10 / 69
第2章 スプーン・ダンス
2-1 ドラッグ
しおりを挟む
「土曜日、またみんなでドラッグしない?」
拓海からグループLINEが来た。
「行く」
「いつもの場所でおけ?」
「おけ」
ぽん、ぽぽんと通知音が連続して、小気味良いリズムを刻んだ。
いつメンの4人――わたしと拓海、美咲、やぎすけ――が行きつけのカラオケ店に集まった。
ソフトドリンク飲み放題付き350円。
これで夜まで居座れるのだから、金欠の高校生にはありがたい。
「1番やぎすけ、歌いまーす!」
メロンソーダがしゅわ、と弾けた。
カラオケスピーカーからドンドンとキックが響き、ピアノがぴろぴろ鳴った。
「みんな摂取した? 今日の俺のドラッグ、どう?」
「はいはいまだまだ足りなーい!」
陽キャなコール&レスポンス。
狂ったように推しユニット「サウンド・ドラッグ」縛りでボカロを歌いまくる。
「次のクスリは誰歌う? いっちゃえ、俺たちの歌姫・桃花!」
ご指名がきて、やぎすけからマイクを渡された。
すぐに最新曲「ロフラゼプ」のイントロが流れ出す。
熱唱するとだんだん気分が良くなって、心地良い重低音に頭がぼーっとする。
あぁ、きた、きた。これがわたしたちの「ドラッグ」。
みんな、歌いながら午後5時になるのを待っていた。
時間になると、拓海のスマホをポップコーンボックスに立て掛けた。
緑色のアイコンをタップして、配信交流アプリ「ユイキャス」を開く。
「どーも、イラストレーターの『さぼじろー』です! 今週も『サウンド・ドラッグ』定期配信のお時間になりました!」
陽気な声がスマホのスピーカーから響いた。
「今日はなんと、重大発表があります! ……とその前に。いつも通りメンバーを呼びましょうか」
「どうも、ボカロPの『ぽめ』です」
「こんばんは、MIXエンジニアの『モラトリアム大仏』です」
「お前らのテンション、普通すぎない? 今日は重大発表があるんだから、盛り上がっていこうぜ!」
「いや、そういうのはさぼに任せるって台本に」
「台本言うな」
「今日はぽめPがちゃんと喋ってる!」
「いつも話聞いてないもんね」
頬杖を突いて美咲と「サンドラあるある」を語り合う。
「で、今日の発表なんですけど。なんと! この『サンドラ』に新メンバーが加わります! カモン! 歌い手の……『ぴよ』!」
「みなさん初めまして! ぴよって言います! よろしくお願いします」
「ええ! マジで!」
「激アツじゃん!」
やぎすけと拓海が同時に叫んだ。
紹介されて登場したのは、小鳥のようにかわいらしい声の女の子。
顔は分からない。
さぼじろーが描いたキュートなイラストが、3人の立ち絵に囲まれてにこにこ笑っている。
「ぴよはぽめPの幼馴染なんだってね」
「はい、そうなんです」
ぽめPが間に入って補足した。
「5年以上会ってなかったんですけど、こないだおれの職場で偶然再会したんです。ボカロ好きが分かって意気投合しまして」
「待って待って待って!」
幼馴染。偶然。再会。意気投合。
芸能人が結婚報告で使う言葉じゃん。
――なんだコイツ、ぽめPの何なんだよ。
「匂わせ? 古参マウント? なんかやだ」
「桃花、顔赤いな。ぽめPにガチ恋してんのか?」
「ああ、ごめん。わたしの好きピは拓海だけだよ♡」
彼氏の拓海が真顔で言うものだから、わたしはおどけて誤魔化した。
「そこ、いちゃつくんじゃねぇ」
やぎすけ、渾身のストレート。
「あ、あと、ぴよから事前に、リスナーのみんなに伝えたいことがあるって」
「はい。わたし、見えない障害があって。高次脳機能障害っていうんですけど」
「……は?」
思わず声が出た。
この声、ゆっくりした喋り方、ボカロ好き。
時間が止まった。
「……これ、ひなのだよね」
みんなに視線を送る。
「俺も思った」
「どういうこと?」
みんながそれぞれ、困惑していた。
メロンソーダの氷が、からんと音を立てて崩れた。
拓海からグループLINEが来た。
「行く」
「いつもの場所でおけ?」
「おけ」
ぽん、ぽぽんと通知音が連続して、小気味良いリズムを刻んだ。
いつメンの4人――わたしと拓海、美咲、やぎすけ――が行きつけのカラオケ店に集まった。
ソフトドリンク飲み放題付き350円。
これで夜まで居座れるのだから、金欠の高校生にはありがたい。
「1番やぎすけ、歌いまーす!」
メロンソーダがしゅわ、と弾けた。
カラオケスピーカーからドンドンとキックが響き、ピアノがぴろぴろ鳴った。
「みんな摂取した? 今日の俺のドラッグ、どう?」
「はいはいまだまだ足りなーい!」
陽キャなコール&レスポンス。
狂ったように推しユニット「サウンド・ドラッグ」縛りでボカロを歌いまくる。
「次のクスリは誰歌う? いっちゃえ、俺たちの歌姫・桃花!」
ご指名がきて、やぎすけからマイクを渡された。
すぐに最新曲「ロフラゼプ」のイントロが流れ出す。
熱唱するとだんだん気分が良くなって、心地良い重低音に頭がぼーっとする。
あぁ、きた、きた。これがわたしたちの「ドラッグ」。
みんな、歌いながら午後5時になるのを待っていた。
時間になると、拓海のスマホをポップコーンボックスに立て掛けた。
緑色のアイコンをタップして、配信交流アプリ「ユイキャス」を開く。
「どーも、イラストレーターの『さぼじろー』です! 今週も『サウンド・ドラッグ』定期配信のお時間になりました!」
陽気な声がスマホのスピーカーから響いた。
「今日はなんと、重大発表があります! ……とその前に。いつも通りメンバーを呼びましょうか」
「どうも、ボカロPの『ぽめ』です」
「こんばんは、MIXエンジニアの『モラトリアム大仏』です」
「お前らのテンション、普通すぎない? 今日は重大発表があるんだから、盛り上がっていこうぜ!」
「いや、そういうのはさぼに任せるって台本に」
「台本言うな」
「今日はぽめPがちゃんと喋ってる!」
「いつも話聞いてないもんね」
頬杖を突いて美咲と「サンドラあるある」を語り合う。
「で、今日の発表なんですけど。なんと! この『サンドラ』に新メンバーが加わります! カモン! 歌い手の……『ぴよ』!」
「みなさん初めまして! ぴよって言います! よろしくお願いします」
「ええ! マジで!」
「激アツじゃん!」
やぎすけと拓海が同時に叫んだ。
紹介されて登場したのは、小鳥のようにかわいらしい声の女の子。
顔は分からない。
さぼじろーが描いたキュートなイラストが、3人の立ち絵に囲まれてにこにこ笑っている。
「ぴよはぽめPの幼馴染なんだってね」
「はい、そうなんです」
ぽめPが間に入って補足した。
「5年以上会ってなかったんですけど、こないだおれの職場で偶然再会したんです。ボカロ好きが分かって意気投合しまして」
「待って待って待って!」
幼馴染。偶然。再会。意気投合。
芸能人が結婚報告で使う言葉じゃん。
――なんだコイツ、ぽめPの何なんだよ。
「匂わせ? 古参マウント? なんかやだ」
「桃花、顔赤いな。ぽめPにガチ恋してんのか?」
「ああ、ごめん。わたしの好きピは拓海だけだよ♡」
彼氏の拓海が真顔で言うものだから、わたしはおどけて誤魔化した。
「そこ、いちゃつくんじゃねぇ」
やぎすけ、渾身のストレート。
「あ、あと、ぴよから事前に、リスナーのみんなに伝えたいことがあるって」
「はい。わたし、見えない障害があって。高次脳機能障害っていうんですけど」
「……は?」
思わず声が出た。
この声、ゆっくりした喋り方、ボカロ好き。
時間が止まった。
「……これ、ひなのだよね」
みんなに視線を送る。
「俺も思った」
「どういうこと?」
みんながそれぞれ、困惑していた。
メロンソーダの氷が、からんと音を立てて崩れた。
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる