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30① ー調べ物ー
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「アロイス。読みたいご本はあるかなー?」
クラウディオに連れてこられて王宮にやってきた。アロイスも本を汚さないように見ていれば問題ないというので、アロイスも一緒だ。
「子供向けはないかもしれませんが……」
数えきれない本が並ぶ、少しだけ薄暗い場所。アロイスはこの広い空間に圧倒されているようで、口を開けたままあちこちを見回していた。
怯える可能性があるのでフィオナが抱っこしてやろうとすると、クラウディオがアロイスを抱き上げる。
(クラウディオに抱っこされても、いやいやしない!?)
「好きに探してください。アロイスは私が見ていますから」
「ありがとうございます!」
出かけようとするとアロイスがぐずったので連れてきたのだが、シンと静まり返った大きな空間は少し怖いようで、アロイスは抱っこされながらクラウディオの胸に頭を沈める。
かなり慣れてきているので、怖くてもクラウディオにくっつけるようだ。なんとも素晴らしい前進である。
おかげでフィオナは自由に本を見られる。
(王宮だからって、王には会ったりしないわよね)
キョロキョロ見遣ると、若そうな同じ制服を着ている者たちがちらほら見られた。勉強中のようだ。
「学び舎の子どもたちです。学び舎は隣接しているので」
「禁書などもここにあるんですか?」
「それらは魔法師のいる建物にあります。学び舎と同じ棟ですが、一般人は入ることができません」
それもそうか。クラウディオが書き写した資料はこちらの書庫にあるようだ。
「バラチア公爵。お久し振りですね」
奥の方へと進んでいると、クラウディオに声を掛けてくる者がいた。聞き覚えのある声に、フィオナは振り向きざまギョッとする。
ノエルだ。
「……久し振りだな。研究所ではないこんな場所で、なにを?」
「見掛けたので、声を掛けただけですよ」
クラウディオが冷えた声を出すと、ノエルは目を眇めながら答える。
(え、なに。仲悪いの??)
どう見ても挨拶が好意的ではない。二人は睨み合うように見つめ合う。
「なにかを探しにこの書庫にいらっしゃったのですか?」
クラウディオに言いながら、ちらりと視線をこちらに向ける。フィオナに話しかけようとはしていないかもしれないが、こちらを見て聞くのはやめてほしい。
「大国の歴史書を探しに」
「大国の歴史書、ですか。……どうぞこちらへ」
ノエルは案内するとフィオナを促す。案内されたのは別の部屋で、入る前にいた衛兵がぎろりとこちらを睨んだ。ノエルとクラウディオだと分かると、さっと避ける。
「ここは、良いのか?」
「公爵と夫人なのですから、問題ないでしょう。子供がうろつかないようにはしてください」
本来セレスティーヌが入って良い場所ではなさそうだ。クラウディオもアロイスをしっかり抱っこしている。ノエルは奥にある立ち入り禁止の札を指差し、あそこには入らないように釘を刺す。
立ち入り禁止区域では、数人が資料らしきものを広げてなにか作業をしていた。
「最近見つかったものをまとめているんですよ」
「最近みつかったもの、ですか?」
「大国時代の資料などがたまに見つかるんです。各屋敷で見つかったりするので、今頃出てくることもあるんですよ」
倉庫などに保管されてずっとそのままにされていることが多々あるそうだ。
古い時代の資料は珍しいため競売に出されることがある。大切な資料の可能性があるため、国で購入しているらしい。
それを眺めて、大国の資料が並ぶ場所へ移動した。クラウディオがうつした資料ではなく、新しく見つかった資料だそうだ。
「持ち出しは禁止です」
それではここで読むしかない。クラウディオならばなにを探しているのか知られても、どうして探しているのかは分からないだろうが、ノエルは間違いなく気付くだろう。
(やりづらいわね。せっかく連れてきてもらったのに)
「クラウディオ様? バラチア公爵じゃないですか!」
先ほど作業をしていた一人がクラウディオに気付くと、そこにいた人たちがぱっとクラウディオを見遣る。途端、彼らが近寄ってきた。
「お久し振りです。そちらのお子様は……?」
「妻の姉の子だ」
「驚いた。いつの間にこんな大きな子がいらっしゃったのかと」
親しいのだろうか。作業をしていた人たちは男性も女性もいて、それらがクラウディオを囲むようにしている。周囲はニコニコ笑顔だが、クラウディオは表情変えず相手をした。
(熱心なファンみたいな)
「魔法に長けた方ですから、研究所でも人気なんですよ」
なにも問うていないのだが、ノエルが説明をくれる。すっかり囲まれてしまったクラウディオを横目に、ノエルはフィオナを促した。
「こちらは、エルネスト様も読んでいました」
「……それは」
「載ってませんよ。これには」
あの魔法陣は載っていない。しかし気になるだろう? とノエルが資料を渡してくる。
クラウディオには秘密にしておいてくれるのか、不安になる仕草だ。
クラウディオに連れてこられて王宮にやってきた。アロイスも本を汚さないように見ていれば問題ないというので、アロイスも一緒だ。
「子供向けはないかもしれませんが……」
数えきれない本が並ぶ、少しだけ薄暗い場所。アロイスはこの広い空間に圧倒されているようで、口を開けたままあちこちを見回していた。
怯える可能性があるのでフィオナが抱っこしてやろうとすると、クラウディオがアロイスを抱き上げる。
(クラウディオに抱っこされても、いやいやしない!?)
「好きに探してください。アロイスは私が見ていますから」
「ありがとうございます!」
出かけようとするとアロイスがぐずったので連れてきたのだが、シンと静まり返った大きな空間は少し怖いようで、アロイスは抱っこされながらクラウディオの胸に頭を沈める。
かなり慣れてきているので、怖くてもクラウディオにくっつけるようだ。なんとも素晴らしい前進である。
おかげでフィオナは自由に本を見られる。
(王宮だからって、王には会ったりしないわよね)
キョロキョロ見遣ると、若そうな同じ制服を着ている者たちがちらほら見られた。勉強中のようだ。
「学び舎の子どもたちです。学び舎は隣接しているので」
「禁書などもここにあるんですか?」
「それらは魔法師のいる建物にあります。学び舎と同じ棟ですが、一般人は入ることができません」
それもそうか。クラウディオが書き写した資料はこちらの書庫にあるようだ。
「バラチア公爵。お久し振りですね」
奥の方へと進んでいると、クラウディオに声を掛けてくる者がいた。聞き覚えのある声に、フィオナは振り向きざまギョッとする。
ノエルだ。
「……久し振りだな。研究所ではないこんな場所で、なにを?」
「見掛けたので、声を掛けただけですよ」
クラウディオが冷えた声を出すと、ノエルは目を眇めながら答える。
(え、なに。仲悪いの??)
どう見ても挨拶が好意的ではない。二人は睨み合うように見つめ合う。
「なにかを探しにこの書庫にいらっしゃったのですか?」
クラウディオに言いながら、ちらりと視線をこちらに向ける。フィオナに話しかけようとはしていないかもしれないが、こちらを見て聞くのはやめてほしい。
「大国の歴史書を探しに」
「大国の歴史書、ですか。……どうぞこちらへ」
ノエルは案内するとフィオナを促す。案内されたのは別の部屋で、入る前にいた衛兵がぎろりとこちらを睨んだ。ノエルとクラウディオだと分かると、さっと避ける。
「ここは、良いのか?」
「公爵と夫人なのですから、問題ないでしょう。子供がうろつかないようにはしてください」
本来セレスティーヌが入って良い場所ではなさそうだ。クラウディオもアロイスをしっかり抱っこしている。ノエルは奥にある立ち入り禁止の札を指差し、あそこには入らないように釘を刺す。
立ち入り禁止区域では、数人が資料らしきものを広げてなにか作業をしていた。
「最近見つかったものをまとめているんですよ」
「最近みつかったもの、ですか?」
「大国時代の資料などがたまに見つかるんです。各屋敷で見つかったりするので、今頃出てくることもあるんですよ」
倉庫などに保管されてずっとそのままにされていることが多々あるそうだ。
古い時代の資料は珍しいため競売に出されることがある。大切な資料の可能性があるため、国で購入しているらしい。
それを眺めて、大国の資料が並ぶ場所へ移動した。クラウディオがうつした資料ではなく、新しく見つかった資料だそうだ。
「持ち出しは禁止です」
それではここで読むしかない。クラウディオならばなにを探しているのか知られても、どうして探しているのかは分からないだろうが、ノエルは間違いなく気付くだろう。
(やりづらいわね。せっかく連れてきてもらったのに)
「クラウディオ様? バラチア公爵じゃないですか!」
先ほど作業をしていた一人がクラウディオに気付くと、そこにいた人たちがぱっとクラウディオを見遣る。途端、彼らが近寄ってきた。
「お久し振りです。そちらのお子様は……?」
「妻の姉の子だ」
「驚いた。いつの間にこんな大きな子がいらっしゃったのかと」
親しいのだろうか。作業をしていた人たちは男性も女性もいて、それらがクラウディオを囲むようにしている。周囲はニコニコ笑顔だが、クラウディオは表情変えず相手をした。
(熱心なファンみたいな)
「魔法に長けた方ですから、研究所でも人気なんですよ」
なにも問うていないのだが、ノエルが説明をくれる。すっかり囲まれてしまったクラウディオを横目に、ノエルはフィオナを促した。
「こちらは、エルネスト様も読んでいました」
「……それは」
「載ってませんよ。これには」
あの魔法陣は載っていない。しかし気になるだろう? とノエルが資料を渡してくる。
クラウディオには秘密にしておいてくれるのか、不安になる仕草だ。
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