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47 ーティオの質ー

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 次代は第一王子のヴァル・ガルディ、つまりティオなのに、そんなはっきりきっぱり、ティオを否定しては、リングの今後がなくなってしまう。
 けれどリングは罪は分かっていると、庇おうとするロンを諌めるようにその体を押しやった。

「リング、でも、リングがいたから、助けられたことがあるんだし!」
「勿論、お前を放っておくつもりはないよ。お前はマルディンの下で、面白いものを沢山作ってくれたわけだし?」
「ティオさん!」
 大体、ティオがちんたらと様子見で動かなかったのが悪いのではないか。
 リングが国を憂いていることくらい気付いていたはずだ。
「ティオさんだって、リングがアリアについてる時は良かったって言ってたじゃん!リングがいなかったら、王族専属薬師の力も低迷するよ!リングの力は誰にも引けを取らないんだから!」
「…ロンガニア」
 天才と言う言葉を容易く使うものではないが、リングはその一人だ。それだけの努力をしているだけでなく、努力に見合った力を持っている。
 彼の損失は国の損失となるだろう。
「ロンちゃん、それシェイン聞いてたら泣くよ」
 こんな時にまで茶々を入れる。こちらは真剣に話をしているのに。
 ロンが怒りに睨み付けると、ティオは怖がるように肩を竦めた。どこからどこまでも本気の見えない男だ。
 しかしティオは静かに吐息を漏らすと、残念ながら、と続けた。
「ロンちゃん。それなりのことをやってきた者を放置するのは、国として許されないことなんだよ。いくら優秀な人間でも、それを許したら国の法が犯される」
 ティオが真面目な答えを返してきた。
 こんな時だけ真面目に返すのだから、何も言えることがない。

 それくらいロンだって分かっていた。
 けれど、リングに罰を与え、長く牢獄に入れるようなことがあれば、もう自分以外の誰もパンドラを解読することはできない。それに加え、多くの人々がリングの薬師の力を受けられなくなるのだ。
 リングは新しい薬を作り、日々医療の向上にも勤めている。それは王族直属薬師の使命だった。それが長く行われないのならば、国自体の医療低下となるだろう。
 それを力説しようとすれば、ティオは、でもなー、と更に続けた。
「今は第二王子の治療をしてもらわないとね。マルディンがいなくなったらまともな治療ができるでしょう。弟の体調が良くなるまでは、弟の所にいてもらうよ」
「ティオさん…」
 わざとらしいウィンクをよこしてきたが、それはどうでもいい。
 ロンは喜びにリングの白皙の腕をしっかりと握った。
「リング、良かった!」
「弟を治すこと前提ね!」
 言ってもそれはつまり、第二王子が元気になるくらいの間は、罰を与えないと言うことだ。第二王子の容体は左程良いものではない。言い方は悪いが、治すのに時間がかかるのだから、長くリングの罰はないと言うことになる。言い返せば、殆ど罰はないのだろう。
 治療によって罪を償えるのだ。 
「ヴァル・ガルディ王子…」
 さすがのリングも思いがけないことだと眉を下げた。恩赦にしても多大なるものだ。

「そんなことより、他に大事なことがあるんだよ、ロンちゃん」
 照れ隠しなのか、ただ単に話を変えたいのか、ティオは突然向き直ってロンを捕まえた。
 がつ、と掴まれた両肩に、ロンは後ずさろうとした。ティオの悩んでいるふりの顔は碌なことがないと分かっているのだ。
「な、んでしょうか?」
「私の周りにはまともな薬師がいないんだよ、知ってた?ほらー、リングは私のこと嫌いだし、私が病気になってもきっと助けてくれないし。他の薬師も腕はいいんだけど、ロンちゃん程強くないし。私もすこぶる腕のいい薬師が欲しいんだよね?分かる?」
「分かりません」
 ロンは冷や汗をかきながら、嫌な予感いっぱいできっぱりと言い放つ。
「分かってよ。セウはきっとこっちに戻ってくるよ?」
 ティオの言葉にロンは口を閉じた。

 マルディンは失脚する。
 セウの目的はもう終わり、ロンについて世話をやく必要はない。彼は彼の人生を過ごすべきだ。

「こっちにいればシェインもいるわけだし。毎日会えるでしょ?それに、リングの力に対抗できるなんて、ロンちゃんくらいしかいないんだよね。またリングが戦いはじめたら、抵抗できるのロンちゃんの力だけなんだ。ほら、あの泥に戦って勝てたじゃない?」
 その言葉にふとロンは止まった。

 あの泥。
 ティオと別れてから後ろをついてきた泥の怪異だ。
 その泥で斧を作り出し、槍を作り出し、ロンとシェインは逃げ回って戦ったわけだが…。
 それはティオと一緒にいて、追われたわけではない。
「見て、たんですか…?」
「え、見てないよ。聞いただけだよ。やだなあ」
 てへへと意味もなく照れてみせて、ティオは頭をかいた。ごまかした仕草が何ともわざとらしい。
 この男、もしかして。
 ロンの頭に過ったことは、側で聞いていたリングが言葉にした。
「私の作った怪異を倒せるか、試させたのか。最悪だな」
「え、何言ってるの、リング。やだなあ、女の子にそんなことさせないよ。シェインが怪我したらロンちゃんが治してくれるって、そう思って二人一緒にさせたんじゃないの」
「最悪ですね」
 ロンは心底嫌そうな顔をした。
 ティオはあの後、ロンとシェインが戦う様を見ていたのだ。

「ロンちゃんー、ほんとに、ほんとの話。こっちでお父さんと暮らせばいいじゃない。どう?お給料高くするからさ。王族専属薬師。私専属でもいいけど」
「お断りします」
「ロンちゃん~」

 長くティオの話を聞いていると、頭が痛くなってくる。こうやってセウもシェインも使われているんではないかと心配になってきた。
 セウなんて特に人がいいものだから、本人の知らないうちに顎で使われていそうである。
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