上 下
59 / 103

28④ ー訪問者ー

しおりを挟む
「フィオナ様に知識があれば、魔法が使えてしまうんですか……?」
「そうですね。念の為ですが、ある程度魔法が使えるかは試しておいた方が良いかもしれません」
「それは、なぜ……?」

 エルネストはセレスティーヌを陥れた。魔法陣を使用し魔獣や魔法使いを呼び出させることが目的だったかもしれない。
 ノエルの反応を見る限り、まだ正確には分からないが、陥れたことは確かだ。

 もしそこに、予想もしない大きな悪意があるとしたら。

「魔法陣によってなにかを企んでいながらそれが失敗になったと分かったら、次に何をしてくるか分からないからです」

 エルネストがセレスティーヌを陥れクラウディオに恨みをはらそうとしていることは薄々気付いていた。その可能性はかなり高いと伝えると、リディは顔色を悪くすると瞳に涙をためた。
 彼女はずっとセレスティーヌを心配している。セレスティーヌがどうなったかも分からないのに、これ以上何か起きるのかと怯えるように震えた。

(魔法書を思い出しておこう……)

 セレスティーヌを催促するためになにかしてくるかもしれないし、直接クラウディオに仕掛けてくるかもしれない。

 馬車の用意ができたので、フィオナは階下に降りた。階下は甘い匂いが立ち込めている。お菓子を追加で焼いている匂いだ。

 店にはお菓子を作るウラドの他に、店番をする女性が二人いる。ここにセレスティーヌの客を呼ぶ時は店の入り口ではなく、居住用の入り口から出入りするわけだが、念の為口止め料を払う必要があるだろう。

「おばたまー」

 そう思っていたら、可愛らしい声が届いた。

「アロイス。まあ、どうしてここに。誰が……、旦那様!?」
「申し訳ありません。勝手に来てしまい」

 まさかのクラウディオがアロイスを連れて店にやってきた。店を見たいとは言っていたが、こんなに早く来るとは。

(危なかった! ノエルが来てた時に来られなくて良かったわ)

 鉢合わせなくて良かった、安堵しながらアロイスを抱っこする。アロイスは屋敷中の甘い香りに鼻をクンクンさせて、よだれを垂らしていた。

「一緒に、いらっしゃったんですか……?」
「ええ。馬車で、一緒に」

 言いながら、フィオナが抱っこしているアロイスの頭をなでてやる。
 衝撃的なシーンすぎる。
 あのアロイスが、クラウディオと一緒に馬車に乗り、大人しくやってきた!

 本人、甘い匂いで頭をなでられたことにも気付いていなさそうだが、かなりの進歩である。猫と一緒に遊んだ時からなのか、クラウディオと一緒にいてもアロイスは怯えないようになったのだ。

「あの、開店の祝いをしていなかったので、花を。どこに運ばせましょう」

 祝いなんていいのに。言おうとしたら、続々と大輪を咲かせている花の植木鉢が運ばれてくる。店の外側だけでは飾りきれないと中にも入れるが、多すぎて花の香りがすごい。

「お、お店の中には少しだけで。あとは、部屋にお願いします……」
「すみません。多すぎましたね。なにが良いのか迷っていると、どれも贈りたくなってしまい」
「いえ、ありがとうございます!」

 店の前は少しシンプルすぎるかと思っていたのだ。立て看板の横に花が置いてあるとよく目立つ。そこはありがたくいただいて、フィオナはクラウディオを店に案内した。
 いきなりやってきた公爵に、ウラドと女性たちが固まる。気にせず作業してほしいと伝えるのだが、かちこちになって動いていた。

(あんまり考えたことなかったけど、身分が高いんだものね……)

 申し訳ないが、資金を出してくれた旦那様である。店の見学は許してほしい。

「こんなに多くの種類の菓子を売っているんですね」
「懇意にしてくださる方もでてきたので増やしたんです。ありがたいことです」

(お客様リスト作ってもらっているし、どこにどれだけ売れているかの統計もとっているし。何が売れているかも確認しているし)

「問題点を出して、新しい商品とか定期的に目玉を作ったほうがいいかなって、考えてます」
「……経営の勉強をされたのですか?」
「書庫の本を勝手に拝見しました。販売員さんも雇用したので、彼女たちと考えたり。意見を聞いて……」

 クラウディオと話していると、その彼女たちが先ほどの緊張はどうしたのか、クラウディオの美貌にうっとりとしながら眺めはじめた。
 最近クラウディオに慣れたので感じていなかったが、世間の反応はこうなのかと認識する。

「お土産に買って行こう。そこにある品をすべて」
「いえいえ、品がなくなるので。いくつか包んでくれる?」

 フィオナが止めると、クラウディオはしゅんと肩を下ろす。

(なんか、時々ぬけてるのよね)

 抱っこしているアロイスも食べたいと手を伸ばしている。ここに長居するのは危険だ。

「アロイスのおやつはおうちにかえってからだねー。おてて洗ってうがいして、お家で食べましょう」
「どうぞ、馬車に」

 クラウディオは促しながら、購入したお菓子を持ってくれる。公爵がかわいい袋に入ったお菓子を持っている姿に、周囲はほんのりと生暖かい目を向けていた。
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

【完結】惨めな最期は二度と御免です!不遇な転生令嬢は、今度こそ幸せな結末を迎えます。

糸掛 理真
恋愛
倉田香奈、享年19歳。 死因、交通事故。 異世界に転生した彼女は、異世界でエマ・ヘスティア・ユリシーズ伯爵令嬢として暮らしていたが、前世と同じ平凡さと運の悪さによって不遇をかこっていた。 「今世こそは誰かにとって特別な存在となって幸せに暮らす」 という目標を達成するために、エマは空回りしまくりながらも自分なりに試行錯誤し続ける。 果たして不遇な転生令嬢の未来に幸せはあるのか。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

朝山みどり
恋愛
執務室で凍え死んだわたしは、婚約解消された日に戻っていた。 悔しく惨めな記憶・・・二度目は利用されない。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...