上 下
35 / 103

19③ ー謁見ー

しおりを挟む
(私が離婚していいのならするけれども、それでセレスティーヌに戻ったらまずいでしょう?)

 いや、離婚してもいいのならばしてしまえばいいのか。セレスティーヌのやり方は既に失敗しているのだし、彼女の気持ちを考えるより、クラウディオの気持ちを慮る方が良い気がする。

「ご心配をお掛けしておりますが、領土も落ち着きを取り戻しました。魔法使いについては王の作られた学び舎に優秀な人材が集まっております。心配には及ばないでしょう」

 う~ん。と心の中で悩んでいると、クラウディオが淀みのない声で答えた。
 ここでセレスティーヌを脅せば、ヒステリックに喚くと思ったのだろうか。いやにはっきりと答えるので、王も一驚してみせる。

「ふむ。公爵家でも優秀な後継者ができてほしいものだがな。少なくなっているとはいえ、魔獣は未だ人々の悩みの種だ。魔法を学べる者は限られている」

 そう言って、今度は横目で見るのではなく、王がフィオナの方を見ながら口を開いた。

「狩猟大会ではクラウディオが活躍したそうではないか。夫人も大いに楽しまれたことだろう。だが、怪我をするかもしれないと憂えれば、送ることも躊躇われたのでは?」

 突然問われて、隣でクラウディオがたじろぐように僅かに肩を揺らした。

 そういえば、犬のことに夢中で狩猟大会での成果などは聞いていない。
 王はフィオナがクラウディオが活躍する前に会場を出たことを知っているのだ。

 そして、普段のセレスティーヌならば守りを渡し、しつこく出発を見守っていたことも分かっている。しかし、今回はそれを行わなかったこと、見守ることも成果も見ることもなく帰ったことを知り、それらを合わせて笑っているのだ。

 周囲もそれを知っているのか、ざわめきを感じた。ぴりりとした肌に刺すような空気を感じて、フィオナはごくりと唾を飲み込んだ。

「セレ……、」
「夫の活躍は周囲の皆様から耳にしたほどですわ。いつも注目を浴びて、皆様からうらやましがられますもの。いつどこでも、目にされている方がいらっしゃるので、私は安心して送れます」
「……。それはたしかに、男も女も虜にする美貌だ。これは一本とられたな」

 王はつまらなそうに鼻息を吹く。セレスティーヌが慌てふためくのを見る気だったのか、想像と違った答えに舌打ちしそうな顔をしてきた。

 意地が悪すぎる。
 活躍は見ていないし知らないが、クラウディオの出発は皆が見ているだろう。誰もが見送り側にいるのだから、話だけで十分だ。

 ————というふうに理解してくれないだろうか。と思って口にしたが、なんとか王の攻撃には耐えられたようだ。

(馬鹿にしてるみたいだから、犬に飛びつかれてドレスが汚れたことは聞いたのでしょうね。それで泣きべそかいて帰ったとでも思ったのかしら)

 そんなこと王に言われたらセレスティーヌだったらどうなっていただろうか。真っ赤になって口籠ったりするだろうか。

 隣でクラウディオがぽかんとした顔をしている。稀に見ぬ間抜け顔だが、対応を間違えたか考えるところだ。慌てふためいた方が良かっただろうか。
 しかし王の手前、下手はできない。フィオナはにっこり笑顔をつくっておいた。もうこれで解放してくれないだろうか。

「随分と、落ち着きをもったようだ。衣装を同じにする理由か?」
「それは……、」
「まあよい、今宵はゆっくりすると良いだろう。だが夫人、しばらく夫を借りるぞ。話がしたいのでな」

 王は嘆息するとクラウディオを促した。フィオナは承知して礼をする。その姿をクラウディオが心配げに見遣ったが、これにもフィオナはにっこり笑顔をつくっておいた。

(大丈夫です。喧嘩はしません。多分)

 クラウディオを見送ると、周囲は王とクラウディオがいなくなってわらわらと各々の話に戻っていく。皆の興味が逸れて、フィオナはやっと息をついた。

(はー。疲れたわ。どうしよう。また絡まれたら困るから、庭にでも行ってこようかな)

 なんと言っても、誰かから声を掛けられても、その人の素性が分からないのである。庭にでも出て行こうかと人の合間を縫って広間を出ると、知らぬ女性から声を掛けられた。

「セレスティーヌ。公爵はどうしたの。あなた一人?」

 呼んだのは四十代くらいの女性で、同じような年の男性と一緒にいる。
 名前で呼ばれたとなれば、

(両親!?)
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

【完結】惨めな最期は二度と御免です!不遇な転生令嬢は、今度こそ幸せな結末を迎えます。

糸掛 理真
恋愛
倉田香奈、享年19歳。 死因、交通事故。 異世界に転生した彼女は、異世界でエマ・ヘスティア・ユリシーズ伯爵令嬢として暮らしていたが、前世と同じ平凡さと運の悪さによって不遇をかこっていた。 「今世こそは誰かにとって特別な存在となって幸せに暮らす」 という目標を達成するために、エマは空回りしまくりながらも自分なりに試行錯誤し続ける。 果たして不遇な転生令嬢の未来に幸せはあるのか。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

私の婚約者を狙ってる令嬢から男をとっかえひっかえしてる売女と罵られました

ゆの
恋愛
「ユーリ様!!そこの女は色んな男をとっかえひっかえしてる売女ですのよ!!騙されないでくださいましっ!!」 国王の誕生日を祝う盛大なパーティの最中に、私の婚約者を狙ってる令嬢に思いっきり罵られました。 なにやら証拠があるようで…? ※投稿前に何度か読み直し、確認してはいるのですが誤字脱字がある場合がございます。その時は優しく教えて頂けると助かります(´˘`*) ※勢いで書き始めましたが。完結まで書き終えてあります。

処理中です...