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7 ー冷静ー
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例えば、目を開けて周りを見渡せば、いつも自分が見る部屋の中で、目覚ましを止めて起き上がる。
素晴らしく当たり前で通常の日々というものは、失ってから何と幸福なことだったのか気づくのだろうか。
朝六時、目覚ましは平日必ず同じ時間に鳴る。
目覚ましの音楽はランダムで、それが目覚ましだと気づかず、うっかり一章聞きそうになってしまうのが、曲で起きる時の注意事項である。
好きな歌だと、なおさら聞いてしまうではないか。サビにいくまであと少し。それを聞きたい。
それを思った時は、寝ぼけている時である。
もぞもぞと、枕元にあるスマフォに手を伸ばして目覚ましを切ると、うんと腕を伸ばした。顎が外れんばかりのあくびを一つして、むくりと起き上がる。
ベッドから起きて、すぐ制服に着替えるのがいつもの流れだ。パジャマを脱いで、シワのないブラウスに手をかけて…。
起き上がった寝所で、理音はパンツ一丁とTシャツ一枚の姿に、肩を大きく下ろした。
寝る前に、裾も袖も長い、ずるずるした着物を着させられたのだが、それで眠るのはどうにも寝心地が悪いので、後で着替え直したのだ。帯をしたままで眠るなんてできない。
ただでさえ寝相が悪くて、パジャマでもはだけるのに。浴衣の裾袖長いバージョンで眠ったりでもしたら、みの虫のごとく布でぐるぐる巻きになるのがわかっていた。
昨日と同じ制服を着て、人心地ついて、そして思う。
「顔、洗いたい」
うがいもしたい。トイレも行きたい。
トイレの場所は昨日教えてもらったので、部屋を出て勝手に行くことにした。
どうやって教えてもらえたかは割愛する。女子高生として、あるまじき行動をしたことは言うまでもないのだが。
とりあえずトイレは水洗ではなかった。それは当然ですね。
手を洗う場所がなかった。これも中々ショックなことになります。
けれど近くに小川があり、水を貯めるカメがあるので、そこでささっと洗うことにした。ついでに顔も洗う。石鹸などはないので、顔に水をつけるだけなのだが、それは目を瞑るしかない。
朝六時は過ぎているが、この時間がこの場所で目覚めに適切な時間かはわからなかった。
日は朝日のように感じるので、朝だとは思うのだ。人が動いているので、六時に起きたのが妥当だったのかはわからない。
朝日と共に起きて、日が沈むと共に眠るなんてことはないだろう。昨夜はロウソクをつけていたのだし。
歩めば女性たちは理音を視野に入れると、そそくさと逃げていく。すがすがしくも悲しいできごとだ。
大体、声をかけてくる女性もどこか怯えており、近づきたくないという気持ちがダダ漏れしていた。
昨日も思ったが、どの人間も理音に対して明らかに臆している。気にせず対峙してくるのは織姫だけだろう。従者たちに至っても、顕著にわかる怯えぶりだったのだから。
理音の格好が、彼らにとって奇抜だからだろうか。それは謎だ。
理音からすれば彼らの方がコスプレなのだけれど、皆が皆同じコスプレならば、理音が異質になる。
そりゃそうか。ここは日本じゃない。
ここがどこかと思うよりも、家に帰りたい気持ちでいっぱいだ。
まず、風呂に入りたい。頭を洗いたい。
基本的な日常を変えられると、不快になるものなのだ。風呂入りたい。
これだけ庭が広いのだから温泉でもあればいいのにとせんなきことを考えて、理音は朝の散歩と決め込んだ。
お腹が減っても、ご飯も食べられないし水も飲めない。昨日の残った水を少し口にして、我慢するしかなかった。
今考えれば、昨日食事をいただいた時に、こっそりお茶をペットボトルに入れておけばと後悔している。
食べている時に周りに人はいなかったし、自分のあてがわれた部屋であったのだから、誰も見ていない。
念のため、保管しておける食事も取っておいた方がいいだろう。お腹が空いた時に、少しでも口に入れられるように。
別に、食い意地がはっているわけではない。けれど、欲しいと思った時にすぐに手に入らない場所なのだ、ここは。
近くにコンビニがあるわけでもない。自宅ではないのだから、食料も飲み物もない。どこに行けばそれが手に入り、また、それをどうやって手に入れられるのかが、理音にはわからなかった。
何と言っても、言葉が通じないのだから。
そして、人々は理音を遠巻きに見る。
避けて逃げて、腫れ物に触れるかのような態度をしながら、恐怖心を持っていた。
招かざる客なのだ。
それに気づいた。
けれど、邪険にするわけではないから、よくわからないのだ。
この場所が誰の物かはわからないが、ここにいる女性たちや従者たちはみな同じ着物を着ており、それがまるで制服のようなものだとしたら、ここは誰かの城なのだろう。
候補としては織姫になる。
一番豪華で派手な服を着ているのは、彼だけだ。他にもそんな服を着た誰かがいるかもしれないが、今のところ彼が有力候補だった。
だとしたら、織姫が理音をこの城に留めているのである。
食事を与えるのも、部屋を与えるのも、彼の命令なのだ。
自由にされているが、それもこの場所だけ。渡り廊下の先、塀の向こうに行こうとすると、男が槍を持って扉をふさいだ。
多分、どの道も閉ざされている。
自由にできるのは、庭と渡り廊下で繋がった一部の建物の中だけだった。
勝手に入り込んだ建物は女性がいたが、特に何か咎められるようなことはなかった。ただ、悲鳴を上げられたのだが。
行ける場所を一周しようかと思ったが、かなり広いので、ほどほどにして戻ることにした。
喉も渇いたし、お腹も減った。戻れば食事をもらえるだろうか。そうであれば、ここにいられるのは幸運なのだろう。路頭に迷い餓死するくらいなら、ここはよほどいい場所だ。タダで衣食住が可能なのだから。
それが、どんな理由で施されているかわからなくとも。
今の理音は、そう思うしかなかった。
素晴らしく当たり前で通常の日々というものは、失ってから何と幸福なことだったのか気づくのだろうか。
朝六時、目覚ましは平日必ず同じ時間に鳴る。
目覚ましの音楽はランダムで、それが目覚ましだと気づかず、うっかり一章聞きそうになってしまうのが、曲で起きる時の注意事項である。
好きな歌だと、なおさら聞いてしまうではないか。サビにいくまであと少し。それを聞きたい。
それを思った時は、寝ぼけている時である。
もぞもぞと、枕元にあるスマフォに手を伸ばして目覚ましを切ると、うんと腕を伸ばした。顎が外れんばかりのあくびを一つして、むくりと起き上がる。
ベッドから起きて、すぐ制服に着替えるのがいつもの流れだ。パジャマを脱いで、シワのないブラウスに手をかけて…。
起き上がった寝所で、理音はパンツ一丁とTシャツ一枚の姿に、肩を大きく下ろした。
寝る前に、裾も袖も長い、ずるずるした着物を着させられたのだが、それで眠るのはどうにも寝心地が悪いので、後で着替え直したのだ。帯をしたままで眠るなんてできない。
ただでさえ寝相が悪くて、パジャマでもはだけるのに。浴衣の裾袖長いバージョンで眠ったりでもしたら、みの虫のごとく布でぐるぐる巻きになるのがわかっていた。
昨日と同じ制服を着て、人心地ついて、そして思う。
「顔、洗いたい」
うがいもしたい。トイレも行きたい。
トイレの場所は昨日教えてもらったので、部屋を出て勝手に行くことにした。
どうやって教えてもらえたかは割愛する。女子高生として、あるまじき行動をしたことは言うまでもないのだが。
とりあえずトイレは水洗ではなかった。それは当然ですね。
手を洗う場所がなかった。これも中々ショックなことになります。
けれど近くに小川があり、水を貯めるカメがあるので、そこでささっと洗うことにした。ついでに顔も洗う。石鹸などはないので、顔に水をつけるだけなのだが、それは目を瞑るしかない。
朝六時は過ぎているが、この時間がこの場所で目覚めに適切な時間かはわからなかった。
日は朝日のように感じるので、朝だとは思うのだ。人が動いているので、六時に起きたのが妥当だったのかはわからない。
朝日と共に起きて、日が沈むと共に眠るなんてことはないだろう。昨夜はロウソクをつけていたのだし。
歩めば女性たちは理音を視野に入れると、そそくさと逃げていく。すがすがしくも悲しいできごとだ。
大体、声をかけてくる女性もどこか怯えており、近づきたくないという気持ちがダダ漏れしていた。
昨日も思ったが、どの人間も理音に対して明らかに臆している。気にせず対峙してくるのは織姫だけだろう。従者たちに至っても、顕著にわかる怯えぶりだったのだから。
理音の格好が、彼らにとって奇抜だからだろうか。それは謎だ。
理音からすれば彼らの方がコスプレなのだけれど、皆が皆同じコスプレならば、理音が異質になる。
そりゃそうか。ここは日本じゃない。
ここがどこかと思うよりも、家に帰りたい気持ちでいっぱいだ。
まず、風呂に入りたい。頭を洗いたい。
基本的な日常を変えられると、不快になるものなのだ。風呂入りたい。
これだけ庭が広いのだから温泉でもあればいいのにとせんなきことを考えて、理音は朝の散歩と決め込んだ。
お腹が減っても、ご飯も食べられないし水も飲めない。昨日の残った水を少し口にして、我慢するしかなかった。
今考えれば、昨日食事をいただいた時に、こっそりお茶をペットボトルに入れておけばと後悔している。
食べている時に周りに人はいなかったし、自分のあてがわれた部屋であったのだから、誰も見ていない。
念のため、保管しておける食事も取っておいた方がいいだろう。お腹が空いた時に、少しでも口に入れられるように。
別に、食い意地がはっているわけではない。けれど、欲しいと思った時にすぐに手に入らない場所なのだ、ここは。
近くにコンビニがあるわけでもない。自宅ではないのだから、食料も飲み物もない。どこに行けばそれが手に入り、また、それをどうやって手に入れられるのかが、理音にはわからなかった。
何と言っても、言葉が通じないのだから。
そして、人々は理音を遠巻きに見る。
避けて逃げて、腫れ物に触れるかのような態度をしながら、恐怖心を持っていた。
招かざる客なのだ。
それに気づいた。
けれど、邪険にするわけではないから、よくわからないのだ。
この場所が誰の物かはわからないが、ここにいる女性たちや従者たちはみな同じ着物を着ており、それがまるで制服のようなものだとしたら、ここは誰かの城なのだろう。
候補としては織姫になる。
一番豪華で派手な服を着ているのは、彼だけだ。他にもそんな服を着た誰かがいるかもしれないが、今のところ彼が有力候補だった。
だとしたら、織姫が理音をこの城に留めているのである。
食事を与えるのも、部屋を与えるのも、彼の命令なのだ。
自由にされているが、それもこの場所だけ。渡り廊下の先、塀の向こうに行こうとすると、男が槍を持って扉をふさいだ。
多分、どの道も閉ざされている。
自由にできるのは、庭と渡り廊下で繋がった一部の建物の中だけだった。
勝手に入り込んだ建物は女性がいたが、特に何か咎められるようなことはなかった。ただ、悲鳴を上げられたのだが。
行ける場所を一周しようかと思ったが、かなり広いので、ほどほどにして戻ることにした。
喉も渇いたし、お腹も減った。戻れば食事をもらえるだろうか。そうであれば、ここにいられるのは幸運なのだろう。路頭に迷い餓死するくらいなら、ここはよほどいい場所だ。タダで衣食住が可能なのだから。
それが、どんな理由で施されているかわからなくとも。
今の理音は、そう思うしかなかった。
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