上 下
15 / 47

15 捜査

しおりを挟む
「あら、また会ったわね」
「アデラ殿下。ご挨拶申し上げます」

 ディーンがすぐに挨拶をする。それにならい、オレリアも挨拶した。後ろにいる侍女の中に、カロリーナはいない。足を怪我したので、動けないのかもしれない。一緒に植物園に行った侍女二人は連れていた。澄ました顔をして、オレリアをバカにするように、斜に構えた顔を向けてくる。アデラもオレリアを品定めするように、じっと見つめてきた。

「クビにならずに働けているようね」
「若輩ながら、お手伝いを続けさせていただいております」
「殿下、お話をされる必要などありませんわ。この方は、カロリーナ様を毒で殺そうとしたのですよ?」
「はあ!?」

 問い返したのはディーンだ。間髪入れず返答したので、オレリアの方がびっくりする。
 反応してくれたのは嬉しいが、アデラ王女の前でその態度をすれば、指摘する隙ができたと、侍女たちがほくそ笑むだろう。その通り、侍女の一人が嘲笑ってきた。

「まあ、なんという態度なのかしら。さすがは平民ですわ。殿下の前で、なんと失礼な物言いでしょう」
 ディーンは言葉を呑み込んだ。平民だとは知らなかったが、侍女たちはよく知っていると、ディーンの態度をわざとらしくさえずり、怖いと言いながら体を竦ませる。

「おやめなさい。薬学研究所は、秀逸な成績を残した方々が入られる、由緒正しき場所よ。身分などは関係ありません」
 アデラ王女はぴしゃりと侍女を叱る。その言葉にいすくむが、アデラ王女はディーンにも注意をした。

「あなたもよ。ディーン。言葉遣いに気をつけなさい。研究所の質を落としたいのかしら?」
「申し訳ありません」
「妙な噂が流れていることは知っているわ。研究所では騒ぎになったとか」
「この方は、カロリーナ様を傷付けたのです!」
「誤解です。どうして私が、そんな真似をしなければならないのですか?」
「嫉妬したからでしょうに。幼馴染を取られたと嫉妬して、彼女を殺そうとしたんだわ」
「違います。失礼なことを言わないでください。大声を出すのは、私を貶めるためですか?」
「なんですって!?」

 オレリアがきっぱりと口にすれば、侍女の一人が眉を上げた。黙っていても、噂は大きくなるだけだ。廊下を通る者たちが、ちろちろと見ながら通り過ぎていく。アデラ王女に頭を下げるが、通り過ぎれば噂を口にしているのが耳に届く。
 ここで言い合っていれば、さらに噂は広がるだろう。だが、否定の声も聞こえるはずだ。

「おやめなさい。引き留めて悪かったわね。お仕事に集中なさって」
「ありがとうございます」
 アデラは嫌な感じはないが、周囲の侍女たちは、ぎろりとこちらを睨んでいた。







「あのお、また失礼します」
「また来たのか!?」
 研究所に、またも医療魔法士がやってきた。途端、再び騎士が部屋に入ってくる。前と同じ騎士だ。短い金髪の、切れ長で目の鋭い男で、その騎士の睨みに、オレリアはつい緊張して、体が強張った。

「今度は、なんだ? 部屋に入るなと言っているだろう!」
「学生寮の部屋に毒があったため、同行を!」
「私の部屋ですか!?」

 いつそんな調査をしたのか。オレリアがいない間、勝手に部屋に入り、調べたというのか。
 セドリックも同じことを考えたと、誰の許可を得て、オレリアの部屋を調べたのか問うた。
 医療魔法士はしどろもどろだが、金髪の騎士が、ずずいと前に出てくる。

「毒の入手経路がわからないため、残った毒がないか、調べることになったからだ」
「それで、まだ疑わしいというだけの、令嬢の部屋に勝手に侵入し、調べたというのか?」
 セドリックは、令嬢を強調した。騎士はわかっていないのか、だからどうしたと開き直る。

「その女の部屋に、毒が残っていた。犯人で間違いないのだから、そこをどけ!」
「あの学生寮は、簡単に入れるぞ。お前らが毒を置いたんじゃないのか?」
「なんだと!?」
「あの学生寮は、学生なら誰でも入れるし、鍵は誰でも開けられるくらい、ちゃちなものなんだよ。オレリアさんはほとんど研究所にいて、寮にいるのは夜から朝にかけてだけ。毒を仕込むなんて、楽勝だろ」
 ディーンが口を挟んで、騎士が目を釣り上げた。そこにベンヤミンが参戦する。

「そもそも、どうしてそこまで、オレリアさんを犯人に仕立てようとするんでしょうか。オレリアさんが植物園に行ったのは、侍女の方々から頼まれて仕方なくでしたし、案内を頼みながら、勝手に行動した侍女たちの不注意で起きたことです。まさか、侍女だからといって、優遇しているわけではないですよね?」
「何を言う! 疑わしき者を調べているだけだ! 調査の邪魔をするのか!?」
「侍女たちが、オレリアが犯人だと言いふらしているだけだろう。まともな調べもせずに、学院の生徒だからと、お前たちは侮るのか? 大体、毒殺だのなんだの、騒いでいる侍女たちはなんのつもりだ? あの毒は毒でも、強いものではなく、触れればかぶれる程度の、軽いものだ。傷口から入っても、しばらく痺れて傷口が膿むぐらい。医療魔法士ならば、簡単に治せるだろう」

 セドリックが医療魔法士を睨みつける。医療魔法士はびくりと肩を上げつつも、うんうん頷いた。医療魔法士も、その程度でどうしてここまで騒ぐのだと言わんばかりだ。もう部屋を出たいと、壁にくっついて、騒ぎに巻き込まれないようにしている。

「あのカロリーナという侍女が、オレリアに嫉妬して、こんな騒ぎにしたのではないのか?」
「どういう意味だ! 彼女を陥れる気か!」
「オレリアを陥れようとしているのは、そちらだろう。毒は部屋に保管されているが、量は減っていない。そうであれば、オレリアが犯人に仕立てられるいわれもない。だから、さっさと、出ていけ!!」

 セドリックの急な怒鳴り声に、医療魔法士が一瞬で部屋の外に出る。金髪の騎士も、セドリックの迫力にたじろいだ。
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。 伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかし、正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

処理中です...