても大国。規模が違いすぎる。
「あー、イムレスさまー。用あります。待ってー」
移動式魔法陣から降りると、とろとろと小汚い子供が近寄ってきた。
「ヘライーヌ、今はルヴィアーレ様を案内しているところだよ。急ぎの話かい?」
「ルヴィアーレさま?」
「フィルリーネ様のご婚約者だよ。ラータニア国第二王子であられた、ラータニア国王の弟君だ」
ヘライーヌと呼ばれた子供は、顔色が悪く、目元が深いクマで覆われていた。声が高めだが、女なのか男なのか分かりにくい。その顔をこちらに向けてきて、どれが王子? と呟いた。
「ヘライーヌ。失礼だよ。急ぎでないなら、後になさい」
「めんどくさいことあって」
「君の面倒臭いは、こちらにも面倒臭いんだけれどね。また、フィルリーネ様の前でいたずらしたとか、言わないだろうね?」
「姫さんは、さっき見たけど、こっち気付いて怒ってきた」
「また、怒られたのかい? 何をしたの」
イムレスが言うと、ヘライーヌは、えー、と間延びした声を出した。指まで隠れる長い袖で口元を隠して、他所を向く。イムレスは、いたずらをしたのならば、あとでお説教だよ。と小さな子供に言うように叱った。しかし、この場所にいるのならば、魔導院の研究員のはずだ。
「何もしてないよ。ただ姫さん、こっち見て、小汚い格好でうろつくなって言ってた。イムレスさまに注意してもらうって言ってたよ」
「言ってたよ。じゃないよ。それについては、私もフィルリーネ様の意見に賛成だからね。注意されたくなかったら、食事をして眠りなさい。あとで研究室に行くから、それまでにお風呂に入りなさいよ」
「えー」
「えーじゃないよ。必ず行くから、君もちゃんとしなさい」
「きっと、姫さん来るよー。なんか機嫌悪そうだったもん。あと、周りに何かくっ付けてた」
ヘライーヌの言葉に、イムレスは腕を組むと、小さな頭を睨みつけるようにして見下ろす。ヘライーヌは余所目にして、口を半開きにした。
「姫さん、気付いてないから、大丈夫だよ。普通に歩いてたし」
「君の魔導がとても強力なことは知っているけれど、それが分かるほどであれば、君たちが何かをしたからではないの?」
「それは、わたしはちゃんと知らないから、知らない」
「ヘライーヌ。部屋に戻って食事をして、お風呂に入って待っていなさい。いいね」
「ふわあーい。お説教やだなー。姫さんだけで、じゅうぶんー」
「いいね!」
「ふわわーい」
返事にもならない声で返して、ヘライーヌはふらふらと戻っていった。イムレスは大きく溜め息をついてから、ルヴィアーレに謝罪する。
「随分と、小さな子供のようですが」
「あれでも十九歳で、研究員の一人ですが、頭のいい子なんですよ。何かと規格外で、何をやるか分かりませんが」
余程、何かしらやらかしているらしい。イムレスは疲れた顔をして、もう一度ため息を吐く。
頭がいいとはいえ、あれが研究員とは、この国の基準はどうかしているとしか思えない。まずは教養を身に付けてからの話だろう。
隣国の王弟を前にして、失礼極まりない。こんなことですら、ラータニアと比較したくなる。躾がなっていない。ルヴィアーレにも不快だろうが。
「周りに何か付けている、とは?」
「見てみないことには何とも言えませんね。フィルリーネ様がいらっしゃるのを待ちます」
ルヴィアーレはヘライーヌの無礼さには何も言わず、フィルリーネについてを問う。
案内で忘れがちだが、フィルリーネについてルヴィアーレがどのような判断をしているのか、しっかり確認したい。
前々よりフィルリーネに警戒しているところがあるとは分かっていたが、危険を知らせていたとなると、また見方が変わってくるのだ。
ルヴィアーレはイムレスの説明を聞きながら、時に質問をし、案内を受けた。しかし、その後もフィルリーネの話は出ずに、結局魔導院の案内だけで、イムレスとの約束は終えた。
「精霊や魔獣の研究所は、さすがに見せてもらえなかったですね」
「さすがにな」
ルヴィアーレの部屋に戻るため歩いていると、イアーナは、凄かったなー。という至極単純な感想を言いながら、全てを見させてもらえなかったことを残念がった。
そんなことより、気になることがあっただろうが。
こちらにも躾のなっていない単純馬鹿がいることを思い出して、溜め息が出そうになる。
「精霊に頼れぬなら、自ら作るというのは面白い発想だとは思いますが、精霊を軽んじているようにも思えました」
後ろの王の手下に聞かれないよう、ルヴィアーレにそう言うと、ルヴィアーレは横目で見遣るだけで、すぐに何かを考えるように、腕を組みながら指で顎に触れた。
「できるんですかね、そんなこと。趣味でやってるって、言ってたし」
イアーナはインチキではないかと軽口をきく。
オゼは水やりに精を出しているようだが、その水すら濁る想定をしているらしく、水の浄化をどのように行うべきかも研究しているそうだ。しかも、地方の村に住む平民ができるように、想定しているらしい。
農作業を平民が行なっているのは当然でも、そこに精霊がいなければ成長も遅く、悪くすれば枯れることがある。精霊がいない場合など土すらも死ぬので、全ての死を意味するほどだと思っていたが、この国ではいないことが当たり前に想定されていた。
「精霊がいなくてもいいようになんて、不謹慎じゃないんですかね」
声がでかいと思いつつも、イアーナの言葉に皆が頷く。ラータニアでそんなことを言えば、誰もが怒りを持つだろう。精霊がいなくなることなどあり得ない。いなくなるような真似を、誰がするのかと糾弾される。
「それくらい、困窮する可能性を考えているのだろう。マリオンネの女王が交代する場合、精霊が悼むために土地を離れることはある」
「しかし、それで餓死者が出るまで想定するとは、ラータニアでは考えられません」
ルヴィアーレは理解ができるのか、納得しているようだった。しかし、ラータニアではあり得ないだろう。
ラータニアは精霊が多いと言われている。この国の精霊がどれほど少ないのかは知らないが、あまり理解できない話なのだ。
話していると、ルヴィアーレがふと顔を上げ、歩いている足を止めた。
「ルヴィアーレ様?」
「どうかされましたか?」
各々声を掛けたが、ルヴィアーレは外廊下から上空を見上げたり、周囲を注意深く見遣るだけだ。
ルヴィアーレにしか感じられない何かがある時によくする仕草に、皆が腰の剣をすぐに触れる体制になる。
「ルヴィアーレ様……、何か?」
「精霊が騒いでいる」
精霊ではこちらは分からない。ほんの数匹いても、小さな魔導では気付けないからだ。魔導がそれなりにあれば、精霊が余程大量にいて、空を埋め尽くすほどでもいれば、魔導が集まり気付くだろう。
しかし、ルヴィアーレがどこにいるか定められないほどの魔導の力を、自分たちが気付けるはずがなかった。
「あ、」
イアーナが、別の外廊下を歩いているフィルリーネを見付けて、声を上げる。
先ほど、ヘライーヌが周りに何か付けていると言っていたが、遠目からでは何も見えない。若干、周囲に魔導の閃きが見えるだろうか。しかし、それも気のせいのような気もする。
不機嫌に歩いているようには見えないが、イアーナが後ろで、偉そうに歩くなあ。と呟いた。
「ルヴィアーレ様?」
ルヴィアーレはフィルリーネへ眇めた目を向けた。嫌悪感のあるイアーナとは違った、眉を顰めるような表情で、フィルリーネの周辺を注視した。
ここから見るには、魔導が見えるような、見えないような。遠目すぎて、そこまで何があるかは分からない。
フィルリーネはこちらに気付かないか、通り過ぎていく。
何に気付いたのか、ルヴィアーレの考えを全て推し測ることはできない。
ルヴィアーレは、見えている物が違う。
魔導が強すぎて、子供の頃は苦労したという話は、よく聞いた。
精霊がいたずらをし、視界を防がれて前が見えなくなるなど、虚言にしか聞こえない。
ルヴィアーレは、精霊を完全に操れるわけではないから、避けて通ることしかできぬ。とぼやいたこともあった。
それに共感できるのは、ユーリファラだけだ。ルヴィアーレとまではいかずとも、魔導の多いユーリファラであれば、ルヴィアーレと似たような景色が見られるのだろう。
あの方がいれば、ルヴィアーレ様の心を推し測れるだろうに。
ルヴィアーレは、別のガラスで仕切られた小部屋で、野菜のような植物に水を与えている男性を見遣った。
「食物の研究です。精霊が減っても、何とかする方法はないかと。予算が少ないので、殆ど研究員の趣味ですよ」
イムレスがガラスを叩いて、扉を開けさせる。中から出てきた男は、気後れするように、きょろきょろとイムレスとルヴィアーレを交互に見た。
「オゼと申します。オゼ、フィルリーネ様のご婚約者の、ルヴィアーレ様だよ」
イムレスが紹介すると、オゼは丸くなった背中を仰け反らせるようにして驚いた。そして、すぐに怯えるように、小さくなる。イムレスが研究の説明をするように言うと、どもりながら、あわあわ言った。
「え、ええ、栄養剤の研究と、種の強化をしております。せ、精霊に、祝福されない土地でも、食物が育てられるか、研究していて。イムレス様の、ご協力いただいてて、街の人がしし、食料に困らないような、体制がとれ、とれればと」
「研究は、個々でやっている者が多いのです。指針のある研究もあれば、個人で新しい研究もできるようになっておりますから」
恐縮しすぎているオゼは話し下手のようで、すぐに俯いてしまった。イムレスは軽く笑むと、研究に戻るように言う。
イムレスは説明をしながら、植物園を歩いた。植物園の案内だけで、時間が掛かる。他の研究所へと案内するために、移動式魔法陣を使用して、上の階へ移動した。
移動だけでも距離があるため、歩き続けるのが大変だ。至る所に移動式魔法陣があり、それに乗って移動する者が多い。さすがに腐っても大国。規模が違いすぎる。
「あー、イムレスさまー。用あります。待ってー」
移動式魔法陣から降りると、とろとろと小汚い子供が近寄ってきた。
「ヘライーヌ、今はルヴィアーレ様を案内しているところだよ。急ぎの話かい?」
「ルヴィアーレさま?」
「フィルリーネ様のご婚約者だよ。ラータニア国第二王子であられた、ラータニア国王の弟君だ」
ヘライーヌと呼ばれた子供は、顔色が悪く、目元が深いクマで覆われていた。声が高めだが、女なのか男なのか分かりにくい。その顔をこちらに向けてきて、どれが王子? と呟いた。
「ヘライーヌ。失礼だよ。急ぎでないなら、後になさい」
「めんどくさいことあって」
「君の面倒臭いは、こちらにも面倒臭いんだけれどね。また、フィルリーネ様の前でいたずらしたとか、言わないだろうね?」
「姫さんは、さっき見たけど、こっち気付いて怒ってきた」
「また、怒られたのかい? 何をしたの」
イムレスが言うと、ヘライーヌは、えー、と間延びした声を出した。指まで隠れる長い袖で口元を隠して、他所を向く。イムレスは、いたずらをしたのならば、あとでお説教だよ。と小さな子供に言うように叱った。しかし、この場所にいるのならば、魔導院の研究員のはずだ。
「何もしてないよ。ただ姫さん、こっち見て、小汚い格好でうろつくなって言ってた。イムレスさまに注意してもらうって言ってたよ」
「言ってたよ。じゃないよ。それについては、私もフィルリーネ様の意見に賛成だからね。注意されたくなかったら、食事をして眠りなさい。あとで研究室に行くから、それまでにお風呂に入りなさいよ」
「えー」
「えーじゃないよ。必ず行くから、君もちゃんとしなさい」
「きっと、姫さん来るよー。なんか機嫌悪そうだったもん。あと、周りに何かくっ付けてた」
ヘライーヌの言葉に、イムレスは腕を組むと、小さな頭を睨みつけるようにして見下ろす。ヘライーヌは余所目にして、口を半開きにした。
「姫さん、気付いてないから、大丈夫だよ。普通に歩いてたし」
「君の魔導がとても強力なことは知っているけれど、それが分かるほどであれば、君たちが何かをしたからではないの?」
「それは、わたしはちゃんと知らないから、知らない」
「ヘライーヌ。部屋に戻って食事をして、お風呂に入って待っていなさい。いいね」
「ふわあーい。お説教やだなー。姫さんだけで、じゅうぶんー」
「いいね!」
「ふわわーい」
返事にもならない声で返して、ヘライーヌはふらふらと戻っていった。イムレスは大きく溜め息をついてから、ルヴィアーレに謝罪する。
「随分と、小さな子供のようですが」
「あれでも十九歳で、研究員の一人ですが、頭のいい子なんですよ。何かと規格外で、何をやるか分かりませんが」
余程、何かしらやらかしているらしい。イムレスは疲れた顔をして、もう一度ため息を吐く。
頭がいいとはいえ、あれが研究員とは、この国の基準はどうかしているとしか思えない。まずは教養を身に付けてからの話だろう。
隣国の王弟を前にして、失礼極まりない。こんなことですら、ラータニアと比較したくなる。躾がなっていない。ルヴィアーレにも不快だろうが。
「周りに何か付けている、とは?」
「見てみないことには何とも言えませんね。フィルリーネ様がいらっしゃるのを待ちます」
ルヴィアーレはヘライーヌの無礼さには何も言わず、フィルリーネについてを問う。
案内で忘れがちだが、フィルリーネについてルヴィアーレがどのような判断をしているのか、しっかり確認したい。
前々よりフィルリーネに警戒しているところがあるとは分かっていたが、危険を知らせていたとなると、また見方が変わってくるのだ。
ルヴィアーレはイムレスの説明を聞きながら、時に質問をし、案内を受けた。しかし、その後もフィルリーネの話は出ずに、結局魔導院の案内だけで、イムレスとの約束は終えた。
「精霊や魔獣の研究所は、さすがに見せてもらえなかったですね」
「さすがにな」
ルヴィアーレの部屋に戻るため歩いていると、イアーナは、凄かったなー。という至極単純な感想を言いながら、全てを見させてもらえなかったことを残念がった。
そんなことより、気になることがあっただろうが。
こちらにも躾のなっていない単純馬鹿がいることを思い出して、溜め息が出そうになる。
「精霊に頼れぬなら、自ら作るというのは面白い発想だとは思いますが、精霊を軽んじているようにも思えました」
後ろの王の手下に聞かれないよう、ルヴィアーレにそう言うと、ルヴィアーレは横目で見遣るだけで、すぐに何かを考えるように、腕を組みながら指で顎に触れた。
「できるんですかね、そんなこと。趣味でやってるって、言ってたし」
イアーナはインチキではないかと軽口をきく。
オゼは水やりに精を出しているようだが、その水すら濁る想定をしているらしく、水の浄化をどのように行うべきかも研究しているそうだ。しかも、地方の村に住む平民ができるように、想定しているらしい。
農作業を平民が行なっているのは当然でも、そこに精霊がいなければ成長も遅く、悪くすれば枯れることがある。精霊がいない場合など土すらも死ぬので、全ての死を意味するほどだと思っていたが、この国ではいないことが当たり前に想定されていた。
「精霊がいなくてもいいようになんて、不謹慎じゃないんですかね」
声がでかいと思いつつも、イアーナの言葉に皆が頷く。ラータニアでそんなことを言えば、誰もが怒りを持つだろう。精霊がいなくなることなどあり得ない。いなくなるような真似を、誰がするのかと糾弾される。
「それくらい、困窮する可能性を考えているのだろう。マリオンネの女王が交代する場合、精霊が悼むために土地を離れることはある」
「しかし、それで餓死者が出るまで想定するとは、ラータニアでは考えられません」
ルヴィアーレは理解ができるのか、納得しているようだった。しかし、ラータニアではあり得ないだろう。
ラータニアは精霊が多いと言われている。この国の精霊がどれほど少ないのかは知らないが、あまり理解できない話なのだ。
話していると、ルヴィアーレがふと顔を上げ、歩いている足を止めた。
「ルヴィアーレ様?」
「どうかされましたか?」
各々声を掛けたが、ルヴィアーレは外廊下から上空を見上げたり、周囲を注意深く見遣るだけだ。
ルヴィアーレにしか感じられない何かがある時によくする仕草に、皆が腰の剣をすぐに触れる体制になる。
「ルヴィアーレ様……、何か?」
「精霊が騒いでいる」
精霊ではこちらは分からない。ほんの数匹いても、小さな魔導では気付けないからだ。魔導がそれなりにあれば、精霊が余程大量にいて、空を埋め尽くすほどでもいれば、魔導が集まり気付くだろう。
しかし、ルヴィアーレがどこにいるか定められないほどの魔導の力を、自分たちが気付けるはずがなかった。
「あ、」
イアーナが、別の外廊下を歩いているフィルリーネを見付けて、声を上げる。
先ほど、ヘライーヌが周りに何か付けていると言っていたが、遠目からでは何も見えない。若干、周囲に魔導の閃きが見えるだろうか。しかし、それも気のせいのような気もする。
不機嫌に歩いているようには見えないが、イアーナが後ろで、偉そうに歩くなあ。と呟いた。
「ルヴィアーレ様?」
ルヴィアーレはフィルリーネへ眇めた目を向けた。嫌悪感のあるイアーナとは違った、眉を顰めるような表情で、フィルリーネの周辺を注視した。
ここから見るには、魔導が見えるような、見えないような。遠目すぎて、そこまで何があるかは分からない。
フィルリーネはこちらに気付かないか、通り過ぎていく。
何に気付いたのか、ルヴィアーレの考えを全て推し測ることはできない。
ルヴィアーレは、見えている物が違う。
魔導が強すぎて、子供の頃は苦労したという話は、よく聞いた。
精霊がいたずらをし、視界を防がれて前が見えなくなるなど、虚言にしか聞こえない。
ルヴィアーレは、精霊を完全に操れるわけではないから、避けて通ることしかできぬ。とぼやいたこともあった。
それに共感できるのは、ユーリファラだけだ。ルヴィアーレとまではいかずとも、魔導の多いユーリファラであれば、ルヴィアーレと似たような景色が見られるのだろう。
あの方がいれば、ルヴィアーレ様の心を推し測れるだろうに。
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