高飛車フィルリーネ王女、職人を目指す。

MIRICO

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 前菜の盛り付けは彩りよく、少々塩分を含めさせて食欲を促す。スープは冷製でクリームのポタージュ。
 私スープ好きだから、スープだけでいい。って言いたい。

 前菜に手を出して、もぐもぐしながら、次の話題を探す。
 まだ、フリューノートの話でいいかな。
 あまり早く話しすぎると、食事が終わる前に話のネタが尽きてしまう。
 それは駄目だ。メインの話はメインディッシュの終わりにしたい。そうすれば、最後のお茶まで保つ気がする。保たないか?

 のんびり食べてはいけない。もぐもぐ加速させると、ルヴィアーレは随分とゆっくり食べていた。次に出てきた魚は、蒸しているが濃いめのソースがついている。
 これ、あんまり好きじゃない。私の好みは全く考慮されていないね。ムイロエめ。

 ルヴィアーレは濃い味が好きなのだろうか。しかし、あまり食が進んでいない。まだスープを飲んでいて、フィルリーネが魚に手を付けても、スープを飲んでいた。
 口に合わないのか? 料理人はフィルリーネ専用のシェフだ。料理が同じでもラータニアとは味付けに差があるだろう。もしかしたら、魚の蒸し料理にこんな濃い味は付けないのかもしれない。

 しかしその後も、ルヴィアーレはフィルリーネが食べれば、次に手を付けた。遅いからかと思ったが、どうやら追って食べることにしているようだ。
 警戒しているな。毒殺するわけでもないのに、警戒している。自分に毒殺されるとでも思っているのだろうか。
 やるとしても別の皿なのだから、関係ないだろう。それでも警戒している。

 王は何故ルヴィアーレを婿に選んだのだろう。これだけ警戒しているということは、優遇されない理由と同じなのだろうが、全く分からない。
 料理は、運ばれる前にお互いの側仕えが毒味をしている。それなのに、フィルリーネが口にしないと、ルヴィアーレは食に手を付けない。徹底している。

「祀典のおぞましい事件、恐ろしかったわ。ラータニア国境の領主関係者が亡くなったようなの」
 メイン料理が来て口にしてから、フィルリーネは始めた。料理はいくつか増えていたが、とりあえず全てに口を付けたので、ルヴィアーレも食べられるだろう。

「領主はシグナルテと言ったかしら。奥様とお子様が亡くなったようですわ」
 この情報はレミアからも聞いておいた。誰が犠牲で、何が原因だったのか。話せるネタを作っておきたかったからだ。

「我が国と懇意にしていた者も襲われたそうです」
 フィルリーネは一度顔を上げそうになった。

 ラータニアに懇意にしていた者が襲われた。その話は耳にしていない。驚いたふりをわざとらしくして、興味なさそうに話す。
「他にも亡くなった方がいたのでしょうね。あの会場で何人も倒れていた方を見掛けたわ。まったく、警備は一体何をしていたのかしら」

 溜め息混じりにそう言って、料理に手を伸ばす。まだ分かっていない情報が多そうだ。だがこれでヒベルト地方の人間が狙われたのだと分かった。アシュタルが調べているはずなので、話を早めに聞いておいた方が良さそうだ。

「多くが領主を護る、警備の騎士たちだったようですね」
「……騎士たち、ですか?」
 予想外の言葉に顔を上げてしまった。いや、騎士であれば、驚いても問題ないはずだ。

「あのように多くの獣が入ったのですもの。騎士たちも敵わなかったのですわね」
 確かに急襲だったかもしれないが、仮にも領主を護る者たちが、ドミニアンに敵わなかったなど。確かにドミニアンは強力な魔獣だが、少々気が抜け過ぎていたのではないだろうか。

「どうやら、酒を含んでいたようです」
「警備を行うものが、酒など」
 毒でも盛られていたのか。

 ルヴィアーレは、ここにいてどうやってその情報を得たのだろう。
 会場を出た時、ルヴィアーレはフィルリーネと一緒だった。あの時に情報を得ることは難しかったはずだ。顔の似た側仕えたちが動いているとしたら、繋ぎをつけている者たちがいるわけである。

 情報として出すのならば、秘密裏に得ても、言い訳のできる相手から得たのだろう。
 ここで自分にその情報を出すのは、自分が情報源を潰しに来るか確認するためだろうか。それともこちらの攻撃を疑っているのだろうか。

 悪いが、私は無関係だよ。ラータニアの話もまだ得ていない。こちらに問われても、反応もできないよ。

「祀典にいた警備から耳にしました。領主の騎士と言っても、外戚の方だったようです。警備を兼ねた、お客様だったのでしょう」
 外戚ならば身内だ。領主に近い者たちが狙われたのは間違いない。

 ルヴィアーレは、静かに憂いた顔をする。
 ムイロエが悲鳴を上げそうになるから、そんな顔をするのはやめてほしい。皿を運ぶ側仕えまで頰を赤らめた。
 お皿ちゃんと見て、溢れるよ!

「悲壮な事件ですわ」
「前にも同じような事件があったと伺いましたが」
「ええ。十年も前の話ですわね」
「地上を走る獣とおっしゃっておりましたが、何の魔獣が入り込んだのでしょうか」

「あまりよく覚えておりませんけれど、似たような赤黒い魔獣だったのを覚えておりますわ。わたくしも幼かったので、しっかり覚えているわけではありませんの。詳しく聞きたければ、魔導院の者にでもお聞きになって。魔導院の場所はご存知だったかしら」
「政務のカノイに、案内をいただきましたから」
「あら、そうでしたの? 魔導院でしたら、魔導院長、あの方、魔導院にいらっしゃるかしら。いなければ、副長のイムレスに確認するとよろしいでしょう」

「ありがとうございます」
 ふっと微笑むけれど、魔導院に行く理由ができて良かったと思っているかもしれない。
 こちらとしてはイムレスに話をさせたいだけだが、食いついてくれると助かる。イムレスは結構な策士なので、お互い会話に花を咲かせてほしい。化かし合いみたいで、近付きたくない話し合いになりそうだ。きっと、気が合う。

 カノイに案内させたことはすっかり忘れた体にして、フィルリーネは再び食事に口をつける。ルヴィアーレは殆ど進まない。口に合わないのかもしれない。衣装で分からないが、痩せていて少食なのかどうか。
 筋力はあるのだろうから、そこまで痩せ型ではないと思う。

 ムイロエの情報が合っていても、料理の質が違うだろうし、味付けも国によって変わるだろう。
 ルヴィアーレがこの国に来て、何日経ったっけ。料理口に合わないの、きついよねえ。実は私も、城の料理、種類によってあまり好まないものがあるのよ。

 高価なものを使いたがる傾向があり、種類は豊富なのだが、味の研究をしようとしない。そのため、味が同じになりがちなのだ。
 バルノルジの家で、料理の作り方を教えてもらえたりするので、そちらの方が美味しいと思ってしまう。

 高飛車フィルリーネ王女が不味いと言えばシェフも困るので、言い方を変えて改善させるしかないだろう。
 ご飯が美味しくないって、つらいよね。

 ルヴィアーレとは関わりたくないが、できるだけ生活環境改善には協力しよう。そう心に誓って、話のネタを考える。
 しまった。祀典だけで終わらそうっていうのは、無理があった。

「ルヴィアーレ様は剣もお得意でいらっしゃると伺っておりますわ。ラータニア王に騎士として同行なさるとか」
「王の同行に騎士として混じらせてもらっているだけです。私自身、護られているようなものでしたから」
「まあ、そのようなこと。魔獣を倒した腕は見ておりましてよ」

 ルヴィアーレは随分と謙虚だ。できることを言うと、フィルリーネが無茶振りするので警戒しているらしい。
 うん、全部私が悪いね。大丈夫だよ、次は無茶振りしないから。多分。

「弓はお得意かしら? 今度、狩猟大会がございますのよ」

 この不備ある警備の中で、次も何か起こるのは間違いない、危険な催し、狩猟大会がある。
 城から少しばかり離れた、貴族専用の狩場がある。殆ど街の敷地なので移動に時間は掛からないが、本物の森だ。

 さて、ここに何が出てくるか。こちらも知らない。しかし、用心に越したことはないのは間違いない。また死人が出るかもしれない、笑えない催しだ。

「王も出席なさるのですか?」
「当然ですわ。王も城の貴族たちも多く参加されます。王都ダリュンベリにいる者だけでなく、近くの領主も参りますから」
「あのような事件があった後に」
「そうですわね。けれど前の時にも中止にはなりませんでしたわ。暴力の行使に怯むことはないのでしょう。わたくしは興味はございませんが、王は狩猟大会を楽しみにしてらっしゃるのよ。中止にはならないわ」

 ルヴィアーレは笑顔で、楽しみですね。と返してきた。
 その感想、普通、すぐ出てこないよ。

 祀典で、警備が完全に無駄なことが露呈した。そして、今度は狩猟大会。何が起こるのか、ルヴィアーレは想像するだろう。それなのに、間髪入れず笑顔で返すとか。

 しかし、甘いな。狩りって動物かと思うでしょう。いいえ、魔獣狩りです。だから、がんがん魔導を使うは、剣も弓も使うは、殆ど討伐だね。

「ルヴィアーレ様なら安心ですわね。魔獣は空を飛ぶものも森にいてよ? 魔導にも長けていると伺っておりますから、何も心配なさることはないわ」

 フィルリーネの言葉に、一瞬ルヴィアーレは顔を真顔にした。
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