ロンガニアの花 ー薬師ロンの奔走記ー

MIRICO

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45 ー光の知識ー

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 遠目でも分かるまばゆい光。
 一度見ているのならば、何から発せられているのかすぐに気付く、パンドラの輝き。
 だから、振り向かなくても誰の声だかすぐに分かった。

「パンドラを、開くのか」
 その声は複雑な声音だった。
 振り向いた先、リングは白のマントをなびかせて、銀の髪をさらりと揺らした。
 どこか険しい顔をして、けれどそれが当然行われることなのだと、口を閉じた。
 今ここで、パンドラを広げた理由を、リングは理解しているはずだ。
「リング、私と一緒にパンドラの力を使って。あなたは父を助けようとしてくれた。けど被害にあうのは父だけじゃない。城にいる人達を助ける為に、あなたの力が必要なの!」
「パンドラは私の手には負えない。今から何をすると言う?パンドラの中を探して、何ができる?」
 目次から必要な知識を選んで、術を発生させなければならない。それが確実に正しくて、成功するかはロンには分からなかった。
 リングの言う通り、お互いに発動させた力は偶然に近い。たまたま選んだものが、たまたま扱えただけかもしれない。
 だが今ここでパンドラの力を使えば、あるいは全てを止められるかもしれないのだ。それを探すことは可能だ。リングもロンも、パンドラの文字を読むことはできるのだから。

「リングは、何の為にマルディンについていたの?マルディンを正す為?それともただ身を護る為だけだったの?」
 リングの顔が微かに歪んだ。閉じた口元はわずかに強く結ばれる。
「マルディンの下で働いていながら、父を助けてくれたのは何故?私に、本当のことを教えてくれたのは何故?」
 リングは答えない。ただ無言でリングを見つめるだけだ。
 だがその白い腕の先は拳が握られていた。
「国を思ってたんじゃないの?マルディンに渡してはいけないと、そう思ったからじゃないの?それなのに、父を助けただけで、他の人達は放っておくの?マルディンと一緒で、他の人達はどうでもいいの?」
「マルディンは、もう体裁が分かっていない。ここで第一王子を殺せば、他国が侵略してくる。病弱な第二王子をたててもそれは同じだ。第一王子は、それが分かっていながら今まで何もしてこなかった。今頃動いてももう遅い。国を放っておいた酬いだ」
 リングは吐き捨てるように言った。
「だから放っておくの!?」
「再三忠告はした。第一特権を持つマルディンがどれだけ危険か、薬師の力を攻撃に回せばどれだけ恐ろしい目に合うのか、それも分からせたつもりだ。だが、第一王子はそれでも病床の王に変わり、国を担おうとはせず、身分を偽ってうろついているだけだ。今更立ち上がっても遅い。マルディンは愚かにも他国の協力を得て王位を狙いはじめた。この国は他国から蹂躙されるだろう」

 リングは一人決断し、一人戦っていた。それが何故なのか、ずっと疑問だった。
 マルディンにもティオにもつかず、けれど一人、何かと戦っている。
 マルディンの配下につき彼の動向を伺い、その行方を探っていた。だが対抗できる立場のティオは、導こうとしても素直に言うことを聞いたりしない。
 彼ができることは行ってきたのだろう。
 ティオはやっとその重い腰を上げて、マルディンに対抗しようと動きはじめた。
 けれどリングにとっては、遅い行動だったのだ。
 だとしても、それで終わりにしていいわけではない。
 
「あなたは薬師なのに、それすらも放棄するのね」
 ロンの言葉に、リングが刮目した。
「私達薬師の仕事は何。個人的な感情で国を放置すること?これから大惨事が起こるかもしれないのに、ただ放置して見知らぬふりをすること!」
 アリアは言った。
 薬師は他を助ける為に存在する者。
「母の教えを受けながら、傷付く者を放っておくの!だったら薬師の称号なんて捨てろ!あんたにそんな資格なんて必要無い!」
 言い切ると涙が溢れた。
 こんなことで涙を流すなんて馬鹿げている。

 ロンはそれを存外に拭って、パンドラへ手を伸ばした。
 光る文字を選んで、使える知識を手にしなければならない。間違って文字を選べば間違った力を放出してしまう。そうならないよう、細心の注意を払って選択しなければならないのだ。判断を違えれば、別の悲劇が襲う可能性だってある。

 毒の力を無力化する力。
 植物を枯らす力では他の植物にも影響が出る。全てを破壊する力では意味がない。あの二つの植物だけを、完全に消し去る力。

 ロンは意を決して、一つの文字へ手を伸ばした。
 光に触れる瞬間、伸ばされたもう一つの手。

「一人ではやらせない」

 掴まれた指先と共に文字に触れると、地鳴りが辺りに響き渡った。
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