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転生者

第53話

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 ドワーフの里、と言っても普通の町だった。

 よく考えたら分かるのだが、ドワーフの作る武具は良質だ。それを求めて遠方からやってくる客も多い。

 近くに鉱山があるため鉱夫達が多くそのほとんどがドワーフではあるが、店を出しているのは人族や他種族も少なからずいるようだった。
 ユジャスカ帝国の人は人族至上主義ばかりかと思ったが、田舎にいけばその考えも薄まるのかもしれない。
 トーシンに行った時、美人マーサさん達も妙な偏見なんか持ってなかったし。


 そんな町並みの中、俺達は店を一軒一軒覗いて回っていた。
 だって、フィアールでもユジャスカでも見かけない品がたくさんあるんだもの。


「おうにーちゃんにそいつは合わねぇと思うぜ?」

 俺は手にしていた剣をこれでもかと凝視していたら店主に声を掛けられたのだ。初対面なのになかなか馴れ馴れしいが嫌いじゃない。


「この剣変わった形だけど、おっちゃんが作ったの?」

「おう、もちろんだぜ。で、その剣買うのかい? 獣人には勿体無いがな」

 そういって自慢げにしている店主は、ドワーフ族らしくずんぐりむっくりな体型ながらしっかり胸を張っている。

 最初から買うつもりなんか無いので改めて剣を見ている訳だが、これ、剣と刀の間のような形をしている。それだけでちょっとカッコイイのだけど俺が凝視しているのは別の理由だ。

「この剣の形だと強度が落ちる分、切れ味に特化してるんですね。それに、微量だけど高硬度のアダマンタイトが入って不足している強度を補ってる。おっちゃんもしかして凄腕なんじゃない?」


「こいつは驚いた。まさか獣人のにーちゃんがそんな目利きできるなんてなっ。にーちゃん面白いやな!」

「これでも一応鉱物を使った研究者なんですよ。冒険者をしながらだけどね」

「獣人が研究者ってか。それだけ聞くと只の笑い話にしかならんが、他でもねぇ自慢の武器の製法を見抜かれちゃ信じるしかないな」

 いや、製法までは分かりませんけど?
 でもま、気に入ってくれたのなら都合がいい。

「実は、アダマンタイトを扱える人を探してるんです」

 この言葉を聞くと店主の表情に一瞬の緊張が走ったのが分かった。
 あたりをキョロキョロ見て周りに人がいないのを確認しているが、元々裏路地にあるこの店に客足は無さそうだったよ……?


 でもなんだろう?


「にーちゃん、なんでそんなもん探してるんだ?」

 営業スマイルだった店主が真面目な顔で聞いてくるけど、だから何があるんだよ。

「自作の武器を作りたいんだけど、アダマンタイトは精製しないと扱え無さそうだからさ。精製してくれる人を探してここまで来たんだけど……」

「なんだと? じゃあアダマンタイトの原石を持っているのか!? ちょっと見せてくれないか!?」

 ちょ、近い!!
 むさくるしいおっさんが超至近距離で放つプレッシャーは激しい。

「いいけど……」

「頼む!」


 収納庫インベントリから一番小さいアダマンタイトを取り出し見せると

「でけぇ……こいつは凄いな。これだけ純度の高いアダマンタイトを見るのは久しぶりだぜ。ぜひとも精製してみたいもんだ」


 まるでおもちゃを与えられた子供のように見入ってやがる。おっちゃんなのに。



「おっちゃん精製してくれる?」

 俺が声を掛けるまでアダマンタイトを見入っていたおっちゃんが我に返ると

「やりたいのはヤマヤマなんだがなぁ……今すぐには無理だな。いやまてよ、にーちゃんたしか冒険者もしてるとか言ってたか? 強いのか?」


「まぁ、アダマンタイマイを討伐出来る程度には強いと思うぜ」

 見ろこの俺の腕っぷしを!
 つい力こぶを見せつけてしまったが、よく見たらドワーフのおっちゃんも大概筋肉マッチョだった。

「アダマンタイマイを倒したのか! それでこんな大きい原石を持っているんだな」

 なんか納得されちゃったけど。

「で?」

「ああ、そうだ。簡単に言うとだな、こいつを精製するためには高濃度圧縮炉が必要なんだが現在そいつは使用不可になっているんだ」

「なんで?」


「鉱山に魔物が出てな。炉を動かすための材料が手に入らなくなってるから動かせないんだ。だが、その魔物が討伐されたなら再び動き出す」


「なるほど、じゃあそうなれば精製してくれるのか?」


「ああ、いいぜ!」


「で、どんな魔物が出るんだ?」


「ロックイーターって魔物だ」


「岩を食べるミミズみたいな魔物だろ? そんなに強いイメージないな。よっし、じゃあ早速行って殲滅してくるぜ!」

 ロックイーターなんてチョロいチョロ松だぜ。

 俺はサクッとアダマンタイトを回収して収納庫インベントリに突っ込むと、店を出て仲間のいる宿へとひとっ走りしたわけだ。店を出た後に

「ちょっと待て~、ただのロックイーターじゃない……」

 なんて声が聞こえたような聞こえなかったような。
 魔物退治するだけで目的達成!
 善は急げ!
 スタコロラサッサ~!







「という訳だからロックイーター討伐行こうぜ!」

 それぞれ個別に用事を済ませて宿に集合したわけだ。そこでリーダーである俺から本題を切り出した。

「ロックイーターって何匹くらいいるのかしら~?」

「え?」

 一匹じゃないの?


「だって~、ロックイーター位ならドワーフ族だって倒せる魔物でしょ~。それが手をこまねいているのなら~、数が多いとか~、何か理由があるんじゃないかしら~?」


 確かにそう言われればそうだ。
 なんでだろ。

「大丈夫!」

 殴り続ければいつかは殲滅できるだろ!


「何がどう大丈夫かは分からないけど~。でも~、行くんでしょ~?」


 さっすがシェリーさん!

「一度目は様子見を前提に行く方がいいと思うわ~」

「ゲンスイさん抜けてるわね。仕方ないから私も手伝うわよ」

 知ってるんだ。
 サラは旅の間退屈してたって事を。
 そして、そろそろ暴れたいんだって事を。
 ロックイーターがかわいそうになるくらい蹴りまくるんだろうな……

 すこし遠い目をしてしまった。
 おっと、気を取り直してと。

「助かるよサラ! んで、ヤマトは無理するなよ」

 執事に甲斐甲斐しくお茶を出され優雅に座っているヤマトにも声を掛ける


「僕も早くアダマンタイトを加工してみたいし、頑張る!」

 両こぶしを胸の前で握りやる気を見せるヤマトだが、うん、ガンバレ!危なそうなら守ってやるから。


「ヤマト殿いけません! そんな危険な場所に行くなんて」

「もう、相変わらず心配性だなぁヴァングルは。僕は大丈夫だよ!」

 ぷぷ!甲斐甲斐しく世話していたのにもかかわらずヤマトに反対されてやんのー!

 そのやり取りを見ていたらヴァングルに睨まれた。

「お茶を入れる事しかできない君はお留守番だな!ぷぷー」

「なんだと犬ころ! 当然私も行くに決まっているだろう!」

「はいはい落ち着いて~、ゲンスイさんも無駄に茶化さないの~。ヴァングルさんは非戦闘員なんだから行かなくてもいいの~。それよりも、私達が討伐に出ている間に、その後の旅の準備をしておいてくれると助かるわ~」


「ふんっ! トカゲが偉そうに……」

「ヴァングルはお留守番よろしくね」

「……っ! はい、分かりました」

 田舎に行くほど人族至上主義が薄れるらしいが、王都育ちのヴァングルは生粋の主義者だ。俺達が何を言っても聞かないのに、ヤマトが言うとこれだもんなぁ。

 しかし、俺の主張通りの事が運んで気持ちい!
 ついニヤニヤ顔でヴァングルを見てしまったのは不可抗力だ。

 そんな俺に気付いて
 おー、睨んでる睨んでる(笑)




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