泣きたいきみに音のおくすり ――サウンド・ドラッグ――

第４章 ゲートキープ

4-8 面会

  ５分間。おれとカオリさんに与えられた面会時間。

  ――これは誰なんだろう。
  
  酸素カニューレ、CV（中心静脈栄養）、胃管、活性炭、アセチルシステイン。
  こういうときは看護の勉強が役に立つ。
  ベッド周辺の医療機器や資料を見れば、どういった治療を受けていたかが分かる。

  それなのに、肝心なことが頭で認識できない。
  真っ白なシーツの上で眠り続ける女性は、まるで知らない人のようだった。

  ワイヤレスイヤホンをカオリさんの右耳にそっと差し込んだ。
  片割れは自分の左耳にはめる。

  優雅なピアノが流れる。
  ドラムとベース、ギターが加わった。
  音に導かれたボーカロイドが、歌い出す。


【弱気なフォルテ 自由なアレグロ アンダンテ
  居場所のない日々 果てないピアニシモ

  きみに聞きたいことがあるんだ
  きみに言われたいことがあるんだ
  ねえ、楽しかったかい

  人生狂わす不協和音
  使い回した声 爪立てて
  幸せにまた会おう 嗚呼ああたまったもんじゃない
  きみが生きる理由など ぼくは絶対知りたくない

  きみに言いたいことがあるんだ
  きみに聞かせたいことがあるんだ
  ねえ、楽しかったよね】