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35 ーご褒美ー
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「大雑把な手はマルディンだから分かりやすいよ。リングの攻撃はもっと、あり得ないものだからね。リングに比べればかわいいものだ。今回はさすがに派手だけど」
ティオはため息交じりに言った。今回の嫌がらせは中々面倒だと笑って見せたが、お付きの男達の表情を見ている限り、本当に困っているのだろう。
急成長する植物は根が浅い。けれどコメドキアは壁にすらはびこる面倒な草だ。幾ら表面上草を抜いても、壁の小さな穴に根が残っていればそこからまたはびこる。
完全に根絶やしにするには、燃やすか薬をまくかしない。
城の薬師には同情する。全てを消すのはロンもきつい。
「それに第二王子が弱り切って、リングが何度も呼ばれてるんだよねー。王子二人とも災難ばっかりだよ」
「第二王子?」
「オグニ第二王子。マルディンに薬を盛られて今は操り人形だ。 薬を盛りすぎたせいで容態が良くないらしい。リングを呼んで延命させるつもりだろう。第一王子が死ぬ前に第二王子に死なれたら、マルディンの権力も終わりだからな」
第二王子はマルディンの手中だ。
薬を飲ませて操り人形とは、もう薬師とは言えない。マルディンはやはり母親とは相入れない薬師なのだ。
「オグニ様は元々精神の弱い方だ。薬も良く効くんだろう。強力な暗示をかけられて、殺されることばかり口にしていたらしいが、とうとう病に伏されたんだな」
シェインは呆れるように言った。ティオも困ったように言っているが、そこまで重要に思っていないように聞こえた。死のうが死ぬまいが、マルディンが出てくることを考えればどちらでも構わないかのようだ。
「淡白だね。第二王子は死んでもいいの?」
素朴な疑問だ。操られている第二王子を助けようとはしないのだろうか。
その言葉にティオが微かに表情を歪めた。
疑問に思った時には消えていた。いつもの嘘くさい笑顔が表れて、わざとらしく髪をかき上げる。
「第二王子はねー、元々いいこちゃんでねー。でもいいこちゃんすぎて言われたことを何でも疑わずに受けとっちゃうのよ」
ティオは言う。それがどれだけ愚かなことかと。
「マルディンには権力があって、どちらの王子も奴の手の中だった。けれど大人になれば分別がつくものでしょ?マルディンがおかしいと気づくのも時間はかからないはずなのに、第二王子はいつまでもマルディンを信じてたんだよ。わかりやすく懐いて、奴の言うことは全て正しいのだと思っていた。途中まではね」
ティオは含んだ。そこが薬師の力なのだと。
王は既にマルディンの手にかかり、病がち。薬を盛られたと気づく頃には第二王子が懐いている。それを伝えても第二王子は頑として信じなかったが、王が倒れた頃にやっとおかしいと感じはじめた。
「素直ってのはねえ、時折とても邪魔になる。第二王子はね、マルディンに長く懐いていたせいで、疑いの心を持てなかったんだ。けれど、病がちの王が極端に悪くなった頃、やっと変だと気付いたんだよ。それが第二王子の顔に出る頃にはもう、本人がマルディンの薬漬けだったわけだ」
薬を盛る。
言うことを聞かせるために催眠の類の薬を使ったか、大人しくさせるために体を弱らせる薬を飲まされ続けていたか。どちらかかもしれない。
「第一王子は助けなかったの?気づいていたんでしょう?」
「気づいても、助けられないんだよ。側にマルディンがいる。奴を信じるなと言っても第二王子は聞かない。食事に薬を混ぜられ続けても、それを止めることはできない。なぜなら第二王子の周りは全てマルディンの手下で固められていて、本人が嫌がらない限りどうにもできないからだ」
それを、愚かだと言うのだろうか。
無理にでも手を引けば助けられるかもしれないのに。
素直であることを悪だと言われては、第二王子もやるせないだろう。それでも誰かが助けを出せば、そこから逃げられたのではないのだろうか。
「ねえ、ロンちゃん。全てを助けられればいいけれど、助けられないこともあるんだよ?それは別に恥ではないし、罪ではない。仕方のないことだったんだ」
ティオはまとめた。確かに全てを助けられないことはある。ロンにだってそれは同じだ。自分は母親を助けられず、母親の犠牲の前で背を向けて逃げた。仕方のないことだったと言われればそうだっただろう。
けれど、と思う。
「助けたいなら、諦めなくていいんじゃないの?今も生きているなら、まだ助けることはできるでしょう?今の話を聞いてると、もうどうでもいいみたいに聞こえる」
ティオは一瞬眉根を寄せた。
それが何を思ってさせたのか分からなかった。いつも通りの嘘くさい笑顔は、そうだね。の言葉と共にいて、話をそれ以上膨らませなかったからだ。
話がずれたと、ティオは先程の話に戻す。
第二王子に死なれる前に、マルディンが第一王子を殺そうとするかもしれないと言う話だ。
「パンドラがマルディンに渡らない今、第二王子が危険と言うことは、第一王子も更に危険にさらされるかもってことなのよ。だから、城は限界体制」
第二王子をたてて裏から国を牛耳る。パンドラの力を使用すれば恐怖政治となるかもしれない。しかしそのパンドラも手元になく、更に第二王子が病に伏している。死にそうな第二王子を延命して尚不可能ならば、第二王子が死ぬ前に第一王子を殺してしまおうと言う、何とも短絡な話だった。
マルディンは国を手に入れられれば、他はどうでもいいのだろう。
古来そのように手にした栄光など長続きしないものを。
「そ、ゆーわけでロンちゃんには色々お世話になり、これからもなるのでご褒美をね」
ロンはぎくりとした。ご褒美なんてものティオから貰うなんてお断りだ。
言葉に出さずロンは遠慮こうむった。お断りしますと首を横に振って拒否したが、ぎゅっと握られた手の中に何かが入った。
「ご褒美。シェイン、適度な時によろしくね」
手の中にあるのは銅色の鍵だ。
ティオ達はそのまま帰宅し、ご褒美である鍵が残った。
ティオはため息交じりに言った。今回の嫌がらせは中々面倒だと笑って見せたが、お付きの男達の表情を見ている限り、本当に困っているのだろう。
急成長する植物は根が浅い。けれどコメドキアは壁にすらはびこる面倒な草だ。幾ら表面上草を抜いても、壁の小さな穴に根が残っていればそこからまたはびこる。
完全に根絶やしにするには、燃やすか薬をまくかしない。
城の薬師には同情する。全てを消すのはロンもきつい。
「それに第二王子が弱り切って、リングが何度も呼ばれてるんだよねー。王子二人とも災難ばっかりだよ」
「第二王子?」
「オグニ第二王子。マルディンに薬を盛られて今は操り人形だ。 薬を盛りすぎたせいで容態が良くないらしい。リングを呼んで延命させるつもりだろう。第一王子が死ぬ前に第二王子に死なれたら、マルディンの権力も終わりだからな」
第二王子はマルディンの手中だ。
薬を飲ませて操り人形とは、もう薬師とは言えない。マルディンはやはり母親とは相入れない薬師なのだ。
「オグニ様は元々精神の弱い方だ。薬も良く効くんだろう。強力な暗示をかけられて、殺されることばかり口にしていたらしいが、とうとう病に伏されたんだな」
シェインは呆れるように言った。ティオも困ったように言っているが、そこまで重要に思っていないように聞こえた。死のうが死ぬまいが、マルディンが出てくることを考えればどちらでも構わないかのようだ。
「淡白だね。第二王子は死んでもいいの?」
素朴な疑問だ。操られている第二王子を助けようとはしないのだろうか。
その言葉にティオが微かに表情を歪めた。
疑問に思った時には消えていた。いつもの嘘くさい笑顔が表れて、わざとらしく髪をかき上げる。
「第二王子はねー、元々いいこちゃんでねー。でもいいこちゃんすぎて言われたことを何でも疑わずに受けとっちゃうのよ」
ティオは言う。それがどれだけ愚かなことかと。
「マルディンには権力があって、どちらの王子も奴の手の中だった。けれど大人になれば分別がつくものでしょ?マルディンがおかしいと気づくのも時間はかからないはずなのに、第二王子はいつまでもマルディンを信じてたんだよ。わかりやすく懐いて、奴の言うことは全て正しいのだと思っていた。途中まではね」
ティオは含んだ。そこが薬師の力なのだと。
王は既にマルディンの手にかかり、病がち。薬を盛られたと気づく頃には第二王子が懐いている。それを伝えても第二王子は頑として信じなかったが、王が倒れた頃にやっとおかしいと感じはじめた。
「素直ってのはねえ、時折とても邪魔になる。第二王子はね、マルディンに長く懐いていたせいで、疑いの心を持てなかったんだ。けれど、病がちの王が極端に悪くなった頃、やっと変だと気付いたんだよ。それが第二王子の顔に出る頃にはもう、本人がマルディンの薬漬けだったわけだ」
薬を盛る。
言うことを聞かせるために催眠の類の薬を使ったか、大人しくさせるために体を弱らせる薬を飲まされ続けていたか。どちらかかもしれない。
「第一王子は助けなかったの?気づいていたんでしょう?」
「気づいても、助けられないんだよ。側にマルディンがいる。奴を信じるなと言っても第二王子は聞かない。食事に薬を混ぜられ続けても、それを止めることはできない。なぜなら第二王子の周りは全てマルディンの手下で固められていて、本人が嫌がらない限りどうにもできないからだ」
それを、愚かだと言うのだろうか。
無理にでも手を引けば助けられるかもしれないのに。
素直であることを悪だと言われては、第二王子もやるせないだろう。それでも誰かが助けを出せば、そこから逃げられたのではないのだろうか。
「ねえ、ロンちゃん。全てを助けられればいいけれど、助けられないこともあるんだよ?それは別に恥ではないし、罪ではない。仕方のないことだったんだ」
ティオはまとめた。確かに全てを助けられないことはある。ロンにだってそれは同じだ。自分は母親を助けられず、母親の犠牲の前で背を向けて逃げた。仕方のないことだったと言われればそうだっただろう。
けれど、と思う。
「助けたいなら、諦めなくていいんじゃないの?今も生きているなら、まだ助けることはできるでしょう?今の話を聞いてると、もうどうでもいいみたいに聞こえる」
ティオは一瞬眉根を寄せた。
それが何を思ってさせたのか分からなかった。いつも通りの嘘くさい笑顔は、そうだね。の言葉と共にいて、話をそれ以上膨らませなかったからだ。
話がずれたと、ティオは先程の話に戻す。
第二王子に死なれる前に、マルディンが第一王子を殺そうとするかもしれないと言う話だ。
「パンドラがマルディンに渡らない今、第二王子が危険と言うことは、第一王子も更に危険にさらされるかもってことなのよ。だから、城は限界体制」
第二王子をたてて裏から国を牛耳る。パンドラの力を使用すれば恐怖政治となるかもしれない。しかしそのパンドラも手元になく、更に第二王子が病に伏している。死にそうな第二王子を延命して尚不可能ならば、第二王子が死ぬ前に第一王子を殺してしまおうと言う、何とも短絡な話だった。
マルディンは国を手に入れられれば、他はどうでもいいのだろう。
古来そのように手にした栄光など長続きしないものを。
「そ、ゆーわけでロンちゃんには色々お世話になり、これからもなるのでご褒美をね」
ロンはぎくりとした。ご褒美なんてものティオから貰うなんてお断りだ。
言葉に出さずロンは遠慮こうむった。お断りしますと首を横に振って拒否したが、ぎゅっと握られた手の中に何かが入った。
「ご褒美。シェイン、適度な時によろしくね」
手の中にあるのは銅色の鍵だ。
ティオ達はそのまま帰宅し、ご褒美である鍵が残った。
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