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235 ー予言ー
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「理音!歩いて大丈夫なの!?」
「大丈夫。前よりずっと落ち着いた」
ファリアの部屋に案内してもらうつもりだったが、別の棟に行く途中で戻ってきた小河原に出会った。
小河原は相変わらず可愛い子犬のように走り寄ってきたが、こちらで会ってからはただ可愛いだけの表情は失われつつあった。
精神年齢は大人びていたけれど、環境が変わったせいで小河原は影が目立つようになった気がする。
憂いを帯びた瞳は上から届き、やはり身長が伸びたことを物語っていた。
「今は部屋を出ない方がいい。おいで。リーレン、お母様のところへ戻りなさい。お客様を連れてきてくれてありがとう」
褒められたリーレンは笑顔で返すとすぐに走り去る。代わりに小河原が手を取ると、周囲を確認しながら部屋への道を戻った。
「すごく、懐いてるんだね…」
「まだ幼いからね。父親が元気になったと思ってる。ずっとまともに話したことがなかったみたいだから」
「…そっか」
まだ幼いリーレンは父親と一緒に遊ぶこともできなかったのだろう。病で顔色の悪いシヴァ少将ばかり見ていたら、元気になったと言われれば、別人でも気付かないのかもしれない。
小河原は、自分を父親だと思うリーレンを、どんな気持ちで見ているのだろうか。
「…逃げるつもりなの?」
「ここにいても、皇帝の兵に囲まれるだけだよ。ただ、今はタイミングを図ってる」
「目的地は安全なの?」
「そのつもりだよ」
けれどそこに自分がついていけば、安全ではなくなるだろう。
「ここは城のように自然の岩壁に囲まれているんだ。攻められたらしばらくは持つだろうけれど、兵糧攻めに合えば簡単に陥落する。皇帝と戦うには不利な場所なんだよ」
「マウォが戦うならこの場所を離れる?」
「この場所に辿り着かれる前に兵を王都に向かわせるだろう。理音を誘拐しなければもう少し準備ができただろうけれど、功を焦ってタイミングを逃した。皇帝の方が動きは早い」
フォーエンの動きを分かっているのか、小河原は焦りも見せず答えた。立地条件を頭に入れているのか、この土地の状況は理解しているようだ。
「急な改革でついていけない人たちは、マウォの諫言に乗っているようだけれど、新しく時代を求める人たちは皇帝を支持する。ウーゴがそれを後押ししているから、マウォの求心力は減っていくだけだ。ソウ州侯もすぐに離れたからね。本当はソウ州侯の兵を当てにする気だったみたいだから」
「レイシュンさんは影響力のある人だって聞いた」
「彼が離れれば他の協力者も離れていくよ。でもそれが運命だったんだろうね。理音を巻き込んだから。ソウ州侯も言っていた。理音を巻き込むと簡単に潰されるって。さすが、大司の尊が予言した者だと」
レイシュンは、理音が予言に関わりがあると知っていたのか。
「それは、滅びを伴うんだって。私が滅びなのか、それとも…」
「ソウ州侯は、この国は、理音が滅ぼすだろうと言っていた」
予言を理音に絡めれば、誰もそう考えるのだろう。
レイシュンですらその考えを持つならば、理音が予言に関わりがあると気付かれた時、フォーエンの近くにいると彼の足をすくうことになってしまうのではないだろうか。
しかし、小河原は緩やかに笑んだ。
「理音のような考え方を持つ者がこの国を滅ぼすだろうと。それを進めるつもりでも今は難しい。だから君が一歩目を進むのを待つって」
「どう言う意味?私が、一歩目?」
「王政を覆す者」
レイシュンが望んだ。皇帝制度自体を倒す者。
「滅するのは世界じゃないらしいよ。だからこれは、始まりに過ぎない。皇帝の制度に疑問を持つ者が増えていく。皇帝自身もそう思っているだろう。ってさ。俺が理音の友人ならば、その意味は分かるだろうと言われた」
「私が、皇帝の制度を壊すってこと?」
大司の尊の予言は、災いを伴うとしても、不吉で、自然災害のようなものを及ぼす呪いのような存在かと考えていた。
「そう言うこと…?大いなる災いは、私の考え方?だから災いを伴う?」
小河原が災いなわけではない。ましてや、理音が災いなわけではない。
だが、その災いは理音も小河原も知っている考え方だ。
それがこの国で説かれた時、この国にとって災いとなる。
「皇帝制度が倒れればこの国は倒れる。確かに、災いだろうね。一方的な方向から見れば。俺らから見れば、それは全く大した話ではないけれど」
「けど、そうなるには、大きな戦いが起きる」
歴史にある転換期。王政から民主制になるには、国との戦いが起きるだろう。
「確かに日本でもそうだったけど、でも皇帝がその座を明け渡したら、また違うんじゃない?」
「江戸城の無血開城みたいな?でもあれは、話が違うし」
「簡単にはいかないと思うよ。でも始めるにしても、一歩目が必要になる。その改革が、この国で始まるんだろうね」
「私が、この世界に来たから」
「その流れが、作り始められていく。新しい考え方ってことだね」
フォーエンは言っていた。ウーゴの元に現れるモノは、皇帝になる者の運命を変える。それは善悪に関わらない。どちらを選ぶかはフォーエンの意思だ。
そして、それは皇帝の運命を左右する。
「でも結局、国を滅ぼすってことじゃ…」
「国が滅びるってわけでもないんじゃないかな?どう国として続くかによるだけで」
「考え方…。解釈の違いってことか。ひどいとんちを聞いた気分」
「それでも、理音はこの国にいるわけだし」
予言は本当に起きるのだろう。理音がこの世界に来たからだ。フォーエンに直接意見を出し、フォーエンはそれを吟味する。
国としての意見ではなく私的な意見。それについてどう捉え、どう動かすかは、フォーエンの意見として、この国の皇帝として発言される。
フォーエンの運命は大きく変わる。
もう、一石は投じられた。
嵐は過ぎ去ったが雨は続いていた。
めまいは治ったが時折頭痛と吐き気がする。殴られたせいなのか熱があるせいなのか、体調不良なのは否めない。
小河原は逃げる準備をしているようだが、何も手伝えないため、結局部屋に寝泊まりしている。
ファリアとリーレンを連れていくのだろう。それに自分が付いていけるのか。体調を治して足手まといにならないようにしなければならない。
雨音に混じって、男たちの声が聞こえる。大勢の歩く音、掛け声、リアカーのような車輪が土を踏む音だ。
皇帝と戦いになれば勝てない。戦力に違いがありすぎる。最悪自分は人質にされる。
フォーエンの足手まといにもなりたくない。
だからとにかく体調を治さなければならないのだ。
小河原にもらった薬を飲み、食べたくなくてもご飯は全部食べる。寝転がってばかりいては体力が落ちるので、体調によっては屋敷の周囲を歩いた。
トイレは部屋を出なければならないので、一人でトイレに行く。
自由にできるのはこの村が四方閉ざされ、外に出るのが難しいからだと聞いていたが、実際には監視がいた。
無口な男で身長があり、その辺にいれば目立つ体格をしているのに気付かなかった。男は理音の近くには寄って来ず、トイレに行ったり外に出たりすると隠れて付いてくる。
小河原に言われなければ気付かなかった。さすがに人質となる者を自由にはさせないらしい。
近くに置くと仲良くなっちゃうかもよ。と言うレイシュンの発言に、マウォが離れて監視するよう命令したようだ。
「レイシュンさんも余計なことしか言わないな…」
それはギョウエンのことを言っているのかもしれないが。
「ご無事で何よりですね」
屋敷の周囲をとろとろ歩いていたら、見慣れた男が声を掛けてきた。
「ギョウエンさん、レイシュンさんと一緒に帰っちゃったかと思ってました」
「夫人の薬を届けに来ただけです」
「お薬の配達には物騒な場所になったんじゃありません?」
「そうですね…」
むしろ入ってこられるのか。ならばまだ戦闘は先なのか。ギョウエンは相変わらずとぼけた顔をして、理音にも薬を渡してきた。
「シヴァ少将にも頼まれました。頭痛がひどいと聞いたので、ラカンの城で作った頭痛薬です。お茶にして飲まれると良いので」
「ありがとうございます」
ラカンの城には戻っていないだろうが、薬草は手に入るらしい。布に入ったお茶っ葉を見て、礼を言う。
リンネとジャカは元気だろうか。ラカンの城にいたのはとても昔な気がする。王都で行なわれている勉強会に、二人も参加できればいいのに。
「ところで、わざわざお茶を渡すために私のところに?」
「そうですね」
さらりとした返事が相変わらずだ。表情が変わらないので、嘘なのか本当なのか分からない。しかし、ギョウエンが薬を渡すためだけに、そろそろ戦場になりそうな場所に来るとは思えなかった。
「何か、伝言とか?もしくは、情報提供」
「陛下がお探しです」
それは知っている。言われなくても探してくれるだろう。それで居場所が分かったとして、フォーエンがどう動くかだ。
「逃げ出すつもりなので、穏便に待っていてほしいんですけれど」
「難しいですね」
そのきっぱりはっきりが清々しい。しかし、本当に戦いの準備をしているのか、そこまで短気を起こしたのか、ごくりと唾を飲み込む。
「あなたを誘拐した際に星見の職員が見てましたから、既に足がついている。シヴァ少将もマウォ殿も参内していない。他にも役職者たちに動きがある。陛下がこの隙を逃すはずありません」
誘拐された時に犯人が見られていたのか。それはアウトである。小河原が計画性がなさすぎと罵るわけだ。
しかし、普段理音はウンリュウが警備に付いて離れなかった。誘拐するタイミングはあそこしかなかったのだろう。
忘れていたが、ウンリュウには悪いことをした。警備の隙をつかれたことを、ひどく叱られたに違いない。世話になっているのに迷惑ばかり掛けている。
「顔色、悪いですね?」
「そうですか?ちょっとまあ、あまり良くないんですけど」
「あまり、ご無理はなさらないように」
それは大人しく待っていろと言う意味だろうか。ギョウエンの表情は変わらないので意図は分からない。
「大丈夫。前よりずっと落ち着いた」
ファリアの部屋に案内してもらうつもりだったが、別の棟に行く途中で戻ってきた小河原に出会った。
小河原は相変わらず可愛い子犬のように走り寄ってきたが、こちらで会ってからはただ可愛いだけの表情は失われつつあった。
精神年齢は大人びていたけれど、環境が変わったせいで小河原は影が目立つようになった気がする。
憂いを帯びた瞳は上から届き、やはり身長が伸びたことを物語っていた。
「今は部屋を出ない方がいい。おいで。リーレン、お母様のところへ戻りなさい。お客様を連れてきてくれてありがとう」
褒められたリーレンは笑顔で返すとすぐに走り去る。代わりに小河原が手を取ると、周囲を確認しながら部屋への道を戻った。
「すごく、懐いてるんだね…」
「まだ幼いからね。父親が元気になったと思ってる。ずっとまともに話したことがなかったみたいだから」
「…そっか」
まだ幼いリーレンは父親と一緒に遊ぶこともできなかったのだろう。病で顔色の悪いシヴァ少将ばかり見ていたら、元気になったと言われれば、別人でも気付かないのかもしれない。
小河原は、自分を父親だと思うリーレンを、どんな気持ちで見ているのだろうか。
「…逃げるつもりなの?」
「ここにいても、皇帝の兵に囲まれるだけだよ。ただ、今はタイミングを図ってる」
「目的地は安全なの?」
「そのつもりだよ」
けれどそこに自分がついていけば、安全ではなくなるだろう。
「ここは城のように自然の岩壁に囲まれているんだ。攻められたらしばらくは持つだろうけれど、兵糧攻めに合えば簡単に陥落する。皇帝と戦うには不利な場所なんだよ」
「マウォが戦うならこの場所を離れる?」
「この場所に辿り着かれる前に兵を王都に向かわせるだろう。理音を誘拐しなければもう少し準備ができただろうけれど、功を焦ってタイミングを逃した。皇帝の方が動きは早い」
フォーエンの動きを分かっているのか、小河原は焦りも見せず答えた。立地条件を頭に入れているのか、この土地の状況は理解しているようだ。
「急な改革でついていけない人たちは、マウォの諫言に乗っているようだけれど、新しく時代を求める人たちは皇帝を支持する。ウーゴがそれを後押ししているから、マウォの求心力は減っていくだけだ。ソウ州侯もすぐに離れたからね。本当はソウ州侯の兵を当てにする気だったみたいだから」
「レイシュンさんは影響力のある人だって聞いた」
「彼が離れれば他の協力者も離れていくよ。でもそれが運命だったんだろうね。理音を巻き込んだから。ソウ州侯も言っていた。理音を巻き込むと簡単に潰されるって。さすが、大司の尊が予言した者だと」
レイシュンは、理音が予言に関わりがあると知っていたのか。
「それは、滅びを伴うんだって。私が滅びなのか、それとも…」
「ソウ州侯は、この国は、理音が滅ぼすだろうと言っていた」
予言を理音に絡めれば、誰もそう考えるのだろう。
レイシュンですらその考えを持つならば、理音が予言に関わりがあると気付かれた時、フォーエンの近くにいると彼の足をすくうことになってしまうのではないだろうか。
しかし、小河原は緩やかに笑んだ。
「理音のような考え方を持つ者がこの国を滅ぼすだろうと。それを進めるつもりでも今は難しい。だから君が一歩目を進むのを待つって」
「どう言う意味?私が、一歩目?」
「王政を覆す者」
レイシュンが望んだ。皇帝制度自体を倒す者。
「滅するのは世界じゃないらしいよ。だからこれは、始まりに過ぎない。皇帝の制度に疑問を持つ者が増えていく。皇帝自身もそう思っているだろう。ってさ。俺が理音の友人ならば、その意味は分かるだろうと言われた」
「私が、皇帝の制度を壊すってこと?」
大司の尊の予言は、災いを伴うとしても、不吉で、自然災害のようなものを及ぼす呪いのような存在かと考えていた。
「そう言うこと…?大いなる災いは、私の考え方?だから災いを伴う?」
小河原が災いなわけではない。ましてや、理音が災いなわけではない。
だが、その災いは理音も小河原も知っている考え方だ。
それがこの国で説かれた時、この国にとって災いとなる。
「皇帝制度が倒れればこの国は倒れる。確かに、災いだろうね。一方的な方向から見れば。俺らから見れば、それは全く大した話ではないけれど」
「けど、そうなるには、大きな戦いが起きる」
歴史にある転換期。王政から民主制になるには、国との戦いが起きるだろう。
「確かに日本でもそうだったけど、でも皇帝がその座を明け渡したら、また違うんじゃない?」
「江戸城の無血開城みたいな?でもあれは、話が違うし」
「簡単にはいかないと思うよ。でも始めるにしても、一歩目が必要になる。その改革が、この国で始まるんだろうね」
「私が、この世界に来たから」
「その流れが、作り始められていく。新しい考え方ってことだね」
フォーエンは言っていた。ウーゴの元に現れるモノは、皇帝になる者の運命を変える。それは善悪に関わらない。どちらを選ぶかはフォーエンの意思だ。
そして、それは皇帝の運命を左右する。
「でも結局、国を滅ぼすってことじゃ…」
「国が滅びるってわけでもないんじゃないかな?どう国として続くかによるだけで」
「考え方…。解釈の違いってことか。ひどいとんちを聞いた気分」
「それでも、理音はこの国にいるわけだし」
予言は本当に起きるのだろう。理音がこの世界に来たからだ。フォーエンに直接意見を出し、フォーエンはそれを吟味する。
国としての意見ではなく私的な意見。それについてどう捉え、どう動かすかは、フォーエンの意見として、この国の皇帝として発言される。
フォーエンの運命は大きく変わる。
もう、一石は投じられた。
嵐は過ぎ去ったが雨は続いていた。
めまいは治ったが時折頭痛と吐き気がする。殴られたせいなのか熱があるせいなのか、体調不良なのは否めない。
小河原は逃げる準備をしているようだが、何も手伝えないため、結局部屋に寝泊まりしている。
ファリアとリーレンを連れていくのだろう。それに自分が付いていけるのか。体調を治して足手まといにならないようにしなければならない。
雨音に混じって、男たちの声が聞こえる。大勢の歩く音、掛け声、リアカーのような車輪が土を踏む音だ。
皇帝と戦いになれば勝てない。戦力に違いがありすぎる。最悪自分は人質にされる。
フォーエンの足手まといにもなりたくない。
だからとにかく体調を治さなければならないのだ。
小河原にもらった薬を飲み、食べたくなくてもご飯は全部食べる。寝転がってばかりいては体力が落ちるので、体調によっては屋敷の周囲を歩いた。
トイレは部屋を出なければならないので、一人でトイレに行く。
自由にできるのはこの村が四方閉ざされ、外に出るのが難しいからだと聞いていたが、実際には監視がいた。
無口な男で身長があり、その辺にいれば目立つ体格をしているのに気付かなかった。男は理音の近くには寄って来ず、トイレに行ったり外に出たりすると隠れて付いてくる。
小河原に言われなければ気付かなかった。さすがに人質となる者を自由にはさせないらしい。
近くに置くと仲良くなっちゃうかもよ。と言うレイシュンの発言に、マウォが離れて監視するよう命令したようだ。
「レイシュンさんも余計なことしか言わないな…」
それはギョウエンのことを言っているのかもしれないが。
「ご無事で何よりですね」
屋敷の周囲をとろとろ歩いていたら、見慣れた男が声を掛けてきた。
「ギョウエンさん、レイシュンさんと一緒に帰っちゃったかと思ってました」
「夫人の薬を届けに来ただけです」
「お薬の配達には物騒な場所になったんじゃありません?」
「そうですね…」
むしろ入ってこられるのか。ならばまだ戦闘は先なのか。ギョウエンは相変わらずとぼけた顔をして、理音にも薬を渡してきた。
「シヴァ少将にも頼まれました。頭痛がひどいと聞いたので、ラカンの城で作った頭痛薬です。お茶にして飲まれると良いので」
「ありがとうございます」
ラカンの城には戻っていないだろうが、薬草は手に入るらしい。布に入ったお茶っ葉を見て、礼を言う。
リンネとジャカは元気だろうか。ラカンの城にいたのはとても昔な気がする。王都で行なわれている勉強会に、二人も参加できればいいのに。
「ところで、わざわざお茶を渡すために私のところに?」
「そうですね」
さらりとした返事が相変わらずだ。表情が変わらないので、嘘なのか本当なのか分からない。しかし、ギョウエンが薬を渡すためだけに、そろそろ戦場になりそうな場所に来るとは思えなかった。
「何か、伝言とか?もしくは、情報提供」
「陛下がお探しです」
それは知っている。言われなくても探してくれるだろう。それで居場所が分かったとして、フォーエンがどう動くかだ。
「逃げ出すつもりなので、穏便に待っていてほしいんですけれど」
「難しいですね」
そのきっぱりはっきりが清々しい。しかし、本当に戦いの準備をしているのか、そこまで短気を起こしたのか、ごくりと唾を飲み込む。
「あなたを誘拐した際に星見の職員が見てましたから、既に足がついている。シヴァ少将もマウォ殿も参内していない。他にも役職者たちに動きがある。陛下がこの隙を逃すはずありません」
誘拐された時に犯人が見られていたのか。それはアウトである。小河原が計画性がなさすぎと罵るわけだ。
しかし、普段理音はウンリュウが警備に付いて離れなかった。誘拐するタイミングはあそこしかなかったのだろう。
忘れていたが、ウンリュウには悪いことをした。警備の隙をつかれたことを、ひどく叱られたに違いない。世話になっているのに迷惑ばかり掛けている。
「顔色、悪いですね?」
「そうですか?ちょっとまあ、あまり良くないんですけど」
「あまり、ご無理はなさらないように」
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