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18② ーパーティー

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「お揃いの衣装だなんて素敵ね。お二人ともよく似合っているわ」
「ありがとうございます」

 デュパール公爵夫人の言葉に一瞬クラウディオがフィオナを隠そうとしたが、フィオナがさらりと礼を口にしたので、隠すような動きをやめた。少しばかり驚きの表情を見せ、すぐに顔を元に戻す。

「お二人もとても素敵な装いですね」

 フィオナの返事にデュパール公爵夫人の隣にいた男性も驚愕して見せる。しかしすぐににこやかな笑顔を湛えてフィオナに礼を言った。

 デュパール公爵はクラウディオほど美人ではなかったが、整った顔をしていた。筋肉があるのか体型ががっちりしており、少々日焼けをしているような肌色なので、騎士のようにも見える。

 デュパール公爵と夫人はお互いに顔を見遣って微笑み合う。それがなんとも甘い雰囲気で、たとえクラウディオと噂があっても昔恋人同士だったとしても、元鞘には戻らなそうな感じだった。
 セレスティーヌがクラウディオと離婚しても、デュパール公爵夫人は離婚などしないのではないだろうか。

 セレスティーヌは彼らに会っているはずなのに、それでもやきもちを妬いていたのならば、クラウディオがうんざりするのは当然な気がした。

「衣装をお揃いにするほど仲が良くなったのね」

 デュパール公爵夫人がそっと耳打ちする。フィオナは苦笑いだ。いつの間にかこの衣装になっていたので、クラウディオも驚いたはずである。
 それは口にせず、軽く笑うだけにとどめておく。変に否定してはセレスティーヌらしくないかもしれない。ここはセレスティーヌが喜ぶ場面だろう。

 セレスティーヌとデュパール公爵夫人が二人で話すと、クラウディオとデュパール公爵も二人で話し始めた。デュパール公爵はこちらを気にしている風だったが、問題ないと判断したようだ。
 しかし、クラウディオは信用がならないと、フィオナの方をちらちら見遣る。安心してほしいと言いたくなるほどだ。

「わざわざ茶器を送ってくださってありがとう。とても素敵な茶器で、夫と毎日使わせていただいているわ」
「それは良かったです。クラウディオに勧めてもらい贈らせていただきました。お茶がお好きなんですか?」
「夫が茶器を集めるのが趣味なの。変わっているでしょう?」

 デュパール公爵夫人が珍しい茶器を好きなのかと思っていたが、デュパール公爵が好んでいるようだ。クラウディオに確認して茶器をプレゼントするといいと助言をもらったので、デュパール公爵夫人が好きなものなのかと思ったのだが。

(夫人の好きなものを紹介したんじゃ、後で面倒になるからってことかもね)

 そんなものを勧めたとあっては、セレスティーヌが激怒するかもしれない。そこまで考えるとは、警戒しているクラウディオらしい。フィオナもそれは思い至らなかった。

「てっきりデュパール公爵夫人が好きなものなのかと思っていたのですが、旦那様がお好きなんですね。素敵な趣味だと思います」
「夫はバラチア公爵ととても仲が良いの。だから、夫の好みは熟知しているのよ。私に何か贈るつもりなんて毛頭ないわ」
「では、デュパール公爵夫人は何がお好きなんですか?」
「夫が嬉しがるのを見るのが好きなの」

 デュパール公爵夫人はにんまりと笑う。そしてその人に視線を向けた。デュパール公爵とクラウディオが話しているのを見つめているが、人によってはクラウディオを見ているように思えるだろうか。

(セレスティーヌならば、すっごく勘違いしそう)

 話を聞く限り、もしかしなくてもデュパール公爵夫人はデュパール公爵にベタ惚れなのではなかろうか。昔はクラウディオと付き合っていたとしても、今は歯牙にも掛けていないのでは。

 クラウディオにまだ想いがあったとしても、もうデュパール公爵夫人は友人の妻。割って入ることもできない雰囲気だ。
 それなのにセレスティーヌだけが憤慨し、デュパール公爵夫人に対ししつこく恨みがましい姿を見せていれば、クラウディオが何を思うか。

(なににおいても、セレスティーヌの勘違いの悋気がはなはだ激しかったかんじ……?)

 クラウディオに同情する。このままセレスティーヌとして生きて行かなければならないのならば、やはり離れて暮らすことを念頭に考えた方が良さそうだ。
 お菓子作りが軌道に乗れば、一人で暮らすくらいなんてことはない。

 そう考えていると、ふと見覚えのある姿が見えた。
 エルネストだ。

 フィオナはクラウディオがまだデュパール公爵と話しているのを確認し、デュパール公爵夫人に断りを入れてエルネストの姿を追う。
 どこに行ったか、広間を出て行ってしまったようだ。まだ王族が来ていないので広間から出るのはまずいのだが、しかしこの機会を逃したくない。

 廊下を曲がって部屋の中に入るのを見て、フィオナもその後についた。入った部屋でエルネストが待っていたかのようにこちらへ振り向く。
 いや、フィオナが追ってくるのを分かっていたようだ。

「またお会いしましたね。夫人」
「エルネスト様。お聞きしたいことが」

 エルネストは口元を上げる。その雰囲気は明らかに怪しげで、クラウディオが言うように彼が悪意を持っていないようには見えなかった。

(セレスティーヌを陥れて、何が望みなのかしら)

 それを知るには、セレスティーヌに何をやらせようとしていたか、調べる必要がある。

「その、前に教えていただいた通り行ったのですが、うまくいかなかったので、もう一度教えていただきたくて……」

 フィオナはできる限りセレスティーヌに見えるようにおどおどとした態度をしてみせた。
 エルネストはぴくりと眉を傾げる。それもそうだろう。薬を飲んだらセレスティーヌは倒れてしまった。それなのに今はぴんぴんしているのだから、おかしいと思っているに違いない。

「ふむ。では、薬はどうされたのですか?」
「じ、実は、こぼしてしまったので、全て使っていないんです。そのせいでしょうか」

 案の定、エルネストは薬のことを口にする。ふうん。と顎をさすりながら、考えるような仕草をした。

「そうかもしれませんね。薬が足りなかったのかもしれません」
「また、いただけますでしょうか……」
「あれを手に入れるのはなかなか難しいのですが、夫人のためです。なんとかしましょう」
「まあ、ありがとうございます。感謝いたします。あの、では他に、何か気を付けることはありますかしら?」
「もちろん、魔法陣は正確に描かなければなりません。そうでないと、あなたの願いは叶いませんからね」
「そうですよね……」

 やはり魔法陣を教えたのもエルネストだ。セレスティーヌにそんなものを与えて、それでどうする気だったのか。それを問うのは難しいだろう。薬をもらえるだけましだろうか。

 フィオナが沈黙していると、エルネストは大したことではないと笑顔を向けてくる。

「大丈夫ですよ。お渡しした紙をそのまま写すだけです。難しいかもしれませんが、ゆっくり描けば間違えることもありません」
「ですが、一度失敗していますので……」

「その魔法陣に魔力を注ぎ、薬を飲むだけです。魔力の送り方は前に教えましたね。手のひらを魔法陣の上に置き、体のエネルギーを注ぐように想像してください。きっとできますから」
「そうでしょうか」
「そうですよ。成功すれば、あなたは理想のあなたとなり、バラチア公爵はあなただけのものになるのです」
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