頭脳派脳筋の異世界転生

気まぐれ八咫烏

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転生者

第34話

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「いやー、全く酷い目に遭った」



「何他人事みたいに言ってるのよ。ゲンスイさんが原因でしょ!」



「貴族の馬車にゲンスイ君が飛び掛かるのを食い止めただけじゃダメだったわね~」



「門番の目の前でそんな事するから不審者扱いよ?」



「冒険者ギルドが書いてくれていた手紙のおかげで~、やっと解放されたけど~」



「いやだって、俺達普通の冒険者じゃないか。全然不審者じゃないっての」



「ゲンスイ君気をつけてね~、ただでさえ人族じゃない私達は歓迎されていない国なのよ~」



「そうよ。宿場町でも嫌な思いした所じゃない。くれぐれも気をつけてよね、ゲンスイさん」

 人族じゃないのは2人も・・・と言いかけたが、エアーをリーディングした俺はそれをやめ話題を変えることに。



「さて、すっかり遅くなっちまったが宿にするかギルドにするか」



「宿探しね~、ギルドで聞いてみるのはどうかしら~」



 宿場町の嫌な思い出が過った俺達はシェリーさんの提案に賛同してギルドへ行くことにした。







「ここがギルドね」

 辿り着いた帝国のギルドは今まで見たギルドの建物の中で一番大きかった。



「ああ、こんな夜分でもまだ営業中なのは流石都会のギルドだな」

「ゲンスイ君~、くれぐれも変な事しちゃダメよ~」

 いつもの間延びした声だけど、そんな言い方されるとシェリーさんの妖艶度アップじゃないですか~。

 ただ、俺を名指しで注意することだけが腑に落ちないが。



「それとサラちゃん~。エルフだと分かりにくいようにフードを被ってね」



「わかったわ。さぁ、行きましょう」

 なぜかサラが仕切ってギルドの扉を押した。



 俺達がギルドに足を踏み入れるといきなり声を掛けられた。



「へーい、お嬢ちゃん!汚ねぇ獣人連れ込んでも冒険者じゃ大成できねーぜ!俺のパーティーに入れてやるぜ!しっかり冒険者のいろはも女のいろはも教えてやるからよ」



 サラはフードを被っているのでエルフだと分からなかったのか、先輩冒険者風の男が声を掛けて来たのだ。



 つか誰が汚いじゃ!これでも転生前は日本人だぞ!?お前ら以上に衛生的じゃい!



 「またかよ、ラグシェはロリだな」

 「あいつは女ならなんでもいいんだろ」



 取り巻きと思われるヤツラも勝手な事を言ってやがる。女ならなんでもいいとか見境ないヤツサイテーだわ。





「お構いなく」



 相手にしないのが一番と、さっさと受付へと向かおうとするサラ。しかし俺はサラが内心笑っているのを見逃さなかった。楽しむ気なんだ、絶対。



「おいおい!先輩のいう事は聞くもんだぜ?そんな事も習わなかったのか?」



 素っ気ない態度に腹を立てたのか、サラの腕を掴んできた。が、サラがそんなトロい動きで捕まえれるはずもなくその手は空を切り、何事もなかったようにツカツカと受付へ向かうサラ。



「てめぇ!シカトしてんじゃねーぞ!」



 もう完全にセリフも動きも三下だ。面白そうだから俺が壁の花になろうと下がると、シェリーさんも同じ考えだったようだ。



「こんばんわ。こちらのギルドいつもこんなに騒がしいのかしら」

 絡まれていた事実など無かったとばかり、サラは完全に無視して受付に行き話を始めていた。



 怒りのあまりプルプル震えていたが、腰に下げていた剣を抜き振りかぶっていった。



「冒険者は舐められたら終わりなんだよ!くそがぁあああ」

 そんな任侠道みたいな冒険者は嫌だ。




 手に持っていた剣を勢いよく振り下ろす三下さん!



 ガキンッ!



「きゃぁあああああ」



 振り下ろされた剣はサラのいた場所を通過しカウンターテーブルに刺さる。



「ぐあぁっ」



 剣を回避すると同時に回し蹴りを繰り出していたサラの足が鳩尾に突き刺ささり、そのまま崩れ落ちていった。

 うっわ~痛そう……。



 強化靴パワーブーツの威力をどこまで乗せていたのかは分からないが、それでもあんな蹴り、俺なら絶対にくらいたくないわ。



 ちなみに回し蹴りをしてもサラのミニスカートさんの防御力は高く、その中を見せることは無かった。



「大丈夫だったかしら?」



「は、はい!ありがとうございます……」

 倒れたラグシェと呼ばれた冒険者を回収する取り巻きと入れ違いに俺達がサラの元へ行く。

「……おねぇさま」



 受付嬢の声は小さすぎて獣人の俺以外には聞こえなかったらしい。よく見ると受付嬢のサラを見る目がハートマークになってやがる。


 面白れぇ!



「騒がしいギルドね、まぁそれはいいわ。いくつか聞きたいことがあるのだけどいいかしら?」



 サラは手際よく紹介状を渡し、要件を伝えた。



「ラグシェをのしちまうなんてとんでもねぇな」

「覚えていやがれ~」

「すげぇ蹴りだったな」

「アイヤー、すごい物見たアル」



 キャラリーは好き勝手言っていたが全部無視だ。無視。



 ギルドで確認したい事は3つ。



 一つは、俺達獣人でも問題なく泊まることが出来る宿屋情報。

 二つ目は、この旅の目的であるアダマンタイマイのクエスト情報

 三つ目が、この街……というかこの国で注意すべき点などがあれば聞いておきたい。人族至上主義の国ってのはもうそれだけで面倒に巻き込まれる確率が上がっているんだからな。



 もっとも、人族ではないのを隠したサラに面倒事が降ってわいた今回の事を考えると、もはや人族とか関係ないような気もするが。
 それでも一応情報を入れておいて損はないはずだ。



 一つ目の宿屋情報はすんなりと紹介してくれた。流石帝国の首都だけあって人族至上主義の宿屋ばかりではないようだ。



 問題は二つ目。アダマンタイマイ討伐クエストは未だに討伐出来ていなものの、既にいくつかのパーティーが受領していて新規で受ける事が出来なかったのだ。



 三つ目については極力服装などで獣人だと分かりにくくしておけと言われた。サラはすでにフードを被りエルフの特徴である耳を隠しているので問題ないはずだ。

 小声でもう一つの特徴を隠すためパットを入れるか聞いたらビンタされた。痛い。

 俺の優しさは伝わらなかった。



 俺の場合は普段からマントをしているので尻尾は隠れているが、耳が思いっきり頭の上で存在感を放っているので困る。街で出歩く時だけでも帽子着用の指令がサラとシェリーさんから出てしまったので仕方なく従う事にするが。



 シェリーさんはもう隠す気がないような恰好だ。基本ボディーラインを出すようなキャットスーツのような服装で尻尾丸出し。
 頭には半分のヘルメット的なものを装備しているが耳は人族と同様横にあるため干渉していないのは羨ましい。見え隠れするうなじも人族と違い鱗のような肌感だしな。

 最も、たわわに実った果実に目が奪われることにより竜人族とバレないかもしれないが!!



「ゲンスイ君~?今、何か良からぬことを考えてないかしら~?」



 何で分かったんだ!?



「そんなわけないだろう。さっ、宿に行こうぜ」



 努めて明るく、努めて平静に、俺達は紹介してもらった宿へと向かったのだった。









 宿は問題なく宿泊できた。部屋を二つ取ることも出来たし馬車用の宿舎ではパイオツカイデーとましゅまろも預かってくれていて餌も付けてくれるらしい。もちろん無料ではなかったけど。



 昨夜は時間が遅いこともあって大人しく就寝して今朝作戦会議をして宿を出た。



「まずは食料だろ?それにシェリーさんの服を買わないとなぁ」



「それだったらゲンスイ君の帽子もいるわよ~」



「ポーションなんかの消耗品も補充しておくべきだわ」



 という意見から買い出しをしていた。



 買い出しの為街の中を歩いていると、確かに人族以外を見かけることが極端に少ない。


 たまに見かける人族以外といえば、おそらくは労働力奴隷であろう各種獣人くらいか。竜人族はもともと自国から出る事が少ないし、エルフもわざわざこの国まで来る理由も少ないのかもしれない。
 ただ、奴隷制度があるから見かけないだけで愛玩奴隷とかもいるんだろうな。



 赤の他人とはいえ、同族が奴隷として扱われている事に対して俺は特に何も感じなかった。
 ただそれは、同族としてという意味であって、人が人を物のように扱う奴隷というのは嫌悪感が先立つのは否めない。



「ゲンスイさんも奴隷みたいに見える所に鉄枷とか付けてみる?」

「冗談でも止めてくれ」

「そうね、ごめんなさい」



 どうもやはりこの国は俺達の肌に合わないようで、少しばかりテンションが下がり気味だ。



「ちょっとこれ見て~」

 努めて明るく話題を変えようとしていた矢先、シェリーさんが見つけたものを見る。



 店先に展示している商品のうちの一つだったそれは、ドワーフの間で流行していると聞いたことのあるフィギアだ。
 よく見てみると、おそらくは人族の貴族か英雄か分からないそのフィギアは非常に造りが荒くとても器用で有名なドワーフが作ったとは思えない代物だった。



「お?お嬢ちゃん紅くれないのサイトハルトの小人形に興味があるのかい?」



「紅くれないのサイトハルト?」



「なんだ知らないのかい?小人族の狡猾な策をものともせずたった1人で1000人を倒した英雄だぜ?」



 1対1000で無双したってのが本当ならそれはそれですごい。相手が比較的力の弱い小人族とは言え数の暴力ってのはどんな綺麗ごとを並べても絶対的にそこにある。ただ、この手の話はどうせ眉唾物なんだろう。



「そうじゃなくて。この小人形ってドワーフが作ったのかしら?」



「バカな事言わないでくれるかい?うちの店は100%人族の手で作られたものだけだ」



 自慢げに言っているが、人族は決して不器用な種族ではない。にもかかわらず、ここにあるものはどれも造りが荒いため、俺の頭には模造品という単語が浮かんできてしまう。



 声を掛けて来た店主を適当にあしらうと、俺達別の店で消耗品を購入。
 思ったよりもずっと安くてお財布的には助かった。その他にもいろいろ買い物してその後ギルドへ行き、アダマンタイマイ討伐クエストが受けれないか再度確認したがやはりだめだった。



 そこで、アダマンタイマイが出現したと言われているダンジョンで別の討伐クエストや収集クエストなどが無いか確認したところ、いくつかあったのでそのあたりのクエストを受注。



 クエストがあろうがなかろうがそこにアダマンタイトがある以上、俺達は行くのだからついでになるクエストは拾って行こうってわけだ。


 さすが頭脳派の俺。と言いたいところだが、シェリーさんの案だったりする。



 どうも最近俺達のパーティ、ロンドンベルの頭脳係がシェリーさんになってきているような気がするのはきっと気のせいである。

 ギルドでも買い物の時も人と応対するのは一番見た目が人族に近いサラだ。

 そんな訳で俺の影が薄い訳じゃない、偶然のたまたまだ。



 昔読んだものの本によると、リーダーとは他人をおだててこき使えばいいのさ!!って書いてたし。きっと間違ってない!





 結局そんなわけで一日はあっという間に終わりを告げ、翌朝、ダンジョンへと出発したのだ。



 思わぬ問題が起こったのは出発して二日目の夜だった。
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