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第7章 サウンド・ドラッグ
7-1 知らせ
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「ひなの、落ち着いて聞いてね」
美咲から電話。
しっかり者の美咲がこう言うときって、大抵悪い知らせだ。
「ぽめPが、また入院した」
ふっと、体の力が抜けた。
「うそ」
部屋のデスク脇に立っていたわたしは、へなへなとベッド上に崩れた。
「聞いてる? ひなの、大丈夫?」
「うん……聞いてる、聞いてる」
どどっと心臓が駆け出すのを我慢して、頑張って会話を続ける。
だけど、美咲にはお見通しのようだった。
わたしがパニックにならないか心配して、言葉を選びながら情報を伝えてくれる。
「新宿の王鳴記念病院にいるって、モラさんが教えてくれた。そこはかかりつけのお医者さんがいる病院で、今日はちょうど定期診察の日だったの。そしたら院内でまた突然具合が悪くなって――」
1か月前、急に目まいが起きて救急車を呼んだときのことを思い出す。
退院して、お仕事に復帰して、「サウンド・ドラッグ」の活動もまた動き始めた。
それなのに、また入院だなんて信じたくない。
「あと、これが一番大事なことなんだけど」
美咲が言いにくそうに切り出した。
「お見舞いには来てほしくないんだって。誰にも」
「誰にも?」
ちょうど、お見舞いに行きたいと言おうとしていたところだった。
だからなんだか、美咲に見透かされたような気がした。
だけどその前に、ぽめ兄に見透かされていたんだと思った。
「ぽめ兄に聞いてみる~」
「あ、ひなの、ちょっと!」
美咲には悪いけど、通話を切った。
ぽめ兄のLINE画面に切り替えた。
実家で飼っていた、真っ白ふわふわなポメラニアンのアイコン画像。
わたしは美咲から聞いた「誰にも」という言葉を信じていなかった。
だって、ぽめ兄は優しい。
わたしが入院したとき、病室でいつでも話に付き合ってくれた。
どんな気持ちも否定しないで聞いてくれた。どんなときも笑ってた。
「お見舞いに行きたいな」
わたしのLINEに既読はすぐに付いた。
返ってきたのは「来ないで」の4文字。
状況が理解できなかった。
ぽめ兄がわたしを拒否すること、今までなかった。
「どうして?」
震える指で入力した。
今度は「誰にも会いたくない」の返事。
それ以上、何も聞けなかった。
「わかった」と入力して、「お大事に」のスタンプを送る。
既読はまたすぐ付いて、あとはもう、何も返ってこなかった。
通知の鳴らないスマホを抱いて、わたしはベッドでうずくまった。
涙が込み上げる。
ぽめ兄はわたしにたくさんの出会いと喜びをくれた。
それなのに、わたしはぽめ兄の絶望を見ていることしかできない――。
美咲から電話。
しっかり者の美咲がこう言うときって、大抵悪い知らせだ。
「ぽめPが、また入院した」
ふっと、体の力が抜けた。
「うそ」
部屋のデスク脇に立っていたわたしは、へなへなとベッド上に崩れた。
「聞いてる? ひなの、大丈夫?」
「うん……聞いてる、聞いてる」
どどっと心臓が駆け出すのを我慢して、頑張って会話を続ける。
だけど、美咲にはお見通しのようだった。
わたしがパニックにならないか心配して、言葉を選びながら情報を伝えてくれる。
「新宿の王鳴記念病院にいるって、モラさんが教えてくれた。そこはかかりつけのお医者さんがいる病院で、今日はちょうど定期診察の日だったの。そしたら院内でまた突然具合が悪くなって――」
1か月前、急に目まいが起きて救急車を呼んだときのことを思い出す。
退院して、お仕事に復帰して、「サウンド・ドラッグ」の活動もまた動き始めた。
それなのに、また入院だなんて信じたくない。
「あと、これが一番大事なことなんだけど」
美咲が言いにくそうに切り出した。
「お見舞いには来てほしくないんだって。誰にも」
「誰にも?」
ちょうど、お見舞いに行きたいと言おうとしていたところだった。
だからなんだか、美咲に見透かされたような気がした。
だけどその前に、ぽめ兄に見透かされていたんだと思った。
「ぽめ兄に聞いてみる~」
「あ、ひなの、ちょっと!」
美咲には悪いけど、通話を切った。
ぽめ兄のLINE画面に切り替えた。
実家で飼っていた、真っ白ふわふわなポメラニアンのアイコン画像。
わたしは美咲から聞いた「誰にも」という言葉を信じていなかった。
だって、ぽめ兄は優しい。
わたしが入院したとき、病室でいつでも話に付き合ってくれた。
どんな気持ちも否定しないで聞いてくれた。どんなときも笑ってた。
「お見舞いに行きたいな」
わたしのLINEに既読はすぐに付いた。
返ってきたのは「来ないで」の4文字。
状況が理解できなかった。
ぽめ兄がわたしを拒否すること、今までなかった。
「どうして?」
震える指で入力した。
今度は「誰にも会いたくない」の返事。
それ以上、何も聞けなかった。
「わかった」と入力して、「お大事に」のスタンプを送る。
既読はまたすぐ付いて、あとはもう、何も返ってこなかった。
通知の鳴らないスマホを抱いて、わたしはベッドでうずくまった。
涙が込み上げる。
ぽめ兄はわたしにたくさんの出会いと喜びをくれた。
それなのに、わたしはぽめ兄の絶望を見ていることしかできない――。
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