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19③ ー謁見ー
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(私が離婚していいのならするけれども、それでセレスティーヌに戻ったらまずいでしょう?)
いや、離婚してもいいのならばしてしまえばいいのか。セレスティーヌのやり方は既に失敗しているのだし、彼女の気持ちを考えるより、クラウディオの気持ちを慮る方が良い気がする。
「ご心配をお掛けしておりますが、領土も落ち着きを取り戻しました。魔法使いについては王の作られた学び舎に優秀な人材が集まっております。心配には及ばないでしょう」
う~ん。と心の中で悩んでいると、クラウディオが淀みのない声で答えた。
ここでセレスティーヌを脅せば、ヒステリックに喚くと思ったのだろうか。いやにはっきりと答えるので、王も一驚してみせる。
「ふむ。公爵家でも優秀な後継者ができてほしいものだがな。少なくなっているとはいえ、魔獣は未だ人々の悩みの種だ。魔法を学べる者は限られている」
そう言って、今度は横目で見るのではなく、王がフィオナの方を見ながら口を開いた。
「狩猟大会ではクラウディオが活躍したそうではないか。夫人も大いに楽しまれたことだろう。だが、怪我をするかもしれないと憂えれば、送ることも躊躇われたのでは?」
突然問われて、隣でクラウディオがたじろぐように僅かに肩を揺らした。
そういえば、犬のことに夢中で狩猟大会での成果などは聞いていない。
王はフィオナがクラウディオが活躍する前に会場を出たことを知っているのだ。
そして、普段のセレスティーヌならば守りを渡し、しつこく出発を見守っていたことも分かっている。しかし、今回はそれを行わなかったこと、見守ることも成果も見ることもなく帰ったことを知り、それらを合わせて笑っているのだ。
周囲もそれを知っているのか、ざわめきを感じた。ぴりりとした肌に刺すような空気を感じて、フィオナはごくりと唾を飲み込んだ。
「セレ……、」
「夫の活躍は周囲の皆様から耳にしたほどですわ。いつも注目を浴びて、皆様からうらやましがられますもの。いつどこでも、目にされている方がいらっしゃるので、私は安心して送れます」
「……。それはたしかに、男も女も虜にする美貌だ。これは一本とられたな」
王はつまらなそうに鼻息を吹く。セレスティーヌが慌てふためくのを見る気だったのか、想像と違った答えに舌打ちしそうな顔をしてきた。
意地が悪すぎる。
活躍は見ていないし知らないが、クラウディオの出発は皆が見ているだろう。誰もが見送り側にいるのだから、話だけで十分だ。
————というふうに理解してくれないだろうか。と思って口にしたが、なんとか王の攻撃には耐えられたようだ。
(馬鹿にしてるみたいだから、犬に飛びつかれてドレスが汚れたことは聞いたのでしょうね。それで泣きべそかいて帰ったとでも思ったのかしら)
そんなこと王に言われたらセレスティーヌだったらどうなっていただろうか。真っ赤になって口籠ったりするだろうか。
隣でクラウディオがぽかんとした顔をしている。稀に見ぬ間抜け顔だが、対応を間違えたか考えるところだ。慌てふためいた方が良かっただろうか。
しかし王の手前、下手はできない。フィオナはにっこり笑顔をつくっておいた。もうこれで解放してくれないだろうか。
「随分と、落ち着きをもったようだ。衣装を同じにする理由か?」
「それは……、」
「まあよい、今宵はゆっくりすると良いだろう。だが夫人、しばらく夫を借りるぞ。話がしたいのでな」
王は嘆息するとクラウディオを促した。フィオナは承知して礼をする。その姿をクラウディオが心配げに見遣ったが、これにもフィオナはにっこり笑顔をつくっておいた。
(大丈夫です。喧嘩はしません。多分)
クラウディオを見送ると、周囲は王とクラウディオがいなくなってわらわらと各々の話に戻っていく。皆の興味が逸れて、フィオナはやっと息をついた。
(はー。疲れたわ。どうしよう。また絡まれたら困るから、庭にでも行ってこようかな)
なんと言っても、誰かから声を掛けられても、その人の素性が分からないのである。庭にでも出て行こうかと人の合間を縫って広間を出ると、知らぬ女性から声を掛けられた。
「セレスティーヌ。公爵はどうしたの。あなた一人?」
呼んだのは四十代くらいの女性で、同じような年の男性と一緒にいる。
名前で呼ばれたとなれば、
(両親!?)
いや、離婚してもいいのならばしてしまえばいいのか。セレスティーヌのやり方は既に失敗しているのだし、彼女の気持ちを考えるより、クラウディオの気持ちを慮る方が良い気がする。
「ご心配をお掛けしておりますが、領土も落ち着きを取り戻しました。魔法使いについては王の作られた学び舎に優秀な人材が集まっております。心配には及ばないでしょう」
う~ん。と心の中で悩んでいると、クラウディオが淀みのない声で答えた。
ここでセレスティーヌを脅せば、ヒステリックに喚くと思ったのだろうか。いやにはっきりと答えるので、王も一驚してみせる。
「ふむ。公爵家でも優秀な後継者ができてほしいものだがな。少なくなっているとはいえ、魔獣は未だ人々の悩みの種だ。魔法を学べる者は限られている」
そう言って、今度は横目で見るのではなく、王がフィオナの方を見ながら口を開いた。
「狩猟大会ではクラウディオが活躍したそうではないか。夫人も大いに楽しまれたことだろう。だが、怪我をするかもしれないと憂えれば、送ることも躊躇われたのでは?」
突然問われて、隣でクラウディオがたじろぐように僅かに肩を揺らした。
そういえば、犬のことに夢中で狩猟大会での成果などは聞いていない。
王はフィオナがクラウディオが活躍する前に会場を出たことを知っているのだ。
そして、普段のセレスティーヌならば守りを渡し、しつこく出発を見守っていたことも分かっている。しかし、今回はそれを行わなかったこと、見守ることも成果も見ることもなく帰ったことを知り、それらを合わせて笑っているのだ。
周囲もそれを知っているのか、ざわめきを感じた。ぴりりとした肌に刺すような空気を感じて、フィオナはごくりと唾を飲み込んだ。
「セレ……、」
「夫の活躍は周囲の皆様から耳にしたほどですわ。いつも注目を浴びて、皆様からうらやましがられますもの。いつどこでも、目にされている方がいらっしゃるので、私は安心して送れます」
「……。それはたしかに、男も女も虜にする美貌だ。これは一本とられたな」
王はつまらなそうに鼻息を吹く。セレスティーヌが慌てふためくのを見る気だったのか、想像と違った答えに舌打ちしそうな顔をしてきた。
意地が悪すぎる。
活躍は見ていないし知らないが、クラウディオの出発は皆が見ているだろう。誰もが見送り側にいるのだから、話だけで十分だ。
————というふうに理解してくれないだろうか。と思って口にしたが、なんとか王の攻撃には耐えられたようだ。
(馬鹿にしてるみたいだから、犬に飛びつかれてドレスが汚れたことは聞いたのでしょうね。それで泣きべそかいて帰ったとでも思ったのかしら)
そんなこと王に言われたらセレスティーヌだったらどうなっていただろうか。真っ赤になって口籠ったりするだろうか。
隣でクラウディオがぽかんとした顔をしている。稀に見ぬ間抜け顔だが、対応を間違えたか考えるところだ。慌てふためいた方が良かっただろうか。
しかし王の手前、下手はできない。フィオナはにっこり笑顔をつくっておいた。もうこれで解放してくれないだろうか。
「随分と、落ち着きをもったようだ。衣装を同じにする理由か?」
「それは……、」
「まあよい、今宵はゆっくりすると良いだろう。だが夫人、しばらく夫を借りるぞ。話がしたいのでな」
王は嘆息するとクラウディオを促した。フィオナは承知して礼をする。その姿をクラウディオが心配げに見遣ったが、これにもフィオナはにっこり笑顔をつくっておいた。
(大丈夫です。喧嘩はしません。多分)
クラウディオを見送ると、周囲は王とクラウディオがいなくなってわらわらと各々の話に戻っていく。皆の興味が逸れて、フィオナはやっと息をついた。
(はー。疲れたわ。どうしよう。また絡まれたら困るから、庭にでも行ってこようかな)
なんと言っても、誰かから声を掛けられても、その人の素性が分からないのである。庭にでも出て行こうかと人の合間を縫って広間を出ると、知らぬ女性から声を掛けられた。
「セレスティーヌ。公爵はどうしたの。あなた一人?」
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