11 / 244
11 ー舞台ー
しおりを挟む
今日は髪をまとめているが、お団子の髪飾りがまた細かい。
ブランド物の高級ブレスレットのようで、金細工に宝石が散りばめられている。
王冠のような、サイズの小さめの髪飾り。
着物は袖裾共に、びらびらのものだった。足元を隠すほどの長さで、もちろん指先もすっぽりと隠されている。
体の線のわからない、重ね着のその多さ。
十二単だろうかと疑問に思う。それに近しい重ね着だった。
腰に帯が見られることから帯で締めているのだろうが、いくつもの羽織を着ているので体格はわからなかった。
そしてその模様の豪華なこと。鳳凰ような鳥、孔雀やキジのような羽模様の派手な鳥だ。
細々した模様はある種の絵画のようだった。しかもそれが刺繍である。
かといって、下品に見えないのがまた素晴らしい。
あれだけ重ね着をしているのに、調和がとれているのだから。
とにかく、恐ろしく長い時間を使って作ったものだろう。芸術作品だ。
しかも、着ている本人に似合うのがまた驚きだ。
服に着られるような気もするのだが、本人の美貌が華美さに優っている。
自分が着ている服は馬子にも衣装だとわかっている分、織姫が着こなせているのを見ると、心なしかひがみたくなるのだが。
しかし、何だって自分がこんな格好をしなければならないのだろう。
ちらりと一瞥する織姫が、内心何を思っているかはわからない。
霧氷の張った表情は、人を竦ませるには美しすぎた。
周りに待機している女性たちが、ほうっと感嘆の息を吐くのが聞こえる。
整いすぎる人形のような造形だ。それが、非現実さを増加させる気がする。
CGとでも言われれば、納得できるのだが。
織姫は、そのままお局に呪文を唱えた。頷くお局が、理音の手にしている物を奪おうとする。
リュックだ。
自分から荷物を離したくない。
だから、お局が置いていくように何度も言った。言ったと思われるが、頑として無視し持ってきたのだ。
しかし、やはり織姫は気に食わないと、それを置くように命令してきたのだろう。
綱引きのようにお局とリュックを引っ張り合ったが、他の女性たちも参戦してきて、結局奪われてしまった。
ただお局は側に控え、リュックをどこかにやろうとはしなかった。
だから仕方なく彼女にリュックを預けた。仕方なくだ。
そうこうしているうちに、扉が開いた。
それが、外への扉だと知ったのはすぐ後だった。
舞台。
一言で言うとそれだ。
織姫の後ろ姿は、舞台俳優さながらだ。
舞台には豪華絢爛なソファーやテーブル、その上に並べられたのは、大皿に乗せられた料理たち。
脇にあった背丈もある巨大花瓶に、花が活けられている。
その手前で立ち止まると、織姫はさっと片手を上げた。途端、怒濤の大声が響き渡った。
理音の耳には、えーげーと聞こえた。
それを数回復唱したのは、舞台下にいた人々だ。
道を挟むように、中央をあけて料理と人が遠くまで連なっている。
宴会場のようになっているが、そこは大きな広場だった。
そこで何百、何千という人々が舞台を見上げている。
映画のワンシーンのようだと思った。
古代の王族の宴会シーン、さながらなのだ。
織姫は、声が止む前にソファーに腰を下ろした。
背もたれも腕置きもある、ソファーは座り心地がとても良さそうだった。
理音はその後ろでただ呆けて見ていたが、お局がそっと理音に動くように促した。織姫の隣が空いている。そこに座れと言うのだ。
はっきり言おう。
お断りする。
隣に座る意味がわからない。そして、こんな大舞台に乗りたくない。
女性がリュックを持ってきてくれたが、理音は踵を返した。そそくさと逃げることにした。
奪い取ったリュックを持って来た扉へ戻ろうとすると、槍を持った従者たちが立ちはだかる。そこでぱっと女性がリュックを奪い返した。逃げるようにお局に渡すと、彼女はソファーの脇に置いてにこりと笑んだ。
その笑みが怖い。
そしてそこにリュックを置くとは、理音の心をよく理解している。
どうぞ、とお局はソファーへ促す。両膝を地面につけた彼女は、敬うように頭を下げた。
誰に下げているのかと甚だ疑問だが、織姫の命令は強固なようだ。
鋭い視線を感じて、大きくため息ついた。
ソファーに座りながらも織姫はこちらを睨みつけてくる。
なんだかな。
よって、当初の予定通りソファーに座ることになった。
初めからやれよ。の視線が飛んでくる。
いちいち睨みつけないでいただきたいものだ。
ソファーから眺める景色はまた格段なもので、人々から舞台上にいる二人、織姫と理音に多くの視線を飛ばすのは当然だった。
ことに理音は異質なのだろう。わかりやすく舞台近くにいる者たちは、理音を視線に入れながらこそこそと話している。
どう見ても良い話をしているようには思えなかった。
織姫が高位の者だとはわかっていたが、どうやらこの場所で一番の身分を持つ者なのだと理解する。
言うなれば王様だろうか。
その隣に座る理音が、なんとも滑稽で仕方がない。そう自分で思う。
居心地の悪さはそれだけでなく、頭の重みと服の重さでも増してくる気がした。その上これだけの大人数であるのに、舞台に人が上がるとシンと静まった。
仰々しい、儀式のように思えた。
うやうやしく首を垂れて、何かしらの口上を唱える。織姫は真っ直ぐにそれを見据えて、頷きもしない。
ただの観客であれば写真でも撮るのに。
スマフォはちゃっかり手に持っているので、写真を撮ろうと思えばいつでも撮れるのだが、さすがにこの状況でカメラ音は出せない。
舞台下は、皆舞台上に注目していた。
舞台に上がるなんて中学校の卒業式以来だ。卒業証書を手にして礼をする。その程度。
今ここにいる舞台は、その規模も派手さも比べようもないのだが。
そうこうすると、織姫が盃を持って立ち上がった。
彼の呪文は、マイクも使っていないのに広場に響き、誰もがその声を聞いた。
彼は王だ。
この場所で、舞台下の皆の王なのだ。
その威厳と風格は、年若いのに当然のごとく備わっている。
焦りも困惑もなく、冷静さを欠くこともない。顔色ひとつ変えない。
これだけの人々の前で声を上げているのに。
言葉が終われば、どっと地面から突き上げるような歓声が湧いた。
えーげーりーあるあ。
復唱する言葉が何か、考えなくてもわかる気がした。
皇帝万歳だ。
だからなおさら、なぜ自分がここに座らなければならないのかが、どうしても理解できなかった。
ブランド物の高級ブレスレットのようで、金細工に宝石が散りばめられている。
王冠のような、サイズの小さめの髪飾り。
着物は袖裾共に、びらびらのものだった。足元を隠すほどの長さで、もちろん指先もすっぽりと隠されている。
体の線のわからない、重ね着のその多さ。
十二単だろうかと疑問に思う。それに近しい重ね着だった。
腰に帯が見られることから帯で締めているのだろうが、いくつもの羽織を着ているので体格はわからなかった。
そしてその模様の豪華なこと。鳳凰ような鳥、孔雀やキジのような羽模様の派手な鳥だ。
細々した模様はある種の絵画のようだった。しかもそれが刺繍である。
かといって、下品に見えないのがまた素晴らしい。
あれだけ重ね着をしているのに、調和がとれているのだから。
とにかく、恐ろしく長い時間を使って作ったものだろう。芸術作品だ。
しかも、着ている本人に似合うのがまた驚きだ。
服に着られるような気もするのだが、本人の美貌が華美さに優っている。
自分が着ている服は馬子にも衣装だとわかっている分、織姫が着こなせているのを見ると、心なしかひがみたくなるのだが。
しかし、何だって自分がこんな格好をしなければならないのだろう。
ちらりと一瞥する織姫が、内心何を思っているかはわからない。
霧氷の張った表情は、人を竦ませるには美しすぎた。
周りに待機している女性たちが、ほうっと感嘆の息を吐くのが聞こえる。
整いすぎる人形のような造形だ。それが、非現実さを増加させる気がする。
CGとでも言われれば、納得できるのだが。
織姫は、そのままお局に呪文を唱えた。頷くお局が、理音の手にしている物を奪おうとする。
リュックだ。
自分から荷物を離したくない。
だから、お局が置いていくように何度も言った。言ったと思われるが、頑として無視し持ってきたのだ。
しかし、やはり織姫は気に食わないと、それを置くように命令してきたのだろう。
綱引きのようにお局とリュックを引っ張り合ったが、他の女性たちも参戦してきて、結局奪われてしまった。
ただお局は側に控え、リュックをどこかにやろうとはしなかった。
だから仕方なく彼女にリュックを預けた。仕方なくだ。
そうこうしているうちに、扉が開いた。
それが、外への扉だと知ったのはすぐ後だった。
舞台。
一言で言うとそれだ。
織姫の後ろ姿は、舞台俳優さながらだ。
舞台には豪華絢爛なソファーやテーブル、その上に並べられたのは、大皿に乗せられた料理たち。
脇にあった背丈もある巨大花瓶に、花が活けられている。
その手前で立ち止まると、織姫はさっと片手を上げた。途端、怒濤の大声が響き渡った。
理音の耳には、えーげーと聞こえた。
それを数回復唱したのは、舞台下にいた人々だ。
道を挟むように、中央をあけて料理と人が遠くまで連なっている。
宴会場のようになっているが、そこは大きな広場だった。
そこで何百、何千という人々が舞台を見上げている。
映画のワンシーンのようだと思った。
古代の王族の宴会シーン、さながらなのだ。
織姫は、声が止む前にソファーに腰を下ろした。
背もたれも腕置きもある、ソファーは座り心地がとても良さそうだった。
理音はその後ろでただ呆けて見ていたが、お局がそっと理音に動くように促した。織姫の隣が空いている。そこに座れと言うのだ。
はっきり言おう。
お断りする。
隣に座る意味がわからない。そして、こんな大舞台に乗りたくない。
女性がリュックを持ってきてくれたが、理音は踵を返した。そそくさと逃げることにした。
奪い取ったリュックを持って来た扉へ戻ろうとすると、槍を持った従者たちが立ちはだかる。そこでぱっと女性がリュックを奪い返した。逃げるようにお局に渡すと、彼女はソファーの脇に置いてにこりと笑んだ。
その笑みが怖い。
そしてそこにリュックを置くとは、理音の心をよく理解している。
どうぞ、とお局はソファーへ促す。両膝を地面につけた彼女は、敬うように頭を下げた。
誰に下げているのかと甚だ疑問だが、織姫の命令は強固なようだ。
鋭い視線を感じて、大きくため息ついた。
ソファーに座りながらも織姫はこちらを睨みつけてくる。
なんだかな。
よって、当初の予定通りソファーに座ることになった。
初めからやれよ。の視線が飛んでくる。
いちいち睨みつけないでいただきたいものだ。
ソファーから眺める景色はまた格段なもので、人々から舞台上にいる二人、織姫と理音に多くの視線を飛ばすのは当然だった。
ことに理音は異質なのだろう。わかりやすく舞台近くにいる者たちは、理音を視線に入れながらこそこそと話している。
どう見ても良い話をしているようには思えなかった。
織姫が高位の者だとはわかっていたが、どうやらこの場所で一番の身分を持つ者なのだと理解する。
言うなれば王様だろうか。
その隣に座る理音が、なんとも滑稽で仕方がない。そう自分で思う。
居心地の悪さはそれだけでなく、頭の重みと服の重さでも増してくる気がした。その上これだけの大人数であるのに、舞台に人が上がるとシンと静まった。
仰々しい、儀式のように思えた。
うやうやしく首を垂れて、何かしらの口上を唱える。織姫は真っ直ぐにそれを見据えて、頷きもしない。
ただの観客であれば写真でも撮るのに。
スマフォはちゃっかり手に持っているので、写真を撮ろうと思えばいつでも撮れるのだが、さすがにこの状況でカメラ音は出せない。
舞台下は、皆舞台上に注目していた。
舞台に上がるなんて中学校の卒業式以来だ。卒業証書を手にして礼をする。その程度。
今ここにいる舞台は、その規模も派手さも比べようもないのだが。
そうこうすると、織姫が盃を持って立ち上がった。
彼の呪文は、マイクも使っていないのに広場に響き、誰もがその声を聞いた。
彼は王だ。
この場所で、舞台下の皆の王なのだ。
その威厳と風格は、年若いのに当然のごとく備わっている。
焦りも困惑もなく、冷静さを欠くこともない。顔色ひとつ変えない。
これだけの人々の前で声を上げているのに。
言葉が終われば、どっと地面から突き上げるような歓声が湧いた。
えーげーりーあるあ。
復唱する言葉が何か、考えなくてもわかる気がした。
皇帝万歳だ。
だからなおさら、なぜ自分がここに座らなければならないのかが、どうしても理解できなかった。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる