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1 プロローグ
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「あなたがやったのでしょう!」
女の力にしては結構な強さで突き飛ばされ、ラシェルは床に手をついた。
「王妃様の宝石を盗むだなんて!」
「私ではありません。どうやって宝石を盗めるのでしょう」
ラシェルは反論する。しかし、王妃に取り巻く令嬢の一人が、眉尻を大きく上げた。
「白々しい! 高価な服をねだり、それが叶わないとなったら、メイドたちに暴力を振るうなんて! クリストフ様の婚約者候補でありながら、なんて方なの!」
呼び出された部屋で、ラシェルが静かに待っていたところ、突然女性たちが部屋に入り込んできた。
何事かとラシェルが立ち上がれば、いきなりラシェルを突き飛ばし、寄ってたかって、ラシェルの知らぬ話を突き付けてきたのだ。
一体何事なのか。そう問う間もなく、女性たちから白い目で見られる。
集まってきたのは、この国の王妃や、王妃と親しくしている、婚約者候補の令嬢たち、それからメイドたちだ。
メイドに呼ばれ、長く部屋で待っていたら、意味の分からない話をされ、盗みの汚名を着せられている。ラシェルが知らぬ、存ぜぬと訴えても、集まってきた女性たちはラシェルを問い詰めた。
「まさか、王妃様にまで飛び掛かるだなんて!」
メイドの一人が叫んだ。なんの話をしているのか。飛び掛かられたのはラシェルで、こうして床に膝をついている。
しかし、女性たちも同じことを言い出した。
「王妃様。お怪我はないでしょうか。このような女性が、王子の婚約者候補などと、あって良いはずありません!」
「クリストフが選んだ女性だからと、受け入れた結果がこれとは、情けないことね」
飛び掛かられたという王妃は、シワ一つないドレスのまま、ラシェルを一瞥した。
「母上、一体これはどういうことですか。ラシェルが何をしたのですか?」
誰かが呼んだのか、とうとう王子までもが部屋にやってきた。後ろには、婚約者候補のイヴォンネ・オーグレン伯爵令嬢もいる。
「王妃様、お怪我はないのですか!? 令嬢に飛び掛かられたと聞いて」
「わたくしは大丈夫ですよ。皆が助けてくれました」
王妃の言葉に、オーグレン伯爵令嬢がラシェルを親の仇のように睨み付けてくる。その様を見て、クリストフが、本当にそんなことをしたのかと、ラシェルに問うた。
「クリストフ様。私は何もしていません!」
ラシェルは床に座り込んだまま、大きく叫んだ。
クリストフは急いでやってきたのか、緩やかに結んだ金色の髪を乱したまま、困惑の表情をしながらブロンズの瞳を王妃へ向ける。
「クリストフ。母は哀しくてなりません。あなたが連れてきたボワロー子爵令嬢は、メイドたちに当たり散らして、果てはわたくしにまで」
「王妃様の宝石を盗んだだけでなく、王妃様に飛び掛かってきたのです! 王妃様は優しく、王宮での振る舞いを教えてくださっていたのに!!」
先に集まっていた令嬢の発言に、他の女性たちも頷く。
「ラシェル、君がそんなことをするだなんて」
「私は何もしていません。今も、私が突き飛ばされたのです!」
「よくもぬけぬけと、そんな嘘がつけるのでしょうか! クリストフ様、どうかご処置を。王妃様に無礼を働いたどころか、傷付けようとしたのですよ!」
「クリストフ。わたくしは婚約について、口を出す気はありませんでした。ですが、少し考えさせてください。子爵令嬢は、しばらく王宮から出して、頭を冷やしてもらった方が良いでしょう」
「それは……。いえ、母上がそう言われるのならば」
「クリストフ様。私の話を聞いてください。どうして、私の言うことを信じてくれないのですか!?」
ラシェルは訴えた。この状況を見て、どうして私が飛び付いたと思うのですか。と。
「ラシェル、急に環境が変わって、疲れたのだろう。僕の別荘に行って、少し休んだらどうだろうか」
「そうであれば、あちらの離宮はどうかしら。王が好んでいる北部の離宮ならば、遠くはあるけれど、景色が美しい場所よ」
「父上のですか? そうですね。そうしよう。ラシェル、大丈夫だ。気持ちが落ち着くまで、しばらく滞在するだけだから」
「クリストフ様!?」
ラシェルは何度も叫び、クリストフに無実を訴えた。しかし、その叫びも虚しく、ラシェルは遠い離宮へと連れていかれることになったのだ。
女の力にしては結構な強さで突き飛ばされ、ラシェルは床に手をついた。
「王妃様の宝石を盗むだなんて!」
「私ではありません。どうやって宝石を盗めるのでしょう」
ラシェルは反論する。しかし、王妃に取り巻く令嬢の一人が、眉尻を大きく上げた。
「白々しい! 高価な服をねだり、それが叶わないとなったら、メイドたちに暴力を振るうなんて! クリストフ様の婚約者候補でありながら、なんて方なの!」
呼び出された部屋で、ラシェルが静かに待っていたところ、突然女性たちが部屋に入り込んできた。
何事かとラシェルが立ち上がれば、いきなりラシェルを突き飛ばし、寄ってたかって、ラシェルの知らぬ話を突き付けてきたのだ。
一体何事なのか。そう問う間もなく、女性たちから白い目で見られる。
集まってきたのは、この国の王妃や、王妃と親しくしている、婚約者候補の令嬢たち、それからメイドたちだ。
メイドに呼ばれ、長く部屋で待っていたら、意味の分からない話をされ、盗みの汚名を着せられている。ラシェルが知らぬ、存ぜぬと訴えても、集まってきた女性たちはラシェルを問い詰めた。
「まさか、王妃様にまで飛び掛かるだなんて!」
メイドの一人が叫んだ。なんの話をしているのか。飛び掛かられたのはラシェルで、こうして床に膝をついている。
しかし、女性たちも同じことを言い出した。
「王妃様。お怪我はないでしょうか。このような女性が、王子の婚約者候補などと、あって良いはずありません!」
「クリストフが選んだ女性だからと、受け入れた結果がこれとは、情けないことね」
飛び掛かられたという王妃は、シワ一つないドレスのまま、ラシェルを一瞥した。
「母上、一体これはどういうことですか。ラシェルが何をしたのですか?」
誰かが呼んだのか、とうとう王子までもが部屋にやってきた。後ろには、婚約者候補のイヴォンネ・オーグレン伯爵令嬢もいる。
「王妃様、お怪我はないのですか!? 令嬢に飛び掛かられたと聞いて」
「わたくしは大丈夫ですよ。皆が助けてくれました」
王妃の言葉に、オーグレン伯爵令嬢がラシェルを親の仇のように睨み付けてくる。その様を見て、クリストフが、本当にそんなことをしたのかと、ラシェルに問うた。
「クリストフ様。私は何もしていません!」
ラシェルは床に座り込んだまま、大きく叫んだ。
クリストフは急いでやってきたのか、緩やかに結んだ金色の髪を乱したまま、困惑の表情をしながらブロンズの瞳を王妃へ向ける。
「クリストフ。母は哀しくてなりません。あなたが連れてきたボワロー子爵令嬢は、メイドたちに当たり散らして、果てはわたくしにまで」
「王妃様の宝石を盗んだだけでなく、王妃様に飛び掛かってきたのです! 王妃様は優しく、王宮での振る舞いを教えてくださっていたのに!!」
先に集まっていた令嬢の発言に、他の女性たちも頷く。
「ラシェル、君がそんなことをするだなんて」
「私は何もしていません。今も、私が突き飛ばされたのです!」
「よくもぬけぬけと、そんな嘘がつけるのでしょうか! クリストフ様、どうかご処置を。王妃様に無礼を働いたどころか、傷付けようとしたのですよ!」
「クリストフ。わたくしは婚約について、口を出す気はありませんでした。ですが、少し考えさせてください。子爵令嬢は、しばらく王宮から出して、頭を冷やしてもらった方が良いでしょう」
「それは……。いえ、母上がそう言われるのならば」
「クリストフ様。私の話を聞いてください。どうして、私の言うことを信じてくれないのですか!?」
ラシェルは訴えた。この状況を見て、どうして私が飛び付いたと思うのですか。と。
「ラシェル、急に環境が変わって、疲れたのだろう。僕の別荘に行って、少し休んだらどうだろうか」
「そうであれば、あちらの離宮はどうかしら。王が好んでいる北部の離宮ならば、遠くはあるけれど、景色が美しい場所よ」
「父上のですか? そうですね。そうしよう。ラシェル、大丈夫だ。気持ちが落ち着くまで、しばらく滞在するだけだから」
「クリストフ様!?」
ラシェルは何度も叫び、クリストフに無実を訴えた。しかし、その叫びも虚しく、ラシェルは遠い離宮へと連れていかれることになったのだ。
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