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第3章 インプレゾンビの唄
3-4 ボカロ
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がしょん、がしょん。
ビニール袋を圧着する機械がリズミカルに歌った。
袋に餃子の皮を50枚ずつ入れてL字型の板の上に置くと、高温のバーが前後に動く。
密閉状態になったことを確認し、袋を出荷用の箱に並べていった。
「智也さんって、休みの日は何してるんすか?」
「うーん、ひたすら音楽を聴いてるかな。世那くんは?」
「俺もっすね。去年からボカロにハマってるっす」
1週間もすると智也さんと打ち解けて、プライベートなことも話すようになった。
初日にオドオドしていた姿はもう、ない。
「好きなボカロPとか、いるの?」
います! と俺は勢いよく反応してしまった。
「俺、『サウンド・ドラッグ』っていうユニットが好きなんすよ!」
「あぁ……あの、3人組の?」
「そうです! 曲がカッコいいのは大前提で!」
思わず熱く語ってしまう。
最近クラスメートが歌い手として加入するビッグニュースがあったけれど――それ抜きにしても夢中だった。
「ぽめPって、本業は音楽と関係ないらしいじゃないですか。そんなボカロPが仲間と組んで制作するって、令和っぽくないですか? 3人がそれぞれの『好き』を武器にしていて、すげぇかっこいいなって」
「ふふ、そうだね」
智也さんは聞き役に徹してくれていた。
「きっとそれは――ぽめPが努力家だからだね」
「そうっすねぇ。めちゃくちゃ頭が良さそうだし!」
推しの良さに共感してもらえたことがうれしくて、勢いで話した。
「俺、サンドラのおかげで友達ができたんすよ」
「おお! それはいいね」
「放課後とか週末にカラオケに行って、ひたすらサンドラを歌うんです。みんなで『ドラッグ』って呼んでて」
ドラッグ、俺たちの合言葉。
「放課後のカラオケ、青春だなぁ。サンドラの他に好きな曲はある?」
智也さんは優しい。たくさん話を聞いてくれる。
「最近のお気に入りはkemuさんの『インビジブル』っすね」
「え、まさかの『インビジブル』! 2011年、懐かしいなぁ」
智也さんがアップテンポな曲を口ずさんだ。
「懐かしいって……智也さんって何歳なんすか」
「26だよ」
商品を詰めながら、当時を振り返る。
「2011年は中学生だったなぁ。『千本桜』や『天ノ弱』、『パンダヒーロー』、『東京テディベア』……激アツな年だったよ」
「え、伝説の曲ばかりじゃないっすか。リアルタイム、いいなぁ」
その頃、俺は4歳。
動画投稿サイトが盛り上がっていたであろう、当時に思いを馳せる。
「だけど、今も素晴らしい曲がどんどん生まれてるからね」
智也さんがフォローする。
「聴くだけじゃない、誰もが作り手になれる時代が来ている。僕はそれはすごいことだと思うんだ」
ビニール袋を圧着する機械がリズミカルに歌った。
袋に餃子の皮を50枚ずつ入れてL字型の板の上に置くと、高温のバーが前後に動く。
密閉状態になったことを確認し、袋を出荷用の箱に並べていった。
「智也さんって、休みの日は何してるんすか?」
「うーん、ひたすら音楽を聴いてるかな。世那くんは?」
「俺もっすね。去年からボカロにハマってるっす」
1週間もすると智也さんと打ち解けて、プライベートなことも話すようになった。
初日にオドオドしていた姿はもう、ない。
「好きなボカロPとか、いるの?」
います! と俺は勢いよく反応してしまった。
「俺、『サウンド・ドラッグ』っていうユニットが好きなんすよ!」
「あぁ……あの、3人組の?」
「そうです! 曲がカッコいいのは大前提で!」
思わず熱く語ってしまう。
最近クラスメートが歌い手として加入するビッグニュースがあったけれど――それ抜きにしても夢中だった。
「ぽめPって、本業は音楽と関係ないらしいじゃないですか。そんなボカロPが仲間と組んで制作するって、令和っぽくないですか? 3人がそれぞれの『好き』を武器にしていて、すげぇかっこいいなって」
「ふふ、そうだね」
智也さんは聞き役に徹してくれていた。
「きっとそれは――ぽめPが努力家だからだね」
「そうっすねぇ。めちゃくちゃ頭が良さそうだし!」
推しの良さに共感してもらえたことがうれしくて、勢いで話した。
「俺、サンドラのおかげで友達ができたんすよ」
「おお! それはいいね」
「放課後とか週末にカラオケに行って、ひたすらサンドラを歌うんです。みんなで『ドラッグ』って呼んでて」
ドラッグ、俺たちの合言葉。
「放課後のカラオケ、青春だなぁ。サンドラの他に好きな曲はある?」
智也さんは優しい。たくさん話を聞いてくれる。
「最近のお気に入りはkemuさんの『インビジブル』っすね」
「え、まさかの『インビジブル』! 2011年、懐かしいなぁ」
智也さんがアップテンポな曲を口ずさんだ。
「懐かしいって……智也さんって何歳なんすか」
「26だよ」
商品を詰めながら、当時を振り返る。
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「え、伝説の曲ばかりじゃないっすか。リアルタイム、いいなぁ」
その頃、俺は4歳。
動画投稿サイトが盛り上がっていたであろう、当時に思いを馳せる。
「だけど、今も素晴らしい曲がどんどん生まれてるからね」
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