48 / 69
第5章 絵師の祈り色
5-8 家族
しおりを挟む
救急科から戻ったわたしたちを見て、ひなのがおかえりと笑顔を見せた。
「ぽめ兄のお父さんお母さん、まだ来てない~」
「ああ、お留守番サンキュ。助かったよ」
さぼじろーさんが屈んで、ひなのと目線を合わせる。
「駿は入院するけど、念のためだから心配いらないって。後はスタッフさんに任せて、俺たちは帰ろう」
「らじゃ」
家族の来院が嘘だったことは、もちろん言わない。
わたしたちはエントランスを出て、駅に向かった。
間もなくして、ひなののお母さんがロータリーまで車で迎えにきた。
わたしのことも送ると言ってくれたけど、寄りたい場所があるからと断った。
無言のまま、さぼじろーさんと改札に向かう。
「……今日は、ありがとうございました」
「おう」
「勉強になりました。ちゃんと将来のこと考えようって――」
隣をちらりと見ると、彼はどこか一点を見つめていた。
「さぼじろーさん?」
視線の先には、タクシーから降りる家族連れ。
お父さんお母さんと、小学生くらいの女の子、その弟らしき男の子。
外出がうれしいのか、きゃっきゃと笑い合っている。
「知り合いですか?」
さぼじろーさんは少し迷ってから、いや、と首を振った。
「何でもない」
その表情が寂しげで、わたしは言葉を繋いだ。
「……よく笑う、元気なきょうだいですね」
そうだな、と言葉が返ってくる。
「なんか、子どもの頃の俺と姉ちゃんみたいだなって」
「えっ、お姉さんがいるんですか?」
驚いて、目を見開いた。
初めて聞く、さぼじろーさん――いや、恭平さんの家族の話。
「いや……姉ちゃんは、もう、いないよ」
駅の雑音が、すべて消えてなくなったように感じた。
「姉ちゃんは、俺が大学生のときに」
それ以上、言葉はなかった。
伏せた目がさぼじろーさんらしくなくて、胸がぎゅっとした。
「わたしも3年前、父をがんで亡くしたんです」
勇気を出して、沈黙を破った。
さぼじろーさんの瞳が動いて、ゆっくりとわたしを見た。
「今日、大きい病院に入ったのはそのとき以来で――少し、寂しくなってしまいました」
家族連れはわたしたちに振り向きもせず、楽しそうに近くのファミレスに入っていった。
「あの家族は、幸せになってほしいですよね」
「ああ、そうだな」
互いの痛みは分かり合えない。
それでも、わたしたちは――雑踏の中で、見つめ合っていた。
「ぽめ兄のお父さんお母さん、まだ来てない~」
「ああ、お留守番サンキュ。助かったよ」
さぼじろーさんが屈んで、ひなのと目線を合わせる。
「駿は入院するけど、念のためだから心配いらないって。後はスタッフさんに任せて、俺たちは帰ろう」
「らじゃ」
家族の来院が嘘だったことは、もちろん言わない。
わたしたちはエントランスを出て、駅に向かった。
間もなくして、ひなののお母さんがロータリーまで車で迎えにきた。
わたしのことも送ると言ってくれたけど、寄りたい場所があるからと断った。
無言のまま、さぼじろーさんと改札に向かう。
「……今日は、ありがとうございました」
「おう」
「勉強になりました。ちゃんと将来のこと考えようって――」
隣をちらりと見ると、彼はどこか一点を見つめていた。
「さぼじろーさん?」
視線の先には、タクシーから降りる家族連れ。
お父さんお母さんと、小学生くらいの女の子、その弟らしき男の子。
外出がうれしいのか、きゃっきゃと笑い合っている。
「知り合いですか?」
さぼじろーさんは少し迷ってから、いや、と首を振った。
「何でもない」
その表情が寂しげで、わたしは言葉を繋いだ。
「……よく笑う、元気なきょうだいですね」
そうだな、と言葉が返ってくる。
「なんか、子どもの頃の俺と姉ちゃんみたいだなって」
「えっ、お姉さんがいるんですか?」
驚いて、目を見開いた。
初めて聞く、さぼじろーさん――いや、恭平さんの家族の話。
「いや……姉ちゃんは、もう、いないよ」
駅の雑音が、すべて消えてなくなったように感じた。
「姉ちゃんは、俺が大学生のときに」
それ以上、言葉はなかった。
伏せた目がさぼじろーさんらしくなくて、胸がぎゅっとした。
「わたしも3年前、父をがんで亡くしたんです」
勇気を出して、沈黙を破った。
さぼじろーさんの瞳が動いて、ゆっくりとわたしを見た。
「今日、大きい病院に入ったのはそのとき以来で――少し、寂しくなってしまいました」
家族連れはわたしたちに振り向きもせず、楽しそうに近くのファミレスに入っていった。
「あの家族は、幸せになってほしいですよね」
「ああ、そうだな」
互いの痛みは分かり合えない。
それでも、わたしたちは――雑踏の中で、見つめ合っていた。
2
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】
S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。
物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。
夏の決意
S.H.L
青春
主人公の遥(はるか)は高校3年生の女子バスケットボール部のキャプテン。部員たちとともに全国大会出場を目指して練習に励んでいたが、ある日、突然のアクシデントによりチームは崩壊の危機に瀕する。そんな中、遥は自らの決意を示すため、坊主頭になることを決意する。この決意はチームを再び一つにまとめるきっかけとなり、仲間たちとの絆を深め、成長していく青春ストーリー。
全体的にどうしようもない高校生日記
天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。
ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる