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13 ー状況ー
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スマフォのカメラは起動してあるので、それを舞台下に向けた。
だから、撮ってやったのだ。
シャッター音が響いて、織姫は一瞬静止した。音に敏感だ。
何をしたのかいちいち確認するのに、織姫は理音の顔を仰ぐ。
だから今撮った写真を出してやる。
そうすると怪訝な顔が険しくなった。
「ここのさ、ボタン触るの。連写しないでね」
言っても通じない。わかっている。
だから無遠慮に手をとって、指をそこに乗せてやった。
ばしゃりとシャッター音が鳴って、撮った写真が見れるようにまた指を乗せてやる。
「わかった?」
手元にあるタブレットには、飛び跳ねていた踊り子たちが宙に浮いたまま止まっている。
景色の瞬間を撮ったことを理解する前に、織姫は驚くほど真顔になった。
多分、かなりの驚愕が顔に出たのだ。
膝の上にあるタブレットは一瞬の景色を撮っている。それが残っている。
彼らに言わせれば、ありえないことだ。
だから、それを理解するのに時間がかかった。
混乱を頭の中で抑えているのかもしれない。
織姫に焦燥は見られなかった。けれど、驚いているのは確かなのだ。
時間が経つと同じく、みるみる眉間のシワを増やしていったのだから。
当分彼はカメラに夢中になることだろう。
理音は放っておいて、スマフォで写真を撮ることにした。
ついでに、また意地悪をした。
パシャリと撮った先、その被写体は眉を顰めたままだった。
それを保存して笑えるのをこらえると、彼にそれを見せてやった。これで一瞬が撮れることは理解しただろう。
それを目にした織姫は、まるで怒りをあらわすかのように不機嫌な顔と声を出した。
もう、黙って驚くこともできなかったらしい。
言葉で表現するならば、はあっ!?︎だろうか。多分、似たようなことは言った。
機嫌は最高に悪い。悪くなった。
物騒な雰囲気すらまとっていたかもしれない。
いつまでも彼自身の写真がそこから消えないのも拍車をかけた。
明らかに、
どうなってるんだこれ。
と顔に出してきた。
自分の顔がそんなに嫌なのか、気になるところだ。
モデルがいいので、綺麗に撮れていると思うのだが、本人はおかんむりである。
「ムービー撮って見せたらもっと怒るのかな」
言って、やるのはさすがにやめた。彼の不機嫌は理解できないことから始まっている。
ムービーなんて見せた日には、デバイスを投げられそうだ。思いっきり投げられたりして壊されたくない。
カメラに切り替えてやると、不機嫌のまま使い方を復習している。真面目な男だ。
結局、タブレットもスマフォも彼の手元にいってしまった。
真剣な顔の織姫を見るのは申し訳ないが飽きないので、暇まかせに織姫を見ることにした。
パシャパシャ、時折パシャシャシャシャー。
音が変わると静止するのは冷静なのだろうな、と思う。
普通なら、え!?とか、驚愕の声を上げてしまうものなのに。
「えーげー」
ふと、男性が声をかけてきた。
やはり名前、もしくは位がえーげーなのだろう。
声をかけてきた男は、そこそこ飾った格好だった。布の模様が細かい。帯に飾りもある。織姫と話すのに膝を折っており、囁くように近くで会話をした。
何を言っているかはもちろんわからないが、えーげーの言葉以外は殆ど耳に入ってこなかったので、内緒話のようだった。
男は織姫の言葉に小さく頷く。
その辺の従者たちより身分が高いのだろう。部下らしい雰囲気だった。部長とか、室長とか、そういうくらいの役職だろうか。
命名、課長。
部長にしては若いと思ったからだ。あくまでイメージだが。
屈んだまま数歩下がって、課長は立ち上がった。その姿をまじまじ見ていた理音と目が合った。怯えた顔でも向けられるかと思ったが、彼はふっと笑った。
嫌味のない笑い。そうして一礼、しとやかにその場を後にする。
大人の男の人、だ。
余裕のある微笑みと、雅な仕草。大人の色気だろうか。目を奪われた。
隣にいる男とは全く違うタイプだ。こちらを動とすれば課長は静とするほどに。
織姫は大人しそうな顔の割りに強情で自尊心も強く、その上偉そうだった。
実際偉いのだろうが、大人しい性格ではないだろう。顔と性格の一致はないように思えた。女顔でも軟弱そうなわけでもない。
隣にいるその男はカメラに飽きたのか、デバイスを両方放ってきた。もう十分触ったのだろう。まあ、一体何枚写真を撮ったのかは、後で確認することにする。
大きく鐘が鳴った。どうやらお開きらしい。
織姫が立ち上がると、舞台下の人々も一斉に立ち上がった。
織姫は退場だ。自分も行っていいだろうか。
すぐにお局が脇に寄ってきて、ここを去るように促してきた。そそくさと自分も退場する。
扉の中に入ると、もう織姫はいなかった。さっさと行ってしまったようだ。待たれても困るので構わないのだが。
お局がリュックを持ったまま、ついてくるようにと視線を送ってくる。
言われずともついていく気だ。
自分がいた部屋からここに来るまで、結構歩かされた。ついていかないと迷子になる。
道を覚えようと思ったが、思ったよりも長かったため覚えきれなかった。帰りも同じ道を通ってくれれば覚えられるのだが、どうやら道が違うようだった。
だから、撮ってやったのだ。
シャッター音が響いて、織姫は一瞬静止した。音に敏感だ。
何をしたのかいちいち確認するのに、織姫は理音の顔を仰ぐ。
だから今撮った写真を出してやる。
そうすると怪訝な顔が険しくなった。
「ここのさ、ボタン触るの。連写しないでね」
言っても通じない。わかっている。
だから無遠慮に手をとって、指をそこに乗せてやった。
ばしゃりとシャッター音が鳴って、撮った写真が見れるようにまた指を乗せてやる。
「わかった?」
手元にあるタブレットには、飛び跳ねていた踊り子たちが宙に浮いたまま止まっている。
景色の瞬間を撮ったことを理解する前に、織姫は驚くほど真顔になった。
多分、かなりの驚愕が顔に出たのだ。
膝の上にあるタブレットは一瞬の景色を撮っている。それが残っている。
彼らに言わせれば、ありえないことだ。
だから、それを理解するのに時間がかかった。
混乱を頭の中で抑えているのかもしれない。
織姫に焦燥は見られなかった。けれど、驚いているのは確かなのだ。
時間が経つと同じく、みるみる眉間のシワを増やしていったのだから。
当分彼はカメラに夢中になることだろう。
理音は放っておいて、スマフォで写真を撮ることにした。
ついでに、また意地悪をした。
パシャリと撮った先、その被写体は眉を顰めたままだった。
それを保存して笑えるのをこらえると、彼にそれを見せてやった。これで一瞬が撮れることは理解しただろう。
それを目にした織姫は、まるで怒りをあらわすかのように不機嫌な顔と声を出した。
もう、黙って驚くこともできなかったらしい。
言葉で表現するならば、はあっ!?︎だろうか。多分、似たようなことは言った。
機嫌は最高に悪い。悪くなった。
物騒な雰囲気すらまとっていたかもしれない。
いつまでも彼自身の写真がそこから消えないのも拍車をかけた。
明らかに、
どうなってるんだこれ。
と顔に出してきた。
自分の顔がそんなに嫌なのか、気になるところだ。
モデルがいいので、綺麗に撮れていると思うのだが、本人はおかんむりである。
「ムービー撮って見せたらもっと怒るのかな」
言って、やるのはさすがにやめた。彼の不機嫌は理解できないことから始まっている。
ムービーなんて見せた日には、デバイスを投げられそうだ。思いっきり投げられたりして壊されたくない。
カメラに切り替えてやると、不機嫌のまま使い方を復習している。真面目な男だ。
結局、タブレットもスマフォも彼の手元にいってしまった。
真剣な顔の織姫を見るのは申し訳ないが飽きないので、暇まかせに織姫を見ることにした。
パシャパシャ、時折パシャシャシャシャー。
音が変わると静止するのは冷静なのだろうな、と思う。
普通なら、え!?とか、驚愕の声を上げてしまうものなのに。
「えーげー」
ふと、男性が声をかけてきた。
やはり名前、もしくは位がえーげーなのだろう。
声をかけてきた男は、そこそこ飾った格好だった。布の模様が細かい。帯に飾りもある。織姫と話すのに膝を折っており、囁くように近くで会話をした。
何を言っているかはもちろんわからないが、えーげーの言葉以外は殆ど耳に入ってこなかったので、内緒話のようだった。
男は織姫の言葉に小さく頷く。
その辺の従者たちより身分が高いのだろう。部下らしい雰囲気だった。部長とか、室長とか、そういうくらいの役職だろうか。
命名、課長。
部長にしては若いと思ったからだ。あくまでイメージだが。
屈んだまま数歩下がって、課長は立ち上がった。その姿をまじまじ見ていた理音と目が合った。怯えた顔でも向けられるかと思ったが、彼はふっと笑った。
嫌味のない笑い。そうして一礼、しとやかにその場を後にする。
大人の男の人、だ。
余裕のある微笑みと、雅な仕草。大人の色気だろうか。目を奪われた。
隣にいる男とは全く違うタイプだ。こちらを動とすれば課長は静とするほどに。
織姫は大人しそうな顔の割りに強情で自尊心も強く、その上偉そうだった。
実際偉いのだろうが、大人しい性格ではないだろう。顔と性格の一致はないように思えた。女顔でも軟弱そうなわけでもない。
隣にいるその男はカメラに飽きたのか、デバイスを両方放ってきた。もう十分触ったのだろう。まあ、一体何枚写真を撮ったのかは、後で確認することにする。
大きく鐘が鳴った。どうやらお開きらしい。
織姫が立ち上がると、舞台下の人々も一斉に立ち上がった。
織姫は退場だ。自分も行っていいだろうか。
すぐにお局が脇に寄ってきて、ここを去るように促してきた。そそくさと自分も退場する。
扉の中に入ると、もう織姫はいなかった。さっさと行ってしまったようだ。待たれても困るので構わないのだが。
お局がリュックを持ったまま、ついてくるようにと視線を送ってくる。
言われずともついていく気だ。
自分がいた部屋からここに来るまで、結構歩かされた。ついていかないと迷子になる。
道を覚えようと思ったが、思ったよりも長かったため覚えきれなかった。帰りも同じ道を通ってくれれば覚えられるのだが、どうやら道が違うようだった。
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