219 / 244
219 ー身上ー
しおりを挟む
「ソウの婚約者と同じだ。母には婚約者がいた。だが身分を嵩にし父が無理に娶った。母は生みたくもない子を身篭り子を生んだ。それからすぐに実の子を放置し孤児を集めた。母なりの抗議だろう」
フォーエンは淡々と自分の身の上を口にした。
それはつまり、ルファンは生みたくないのに、フォーエンを生み。あまつ他人の子供を可愛がったのだ。
そして、その頃から少しずつルファンは病んでいったと言う。
フォーエンの父親は元々皇族だ。当時継承権は低かったかもしれないが、ルファンの身分では結婚を断れなかったのだろう。けれど、だからと言って、フォーエンを蔑ろにする必要はない。
「それは、抗議って言わない。幼稚な嫌がらせだよ。フォーエンには関係ないじゃない!」
「あの男の子供だからな」
他人事のように口にされて、腹が立つ思いがした。
「それでも、お母さんの子供でしょ!?」
「お前が泣くことじゃない」
腹が立ちすぎて、涙が流れていた。フォーエンは乳母に育てられ、ルファンとはほとんど話したことがないと言う。子供を多く連れたルファンに父親はすぐに興味を失くし、愛人の元に身を寄せたそうだ。
そして皇帝の座が舞い込んできた。ルファンは後宮に入ることに。孤児はバラバラに。皇帝は後宮の妃たちを何人も手付きにした。
「母がああなったのは、私も知らない。いつからああだったのか、前からああだったのか。子供の頃すぐに離れて暮らしたから、気付きもしない。それを言うなら、私もまた薄情なのだろう」
ルファンは後宮に入りながらあのカオウ宮に閉じ込められた。皇帝の妃として、唯一の東宮を生んだ女性として扱われたが、表に出ることはない。
「だが、父が死んだ時、恐ろしいほど美しく笑っていた。精神を病んでいるとは思えないほどに。それほど父への恨みは強かったのだろう」
ルファンは精神を病んでもなお、皇帝が死去したことを喜んだ。そこまで恨むほどだったのだ。そのルファンはカオウ宮でゆっくりと過ごしている。外には出られないが、恨む相手はこの世にはいない。
フォーエンに関しては生んだことすらもなかったことにしていたのだろう。ルファンのあの愛らしく笑う姿を見た後では、フォーエンがあまりにも不憫に思えた。
そろりと伸ばした先、フォーエンの指先はひどく冷えていた。
「フォーエンが生まれてきてくれて良かったって思ってる人は、きっとたくさんいるよ。コウユウさんとか、ハク大輔とかヘキ卿もそうでしょ。私も、フォーエンがいてくれなかったら、この世界で生きてこれなかっただろうし。これからは、フォーエンが皇帝じゃなきゃダメだって思う人も増えるからね」
家族の話は難しい。自分は家族に恵まれている方で、喧嘩があってもすぐに忘れるような仲の良さだった。フォーエンの気持ちは自分では推し量れない。
フォーエンは触れていた手を抜いた。やはり口先だけすぎたかもしれない。フォーエンにとって両親がどんな相手なのかわからないのに、おざなりに皆がいると言っても根本の解決にはならないのだろう。
理音から離れた手のひらは、理音の頬に伸びていた。引き寄せられた身体はフォーエンのぬくもりに触れ、そっとうなじに暖かさを感じた。
「父も母も側にいることはなかった。それが当然で気にしたこともない。昔は恨んだが、今ではどうでもいいことだ。だが、生まれていなければ、私はここにはいなかった。お前にとっては、良かったことなのか?」
「フォーエンがいなかったら、私はその辺でのたれ死んでるよ。言葉もわからなかったし、ご飯も寝るとこもあって良かったって思ったくらいだし。自分本位ですみませんが」
だから生まれてきてくれてありがとうなんて失礼なことは言えない。自分のことは棚に上げておいてほしい。他の人たちはちゃんとフォーエンを必要としてくれている。そこは信じてほしいのだが。
フォーエンは理音の頭を抱いたまま、背中に手を伸ばしてきつく抱きしめる。フォーエンの胸元におでこを押し付けたまま、その力を感じた。
「えっと、だから、えーと、身体に気をつけてください」
何か気の利いたことを言おうと思ったのに頓珍漢なことが口から出ると、頭の上でぷっとフォーエンが吹き出した。
「そうだな。身体に気をつけて。ぷ、くく…」
頭の上で笑うフォーエンは我慢できないと笑い出したが、ひとしきり笑った後、静かに、「ありがとう」と礼を口にした。
お礼言われたの初めてかも。穏やかに緩やかに、それはまるで女神のような笑みだった。
ルファンと同じ顔なんだよなあ。びっくりするほどそっくりで、笑い方も同じだった。間違いのない母子なのに、そのルファンは、フォーエンを子供と認めていない。
「孤児を集めて育ててフォーエンは無視とか、どんな当て付け。それはひどいよ」
ルファンはカオウ宮で精神を病んだまま、静かに暮らしている。皇帝が亡くなっても自由になることはなく、フォーエンが皇帝を継ぎ皇太后になった。
それを、スミアは見てきた。精神を病んだルファンを哀れに思ったか。皇帝への恨みを感じ取ったか。
だからシーニンが外に出る手助けをしても、殺す理由はない。関わりはないのか。
スミアの話からルファンへ話が逸れてしまったけれど、スミアが何かをしているか証拠があるわけではない。ただ、胡散臭い気がするだけで。
「リオン、これはお前さんには重すぎるだろう」
「え、大丈夫ですよ」
分析し終えた資料を物置に返すため、風呂敷をもらって背中に背負うと、ウンリュウがするりとそれを奪った。護衛をしてくれているのに、ウンリュウが荷物を持っては意味がない。
「しかし、かなり重いんじゃないか?」
「平気ですって。あ、じゃあ、ウンリュウさん、これ持ってください」
理音は箱の中から木簡一つを手渡し、もう一度箱を背負う。ウンリュウが大きく首を振ってきたので三つ程手渡して諦めてもらう。
「他に役立てることないんですから、やらせてくださいよ」
「いや、お前さん、何かしらやっているんだろう。本来なら宮でゆっくりされるべきなのに」
「じっとしてたら、私暴れだすかもです」
地面を転がる勢いで暴れると思う。それを言うと納得してくれたが、ため息混じりだ。
「中でもお役目をもらってるんだろう?」
「んー。まあ、ほんの少し」
「俺も詳しくはないが、中では中のお役目がある。まだ、表立って活躍するわけにはいかぬから、行えないだけだろう」
後宮では妃の身分によってお仕事がたくさんあるらしい。皇帝の相手として選ばれたならば身分も上がり、後宮の女性たちをまとめる役目があるそうだ。イベントなどにも積極的に関わり、皇帝のために働く必要がある。
頷きながら聞いてはいるが、ウンリュウが後宮での理音をどう聞いているのか知らないので、詳しくは話さなかった。他の妃の女官をやっているとは言えない。
そもそも、自分は表立つことはできないので、その役目は一生来ないのだ。そうなるとむしろ誰が後宮をまとめているのだろうか。謎だ。
ウの姫はお部屋におらず、外に出ているようだし、他にえらい妃と言えばグイの姫くらいしか知らない。グイの姫は身分が高いのでまとめ役は彼女が担っているのかもしれない。
荷物を運び戻り運びを繰り返していると、廊下を歩くシヴァ少将が見えた。ウンリュウが少し待つように足を止めさせる。不用意に近づかないようにされた。
「まだ何とも言えんからな。もし陛下に害をなす場合、お前さんにもそれが行われる可能性がある」
シヴァ少将にその気がなくとも、周囲がどうするかはわからない。フォーエンを狙っていないとシヴァ少将が言っても、周囲がどう動くのかはわかっていないのだ。シヴァ少将はそれを調査中としているが、それが本当に行われているかもわからないと、ウンリュウは言う。
シヴァ少将は何もしない。それを言っても周囲がどうだかは理音にだってわからない。無言でそれに頷き従うしかなかった。男の姿でも囮になるのだから、後宮以外の敵を見つけるのに丁度いいのかもしれない。
少し距離をあけたところで、ウンリュウが歩き出す。ウンリュウは廊下を歩くだけでも注意して動いているのだろう。横目で見た先に男が二人、びくりと肩を震わせる。何をしたでもないのに、目線だけで男二人を黙らせた。
ほんの少し、小さな声で、あれが陛下の?と言う言葉が聞こえた。それはごくたまに言われることがあったが、本当にごくたまにだ。そのごくたまにしかない相手に、ウンリュウは凄みを出す。
それって、完全に肯定してるんだけど、いいのだろうか。
前に言われた皇帝陛下男色の噂をである。一人でいると気付かれないのだが、ウンリュウはハク大輔の臣下として有名なのか、ウンリュウついでに理音を見る視線を感じた。
そこで、あ、あの子供か。と気付かれるのだ。
だからか、最近、そのごくたまに言われていたことが増えてきた気がする。
コウユウに殺される案件、再び。理音を殺そうとしたのではないかと、一時期疑っていたが、殺そうとはしていないが殺したいんだろうな、くらいはコウユウに嫌われているのは間違いない。
この頃後宮以外でフォーエンに会うため、もっと殺意が増えていそうで怖い。
先を歩いていたシヴァ少将がふと足を止め、誰かと挨拶をする。ウの内大臣だ。廊下で会うのは初めてだが、ここで挨拶をどうすべきか、頭を巡った。周りが道を開けるのを見て、理音もすぐに習う。
頭を下げて通るのを待てば、ウの内大臣はちろりとこちらを横目で見だだけ、挨拶はしてこなかったので、これで合っていたとほっと安堵する。
「珍しい方がいらっしゃるものだな」
「そうなんですか。そう言えば見たの初めてです」
「こちらに用はない方なんだがな」
こちらの棟は祭りなどのイベントを司る部署が多いため、ウの内大臣が来ることは稀にしかないらしい。ふうんと相槌を打ちながら先を見ると、シヴァ少将と視線が合った。
それは一瞬だったけれど、小河原が小さく目元を綻ばせる。
こちらにはウンリュウがおり、あちらには麿と武士がいる。そう簡単には話せなくなってしまったが、会えて姿を見るとホッとする。それは小河原も同じだろうか。
近くで見えないためわからないが、体調は大丈夫だろうか。心配でならない。
フォーエンは淡々と自分の身の上を口にした。
それはつまり、ルファンは生みたくないのに、フォーエンを生み。あまつ他人の子供を可愛がったのだ。
そして、その頃から少しずつルファンは病んでいったと言う。
フォーエンの父親は元々皇族だ。当時継承権は低かったかもしれないが、ルファンの身分では結婚を断れなかったのだろう。けれど、だからと言って、フォーエンを蔑ろにする必要はない。
「それは、抗議って言わない。幼稚な嫌がらせだよ。フォーエンには関係ないじゃない!」
「あの男の子供だからな」
他人事のように口にされて、腹が立つ思いがした。
「それでも、お母さんの子供でしょ!?」
「お前が泣くことじゃない」
腹が立ちすぎて、涙が流れていた。フォーエンは乳母に育てられ、ルファンとはほとんど話したことがないと言う。子供を多く連れたルファンに父親はすぐに興味を失くし、愛人の元に身を寄せたそうだ。
そして皇帝の座が舞い込んできた。ルファンは後宮に入ることに。孤児はバラバラに。皇帝は後宮の妃たちを何人も手付きにした。
「母がああなったのは、私も知らない。いつからああだったのか、前からああだったのか。子供の頃すぐに離れて暮らしたから、気付きもしない。それを言うなら、私もまた薄情なのだろう」
ルファンは後宮に入りながらあのカオウ宮に閉じ込められた。皇帝の妃として、唯一の東宮を生んだ女性として扱われたが、表に出ることはない。
「だが、父が死んだ時、恐ろしいほど美しく笑っていた。精神を病んでいるとは思えないほどに。それほど父への恨みは強かったのだろう」
ルファンは精神を病んでもなお、皇帝が死去したことを喜んだ。そこまで恨むほどだったのだ。そのルファンはカオウ宮でゆっくりと過ごしている。外には出られないが、恨む相手はこの世にはいない。
フォーエンに関しては生んだことすらもなかったことにしていたのだろう。ルファンのあの愛らしく笑う姿を見た後では、フォーエンがあまりにも不憫に思えた。
そろりと伸ばした先、フォーエンの指先はひどく冷えていた。
「フォーエンが生まれてきてくれて良かったって思ってる人は、きっとたくさんいるよ。コウユウさんとか、ハク大輔とかヘキ卿もそうでしょ。私も、フォーエンがいてくれなかったら、この世界で生きてこれなかっただろうし。これからは、フォーエンが皇帝じゃなきゃダメだって思う人も増えるからね」
家族の話は難しい。自分は家族に恵まれている方で、喧嘩があってもすぐに忘れるような仲の良さだった。フォーエンの気持ちは自分では推し量れない。
フォーエンは触れていた手を抜いた。やはり口先だけすぎたかもしれない。フォーエンにとって両親がどんな相手なのかわからないのに、おざなりに皆がいると言っても根本の解決にはならないのだろう。
理音から離れた手のひらは、理音の頬に伸びていた。引き寄せられた身体はフォーエンのぬくもりに触れ、そっとうなじに暖かさを感じた。
「父も母も側にいることはなかった。それが当然で気にしたこともない。昔は恨んだが、今ではどうでもいいことだ。だが、生まれていなければ、私はここにはいなかった。お前にとっては、良かったことなのか?」
「フォーエンがいなかったら、私はその辺でのたれ死んでるよ。言葉もわからなかったし、ご飯も寝るとこもあって良かったって思ったくらいだし。自分本位ですみませんが」
だから生まれてきてくれてありがとうなんて失礼なことは言えない。自分のことは棚に上げておいてほしい。他の人たちはちゃんとフォーエンを必要としてくれている。そこは信じてほしいのだが。
フォーエンは理音の頭を抱いたまま、背中に手を伸ばしてきつく抱きしめる。フォーエンの胸元におでこを押し付けたまま、その力を感じた。
「えっと、だから、えーと、身体に気をつけてください」
何か気の利いたことを言おうと思ったのに頓珍漢なことが口から出ると、頭の上でぷっとフォーエンが吹き出した。
「そうだな。身体に気をつけて。ぷ、くく…」
頭の上で笑うフォーエンは我慢できないと笑い出したが、ひとしきり笑った後、静かに、「ありがとう」と礼を口にした。
お礼言われたの初めてかも。穏やかに緩やかに、それはまるで女神のような笑みだった。
ルファンと同じ顔なんだよなあ。びっくりするほどそっくりで、笑い方も同じだった。間違いのない母子なのに、そのルファンは、フォーエンを子供と認めていない。
「孤児を集めて育ててフォーエンは無視とか、どんな当て付け。それはひどいよ」
ルファンはカオウ宮で精神を病んだまま、静かに暮らしている。皇帝が亡くなっても自由になることはなく、フォーエンが皇帝を継ぎ皇太后になった。
それを、スミアは見てきた。精神を病んだルファンを哀れに思ったか。皇帝への恨みを感じ取ったか。
だからシーニンが外に出る手助けをしても、殺す理由はない。関わりはないのか。
スミアの話からルファンへ話が逸れてしまったけれど、スミアが何かをしているか証拠があるわけではない。ただ、胡散臭い気がするだけで。
「リオン、これはお前さんには重すぎるだろう」
「え、大丈夫ですよ」
分析し終えた資料を物置に返すため、風呂敷をもらって背中に背負うと、ウンリュウがするりとそれを奪った。護衛をしてくれているのに、ウンリュウが荷物を持っては意味がない。
「しかし、かなり重いんじゃないか?」
「平気ですって。あ、じゃあ、ウンリュウさん、これ持ってください」
理音は箱の中から木簡一つを手渡し、もう一度箱を背負う。ウンリュウが大きく首を振ってきたので三つ程手渡して諦めてもらう。
「他に役立てることないんですから、やらせてくださいよ」
「いや、お前さん、何かしらやっているんだろう。本来なら宮でゆっくりされるべきなのに」
「じっとしてたら、私暴れだすかもです」
地面を転がる勢いで暴れると思う。それを言うと納得してくれたが、ため息混じりだ。
「中でもお役目をもらってるんだろう?」
「んー。まあ、ほんの少し」
「俺も詳しくはないが、中では中のお役目がある。まだ、表立って活躍するわけにはいかぬから、行えないだけだろう」
後宮では妃の身分によってお仕事がたくさんあるらしい。皇帝の相手として選ばれたならば身分も上がり、後宮の女性たちをまとめる役目があるそうだ。イベントなどにも積極的に関わり、皇帝のために働く必要がある。
頷きながら聞いてはいるが、ウンリュウが後宮での理音をどう聞いているのか知らないので、詳しくは話さなかった。他の妃の女官をやっているとは言えない。
そもそも、自分は表立つことはできないので、その役目は一生来ないのだ。そうなるとむしろ誰が後宮をまとめているのだろうか。謎だ。
ウの姫はお部屋におらず、外に出ているようだし、他にえらい妃と言えばグイの姫くらいしか知らない。グイの姫は身分が高いのでまとめ役は彼女が担っているのかもしれない。
荷物を運び戻り運びを繰り返していると、廊下を歩くシヴァ少将が見えた。ウンリュウが少し待つように足を止めさせる。不用意に近づかないようにされた。
「まだ何とも言えんからな。もし陛下に害をなす場合、お前さんにもそれが行われる可能性がある」
シヴァ少将にその気がなくとも、周囲がどうするかはわからない。フォーエンを狙っていないとシヴァ少将が言っても、周囲がどう動くのかはわかっていないのだ。シヴァ少将はそれを調査中としているが、それが本当に行われているかもわからないと、ウンリュウは言う。
シヴァ少将は何もしない。それを言っても周囲がどうだかは理音にだってわからない。無言でそれに頷き従うしかなかった。男の姿でも囮になるのだから、後宮以外の敵を見つけるのに丁度いいのかもしれない。
少し距離をあけたところで、ウンリュウが歩き出す。ウンリュウは廊下を歩くだけでも注意して動いているのだろう。横目で見た先に男が二人、びくりと肩を震わせる。何をしたでもないのに、目線だけで男二人を黙らせた。
ほんの少し、小さな声で、あれが陛下の?と言う言葉が聞こえた。それはごくたまに言われることがあったが、本当にごくたまにだ。そのごくたまにしかない相手に、ウンリュウは凄みを出す。
それって、完全に肯定してるんだけど、いいのだろうか。
前に言われた皇帝陛下男色の噂をである。一人でいると気付かれないのだが、ウンリュウはハク大輔の臣下として有名なのか、ウンリュウついでに理音を見る視線を感じた。
そこで、あ、あの子供か。と気付かれるのだ。
だからか、最近、そのごくたまに言われていたことが増えてきた気がする。
コウユウに殺される案件、再び。理音を殺そうとしたのではないかと、一時期疑っていたが、殺そうとはしていないが殺したいんだろうな、くらいはコウユウに嫌われているのは間違いない。
この頃後宮以外でフォーエンに会うため、もっと殺意が増えていそうで怖い。
先を歩いていたシヴァ少将がふと足を止め、誰かと挨拶をする。ウの内大臣だ。廊下で会うのは初めてだが、ここで挨拶をどうすべきか、頭を巡った。周りが道を開けるのを見て、理音もすぐに習う。
頭を下げて通るのを待てば、ウの内大臣はちろりとこちらを横目で見だだけ、挨拶はしてこなかったので、これで合っていたとほっと安堵する。
「珍しい方がいらっしゃるものだな」
「そうなんですか。そう言えば見たの初めてです」
「こちらに用はない方なんだがな」
こちらの棟は祭りなどのイベントを司る部署が多いため、ウの内大臣が来ることは稀にしかないらしい。ふうんと相槌を打ちながら先を見ると、シヴァ少将と視線が合った。
それは一瞬だったけれど、小河原が小さく目元を綻ばせる。
こちらにはウンリュウがおり、あちらには麿と武士がいる。そう簡単には話せなくなってしまったが、会えて姿を見るとホッとする。それは小河原も同じだろうか。
近くで見えないためわからないが、体調は大丈夫だろうか。心配でならない。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
獅子騎士と小さな許嫁
yu-kie
恋愛
第3王子獅子の一族の騎士ラパス27歳は同盟したハミン国へ使いで来た。そこで出会った少女は、野うさぎのように小さく可愛らしい生き物…否、人間…ハミン国の王女クラン17歳だった!
※シリアス?ほのぼの、天然?な、二人の恋がゆっくり始まる~。
※不思議なフワフワをお楽しみください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました
しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。
つきましては和平の為の政略結婚に移ります。
冷酷と呼ばれる第一王子。
脳筋マッチョの第二王子。
要領良しな腹黒第三王子。
選ぶのは三人の難ありな王子様方。
宝石と貴金属が有名なパルス国。
騎士と聖女がいるシェスタ国。
緑が多く農業盛んなセラフィム国。
それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。
戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。
ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。
現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。
基本甘々です。
同名キャラにて、様々な作品を書いています。
作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。
全員ではないですが、イメージイラストあります。
皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*)
カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m
小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
期限付きの聖女
波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。
本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。
『全て かける 片割れ 助かる』
それが本当なら、あげる。
私は、姿なきその声にすがった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる