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24③ ー目覚めー

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「興味があるようで良かったです。今、広げますね」

 機嫌が良いというべきか。クラウディオの穏やかな雰囲気にフィオナも気持ちが緩やかになるような気がした。
 なぜこんなに無防備な顔をしてくるのだろう。

(————まさか、眠っている間に寝言でも言った??)

 セレスティーヌにあるまじき、妙な寝言でも口走っただろうか。

(私が言いそうな寝言? ご飯おいしいとか。お菓子おいしいとか。アロイスかわいいとか)

 セレスティーヌになって嬉しいこと三つを並べてみて、あり得てもっと恥ずかしくなってくる。
 フィオナが一人恥ずかしがっていると、クラウディオはいそいそと地図を広げた。かなり大きな地図でフィオナも一緒に手伝うと、クラウディオがふっと笑った。

 ————一体、何が起きているのだろう。
 やはり、なにか笑われるようなことをしたとしか思えない。
 クラウディオが、優しい笑顔を向けてくる。

「ここが大国の都ですね」

 フィオナは頭の中でかぶりを振った。集中しなければ、せっかく見せてくれたのだから、自分の国を見付けたい。

 クラウディオは分かりやすいように現在の地図と合わせて見せてくれた。現在の地図には遠いのかフィオナの国は載っていない。しかし、大国の地図の方は広く描かれていた。これは期待できるかもしれない。

「首都から離れたこの都が、現在の我が国の都になります。我が領はここですね」

 指さされてフィオナは首を傾げそうになった。公爵領は大国の地図に載っていない。この時代は開拓されていなかったようだ。
 疑問に思ったのに気付いたか、クラウディオは書物を開くと、公爵領について話し始めた。

「見ての通り、この土地は人が多く住む場所ではありませんでした。公爵領ができたのは我が国シューラヌ国ができてから、何年も経った後です。王からこの土地を賜り、開拓に多くの時間を要したそうです」

 ほとんど人が住めるような状態ではないこの土地を与えられ、整地を行い、多くの人が住めるように開拓したそうだ。

「それでもこの場所には魔獣などの人を害する獣は出なかったので、それをいうならば安全だったのでしょう」
「魔獣って見たことないです。この時代は多かったと聞いていますが」
「町にいれば見ることはないですよ。人気のない山の方に行けば住んでいます。今でも食料がないと村を襲うことがありますから」
「そうなんですか……」

 そういえば、王もそんなようなことを言っていた。魔獣は悩みの種だとか。

 フィオナの住んでいたテルンの町には魔獣がいなかった。古い時代にブルイエ家の土地で封印されたからだ。
 それは伝説のようで、それでも実際に魔獣が現れることはなかった。不気味だと言われても、あの森に魔獣が出るわけではない。

 だが、別の地域は魔獣が出ると聞いたことがあった。それも耳にしただけで、本当なのかも分からない、ただの噂だと思っていた。フィオナの世界はとても狭いからだ。

(熊や狼とは違うのよね……)

「大人しい種を飼う者は時折います。デュパール邸に行けばおりますよ」
「魔獣を飼うんですか!?」
「攻撃性のない大人しい種ですから飼うには問題ないですけれど、慣れない者がいると危険ではありますね」

「旦那様も見たことがあるんですか?」
「今ではありませんが、父が存命の頃は討伐に参加しました。……婚約前でしたから、ご存知ないでしょうが」
「そ、そうなんですね!?」

 フィオナは焦って裏返った声を出してしまった。
 これはセレスティーヌならば知っていることだったかもしれない。

(クラウディオは魔法が得意なんだから、そんなところに参加していてもおかしくないの??)

 討伐自体がフィオナにとって知らない話なので、どんなルールで討伐に行っているのか分からない。クラウディオは攻撃魔法を学ぶ許可を得ていて、優秀で魔法が得意なのだから、当然なのだろうか。

(攻撃魔法を学ぶ許可を得ている者なんて少ないみたいな感じだったし、特権があるならば、討伐も当たり前ってことかしら……?)

 これは余計なことを言わない方が良さそうだ。
 フィオナはすごいですねえ。なんてうそぶいて見せて、地図へ視線を戻す。

「大国の時代、魔獣はとても多かったんです。文献には魔獣の種類なども書かれていました。当時の魔獣分布図もありますよ。都から離れた地方は特に多く、強力な魔法使いが討伐に出掛けたとことも記されています」

 分布図にはどこにどんな魔獣が出るのか、名前が記されていた。都から離れた場所は魔獣の種類も多かったようだ。都や現在の公爵領の辺りはかなり少ない。

「魔獣は大国の時代に相当数が殺されたといわれています。強力な魔法使いを討伐に向かわせ、国をまとめていたともいわれていますから、討伐も盛んだったのでしょう」
「魔法使いを遣わせて権威を示していたんですね」
「地方へ行けば行くほど統治がまばらだったでしょうから、遠征に王弟が同行したという記述もあります。場所によっては数年掛けて討伐したとか」

 クラウディオはぱらぱらと書物を開いて見せてくれる。そこには、王弟の大遠征と記されていた。クラウディオのように身分の高い者が遠征に赴いていたわけだ。
 この時代は魔法使いが多く、魔法は当たり前に使われていた。大国が滅びたのはその魔法使いたちが争いに加担したからだといわれているほどだ。

 だからこそ、現在では攻撃魔法などの危険な魔法は使われなくなったのだが。
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