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15 ー恐怖ー
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考えると眠れなくなりそうで、起き上がってトイレに行くことにした。
くよくよしても、何も得ない。ついでに大月小月でも写真におさめてくるか、とタブレットを片手に部屋を出る。
用を足して、理音は月を探した。
この時間はどうやら庭方面に月がない。裏手に入ればあるかとそちらへ回る。
この時間だとさすがに暗い。
光は星空だけで、月の光がほのかに届くだけだ。雲が厚く、月の光が届きにくくなっている。
裏庭の木々の隙間に光が通るか、時折ちらりと木の影ができた。裏手の小さな池に光が入ると、粋な景色となる。水面が所々輝いて、絵面がいい。
すぐにカメラを起動したが、雲が流れてしまうので見えたり見えなかったりした。けれど雲の形が流れるのが水面に映るので、それも中々叙情的で、ついムービーを撮りはじめた。
もう目も覚めてしまっているから、起きているのもいいかもしれない。
木々の隙間に光が灯る。そちらにズームして撮り続けると、何かが動いた。この時間でも警備が歩いているのだろうか。
映像を撮りつつ景色を眺めつつしていて、理音はふと匂いに気づいた。
微かに鼻腔へ届く匂い。
この匂いは何だっただろうか。
そうしてまた光が通った。
何かがそこで煌めいている。目で見るよりも拡大した方がよく見えると思い、映像を拡大した。
その時だ、雲が流れたのは。
タブレットの中で光が反射した。
初め、何が動いているのかと思った。
人だとわかったが、どういう状況なのか理解できていなかった。
それがずるりと滑って、地面に崩れるように落ちる。
何かが剥がれたのかと思った。人から、何かが。
そう思ってぎくりとした。人が一人、何かを持っている。銀色の反射する長いモノ。それから地面に転がる、生地の山。
それが何かわかった時には、相手はこちらに気づいていた。
近づいてくる、刀を持った誰かが。
それが誰かと考えるよりも、持っている刀を振り抜かんばかりにして走ってくるのが見えて、理音はとっさに後ろへ走った。
声も出ない。
ただ走って、闇雲に走って、どこかへ隠れなければならないと思った。
けれど建物に戻るのではなくて、愚かにも裏庭の奥へと走ってきてしまっている。
このまま行けば白壁にあたり、越えられない高さのある白壁に沿って逃げることになる。
それでは建物から逸れるばかりだ。
戻るには今来た道か、遠回りをして建物までの道を進まなければならない。ただそれはかなり遠く、それでは追いつかれてしまう気がした。
岩陰に入って、何か叫ぼうと思った。助けを呼べば誰かが来てくれるかもしれないと思ったからだ。
けれど、叫んで誰かが来ている間に襲われたらと思った。足も震えていて、逃げる自信もなかった。
どうすればいいのか。頭が混乱してまともな考えが浮かばない。
かといって、ここにずっといても見つかるだけだった。
タブレットを握りしめて、理音は自分の視界が狭くなっていくのを感じた。
どうしていいのかわからない。
近くで物音がした。した気がした。
もう、何がどこで動いているかもわからない。
握ったタブレットが汗で滑りそうになって、もう一度握り直した。
息がせる。呼吸が早くなる。
ここで隠れているだけなのに、息をしているだけなのに。
タブレットがムービーのままだ。
止めようと思って滑らせれば、あるものに気づいた。
くよくよしても、何も得ない。ついでに大月小月でも写真におさめてくるか、とタブレットを片手に部屋を出る。
用を足して、理音は月を探した。
この時間はどうやら庭方面に月がない。裏手に入ればあるかとそちらへ回る。
この時間だとさすがに暗い。
光は星空だけで、月の光がほのかに届くだけだ。雲が厚く、月の光が届きにくくなっている。
裏庭の木々の隙間に光が通るか、時折ちらりと木の影ができた。裏手の小さな池に光が入ると、粋な景色となる。水面が所々輝いて、絵面がいい。
すぐにカメラを起動したが、雲が流れてしまうので見えたり見えなかったりした。けれど雲の形が流れるのが水面に映るので、それも中々叙情的で、ついムービーを撮りはじめた。
もう目も覚めてしまっているから、起きているのもいいかもしれない。
木々の隙間に光が灯る。そちらにズームして撮り続けると、何かが動いた。この時間でも警備が歩いているのだろうか。
映像を撮りつつ景色を眺めつつしていて、理音はふと匂いに気づいた。
微かに鼻腔へ届く匂い。
この匂いは何だっただろうか。
そうしてまた光が通った。
何かがそこで煌めいている。目で見るよりも拡大した方がよく見えると思い、映像を拡大した。
その時だ、雲が流れたのは。
タブレットの中で光が反射した。
初め、何が動いているのかと思った。
人だとわかったが、どういう状況なのか理解できていなかった。
それがずるりと滑って、地面に崩れるように落ちる。
何かが剥がれたのかと思った。人から、何かが。
そう思ってぎくりとした。人が一人、何かを持っている。銀色の反射する長いモノ。それから地面に転がる、生地の山。
それが何かわかった時には、相手はこちらに気づいていた。
近づいてくる、刀を持った誰かが。
それが誰かと考えるよりも、持っている刀を振り抜かんばかりにして走ってくるのが見えて、理音はとっさに後ろへ走った。
声も出ない。
ただ走って、闇雲に走って、どこかへ隠れなければならないと思った。
けれど建物に戻るのではなくて、愚かにも裏庭の奥へと走ってきてしまっている。
このまま行けば白壁にあたり、越えられない高さのある白壁に沿って逃げることになる。
それでは建物から逸れるばかりだ。
戻るには今来た道か、遠回りをして建物までの道を進まなければならない。ただそれはかなり遠く、それでは追いつかれてしまう気がした。
岩陰に入って、何か叫ぼうと思った。助けを呼べば誰かが来てくれるかもしれないと思ったからだ。
けれど、叫んで誰かが来ている間に襲われたらと思った。足も震えていて、逃げる自信もなかった。
どうすればいいのか。頭が混乱してまともな考えが浮かばない。
かといって、ここにずっといても見つかるだけだった。
タブレットを握りしめて、理音は自分の視界が狭くなっていくのを感じた。
どうしていいのかわからない。
近くで物音がした。した気がした。
もう、何がどこで動いているかもわからない。
握ったタブレットが汗で滑りそうになって、もう一度握り直した。
息がせる。呼吸が早くなる。
ここで隠れているだけなのに、息をしているだけなのに。
タブレットがムービーのままだ。
止めようと思って滑らせれば、あるものに気づいた。
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