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201 ー真実ー
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「そっくりにも、ほどあるなって思ってた」
「うん。そうだね…」
シヴァ少将こと、小河原要は大きく息を吐くと頭を抱えるようにして、ずるずると壁を背にしたまま座り込んだ。
「いつから?初めから」
「…初めからなのかな。結構前から」
そうであれば、こちらに来て初めて会った時から小河原だったのだ。似ているわけだ。本人だったのだから。
「いつもめっちゃ睨むから」
「あれはっ、あれは、色々我慢していて…」
小河原は泣きそうな顔をして髪をくしゃりと握る。何を言わんとするのを我慢していると、どうしても睨みつけてしまうのだと、ぽつりと言った。
座り込んでいる小河原はシヴァ少将ではなく、いつもの小河原だった。後ろに流れている髪は付け毛だろう。理音と同じだ。それをそろりと手に取ると、油の塗ったしっとりとした髪だった。誰かの毛を使っているようだ。
「理音…」
「うん」
「本当は、ずっと、話したかった」
「うん」
見上げる顔が泣きそうだった。理音は座り込むと目線を合わす。
「うん。分かるよ」
けれど必ず誰かが一緒にいる。そんな簡単に声をかけられない。それに、理音は皇帝の隣に座る者だ。小河原は分かっているのだから、その辺をうろついている理音にも声をかけるのは憚られただろう。
フォーエンの側にいる理音に、身代わりをしているなどと、言えるはずがない。
「学校で、帰り道、ばいばい、ってした後、ずっとこっちいた?」
小笠原は小さく頷く。理音の前ではかわいい男の子。シヴァ少将とは印象の違う顔を見せて、小河原はこちらを見遣った。
瞳が充血し始めている。ずっと我慢していたのが溢れ出るように。
「理音は?」
「私は拾われて、お仕事もらってる。要くんも?」
「あの後、気付いたら人の家の庭に…」
そう口にして、小河原は口を閉じた。
「ごめん、言えない」
その続きは口にできない。小河原は俯いた。事実は分かっていても、詳しくは話せない。その意図に理音も頷く。
「うん。私も何も言えないや。えっと、私一回こっち来て、一度向こうに戻ってるんだ。だから今回二回目なの。一度帰れてるから、また帰れるって信じてる」
理音の言葉に、小河原は顔を上げた。長くこちらに居続けているため、可能性がある程度としか言えないが、一度は帰っている。それも正確な日数がわからない状況で、空も曇り星すら見えない状況が続いているが、帰っているのは事実だ。
「流星が流れるのを見れたら、帰れると思う。私がこっちに来た時も流星が流れて、帰れた時も流星に乗るみたいに帰れた。時間の経過はあっちよりこっちの方が早かったから、向こうに戻ったらそんなに時間は経ってないかもしれない。前はそうだったから」
帰られることを信じて待つしかない。理音の言葉に小河原は理音を見つめた。
「流星。俺も見た気がする。理音が俺のことを呼んで後ろを向いたら、星が流れてた」
小河原が見ているのならば、やはり流星は関係あるだろう。
理音は座り込んだまま、体を抱きしめるようにしている小河原の手をとった。
「だから、もう少しだけ待って。流星が流れても見てないと帰れないから、外を見てないとダメなの。周期は曖昧になってわからなくなったけど、夜は空を見るようにして」
自分もたまに空を見上げる。星が見えればいいと思って見ていたけれど、流星が見えれば帰れることを、最近思い出していなかった。
「わかった。夜は空を見るよ」
小河原は理音の手をとると、両手を握って返した。
「要くん、お付きの人といつも一緒だから難しいかもだけど、また話そ。私、午後はヘキ卿のところで働いてるから」
「そうだね。たまに見ることあるから。また話そう」
「そろそろ行かないと。さっきの麿っぽい人と武士の人に変に思われちゃうもんね」
「まろ…っ」
小河原はいきなり吹き出した。麿と武士にはまったらしい。理音の手を握ったまま目尻を垂らす。
「はは。理音。やっぱり理音だ」
少しだけ笑顔が見れてホッとする。小河原は泣きそうな顔をして笑うと、理音の手をとったまま立ち上がり、理音にも促した。
「また、話したい」
「うん。またね」
小河原は踵を返そうとしたが、踏み止まるようにすると理音に向き直した。
「理音、少しだけいい?」
「うん?」
何を?と言おうとすると、小河原は手を伸ばした。背中に回された手は暖かく、一度力を入れるとそのまま離れた。
「また」
先程よりずっと顔色はいい。小河原は満面の笑顔ではなかったが、緩やかに笑んでその場を去っていった。
人通りのある通りに戻ればもう姿はない。外は暗く早く戻らなければならない時間になっていた。
理音は周囲を見回しながらいつも通りの道に戻る。後ろから付いてくる者はいない。誰も追跡していないことを確認しながら足早にレイセン宮への隠し扉へと戻る。
シヴァ少将が小河原だった。
似ていると思っていてもいつも鋭く睨まれて、別人だと認識した。けれど、それが嘘だった。
「本人、死んでるのかもな…」
ぽそりと呟いて、理音は足を止めた。
これを、フォーエンに話すか?
レイシュンは最後の別れをするためにシヴァ少将に会いにいったと言っていた。おそらくそれは本当だっただろう。シヴァ少将は限りがあり、病によって後僅かな命だったに違いない。
けれど小河原が現れた。
シヴァ少将の身内は小河原を身代わりにしてシヴァ少将の不調を、もしくは死亡を、隠蔽したのだ。
「まいったな…」
小河原がこちらに来たのは、自分と一緒にいたからだろうか。小河原はこちらに流星と共に流れて自分とは違う場所に降り立った。そこが、シヴァ少将の家だった。
身代わりになってシヴァ少将を演じる。周囲はシヴァ少将を知っている中で演技をしているのならば、あの麿と武士も知っているだろう。小河原は敬語で話していたのだから、小河原をフォローするためにいるのではないだろうか。
理音と二人きりにしたので監視されているわけではないと思うが。
小河原は理音に詳しくは話せない。理音はフォーエンの、皇帝の隣にいる者だから。話すわけにはいかない。
「あーーーー」
頭を抱えて座り込んで、理音は空を見上げた。相変わらず濁った空。雲が覆っていて星空なんて全く見えない。流星どころか星一つ見えない。
この濁った空に次いつ星が流れるだろうか。星が流れれば再び帰られるのだろうか。もう何ヶ月も経つのに、何も起きていないのに。
「彦星と話したいな」
自分がこちらに来た日を予測できたのならば、戻れる日も予測できないだろうか。帰るにしても制服やら荷物もあるので、用意をして帰りたい。この格好で向こうに帰りたくない。
フォーエンに話すのは、もう少し待とう。何と言って話して良いかもわからないから。
「彦星と会えるように、フォーエンに頼んでみよう」
まずはそれから。小河原だけでも早く帰られるように。
そう誓って、理音はレイセン宮への道を戻っていった。
「今は無理だ」
彦星に帰れる日はいつか話を聞きたい。そんな頼み事をしたら、フォーエンに一掃された。二日後の夜の話。
「冬の間星見は予測し難い。それに今は予定があり星見の手があかない」
フォーエンはそうきっぱりと言って読んでいた本を閉じた。もうこの話は終わりだと言うように。
この間から不機嫌のフォーエンは本を片付けると寝台へ向かった。もうお勉強もやめて眠るらしい。二日あけて来たらまた不機嫌。忙しいのだろう、疲れた顔をしているのでしつこく言うのはやめた。
最近フォーエンは激務なのだと思う。あまり自分が余計なことを言って仕事を増やしたくない。
しかし、小河原には早く帰り道を示したい。こちらに来てからどれくらい経っているだろう。その間小河原は一人、自分に相談もできず長く苦しんでいたのではないだろうか。
理音はスマフォの写真フォルダを開いて、保存した写真を見つめた。桜の花の前で撮った写真の小河原と、今の小河原は雰囲気が違う。いつも笑って頬を染めるような男だったのに、我慢していたものが全て溢れるように、泣きそうな顔を一生懸命我慢していた。
本当はずっと話をしたかった。
それなのに、話せなかった。
「はあ」
フォーエンはもう寝台で眠っている。そこで眠るのも、今更ながら、罪悪感が再び膨らんでくるのだ。
何とかしなきゃ。
何とかしないと。
何とか。
「リン。目にクマ」
ルーシに言われて理音は目を擦った。こすったらこすったでルーシがダメだよと止めた。こするとお肌が汚くなるらしい。そうなのか。
「ちょっとあっためた方がいいよ。今お湯沸かしてあげるから」
「ありがとうございます」
そんなにひどい顔をしているだろうか。ルーシだけでなくユエインも心配そうな顔をして理音の顔を仰いだ。ただの寝不足なので、気にしないで大丈夫なのだが。
「だってひどい顔だもん」
ユエインにずばっと言われて、がっかりする。そんなにひどい顔をしてるだろうか。
昨夜スマフォを見てぐだぐだしていたら、そこで眠ってしまったのだ。机の上で口を開けて眠っていたに違いない。喉が乾燥してケホケホ咳をしたのか、フォーエンが頭を拳で殴ってきた。
いきなり頭にごすっと痛みが走ったので飛び起きると、頭の上でフォーエンがお怒りマックスで握り拳をつくっていた。勿論お顔は超不機嫌。
眠っていたのに中々ベッドに入ってこないので目が覚めてしまったらしい。それでわざわざ起きて理音を探したそうだ。隣の部屋で机の上で眠っていただけなのだが。
ストーブが付いていたとは言え、真冬である。何をしているんだと一通り説教を受けてから寝所に入った。それも素直に入ってのち、うだうだしていたわけである。だってフォーエンが隣で眠っているし。
しかもあの男、この間人の首に寝技かけてから味をしめたのか、人の頭を抱きしめて寝ることを覚えたのである。もがいてもうるさいと一蹴され、昨夜はなおさら眠れなかった。
フォーエンの睡眠を邪魔するわけにはいかないので大人しくなるしかないが、大人しくしたらしたで眠れないのである。眠れるわけあるか。
そうしたら鳥が鳴き始める時間になった。雀はいないので、何かの鳥がぴちぴち囀っているのを耳にして、フォーエンが起き上がるのもぼんやり聞いていて、うつつの中のっそりと起きたら、まあほとんど眠っていなかったと言う。
クマぐらいできるよね!
「うん。そうだね…」
シヴァ少将こと、小河原要は大きく息を吐くと頭を抱えるようにして、ずるずると壁を背にしたまま座り込んだ。
「いつから?初めから」
「…初めからなのかな。結構前から」
そうであれば、こちらに来て初めて会った時から小河原だったのだ。似ているわけだ。本人だったのだから。
「いつもめっちゃ睨むから」
「あれはっ、あれは、色々我慢していて…」
小河原は泣きそうな顔をして髪をくしゃりと握る。何を言わんとするのを我慢していると、どうしても睨みつけてしまうのだと、ぽつりと言った。
座り込んでいる小河原はシヴァ少将ではなく、いつもの小河原だった。後ろに流れている髪は付け毛だろう。理音と同じだ。それをそろりと手に取ると、油の塗ったしっとりとした髪だった。誰かの毛を使っているようだ。
「理音…」
「うん」
「本当は、ずっと、話したかった」
「うん」
見上げる顔が泣きそうだった。理音は座り込むと目線を合わす。
「うん。分かるよ」
けれど必ず誰かが一緒にいる。そんな簡単に声をかけられない。それに、理音は皇帝の隣に座る者だ。小河原は分かっているのだから、その辺をうろついている理音にも声をかけるのは憚られただろう。
フォーエンの側にいる理音に、身代わりをしているなどと、言えるはずがない。
「学校で、帰り道、ばいばい、ってした後、ずっとこっちいた?」
小笠原は小さく頷く。理音の前ではかわいい男の子。シヴァ少将とは印象の違う顔を見せて、小河原はこちらを見遣った。
瞳が充血し始めている。ずっと我慢していたのが溢れ出るように。
「理音は?」
「私は拾われて、お仕事もらってる。要くんも?」
「あの後、気付いたら人の家の庭に…」
そう口にして、小河原は口を閉じた。
「ごめん、言えない」
その続きは口にできない。小河原は俯いた。事実は分かっていても、詳しくは話せない。その意図に理音も頷く。
「うん。私も何も言えないや。えっと、私一回こっち来て、一度向こうに戻ってるんだ。だから今回二回目なの。一度帰れてるから、また帰れるって信じてる」
理音の言葉に、小河原は顔を上げた。長くこちらに居続けているため、可能性がある程度としか言えないが、一度は帰っている。それも正確な日数がわからない状況で、空も曇り星すら見えない状況が続いているが、帰っているのは事実だ。
「流星が流れるのを見れたら、帰れると思う。私がこっちに来た時も流星が流れて、帰れた時も流星に乗るみたいに帰れた。時間の経過はあっちよりこっちの方が早かったから、向こうに戻ったらそんなに時間は経ってないかもしれない。前はそうだったから」
帰られることを信じて待つしかない。理音の言葉に小河原は理音を見つめた。
「流星。俺も見た気がする。理音が俺のことを呼んで後ろを向いたら、星が流れてた」
小河原が見ているのならば、やはり流星は関係あるだろう。
理音は座り込んだまま、体を抱きしめるようにしている小河原の手をとった。
「だから、もう少しだけ待って。流星が流れても見てないと帰れないから、外を見てないとダメなの。周期は曖昧になってわからなくなったけど、夜は空を見るようにして」
自分もたまに空を見上げる。星が見えればいいと思って見ていたけれど、流星が見えれば帰れることを、最近思い出していなかった。
「わかった。夜は空を見るよ」
小河原は理音の手をとると、両手を握って返した。
「要くん、お付きの人といつも一緒だから難しいかもだけど、また話そ。私、午後はヘキ卿のところで働いてるから」
「そうだね。たまに見ることあるから。また話そう」
「そろそろ行かないと。さっきの麿っぽい人と武士の人に変に思われちゃうもんね」
「まろ…っ」
小河原はいきなり吹き出した。麿と武士にはまったらしい。理音の手を握ったまま目尻を垂らす。
「はは。理音。やっぱり理音だ」
少しだけ笑顔が見れてホッとする。小河原は泣きそうな顔をして笑うと、理音の手をとったまま立ち上がり、理音にも促した。
「また、話したい」
「うん。またね」
小河原は踵を返そうとしたが、踏み止まるようにすると理音に向き直した。
「理音、少しだけいい?」
「うん?」
何を?と言おうとすると、小河原は手を伸ばした。背中に回された手は暖かく、一度力を入れるとそのまま離れた。
「また」
先程よりずっと顔色はいい。小河原は満面の笑顔ではなかったが、緩やかに笑んでその場を去っていった。
人通りのある通りに戻ればもう姿はない。外は暗く早く戻らなければならない時間になっていた。
理音は周囲を見回しながらいつも通りの道に戻る。後ろから付いてくる者はいない。誰も追跡していないことを確認しながら足早にレイセン宮への隠し扉へと戻る。
シヴァ少将が小河原だった。
似ていると思っていてもいつも鋭く睨まれて、別人だと認識した。けれど、それが嘘だった。
「本人、死んでるのかもな…」
ぽそりと呟いて、理音は足を止めた。
これを、フォーエンに話すか?
レイシュンは最後の別れをするためにシヴァ少将に会いにいったと言っていた。おそらくそれは本当だっただろう。シヴァ少将は限りがあり、病によって後僅かな命だったに違いない。
けれど小河原が現れた。
シヴァ少将の身内は小河原を身代わりにしてシヴァ少将の不調を、もしくは死亡を、隠蔽したのだ。
「まいったな…」
小河原がこちらに来たのは、自分と一緒にいたからだろうか。小河原はこちらに流星と共に流れて自分とは違う場所に降り立った。そこが、シヴァ少将の家だった。
身代わりになってシヴァ少将を演じる。周囲はシヴァ少将を知っている中で演技をしているのならば、あの麿と武士も知っているだろう。小河原は敬語で話していたのだから、小河原をフォローするためにいるのではないだろうか。
理音と二人きりにしたので監視されているわけではないと思うが。
小河原は理音に詳しくは話せない。理音はフォーエンの、皇帝の隣にいる者だから。話すわけにはいかない。
「あーーーー」
頭を抱えて座り込んで、理音は空を見上げた。相変わらず濁った空。雲が覆っていて星空なんて全く見えない。流星どころか星一つ見えない。
この濁った空に次いつ星が流れるだろうか。星が流れれば再び帰られるのだろうか。もう何ヶ月も経つのに、何も起きていないのに。
「彦星と話したいな」
自分がこちらに来た日を予測できたのならば、戻れる日も予測できないだろうか。帰るにしても制服やら荷物もあるので、用意をして帰りたい。この格好で向こうに帰りたくない。
フォーエンに話すのは、もう少し待とう。何と言って話して良いかもわからないから。
「彦星と会えるように、フォーエンに頼んでみよう」
まずはそれから。小河原だけでも早く帰られるように。
そう誓って、理音はレイセン宮への道を戻っていった。
「今は無理だ」
彦星に帰れる日はいつか話を聞きたい。そんな頼み事をしたら、フォーエンに一掃された。二日後の夜の話。
「冬の間星見は予測し難い。それに今は予定があり星見の手があかない」
フォーエンはそうきっぱりと言って読んでいた本を閉じた。もうこの話は終わりだと言うように。
この間から不機嫌のフォーエンは本を片付けると寝台へ向かった。もうお勉強もやめて眠るらしい。二日あけて来たらまた不機嫌。忙しいのだろう、疲れた顔をしているのでしつこく言うのはやめた。
最近フォーエンは激務なのだと思う。あまり自分が余計なことを言って仕事を増やしたくない。
しかし、小河原には早く帰り道を示したい。こちらに来てからどれくらい経っているだろう。その間小河原は一人、自分に相談もできず長く苦しんでいたのではないだろうか。
理音はスマフォの写真フォルダを開いて、保存した写真を見つめた。桜の花の前で撮った写真の小河原と、今の小河原は雰囲気が違う。いつも笑って頬を染めるような男だったのに、我慢していたものが全て溢れるように、泣きそうな顔を一生懸命我慢していた。
本当はずっと話をしたかった。
それなのに、話せなかった。
「はあ」
フォーエンはもう寝台で眠っている。そこで眠るのも、今更ながら、罪悪感が再び膨らんでくるのだ。
何とかしなきゃ。
何とかしないと。
何とか。
「リン。目にクマ」
ルーシに言われて理音は目を擦った。こすったらこすったでルーシがダメだよと止めた。こするとお肌が汚くなるらしい。そうなのか。
「ちょっとあっためた方がいいよ。今お湯沸かしてあげるから」
「ありがとうございます」
そんなにひどい顔をしているだろうか。ルーシだけでなくユエインも心配そうな顔をして理音の顔を仰いだ。ただの寝不足なので、気にしないで大丈夫なのだが。
「だってひどい顔だもん」
ユエインにずばっと言われて、がっかりする。そんなにひどい顔をしてるだろうか。
昨夜スマフォを見てぐだぐだしていたら、そこで眠ってしまったのだ。机の上で口を開けて眠っていたに違いない。喉が乾燥してケホケホ咳をしたのか、フォーエンが頭を拳で殴ってきた。
いきなり頭にごすっと痛みが走ったので飛び起きると、頭の上でフォーエンがお怒りマックスで握り拳をつくっていた。勿論お顔は超不機嫌。
眠っていたのに中々ベッドに入ってこないので目が覚めてしまったらしい。それでわざわざ起きて理音を探したそうだ。隣の部屋で机の上で眠っていただけなのだが。
ストーブが付いていたとは言え、真冬である。何をしているんだと一通り説教を受けてから寝所に入った。それも素直に入ってのち、うだうだしていたわけである。だってフォーエンが隣で眠っているし。
しかもあの男、この間人の首に寝技かけてから味をしめたのか、人の頭を抱きしめて寝ることを覚えたのである。もがいてもうるさいと一蹴され、昨夜はなおさら眠れなかった。
フォーエンの睡眠を邪魔するわけにはいかないので大人しくなるしかないが、大人しくしたらしたで眠れないのである。眠れるわけあるか。
そうしたら鳥が鳴き始める時間になった。雀はいないので、何かの鳥がぴちぴち囀っているのを耳にして、フォーエンが起き上がるのもぼんやり聞いていて、うつつの中のっそりと起きたら、まあほとんど眠っていなかったと言う。
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