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転生者

第32話

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俺達が宿泊している部屋は静寂が支配していた。そこに一つの異音。



 カチャッ……



 窓が開いた音だった。




 この状況で俺達に好意的な事態になる可能性について考えてみる。

 例えば伝書鳩のようなものがホグ〇ーツ魔法魔術学校の入学許可証を持ってきてくれたとすればどうだ。

 うん、それはちょっと嬉しいかもしれないがこの世界、普通に魔法も魔法学校もあるし俺も少しは使える。わざわざ深夜にお届けの意味も分からない。



 では深夜だからという事で考えれば嬉しいのは美女のサービスとかか?しかしそれならば普通にドアから入ってくるだろう。普通ではない状況ならばサプライズ的なものかドッキリ的なものか?


 もちろん俺はそんな節操の無い真似はしない。しないけど、ちょっと想像するくらいはいいじゃないか。
 仮に何しても自由、オールオッケーな美女がくるなら、ぜひともサラやシェリーと別行動中にしてもらいたい。

 2人が一緒にいるからこれもないだろう。




 よし、無理だ。この状況いくら好意的に捉えようとしても俺の完璧なる頭脳によって証明されてしまった。窓からの訪問者は間違いなく望まない来訪者だと。



 となれば嬉しくない来客は何が目的なのか。


 1番の有力候補は泥棒だろうな。金になりそうな物狙いか。

 2番がサラやシェリーの美人狙いか。

 3番は俺達全員の命?でも狙われるようなことは……この街に知り合いもいないしトラブルも起こしていない。よって、ないと思う。





 ここでサラとシェリーさんを起こそうかとも思ったがそれは止めた。

 まずは相手の目的を把握して確実に捕らえる事を優先しよう。

 もちろん俺の手の届く範囲で2人に危害は絶対に及ぼさせたりはしないぜ。




 最初に聞こえた音からしばらく様子を見ていたが、その後の動きは今のところない。向こうも様子を見ているのか?それとも音が気のせいだったか?……いや、間違いない。窓が少しだけ空いたことで外の空気が部屋に入って来た。
 そしてそこには新鮮な空気意外に人の匂いが混じっている。


 確実に誰かがいる。



 しばらくすると音もなく窓がス~っと開いていく。俺達が寝ていると思ったのだろう。やっと動き出したようだ。

 片目をつぶりもう片方の目を薄く開けて来訪者を見ると、暗闇に紛れるよう黒装束のようだ。見事に泥棒スタイルで頭にかぶっている頭巾を鼻で結んで留めている。


 ……コントのような装束の泥棒っているんだ。


 うん、それは一旦おいとく。




 そして匂いによるとどうやら他には誰もいない、単独犯の泥棒とみて間違いなさそうだ。

 さて、どうやって捕らえるか。


 もちろんだが俺もそうだがサラもシェリーさんも装備は何もつけていない。

 が、俺には強靭な肉体があるし魔法も(少しは)使える。

 不意打ちするならばここは魔法だな。

 体内で魔力練っておくか。





 泥棒は窓から身軽に部屋への侵入した。身のこなしからして特別高い身体能力があるわけでもないようだからおそらくは人族かエルフか。

 部屋に侵入後はどうやら俺達のいるベッドではなく荷物のある場所を探しているようだ。やはり泥棒の類か。


 何も冒険者相手に泥棒を働くなんて無謀な。だが手心を加えてやるつもりはない。




「そこまでだ。【火弾ファイアーボール】」

「ッ!」



 寝ている状態から一気に起き上がり、練っていた魔力を炎に変換し塊を投げつける!



「うわッ」


 ここで俺にとって想定外の事が起こった。俺の両手を縛っていた縄はちゃんと外していたんだが、足元にまとわりつくような縄のせいで体制を崩してしまった。

 結果、俺の作り上げた炎は見事なノーコンぶりを発揮し窓付近に着弾、俺自身はベッドを転げ落ちたのだ。



「なに!?」

「ゲンスイくん~ダメよ~」



 俺の動きに2人が起きたようだ。(若干1名緩いが)



「チッ」



 俺の声に泥棒は逃げの一手を打とうとするが、進入路には俺の放った火魔法があるため通るのを躊躇していたようだ。そのおかげで何とか縄を振りほどいた俺が一気に跳躍、右拳が唸りを上げた!



「ブメラヴォ」



 一撃で意識を刈り取る事が出来た。



「泥棒だ。起きろ」



 そのまま泥棒を拘束したいところだが、先ほどの火魔法が窓枠に引火してしまっているので消火が先と水魔法で消火活動を行う。



 サラはすぐに覚醒し、部屋に灯りを付けると泥棒を確認し近くにあったロープを使って拘束していく。



「サラ、グッジョブだ」

 すぐに状況を把握して動いてくれた事に感謝だ。



「これはどういう状況かしら~?」

「見ての通り、泥棒が侵入してきたから捕らえたんだ。どちらか、宿屋の店主を呼んできてくれるか……いや、俺が行こう」



 サラもシェリーさんもインナーしか身に付けていない恰好で部屋の外に出すわけにはいかず、俺が店主を呼びに行くことにした。


 サラは大きめのTシャツに下着だけの姿でシャツの裾が長めなので、ぱっと見ノーパンに見える姿は眼福。

 しかし、泥棒を拘束するため動いておりシャツの裾も動いているのだがの防御力が異常に高く決して捲れたりしない。

 普段のミニスカート同様絶対に魔法的な補正が入っていると確信する!



 シェリーさんも似たような恰好ではあるが、暴力的に実った果実はVネック上の首元からややはみ出ている。しかも持ち主がこんな事態になっているのにまだまだ眠いようで半分以上覚醒できていない。
 その無防備な本体という付加情報がより胸元の爆弾の威力を上げている。



「2人とも、店主を連れてくるから服着とけよ」



 それだけ伝えると俺は部屋を出た。



 俺はあんな二人と一緒に寝ていたのか。

 こんな拷問、非人道的すぎるだろ……。




 そう思いながら店主を呼んで再度部屋に戻るとサラもシェリーさんもちゃんと服を着て待っていてくれた。

 うん、あの姿を他の男に見せるなんてあり得ない。




「こいつが泥棒ですか?」

「そうだ。窓から侵入してきて俺達の荷物を物色しているところを捕らえた」

「最近被害が相次いでいる泥棒かもしれません。お手柄ですね。では私は帝国騎士団の詰め所までひとっ走りしてきます」

「たのむ」

 泥棒が拘束されている姿を確認した店主はすぐに詰め所へ行ってくれた。



「驚いたけど被害もなくてよかったわ。ゲンスイさんお手柄ね」



「俺は人族よりも五感が鋭いからな」



「なんでゲンスイ君は拘束が解けていたのかお姉さんはそっちが気になるわ~」



「っ!!! そっ、それよりもその泥棒、妙なものを持っていないか調べておいたほうがいいんじゃないかな」



 慌てて話題を変える。

 そしてそれは一応成功し、二人とも泥棒の武装解除を協力して行った。手に持っていた少し大きめのナイフ以外に武器らしきものは持っていなかった。

 ただし拘束しているとはいえ意識が戻ったら魔法などによる抵抗も考えられる。 



「意識が戻る前に衛兵が来てくれたらいいんだけどな」



「もしその前に意識が戻ったら何が目的なのかしっかりと聞き出しましょう。ただの物取りじゃない可能性だってあるもの」



「とりあえず俺達が目的ではなさそうな動きだったぞ?俺達が寝てるのを確認したらすぐに荷物のあるほうへすぐに向かったからな」



「ゲンスイ君は~、侵入からしばらく見てたのね~。その前は何をしていたのかしら~」



「サラとシェリーさんを守りながら侵入者をどうするか対策を練っていたんだ。そのおかげで、ちゃんと対処できたろ?」



 危ない。

 非常に危ない。


 2人が寝ているうちに縄を外して楽しもうなんて事言えない。

 あまり突っ込まれる前に話題を変えつつ、衛兵を待つ時間を過ごした。

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