泣きたいきみに音のおくすり ――サウンド・ドラッグ――

藤村げっげ

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第1章 難聴の薬剤師

1-6 おくすり

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  ――楽しい。

  目を閉じて、イントロのピアノを全身で浴びる。
  肩がキックに合わせてリズムを刻む。
  ゲートキープのメロディが流れると、自然と口が動いた。
  インプットもアウトプットも忘れていた脳が、歌い出す。

  画面に表示された「歌詞」が「言葉」になって、脳に入る。
  「言葉」は「歌詞」になって、声帯を気持ちよく震わせた。

  わたしたち、いいかんじじゃん?
  青いツインテールを揺らした初音ミクが、ベッドの隣で笑っている気がした。

  できないことばかりだと思っていた。
  人に迷惑をかけてばかりだと思っていた。
  自分には価値がなくなったと思っていた。

【人生狂わす不協和音  使い回した声 爪立てて】

  ねぇ、ぽめ兄。見て、聞いて、笑って。
  わたしにはまだ声がある。歌う力がある。

  自分の居場所、見つけたよ――。
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