泣きたいきみに音のおくすり ――サウンド・ドラッグ――

藤村げっげ

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第3章 インプレゾンビの唄

3-11 更生

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  朝、午前5時。
  いつもはムニャムニャしている俺が洗面台の前に立っていた。

  ジャージを着て、歯磨きもして、目はバッチリ覚めている。

「何?  うっさいなぁ」
  物音を不思議に思ったらしい凛が、部屋から顔を覗かせる。
「おばあちゃんたちが起きちゃうでしょうが」

「ちょっと、ランニングしてくる」
「はー?」
「帰ったらシャワー浴びて、飯食って、学校に行く」
「え、ちょっと待ってよ」
  凛が寝間着のスエット姿のまま追い掛けてきた。

「頭、大丈夫?」
「ん?」
「昨日バイトから帰ってから、様子おかしいよ。どした?  熱?  恋?  話聞くぞ?」

  精一杯背伸びして、俺の額にぴたりと手を当てる。
  俺は子どもの頃からずいぶんと成長していて、凛との間に大きな身長差ができていた。

「心配してくれんの?  お前、かわいいな」
  俺は勢いで凛をハグしてしまった。

「は?  キモキモキモ!」
「あー、たしかに、恋かも。クソデカ感情だわ」
「うっざ。そういうの、いらないから!」
  凛はげーげーと吐く真似をして、悪態をついた。

「あのさ、相談なんだけど」
  俺は腕をぱっと離した。
「インプレゾンビ、やめようぜ」
「え、なんで」
「もっと面白い先行投資を、見つけたんだ」

  何なの、と凛が俺を睨む。

  透き通った瞳が、父親に似ていた。
  赤茶色の地毛は母親譲り。

  凛、お前も運命に抗うなら、こっちの道に来るよな?

「音楽に更生の力ってあると思う?」
「ないよ」
「お前、やっぱ現実的だよなぁ」
「いいから早く行け」
「おう、ランニング行ってきまーす」

  上がりかまちでシューズを履きながら、俺はゾンビあかで最後の投稿をした。

  ――音楽は、ゾンビを生き返らせます

  ドアの隙間から、夏の朝日が差し込んだ。

  手首に書いた青緑色が、薄くなって消えていた。


  (第3章  「インプレゾンビの唄」  了)
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