ただいま婚約破棄更新中。でも私はめげません!

MIRICO

文字の大きさ
上 下
5 / 11

5 騒ぎになりました

しおりを挟む
「そろそろ、出られた方が良いでしょう。こちらはお一人で来るような場所ではありませんから」
「あなたもお一人のようですけれど?」
「……見たところ、あなたは楽しんでいるように思えないので、早めに帰られた方が良いですよ」

 確かに目的は為さなそうだ。良い出会いがあればと思ったが、誰も彼も仮面を被り表情は見えず、一人でいる男性も少なく、女性たちに囲まれて談笑する男性は多かった。
 ふと、隣にいる男をじっと見て、いやいやとかぶりを振る。瞳は濃い青色で、印象的な目をしていた。力強いというか、意志のある瞳だ。
 歴代の元婚約者たちは騎士ではなかったので気にしなかったが、強い力を持つ瞳は好ましく感じる。

(剣を持つ方であれば、相手をしていただけますもの。それでなんだか気になるのかしら?)

「あれは……」

 ふと黒髪の男が呟いた。舞台に向ける視線に気付いてエルヴィールもそちらを見遣る。次に運ばれてきた商品には赤い布がかけられており、聴衆たちが期待の眼差しを向けた。

「本日の目玉。ドラゴンの卵です!」

 布が取られて、淡い赤銀色をした大きな卵があらわになった。
 珍しい品に皆が声を上げた。希少なドラゴンの卵だ。

「生まれたら、ドラゴンの仲間が襲ってくるんじゃ?」
「仲間意識が強いんだろ? 鳴き声で寄ってくるって言うじゃないか」
「問題ありません。ドラゴンの気配を消すアクセサリーをお付けします。では、千から始めさせていただきます」
「二千!」
「二千五百!」

「ダンベル種か。よく気付かれずにここまで運んだものだ。気付かれたらドラゴンが都を襲うぞ。……レディ?」
「よくも、大それた真似を!」

 エルヴィールは怒りに震えると立ち上がった。男の止める声も聞かず、太ももに隠した剣を取り出すと、靴を脱ぎ捨て裸足で一気に舞台へ駆け降りる。

「許せません! ドラゴンの隙を狙い、卵を奪うなど!」
「なんだ!?」
「女騎士!?」

 重力を感じさせぬ跳躍で舞台に飛び降りると、エルヴィールは舞台にいた司会から卵を離すために両手の短剣を突き立てようとした。気付いた司会の男は驚きながらもそれを避けて、卵を後ろにしながら忍ばせていた剣を手にする。
 一瞬見合わせたが、すぐに警備の男たちが集まりエルヴィールは囲まれた。
 警備の振り下ろした剣を跳ねるように避け、背後に周り回し蹴りを食わす。別の警備が何度も突き刺そうとしてくれば、素早く避けて剣を握る手を狙った。

「くそっ。なんて女だ!」
「観念なさい!」
「騎士たちだ! 逃げろ!!」
「王宮の騎士だ!!」

 警備の男たちをのしていれば、赤いマントを羽織った騎士たちが、大勢勢いよく部屋に入ってきた。逃げようとする参加者や関係者を包囲する。

「この、邪魔なやつらめ!!」
「逃しません! ドラゴンを盗んだ罪。身をもって償いなさい!!」

 舞台から袖に逃げようと、司会の男が卵を抱えて走り出す。その後を追うエルヴィールに、再び剣が振り下ろされる。警備たちの剣を避けては背後に周り、短剣で逸らしては切り付けて、ドラゴンの卵を追おうとした。

「邪魔だ!!」

 卵を持ったまま司会の男が、立ちはだかる黒髪の男に怒鳴りつけてすれ違おうとした。しかし、黒髪の男はどこからか出した短剣を手にして、一瞬で司会の男を倒す。

「卵が!!」

 エルヴィールの叫びに黒髪の男が手を伸ばした。司会の男が放り投げた卵を当たり前に片手にして、地面に落ちるのを防ぐ。

「卵は無事ですか!?」
「無事です。ヒビも入っていない」
「良かった。淡い赤色を伴った卵はもうすぐ孵るんです。ドラゴンの卵は通常地面に落としたくらいで割れたりしませんが、この時期はカラが弱くなっているので、一番慎重に扱わなければならなくて。早く親元に返さなければ。ダンベル種ですから南の血に住まうドラゴンですけれど」
「密猟の報告が出ています。ドラゴンたちの怒りは凄まじいとか」
「まあ、なんてこと! では、早く戻してあげないと。卵に高温の熱がこもっています。そろそろ孵る可能性がありますわ」

 すぐにでも返してあげたい。先ほどかぶされていた赤い布で覆ってやると、黒髪の男が仮面の下で緩やかに目を眇めた。

「腕が良いのは分かりましたが、今はこれを守っていてもらえますか。まだ捕り物が残っているので」

 黒髪の男はエルヴィールにドラゴンの卵を渡して、まだ戦っている者たちの方へと走った。警備の男が持っていた剣を手にして、あっという間に抵抗する者たちをのしてしまう。マントを羽織った騎士たちも相当な腕のように見受けられるが、それ以上の強さだ。

「素敵だわ。なんてお強いのかしら! お兄様以外にあんな強い方がいらっしゃるのね」

 ほう、と見惚れていると、女性の叫び声が届いた。婚約破棄をした女性の声だ。マントの騎士たちに捕らえられたか、相手の男と一緒に縄で縛られて座らせられている。騒ぎに逃げ出す人は多かったが、逃げられなかったようだ。
 仮面を付けたままだったが、周囲の騎士たちを睨んでいるのだろう。金切り声が響いた。

「離しなさい! なんなの!? 私が何をしたというの! 私を誰だと思って!?」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ぐう
恋愛
アンジェラ編 幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど… 彼が選んだのは噂の王女様だった。 初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか… ミラ編 婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか… ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。 小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。

婚約破棄は綿密に行うもの

若目
恋愛
「マルグリット・エレオス、お前との婚約は破棄させてもらう!」 公爵令嬢マルグリットは、女遊びの激しい婚約者の王子様から婚約破棄を告げられる しかし、それはマルグリット自身が仕組んだものだった……

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです

今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。 が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。 アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。 だが、レイチェルは知らなかった。 ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。 ※短め。

[完結]アタンなんなのって私は私ですが?

シマ
恋愛
私は、ルルーシュ・アーデン男爵令嬢です。底辺の貴族の上、天災で主要産業である農業に大打撃を受けて貧乏な我が家。 我が家は建て直しに家族全員、奔走していたのですが、やっと領地が落ちついて半年振りに学園に登校すると、いきなり婚約破棄だと叫ばれました。 ……嫌がらせ?嫉妬?私が貴女に? さっきから叫ばれておりますが、そもそも貴女の隣の男性は、婚約者じゃありませんけど? 私の婚約者は…… 完結保証 本編7話+その後1話

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

処理中です...