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第5章 絵師の祈り色
5-4 相談
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「は? なんで俺が進路の相談に乗らなきゃいけないわけ?」
Discordの通話機能で繋がった、憧れの絵師の声。
ひなのの提案通り、さぼじろーさんに進路のアドバイスを求めた。
だけど、返ってきたのは拒否的な色。
「進路なんてさあ、先生とか先輩に聞けばいいじゃん。俺はそんな暇ないっつーの」
配信ではもっとテンションが高くて、「陽気な気のいいお兄さん」だったのに。
「そう、ですよね……すみません」
知り合いになれたとはいえ、わたしなんてただの高校生。
生意気なことを言ってしまった。だけど、簡単に引き下がりたくない。
「……ひなのと過ごすうちに、絵にはすごい力があるって感じるようになったんです」
短くて長い、3秒くらいの沈黙。
ふー、と息を吐きだす気だるい音が聞こえた。
「別に、趣味で良くね?」
「え」
「言っとくけど、美大に進んだからといって、必ず成功する訳じゃねーからな」
さぼじろーさんはちゃんと真剣に考えてくれていた。
「そりゃあ制作に集中するのに、美大の環境はすごくいいよ。仲間がいて、専門の教授がいて、講座や求人の情報も入ってくる。だけどそもそもイラストレーターってのは資格が要らないんだよ。この意味が分かるか?」
「他の進路から挑戦することもできる……ってことですか」
「そう。結局はその人次第なんだぜ」
その人次第――。重い言葉がのしかかる。
「何だか、きみは『人の顔色ばっかり見て、自分で物事を決めるのが苦手』ってかんじだな。違う?」
「どうして分かるんですか」
「うーん、何となく。意志が弱そう」
きい、とデスクチェアが軋む音が聞こえてきた。
「その人の性格とか雰囲気は、隠し切れないもんだよ」
意志の弱さ。わたしが今、一番悩んでいること。
進路で迷っていることも、無関係じゃない。
さぼじろーさんはさらに、わたしに作品を一つ見せてみろと言った。
ドキドキしながらDiscordのチャットにファイルを上げる。
ペンタブで描いた、教室を背景に歌う『ぴよ』のイラスト。
「ふうん。レイヤーは、これだけ?」
予想外の反応に、わたしの喉がひゅっと縮んだ。
「じゃあ想像して。将来きみがポートフォリオにこれを載せて、クライアントから反応があったとしよう」
「はい」
「ゲーム、出版、広告――さらにMVの依頼まで来た。今の描き方で対応できそう?」
改めて自分のイラストに目を向ける。
人物を描いたレイヤーを外すと、背景にぽっかりと人型の白い穴が空いてしまった。
これでは間抜けな作品になってしまう。
「そうそう、そんなの使えないよね。ちゃんとクライアントや他のクリエイターから求められる作品の形に仕上げないと」
背景と人物は独立しているか?
引きにどこまで耐えられるか?
媒体に適したサイズで作っているか?
表情の差分は要るか?
原作の世界観を壊していないか?
「こんな視点はほんの一部。全面的に任せてくれる人もいれば、意見が食い違う人もいる。話し合うところから俺たちの仕事は始まってんだよ」
技術的に上手いとか下手とか、それ以前の問題。
わたしは自分の視点でしか作品を見ていなかったと気付かされた。
「コミュニケーションを学ぶ場はいくらでもある。他の職業での経験を生かして活躍している仲間を、俺は何人も知ってるよ」
さぼじろーさんの言葉が、心にふわりと残る。
「あ、ありがとうございます!」
背中を押してもらえた。心の霧が少し晴れる。
「わたし、もう一度ちゃんと考えてみます!」
通話が終わった後も、わたしはドキドキしていた。
顔が赤いのは、きっとアドバイスがうれしかったからだよね?
Discordの通話機能で繋がった、憧れの絵師の声。
ひなのの提案通り、さぼじろーさんに進路のアドバイスを求めた。
だけど、返ってきたのは拒否的な色。
「進路なんてさあ、先生とか先輩に聞けばいいじゃん。俺はそんな暇ないっつーの」
配信ではもっとテンションが高くて、「陽気な気のいいお兄さん」だったのに。
「そう、ですよね……すみません」
知り合いになれたとはいえ、わたしなんてただの高校生。
生意気なことを言ってしまった。だけど、簡単に引き下がりたくない。
「……ひなのと過ごすうちに、絵にはすごい力があるって感じるようになったんです」
短くて長い、3秒くらいの沈黙。
ふー、と息を吐きだす気だるい音が聞こえた。
「別に、趣味で良くね?」
「え」
「言っとくけど、美大に進んだからといって、必ず成功する訳じゃねーからな」
さぼじろーさんはちゃんと真剣に考えてくれていた。
「そりゃあ制作に集中するのに、美大の環境はすごくいいよ。仲間がいて、専門の教授がいて、講座や求人の情報も入ってくる。だけどそもそもイラストレーターってのは資格が要らないんだよ。この意味が分かるか?」
「他の進路から挑戦することもできる……ってことですか」
「そう。結局はその人次第なんだぜ」
その人次第――。重い言葉がのしかかる。
「何だか、きみは『人の顔色ばっかり見て、自分で物事を決めるのが苦手』ってかんじだな。違う?」
「どうして分かるんですか」
「うーん、何となく。意志が弱そう」
きい、とデスクチェアが軋む音が聞こえてきた。
「その人の性格とか雰囲気は、隠し切れないもんだよ」
意志の弱さ。わたしが今、一番悩んでいること。
進路で迷っていることも、無関係じゃない。
さぼじろーさんはさらに、わたしに作品を一つ見せてみろと言った。
ドキドキしながらDiscordのチャットにファイルを上げる。
ペンタブで描いた、教室を背景に歌う『ぴよ』のイラスト。
「ふうん。レイヤーは、これだけ?」
予想外の反応に、わたしの喉がひゅっと縮んだ。
「じゃあ想像して。将来きみがポートフォリオにこれを載せて、クライアントから反応があったとしよう」
「はい」
「ゲーム、出版、広告――さらにMVの依頼まで来た。今の描き方で対応できそう?」
改めて自分のイラストに目を向ける。
人物を描いたレイヤーを外すと、背景にぽっかりと人型の白い穴が空いてしまった。
これでは間抜けな作品になってしまう。
「そうそう、そんなの使えないよね。ちゃんとクライアントや他のクリエイターから求められる作品の形に仕上げないと」
背景と人物は独立しているか?
引きにどこまで耐えられるか?
媒体に適したサイズで作っているか?
表情の差分は要るか?
原作の世界観を壊していないか?
「こんな視点はほんの一部。全面的に任せてくれる人もいれば、意見が食い違う人もいる。話し合うところから俺たちの仕事は始まってんだよ」
技術的に上手いとか下手とか、それ以前の問題。
わたしは自分の視点でしか作品を見ていなかったと気付かされた。
「コミュニケーションを学ぶ場はいくらでもある。他の職業での経験を生かして活躍している仲間を、俺は何人も知ってるよ」
さぼじろーさんの言葉が、心にふわりと残る。
「あ、ありがとうございます!」
背中を押してもらえた。心の霧が少し晴れる。
「わたし、もう一度ちゃんと考えてみます!」
通話が終わった後も、わたしはドキドキしていた。
顔が赤いのは、きっとアドバイスがうれしかったからだよね?
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