47 / 103
25① ー相談ー
しおりを挟む
「今日はお誘いいただきありがとうございます」
「先に連絡をくれたのはあなたよ。いらしてくれてありがとう」
デュパール公爵夫人に招かれて、フィオナはお茶会にやってきた。
きっかけはフィオナから。手紙を出し、お話しできないかと連絡をした。本来ならばこちらが招待すべきなのだが、良かったら屋敷に来ないかと夫人から誘いを受けたのだ。
「あなたにこのお菓子を出すのはどうかと思ったのだけれど、とてもおいしくて、他ではこれ以上のお菓子は作れないから、こちらをお出しするわ」
テーブルに出されたのはいくつかの焼き菓子やケーキだったが、見覚えのあるものばかりだ。最近事業として店舗に出したものである。
デュパール公爵夫人はこれらを売っている店がフィオナの店だと知っているようだ。
名前は出していないのだが、どこで知ったのだろう。
「屋敷に引き入れようとしたら断られたのよ。バラチア公爵夫人がオーナーをしている店だからと。いつの間にかそんな事業を行っていたのね。名を出してはいなかったようだけれど」
「趣味で行っているだけですので。クラウディオに迷惑は掛けられないと申しますか……」
お金の使い道を誤魔化すための店などと口にできない。既に浪費してクラウディオに迷惑を掛けているので大声でも言えない。
フィオナは軽く笑ってごまかしたが、デュパール公爵夫人は、とてもおいしくて、すぐにオーナーを呼ぶように言ったのよ? と少し興奮するように前のめりになった。
「バラチア公爵も喜んでいるのではないの? あの店が気になっている人も多いのよ。うちのシェフも研究しているわ。どうやったらこんなにふわふわになるのかって」
フィオナの屋敷では簡単なおやつとしてよく出てくる定番のものなのだが、柔らかい生地で口溶けが良いと好んで食べているらしく、それを口に運ぶ。
ゲストに対しての褒め言葉がうますぎる。自分を嫌っていた相手にそんな優しく対応するなど、羨ましいほど柔軟な性格だ。
(セレスティーヌも彼女と仲良くなれれば良かったのに)
そう思いながら、ぎゅっと手のひらを握る。
セレスティーヌがどうなったのか調べるには、デュパール公爵夫人の力が必要だった。
今日の使命は、魔法使いの紹介を得ることだ。
しかし、どうやってその魔法使いの話を切り出そうかと考えていると、外でなにかが動く気配がした。
「お外に、なにか……」
「ああ、見たことはない? 魔獣なのよ」
「あれが、魔獣なんですか!?」
フィオナは立ち上がって見そうになった。窓から見えるのは焦茶色の木に登っているなにかで、犬のような立った耳と長いしっぽを持った生き物だ。枝にたどり着くとこちらに振り向いたが、目が大きく犬にも猫にも見えない顔をしていた。狐と猿を混ぜたような感じがする。
「人見知りをするくせに見知らぬ人がいると気になるのよ。近付くと引っ掻くのだけれど、襲っては来ないから安心して。臆病な魔獣なの」
「クラウディオから聞いていましたが、本当に飼っているんですね。初めて見ました」
「人に害を及ぼす魔獣を見付けるために卵から育てて飼い慣らすのよ。でもあの子は討伐の間夫に慣れすぎて離れなくなってしまって、それで引き取ったの」
「旦那様も魔法が使えるんですね」
「公爵家は皆学んでいるわね。討伐出立は見に行ったのでしょう? バラチア公爵に釘付けだった女性は多かったわ」
やはり皆知っている話か。フィオナは笑って誤魔化す。
クラウディオはフィオナが討伐について知らなかったことを変に思っただろうか。セレスティーヌならばクラウディオの予定くらいしっかりチェックしているだろうに。
「公爵家の者は皆魔法が使えるってことは、エルネスト様も学んでいるんですか?」
丁度良い話が出たので、エルネストに話題を逸らす。フィオナの言葉にデュパール公爵夫人は当然と頷いた。
「もちろんよ。彼は剣を使わないから、なおさら学んでいたと思うわ」
「怪我をして、剣を持てないんですよね?」
「子供の頃、遊んでいて水路に落ちたのよ。目を離したと夫人はサルヴェール公爵にひどく叱られて」
その場にいたのか、デュパール公爵夫人は眉を下げる。
王宮に集まっていた時、子供たちが一緒に遊んでいた。その時にエルネストが水路に落ち、大怪我をしたそうだ。
「魔獣の討伐は権利を持つ者は必ず行くのよ。エルネスト様は剣が持てなかったから後方に追いやられて、それがとてもサルヴェール公爵の気に触ったのね。初めての討伐だったというのに、公爵は激怒して出立前に帰られてしまって、エルネスト様が気の毒だったわ」
クラウディオは先陣で堂々とした佇まいだったが、それに比べて自分の息子は、とサルヴェール公爵は怒髪天を衝かんばかりに激怒したそうだ。
その騒ぎで周囲は騒然とし、しかも出立を見送ることなく公爵は帰宅した。
初めての討伐では緊張で魔法が使えない可能性もあり、剣が使えないと危険が増えるそうだ。そのため、クラウディオたちより少し後ろに配備されたのだが、それが気に食わなかったのである。
エルネストは初めての討伐で、父親に恥だとされたのだ。
「先に連絡をくれたのはあなたよ。いらしてくれてありがとう」
デュパール公爵夫人に招かれて、フィオナはお茶会にやってきた。
きっかけはフィオナから。手紙を出し、お話しできないかと連絡をした。本来ならばこちらが招待すべきなのだが、良かったら屋敷に来ないかと夫人から誘いを受けたのだ。
「あなたにこのお菓子を出すのはどうかと思ったのだけれど、とてもおいしくて、他ではこれ以上のお菓子は作れないから、こちらをお出しするわ」
テーブルに出されたのはいくつかの焼き菓子やケーキだったが、見覚えのあるものばかりだ。最近事業として店舗に出したものである。
デュパール公爵夫人はこれらを売っている店がフィオナの店だと知っているようだ。
名前は出していないのだが、どこで知ったのだろう。
「屋敷に引き入れようとしたら断られたのよ。バラチア公爵夫人がオーナーをしている店だからと。いつの間にかそんな事業を行っていたのね。名を出してはいなかったようだけれど」
「趣味で行っているだけですので。クラウディオに迷惑は掛けられないと申しますか……」
お金の使い道を誤魔化すための店などと口にできない。既に浪費してクラウディオに迷惑を掛けているので大声でも言えない。
フィオナは軽く笑ってごまかしたが、デュパール公爵夫人は、とてもおいしくて、すぐにオーナーを呼ぶように言ったのよ? と少し興奮するように前のめりになった。
「バラチア公爵も喜んでいるのではないの? あの店が気になっている人も多いのよ。うちのシェフも研究しているわ。どうやったらこんなにふわふわになるのかって」
フィオナの屋敷では簡単なおやつとしてよく出てくる定番のものなのだが、柔らかい生地で口溶けが良いと好んで食べているらしく、それを口に運ぶ。
ゲストに対しての褒め言葉がうますぎる。自分を嫌っていた相手にそんな優しく対応するなど、羨ましいほど柔軟な性格だ。
(セレスティーヌも彼女と仲良くなれれば良かったのに)
そう思いながら、ぎゅっと手のひらを握る。
セレスティーヌがどうなったのか調べるには、デュパール公爵夫人の力が必要だった。
今日の使命は、魔法使いの紹介を得ることだ。
しかし、どうやってその魔法使いの話を切り出そうかと考えていると、外でなにかが動く気配がした。
「お外に、なにか……」
「ああ、見たことはない? 魔獣なのよ」
「あれが、魔獣なんですか!?」
フィオナは立ち上がって見そうになった。窓から見えるのは焦茶色の木に登っているなにかで、犬のような立った耳と長いしっぽを持った生き物だ。枝にたどり着くとこちらに振り向いたが、目が大きく犬にも猫にも見えない顔をしていた。狐と猿を混ぜたような感じがする。
「人見知りをするくせに見知らぬ人がいると気になるのよ。近付くと引っ掻くのだけれど、襲っては来ないから安心して。臆病な魔獣なの」
「クラウディオから聞いていましたが、本当に飼っているんですね。初めて見ました」
「人に害を及ぼす魔獣を見付けるために卵から育てて飼い慣らすのよ。でもあの子は討伐の間夫に慣れすぎて離れなくなってしまって、それで引き取ったの」
「旦那様も魔法が使えるんですね」
「公爵家は皆学んでいるわね。討伐出立は見に行ったのでしょう? バラチア公爵に釘付けだった女性は多かったわ」
やはり皆知っている話か。フィオナは笑って誤魔化す。
クラウディオはフィオナが討伐について知らなかったことを変に思っただろうか。セレスティーヌならばクラウディオの予定くらいしっかりチェックしているだろうに。
「公爵家の者は皆魔法が使えるってことは、エルネスト様も学んでいるんですか?」
丁度良い話が出たので、エルネストに話題を逸らす。フィオナの言葉にデュパール公爵夫人は当然と頷いた。
「もちろんよ。彼は剣を使わないから、なおさら学んでいたと思うわ」
「怪我をして、剣を持てないんですよね?」
「子供の頃、遊んでいて水路に落ちたのよ。目を離したと夫人はサルヴェール公爵にひどく叱られて」
その場にいたのか、デュパール公爵夫人は眉を下げる。
王宮に集まっていた時、子供たちが一緒に遊んでいた。その時にエルネストが水路に落ち、大怪我をしたそうだ。
「魔獣の討伐は権利を持つ者は必ず行くのよ。エルネスト様は剣が持てなかったから後方に追いやられて、それがとてもサルヴェール公爵の気に触ったのね。初めての討伐だったというのに、公爵は激怒して出立前に帰られてしまって、エルネスト様が気の毒だったわ」
クラウディオは先陣で堂々とした佇まいだったが、それに比べて自分の息子は、とサルヴェール公爵は怒髪天を衝かんばかりに激怒したそうだ。
その騒ぎで周囲は騒然とし、しかも出立を見送ることなく公爵は帰宅した。
初めての討伐では緊張で魔法が使えない可能性もあり、剣が使えないと危険が増えるそうだ。そのため、クラウディオたちより少し後ろに配備されたのだが、それが気に食わなかったのである。
エルネストは初めての討伐で、父親に恥だとされたのだ。
122
お気に入りに追加
3,288
あなたにおすすめの小説
【完結】惨めな最期は二度と御免です!不遇な転生令嬢は、今度こそ幸せな結末を迎えます。
糸掛 理真
恋愛
倉田香奈、享年19歳。
死因、交通事故。
異世界に転生した彼女は、異世界でエマ・ヘスティア・ユリシーズ伯爵令嬢として暮らしていたが、前世と同じ平凡さと運の悪さによって不遇をかこっていた。
「今世こそは誰かにとって特別な存在となって幸せに暮らす」
という目標を達成するために、エマは空回りしまくりながらも自分なりに試行錯誤し続ける。
果たして不遇な転生令嬢の未来に幸せはあるのか。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる