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第6章 雑音の美学
6-2 別れ話
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翌日の昼休み、屋上につながる階段に向かった。
暗い廊下、動かない空気、隅っこの埃。
教室の窓から差し込む日差しはインドアな俺には眩しすぎて、仲間と過ごす暗がりの方が心地よかった。
「ぽめPのインタビューが載った雑誌、来月発売だって」
「楽しみ! 最近は体調、大丈夫なのかな」
先に来ていたひなのと美咲、桃花がおしゃべりしていた。
「けっこうボロボロらしいよ」
「一人暮らしだよね。ちゃんとご飯食べてるかな」
桃花がぱっと顔を赤くした。
「……わたしで良かったら、作りに行ってあげたい」
「ぽめ兄は料理上手だから、桃花の焦げ焦げはいらない~」
「なんだと」
ひなのと桃花がわーわー騒いで、美咲がなだめるいつものパターン。
いつもの光景が、今日はなんだか、イライラする。
ぽめPには、そういう顔するんだ。
恋してる女の子の顔。
付き合って半年、俺には顔を赤らめてくれないのに。
桃花、と彼女の名前を読んでみる。
「別れない? 俺たち」
リアコなんでしょ、と呟いた。
一瞬で空気が冷え切って、その場の誰もが動きを止めた。
「え、なんで」
そんなことないよ、という声が震えていた。
「リアコって何?」
「推しを超えてリアルに恋してる、の略」
ひなのと美咲がひそひそ声で話した。
「ぽめPはただの推しだって。わたしの好きピは拓海だけって言ってんじゃん」
「だから――そういうの、もういいよ」
俺だって、傷つくよ。
吐き捨てた言葉に、桃花は目を潤めてうつ向いた。
「ごめん」
どたどたとうるさい靴音が響いた。
「遅くなった~!」
購買までパンを買いに行っていたやぎすけが合流して、一人騒ぎ出した。
「今日はめっちゃ混んでてさあ! 俺の好きな銀チョコがもうなくって――」
「うるさい!」
美咲がぴしゃりと言うと、従順な犬のように静まった。
「……何の話をしてたんだ?」
「別に」
俺は食べかけのカットフルーツを一つ口に突っ込んだ。
グレープフルーツの華やかな香りの後に、ほろ苦い味が舌の上に広がった。
暗い廊下、動かない空気、隅っこの埃。
教室の窓から差し込む日差しはインドアな俺には眩しすぎて、仲間と過ごす暗がりの方が心地よかった。
「ぽめPのインタビューが載った雑誌、来月発売だって」
「楽しみ! 最近は体調、大丈夫なのかな」
先に来ていたひなのと美咲、桃花がおしゃべりしていた。
「けっこうボロボロらしいよ」
「一人暮らしだよね。ちゃんとご飯食べてるかな」
桃花がぱっと顔を赤くした。
「……わたしで良かったら、作りに行ってあげたい」
「ぽめ兄は料理上手だから、桃花の焦げ焦げはいらない~」
「なんだと」
ひなのと桃花がわーわー騒いで、美咲がなだめるいつものパターン。
いつもの光景が、今日はなんだか、イライラする。
ぽめPには、そういう顔するんだ。
恋してる女の子の顔。
付き合って半年、俺には顔を赤らめてくれないのに。
桃花、と彼女の名前を読んでみる。
「別れない? 俺たち」
リアコなんでしょ、と呟いた。
一瞬で空気が冷え切って、その場の誰もが動きを止めた。
「え、なんで」
そんなことないよ、という声が震えていた。
「リアコって何?」
「推しを超えてリアルに恋してる、の略」
ひなのと美咲がひそひそ声で話した。
「ぽめPはただの推しだって。わたしの好きピは拓海だけって言ってんじゃん」
「だから――そういうの、もういいよ」
俺だって、傷つくよ。
吐き捨てた言葉に、桃花は目を潤めてうつ向いた。
「ごめん」
どたどたとうるさい靴音が響いた。
「遅くなった~!」
購買までパンを買いに行っていたやぎすけが合流して、一人騒ぎ出した。
「今日はめっちゃ混んでてさあ! 俺の好きな銀チョコがもうなくって――」
「うるさい!」
美咲がぴしゃりと言うと、従順な犬のように静まった。
「……何の話をしてたんだ?」
「別に」
俺は食べかけのカットフルーツを一つ口に突っ込んだ。
グレープフルーツの華やかな香りの後に、ほろ苦い味が舌の上に広がった。
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