目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

文字の大きさ
上 下
72 / 103

34① ー討伐ー

しおりを挟む
 休憩を挟みながら馬を走らせ村に泊まり、時には野宿をして、進んでいく。

 少しずつ寒い地方に近付くと、顔に当たる風が冷たく感じ、体が冷えていくのが分かった。山を登っているのでなおさら寒気を感じる。
 もうすでに夕暮れで、食事を終えた頃には暗くなっているだろう。寒さも増すはずだ。

 硬いパンとスープだけの食事を終えて、クラウディオは人心地付く。

(遠征は久し振りだから、さすがに長く感じるな)

 セレスティーヌは今頃なにをしているだろうか。また体調を崩し倒れていないだろうか。
 今どこにいるのかを手紙に記し、セレスティーヌに届くよう配達人に渡す。

「もう少し走れば現地に到着しますが、先に子爵家の土地に潜入している者からの連絡がありましたので、こちらを」

 木を背もたれにして座り込んでいると、ノエルが資料を渡してきた。

 個体は闇夜に紛れては家畜を殺し、食べることなくその数を減らしていることから、殺すことを目的とした、魔獣では珍しい行為を行なっている。
 人々はこれが人間にも行われないか、日々恐々としているそうだ。

 魔獣の特徴は大きな爪と翼。従来の魔獣のように鳥形態で飛ぶのではなく、猿のような人間に近い体型で羽が生えていた。
 出没地点から鑑みると、数頭は存在していそうだ。羽があるため行動範囲も広いのか、被害のあった場所が何箇所か離れている。

「子爵家には被害はないそうですが、村の人間が水辺に引き摺られて戻らなかったり、森の中で襲われたりと、現れる場所も定まらず襲われています。数頭いることを考えても、出没場所はまだらなので、住処をつくる種類ではなさそうですね」
「羽があるのに水辺に引き込むとは、かつてない生体だな。村には現れやすいのだろう? 狙うならそこしかないようか?」
「一頭でもいれば、というところでしょう」


 一頭でも見付けられればどんな種類か確認できる。まずは罠を仕掛け、その間森の中を捜索するしかなさそうだ。

 遠征で馬に乗ってばかりなのに、ノエルは睡眠不足が解消されたのかいつもより顔色がいい。普段は研究所にいて眠らず研究を続けることが多いため、遠征に来た方が睡眠をとれるのだろう。

(不健康な奴だな)

 もっとも、ノエルは研究所に住んでいるようなもので、昔から顔色は悪く、不健康そのものになる生活をしていた。
 クラウディオが学生だった頃も研究所からほとんど出てこず、倒れたのを発見されたことがあったくらいだ。
 そのノエルが討伐に出ることはあまりない。

(今回は新種の可能性があるため出てきたのだろうが……)

 この間の件もあって、あまり顔を合わせたくない。セレスティーヌのことを思い出して、店でなにをしていたのか考えてしまう。

「そんなにこちらを見ても、なにも話すことなどありませんよ」
「————見ていない。さっさと討伐を終えて帰りたいだけだ。他に情報はないのか」
「あとは公爵にお願いします。こちらは魔獣を持ち帰るだけですから」

 セレスティーヌの父親の話は耳にしているのか、他のことはクラウディオに任せると暗に口にする。
 今回の件がセレスティーヌの父親となにか関わりがあるのか。それをノエルに知られるよりマシなので頷いておくが、ノエルも新種が見つけられれば面白い。くらいにしか思っていなさそうだ。

 目撃者の証言で作られた魔獣の絵を眺めながら、どんな攻撃をしてくるのか、どんな能力があるのか、確認するようにぶつぶつと呟いている。
 ただの研究バカだが、そこに天才が付くのが厄介だ。魔獣が見付かれば、そのまま解剖しそうな勢いがある。

「周囲には似たような種類の魔獣はいませんから、どこからか運んだのかどうか。しかし、運ぶにも個体はサイズがあるようですし、交配でもした可能性が一番高いですかね……」

 その言葉にぴくりと耳を動かす。
 闇競売に魔獣が出品された。確認されているのは大人しいものではなく、凶暴で人を襲うものだった。

 発覚したのは、競売で出品された噂が流れたタイミングと、その魔獣が購入していった者の屋敷で大暴れしたタイミングが同時期だったからだ。屋敷での騒ぎは表沙汰にならなかったが、丁度その屋敷で働く下男が屋敷内の事故で死亡した。

 その死亡に疑問を持った家族は詳細を聞きに行った。遺体は体のいくつかの部位に損傷があり、見られる姿ではなかったのだ。しかし、彼らは門前払いにあい、死亡した理由を聞かされることはなかった。
 このことによって、何かに食われたのではないかと、家族らは言いふらした。その後彼らは根拠のない噂を流したとして罰せられたが、噂を聞いた人の口に戸は立てられなかったのである。

 これらを王の間諜に知られるとは思わなかっただろうが。

(凶暴な魔獣を飼ってなにをするのかと思うが……)

 裏世界では、魔獣を争わせ賭けを行う、くだらない遊びが行われているらしい。
 そのための魔獣を購入する貴族がいるのだ。
 だが、魔獣が外に出て暴れるわけではないので、その存在は表に出ていない。


「交配した新しい卵を売買していたが、間違って孵った個体に逃げられたと考えるのが妥当か……」
「魔獣は成体にならずとも凶暴なものが多いですから、卵の方が運びやすいですしね」

 もし子爵家で卵を作っていれば、今回の魔獣出没も納得の話だ。
 クラウディオは部下に子爵家を調査させている。別働隊と情報を共有し、そこにセレスティーヌの父親と関わりがあるのか確認する必要があった。
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

【完結】惨めな最期は二度と御免です!不遇な転生令嬢は、今度こそ幸せな結末を迎えます。

糸掛 理真
恋愛
倉田香奈、享年19歳。 死因、交通事故。 異世界に転生した彼女は、異世界でエマ・ヘスティア・ユリシーズ伯爵令嬢として暮らしていたが、前世と同じ平凡さと運の悪さによって不遇をかこっていた。 「今世こそは誰かにとって特別な存在となって幸せに暮らす」 という目標を達成するために、エマは空回りしまくりながらも自分なりに試行錯誤し続ける。 果たして不遇な転生令嬢の未来に幸せはあるのか。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

処理中です...