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81 ー偵察ー

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「それでいっちゃうとさ、ハク大輔たちはそっちで集まってるし、ヘキ卿はヘキ卿で武器集めてるわけでしょ?そしたら、ハク大輔とヘキ卿が、同じくらいの時期に謀反起こしてもおかしくないってこと?」
「かもな。だが、協力はないだろう。お互い狙ってる物は同じなはずだ」
「フォーエンのとこに、襲いに行くってことだよね。王宮の外で武器持って、お城に攻め込むってことでしょ?そしたら、相当な人数必要だよね」

 謀反の意味はわかるが、どうやって攻めるのかが想像つかない。
 戦国時代の戦争となれば石でも矢でも飛ばして、銃で撃って、門に大木で当てて門を開く、のがイメージとしてある。あるのだが、それはもちろんテレビドラマのイメージであって、それが本当に行われたらあの高くそびえる門を壊さなければならず、そのために必要な人数が想像できなかった。

「すごい、大掛かりでしょ?表から入らないだとしても、どこから入るとか、どれくらいの人数いるとか、武器はどれくらいいるとかさ」
「門はアンテイ門を使うだろうな」
「あんてー門?」
「裏門の一つだ。アンテイ門は二重の門。他に比べれば小さく、一つの門をくぐった後次の門に入るまで距離がある。坂道で鋭角になっているが、一つ目の門を通っても二つ目の門から侵入は見えない。だがまあ、現実的じゃないな。外から攻めることは」
「やな言い方。中から攻められるってこと?」
「敵が外だけにいるわけじゃない」
 前に王宮の中でいきなり戦いにもなったではないか。それを思い出し、苦虫を潰したような顔をする。

「前もあったのに、またあるかもってこと?」
「あれは少人数だろ。大したもんじゃなかった。数十人が集まって行っただけだ。犠牲も少なかった。だが今回は、武器の多さが桁違いだ」
 あの戦いで、どれくらいの人が死んだかわからない。ただフォーエンは、粛清に多くの兵を使っていた。
 それを考えれば、謀反を行う人数も、広場に埋まるほどの人間を集めなければならないのではないだろうか。

「それから、近頃面白い噂が町で流れている。市場操作はやはり皇帝の仕業で、暴利をむさぼっていると」
 フォーエンを陥れる、卑劣な噂だ。
 彼の人気を下げるだけ下げていく。
 ただでさえ何度も変わる皇帝に、何の尊敬も持てない市民が多いのに。

「それを行って、どう言う結果が起きるの?一揆とか?」
「協力したがる輩は出る。例えば謀反を起こし、皇帝を引きずり落とせとうたったら、桜が同調しそれを煽る。それにつられたバカが、まんまと利用される。一人が出れば二人三人、いつの間にか徒党を組んで城に流れてきたら抑えることは難しくなる。その時抑えても、くすぶり続けるだろう。この皇帝は市民に刃を向けるのだと。謀反が失敗しても市民が受けた傷は忘れない」

 人は流されやすい。誰かがそうだと言って、大勢が声を上げれば流されることもある。常日頃不満が溜まっていれば、容易く流れるかもしれない。
「じゃあ、どうするの?フォーエンが買い占めてるんじゃないって、噂流すの?」
「そんなことしても無駄だろ。実際高値で売られてるんだからな。悪いのはお上で、何もしないのもお上だ」

 誰がやっても関係はない。高値である事実があるからだ。その不満を既に市民が持っている。例えどんな悪人がやっていても、それを罰せないフォーエンが悪いと決めつけられる。

「まずは、不満を解消しなきゃってことだよね。それをフォーエンが何もしてない?」
「調べてはいるだろう。そこまで無能な皇帝じゃない。それをどう特定するかは、皇帝の能力次第だ。まあ、噂が早すぎるから、出どころを調べるのは難しいだろうな」
「何で?」
「一番楽なのは、移動し続けている職業の人間が動くことなんだよ。移動販売している奴とか、店に寄る業者とかな。そんなふりをしている奴らがいれば、噂はすぐに回る。それの正体を探すのは難しい。何人が動いているかもわからないんだからな」
「何か売ったりしながら、噂をばまいたりしてるってこと?」
 ナラカは頷く。
「ひとつ場所で噂を流せば、すぐにばれるだろ」

 それもそうだ。
 移動販売のお店の人や、お店周りの営業の人などが、フォーエンへの悪い噂を話していく。移動すれば噂の元は調べにくいだろう。
 ついでにその噂を店の人間が信じ、客に話すかもしれない。
「信頼度も高いよね、お店の人なら。頭いー」
「調べてもわかるのは、人相や体型だけだろうな。しかも一人じゃない」
「それじゃ困っちゃうじゃん」
 現代のように顔写真があるわけでもない。犯人探しは特定が難しそうだ。

「え、じゃあさ、噂なんてすぐ回っちゃって、不満爆発が早まっちゃうんじゃないの?」
「その通りだ。お前もそこそこ頭があったな」
 褒められている気がしない。
 しかし、つまり言うところ、相手はもう戦う準備が整っており、あとは噂が浸透してフォーエンへの不満を煽りきったら、さあ行動に移すぞ、という待ちの状態になるのだ。

「ダメじゃん。誰が敵なのかもわかんないのに。フォーエンわかってるのかな。わかってなかったら、大変じゃない?」
「さあな。ただ今回は、大規模な謀反になるだろう。前のとは比べものにならないほどな。市民を巻き込めば禍根が残る。さて、皇帝がどう出るかだ」
「ちょっと、どうやって邪魔するか考えてよ!」
「何で邪魔すんだよ。皇帝がそれなりかそうじゃないかがわかる、いい機会だろうが」
 ナラカはフォーエンに協力的ではないと思ってはいたが、ひどい言いようである。
「だってその場合、市民も巻き添えになっちゃうんでしょ?戦いになったら、大変じゃん。どうすんの。戦争だよ?」
「知るかよ。興味ねえ」

 戦争になったら他人事ではないだろうに。王都にいれば巻き込まれることがあるかもしれない。
「興味はないんだけど調べたいのって変なの。じゃあさ、私頑張ってお屋敷調べるから、ナラカは噂の元探してよ」
「は?」
「ヘキ卿が謀反企んでるのかは知りたいんでしょ?すっごく探すから、だから市場操作してるやつを探してね」
「何でそうなるんだよ」
「だってナラカだって、ヘキ卿が何かするかを知りたくて、私のこと巻き込んだんじゃん。だから知りたいんだよね。真実を。私頑張るから、ナラカも頑張ってね。よし、ナラカ、もう帰って。私、明日のためにもう寝る!」
「何だそれ」

 ナラカは呆れていたが、理音はやる気に満ち溢れていた。
 フォーエンのためにやれることをする。
 彼のために役立てるのかもしれないと考えれば、それだけでよかったのだ。
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