50 / 50
50 ーロンガニアの花ー
しおりを挟む
日差しの中で、いつも通りと薬草を摘み取る。昼に咲く花をもいで、花びらのお茶を飲むつもりだ。
お湯を注げば花びらが開いて、味もその見目もいいハーブティーになる花である。
父親の分と、自分の分、それから客に出す分。
扉を開くと、そこに銀の煌めきが見える。
「これは、見たことがないな…」
眉の間にしわを集めて、リングはその枝をまじまじと眺めた。
持っていた本を広げると、枝を探しはじめる。
「それね、この辺りでしか取れない品種なんだ。でも見たことなくて当然かも。それ化粧品に使うものだから」
ロンに説明されて、部屋にあった別の本を手にする。どこに何があるかももうリングは分かっていた。
王族直属薬師が化粧品に使う美容液なんてもの、作ったことはなかろうに。それでも勉強になるのか、本を眺めては納得するように頷いた。
「村にいる奥様方がほしがるんだ。そっち系も沢山作ってって。日に焼けるからそれようで…」
話している途中、外の門扉が開く音がした。誰が来たのか気付いてすぐに扉を開ける。
「…何で、先にお前がいるんだ?」
同じ銀色をまとう男は、汗をぬぐいながら不機嫌そうに入ってきた。
「来るなら、一緒に来ればいいのにね」
「違う!来るな!ここにいるな!薬草取り行くって言って、何でここなんだよ。他に行け!」
久しぶりに訪れたシェインは、既に椅子に座ってくつろいでいるリングに、出て行けと言わんばかりに外を指差した。
「今日は定例の情報交換だ。お前に何か言われる筋合いはない」
シェインががなれば、リングはつんとよそを向く。仲のいい兄弟喧嘩である。
「お前こそ、大聖騎士団は暇なのか?わざわざ長旅をして、いい身分だな」
「俺は、ティオに許しをもらってるんだよ。パンドラの確認と、ロンの薬草をもらいに!」
「暇なのか?」
「んだと!?」
仲よしだなあ。なんて、言えば二人共怒るわけだが。ロンはシェインとリングの言い争いを、まるで母親の気分で眺めていた。
リングは薬草を探しに。シェインはパンドラを無闇勝手に使っていないか確認に。どちらも何とも言えない理由でロンに会いに来ていた。
何故か二人が同じ時期に来るのはティオの陰謀のような気がするのだが、間違ってはいないだろう。二人がここに訪れる為に許可を出すのはティオである。
「まあまあ、お茶でも飲んでゆっくりして。疲れたでしょ。すぐお昼にするからね」
ロンの言葉に二人はすぐに口を閉じる。
子供の頃離れていたせいでか、今更彼等は口喧嘩を行うわけである。人のことをだしにして喧嘩を楽しんでいるようにしか見えないのだが、それも口にするのはやめよう。何にしてもよい状況だ。前に比べればずっと近い場所で言い合えるのだから。
わいわいがやがや。見ているだけで微笑ましい。
「ロン、来月の花祭りは城へ来いと、ティオが」
「丁度、パンドラの解読に城へ来る予定だ」
シェインが言えばリングが答える。リングの言葉に目くじらを立てるのはいつもシェインだった。その様を見ているだけで楽しい。
「もう一年か。早いなー。今年はのんびり見れるだろうね」
早いものだと思い起こして、ロンは二人を見やる。銀の煌めきは変わらず、けれど二人並んで座っていた。
「俺は警備」
「なら、私が案内しよう。その日は非番だから」
「なん、で、そうなるんだよ!」
シェインがガタリと椅子を倒さんばかりに立ち上がる。リングがそれを横目でちらりと一目。
その視線にもシェインは噛み付かんばかり。
この二人、実は喧嘩がしたくてここに来てるんではないか思いたくなる。
「仲がよくていいねえ」
やはり口にしてしまった。
ロンの言葉に二人が同時にこちらを見る。
驚くことないだろうに。二人は仲よしだ。
「絶対に違う!」
「有り得ない」
同時に発言して、お互い顔を見合わせる。
綺麗な花が顔を向き合わせているみたいだ。
そのうちトゲでも出して戦いそうである。
まあ、仲がいいことは何よりだ。
そう思って、続く二人の口喧嘩を、ロンは暖かく見守ることにした。
お湯を注げば花びらが開いて、味もその見目もいいハーブティーになる花である。
父親の分と、自分の分、それから客に出す分。
扉を開くと、そこに銀の煌めきが見える。
「これは、見たことがないな…」
眉の間にしわを集めて、リングはその枝をまじまじと眺めた。
持っていた本を広げると、枝を探しはじめる。
「それね、この辺りでしか取れない品種なんだ。でも見たことなくて当然かも。それ化粧品に使うものだから」
ロンに説明されて、部屋にあった別の本を手にする。どこに何があるかももうリングは分かっていた。
王族直属薬師が化粧品に使う美容液なんてもの、作ったことはなかろうに。それでも勉強になるのか、本を眺めては納得するように頷いた。
「村にいる奥様方がほしがるんだ。そっち系も沢山作ってって。日に焼けるからそれようで…」
話している途中、外の門扉が開く音がした。誰が来たのか気付いてすぐに扉を開ける。
「…何で、先にお前がいるんだ?」
同じ銀色をまとう男は、汗をぬぐいながら不機嫌そうに入ってきた。
「来るなら、一緒に来ればいいのにね」
「違う!来るな!ここにいるな!薬草取り行くって言って、何でここなんだよ。他に行け!」
久しぶりに訪れたシェインは、既に椅子に座ってくつろいでいるリングに、出て行けと言わんばかりに外を指差した。
「今日は定例の情報交換だ。お前に何か言われる筋合いはない」
シェインががなれば、リングはつんとよそを向く。仲のいい兄弟喧嘩である。
「お前こそ、大聖騎士団は暇なのか?わざわざ長旅をして、いい身分だな」
「俺は、ティオに許しをもらってるんだよ。パンドラの確認と、ロンの薬草をもらいに!」
「暇なのか?」
「んだと!?」
仲よしだなあ。なんて、言えば二人共怒るわけだが。ロンはシェインとリングの言い争いを、まるで母親の気分で眺めていた。
リングは薬草を探しに。シェインはパンドラを無闇勝手に使っていないか確認に。どちらも何とも言えない理由でロンに会いに来ていた。
何故か二人が同じ時期に来るのはティオの陰謀のような気がするのだが、間違ってはいないだろう。二人がここに訪れる為に許可を出すのはティオである。
「まあまあ、お茶でも飲んでゆっくりして。疲れたでしょ。すぐお昼にするからね」
ロンの言葉に二人はすぐに口を閉じる。
子供の頃離れていたせいでか、今更彼等は口喧嘩を行うわけである。人のことをだしにして喧嘩を楽しんでいるようにしか見えないのだが、それも口にするのはやめよう。何にしてもよい状況だ。前に比べればずっと近い場所で言い合えるのだから。
わいわいがやがや。見ているだけで微笑ましい。
「ロン、来月の花祭りは城へ来いと、ティオが」
「丁度、パンドラの解読に城へ来る予定だ」
シェインが言えばリングが答える。リングの言葉に目くじらを立てるのはいつもシェインだった。その様を見ているだけで楽しい。
「もう一年か。早いなー。今年はのんびり見れるだろうね」
早いものだと思い起こして、ロンは二人を見やる。銀の煌めきは変わらず、けれど二人並んで座っていた。
「俺は警備」
「なら、私が案内しよう。その日は非番だから」
「なん、で、そうなるんだよ!」
シェインがガタリと椅子を倒さんばかりに立ち上がる。リングがそれを横目でちらりと一目。
その視線にもシェインは噛み付かんばかり。
この二人、実は喧嘩がしたくてここに来てるんではないか思いたくなる。
「仲がよくていいねえ」
やはり口にしてしまった。
ロンの言葉に二人が同時にこちらを見る。
驚くことないだろうに。二人は仲よしだ。
「絶対に違う!」
「有り得ない」
同時に発言して、お互い顔を見合わせる。
綺麗な花が顔を向き合わせているみたいだ。
そのうちトゲでも出して戦いそうである。
まあ、仲がいいことは何よりだ。
そう思って、続く二人の口喧嘩を、ロンは暖かく見守ることにした。
32
お気に入りに追加
96
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。


今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる