上 下
41 / 62

26−2 補強

しおりを挟む
 シモンがエヴリーヌを庇うようにして前に立ちはだかる。怒鳴り声が聞こえ、シモンが殺さず捕えろと叫んだ。森の中で魔法が発せられ、悲鳴が聞こえる。
 ビセンテは聖女たちを守るよう指示し、一行はその動向を待った。本当に不審者が現れた。何者かがこちらの様子をうかがっていたようだ。

「二人です。一人は逃げました!」
「引き続き周囲を警戒しろ。お前たちはそいつを追え」

 シモンの指示に王の兵が走り出す。何が起きているかわからない聖騎士や聖女たちがビセンテを仰いだ。シモンを確認して、ビセンテは今回邪魔が入るかもしれなかったことを、彼らに告げる。
 この中に裏切り者がいるとは思いたくないだろう。いるとは限らないので、皆が無関係だと思いたい。
 皆がざわめく中、縛られた男が二人連れてこられた。聖騎士でもない、王の兵でもない二人だ。

「誰の命令だ。ここで何をしていた」
 シモンが尋問したが、話すわけがなく。ビセンテが男二人の荷物をあさらせた。

「エヴリー、これがなんだかわかるか?」
「それは魔物避けの道具だと思うけど、でもそっちのは」

 荷物の中に魔物が嫌がる波長を出す道具があった。その他に楔のような物がある。普通の楔と違うのは、頭の部分にガラス玉のような物が埋まっていることだ。他にも、小さな丸いガラス玉のようなものがいくつか袋に入っている。弓矢も持っており、矢にくくり付けられるようになっていた。

「こっちのガラス玉は、掘削用に使われる爆弾よ。魔力を込めてから少しの時間を経ると、爆発するの。こっちの楔についている物も同じだわ」
「なにに使う気だったんだ」
 ビセンテの問いに、男二人は黙ったまま。俯く一人の男に、シモンが顎を蹴り上げた。

「エングブロウ卿!?」
「エヴリーヌ聖女様の邪魔をするつもりだったんだろうが、僕がいたから実行できなかったんだろう」

 転がった男の喉を踏みつけて、シモンは男がもがくのを見下すように冷ややかに見やる。そのままもう一人の男を横目で冷眼を向けた。
 王の政策を邪魔する者たちと聞いていたが、シモンの言っている意味がわからない。シモンに踏みつけられている男は、息ができないとシモンのブーツを引っ掻くようにもがいた。

「おい、そのままじゃ死ぬぞ!」
「片方生きていればいいだろう。エヴリーヌ聖女様の邪魔をしようとしたのだから、死んで当然」
「エングブロウ卿! 足をどけなさい! 犯行について証言が必要でしょう!?」

「エヴリーヌ聖女様。こいつらは魔物の住む地下を破壊して、魔物を溢れ出させるつもりだったんでしょう。封印の魔石を補強する間に行うはずだったけれど、人が多すぎて断念したに違いありません。次の場所に進むのに、僕たちを追い越そうとしていたんだ」
「地下を、破壊……」

 その時だった。ドオン。というくぐもった爆発音が耳に入り、皆がそちらに振り向いた。谷の隙間から煙が上るのが見える。

「爆発!? まさかっ」
 エヴリーヌは男たちが持っていた楔を奪うように手にした。楔の頭に付いている、魔力で爆発する道具。

「地下を爆発させた後、山の頂でこの楔を爆発させたの?」
「あの時と、同じ!?」

 ビセンテも気づいたと、黙っている男を鋭く睨みつけた。巣穴を爆発させて、地面が陥没させる。そして、山頂を爆発させ地面が流れて地滑りが起きた。

「前回起きた地滑りは、まさか、実験したのか?」
「人為的な地滑りを起こした?」
「地面ごと崩れたら、封印の魔石だって流されるぞ」

 そんなことをしたら、封印の一部が壊れてしまう。封印されていた魔物が出てきてもおかしくない。そう思っている間に、先ほどよりも不気味な地鳴りのような音が耳に入った。

「崩れるぞ!!」
 ビセンテの声に、皆も声を上げた。
 遠目にある山の頂から、木々が流れるように倒れていく。土が雪崩のように流れて、土が木々を流していった。

「あっちは、公爵領……」
 呟いて、一瞬で寒気がした。溢れる魔力。崩れた山の方から、強い魔力を感じた。
 なにかが巨大な物がうごめくのが見える。
 黒檀色の大きな羽を一振りして、山の裾野に崩れるように隠れた。

「なんだ、あれ、」
 ビセンテの言葉を横にして、エヴリーヌは走り始めていた。

「エヴリー!?」
「エヴリーヌ聖女様!?」

 後ろから急いで追いかけてくる声が聞こえる。しかしそれよりも先に、別の群れが後ろから近づいてきた。
 一頭の鹿がエヴリーヌをすくうように背中に乗せた。足場の悪い地面を蹴り上げて、勢いよく斜面を下っていく。その後ろを鹿の群れが飛び跳ねてついてきた。

「鹿!? エヴリー、待てっ! 一人で行くな!!」
 ビセンテの呼ぶ声が聞こえたが、鹿の走りは速く、すぐに聞こえなくなった。

 地滑りが起きたのは公爵領だ。沢に繋がる山が崩れた。地面が爆発して地滑りが起き、大聖女の結界を一つ巻き添えにした。地面が崩れれば保護魔法がかけられている台座でもどうにもならない。一緒に流れて、結界の一つが壊れてしまう。
 そして、山の合間に見えた巨大な羽。

「ドラゴンだわ」

 それが公爵領に繋がる谷間に降りたった。こちらから見えないのだから、先に進んでいったに違いない。
 そのまま進めば、人のいる場所へと近づくだろう。そこにはきっと、カリスがいる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました

ひとみん
恋愛
タイトル変更しました!旧「国王陛下の長い一日」です。書いているうちに、何かあわないな・・・と。 内容そのまんまのタイトルです(笑 「側妃を迎えたいと思うのだが」国王が言った。 「了承しました。では今この時から夫婦関係は終了という事でいいですね?」王妃が言った。 「え?」困惑する国王に彼女は一言。「結婚の条件に書いていますわよ」と誓約書を見せる。 其処には確かに書いていた。王妃が恋人を作る事も了承すると。 そして今更ながら国王は気付く。王妃を愛していると。 困惑する王妃の心を射止めるために頑張るヘタレ国王のお話しです。 ご都合主義のゆるゆる設定です。

舞台装置は壊れました。

ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。 婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。 『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』 全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り─── ※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます 2020/10/30 お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o))) 2020/11/08 舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました

砂礫レキ
恋愛
公爵令嬢エミア・シュタイトは婚約者である第二王子アリオス・ルーンファクトを心から愛していた。 けれど幼い頃からの恋心をアリオスは手酷く否定し続ける。その度にエミアの心は傷つき自己嫌悪が深くなっていった。 そして婚約から十年経った時「お前は俺の子を産むだけの存在にしか過ぎない」とアリオスに言われエミアの自尊心は限界を迎える。 消えてしまいたいと強く願った彼女は己の人格と引き換えに前世の記憶を取り戻した。 救国の聖女「エミヤ」の記憶を。 表紙は三日月アルペジオ様からお借りしています。

処理中です...